東方友戦録   作:彗星のシアン

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季節の変わりも早く、薄暗く寒空が広がるあくる日の早朝。館に忍び寄る人の影。朝からけたたましく鳴る警報の音。一度にして騒がしくなるいつもどうりの紅魔館。仮住まいで起こるそんな騒動などつゆ知らず。師ができて調子づいた友希は、次なる研鑽の場へと移り、そして・・・窮地に立たされていた。


第20話 妖怪寺の魔法使い

 急激な寒さによって、未だ白くモヤがかった霧が消えきっていない朝の八時。石塀と森林に挟まれた誰も寄り付かない紅魔館の裏手。そこにとある一つの影がひっそりと忍び寄っていた。

 紅魔館は基本的に数多の妖精メイド、そして門番の紅美鈴とメイド長の十六夜咲夜によって厳重に警備されているはずなのだが、この影は驚くべき手際の良さですんなりと館内部への侵入を成功させてしまった。

 その後もまるで館内の構造、使用人たちの動きをすべて把握しているかのように何の問題もなくスムーズに通り抜けていく。

 影はほかの金品や装飾には目もくれず、ただ一つの場所を目指していた。

「よし、無事到着っと・・・」

 その場所とはとてつもない量の蔵書と魔力の充満した薄暗い巨大な空間、大図書館である。

 ここでもまた足早に手慣れた手つきで本棚を物色し、手に持つ袋に次々と蔵書を詰めてゆく影。

 一通り詰め終わり満足した影の主はパンパンになった袋を両手に抱え静かにかつ俊敏にそびえたつ本棚の間を駆け抜けてゆく。

 しかしこの時、侵入してきた経路とは異なる道を通ってしまったことがただ一つの過ちだった。

 

バチンッ!

 

「・・・っ!」

大きな炸裂音と共に体に電流が走る。

 足元には簡易的な魔方陣が浮かび上がり、何者かの右足をガッチリと電気の鎖で巻き取っていたのだ。

 この魔方陣が発動したことがトリガーになっていたようで、次々とあたりの照明に炎がともり紅魔館全体が活動を始める。

「くそっ! 手加減スパーク!」

 懐から取り出した六角形の道具から放たれた低出力レーザーが足元の魔方陣の一部をかき消し、それにより弱まった電撃魔法の隙をつき一気に駆け出す影。

「ドロボー‼」

「早く探し出せっ‼」

 けたたましい足音が紅魔館中に鳴り響き、一斉に妖精メイドたちがあふれ出してゆく。

「いたぞっ! 追え!」

迫りくる足音と弾幕の嵐。ただひたすらに使用人との鉢合わせを避け走り続け、ついには紅魔館の玄関にたどり着いた。

一刻の猶予もない影は思い切り扉をこじ開け、照り付ける朝日を一身に浴びながら正門側へと走り抜ける。

「いったい何ですかっ⁉ え、あっ、魔理沙さん! いつの間に⁉」

「あなたが職務怠慢をしている最中に決まっているでしょう!」

「しまった! 眠りが浅かったか!」

 騒ぎを聞きつけて続々と現れる紅魔館の面々。

 入念な下調べと経験も虚しく囲まれ万事休すの影、もとい霧雨魔理沙。

 そんな魔理沙にさらに追い打ちをかけるように、当の紅魔館組にも予想していなかった増援が駆け付けるのだった。

「キャハハハ! 魔理沙はっけーん!」

 皆が声のする時計台を見上げ驚愕する。

 そこには金色に輝く髪をなびかせ高らかに笑いこけるフランの姿が。さらにフランの腰には蛍光色のまぶしい見覚えのあるベルトが装着されていた。

『バンバンシューティング!』

「変身!」

 フランの掛け声が早朝の紅魔館に響き渡り、同時に魔理沙のもとへと一気に飛び降りた。

『ババンバン! バンババン! バンバンシューティング!』

 フランの身体が青色の光に包まれ地上に降り立つ。

 解き放たれた光から相手を睨みつける鋭い眼光の隻眼の戦士が姿を現す!

「おいおい、変身は友希の専売特許じゃないのかよ!」

 魔理沙はそう思っていたようだが、条件さえ満たせば誰でも変身が可能なことはにとりのところで検証済みである。

 完全な包囲網でなすすべなくその場にへたれる魔理沙。に対して容赦なく射撃を浴びせたフラン。

 その様子を同じく駆け付けたレミリアも目撃していたが、気になったのはそこではなかった。

「そういえば友希は今はいないのね。すっかり頭から抜けていたわ」

「ええ、今はあの妖怪寺にいらっしゃいます」

 自分の意思を律するように深く息をはくレミリア。

 そう。現在友希はとある場所にて一晩を過ごすことになっていた。

 そしてこの紅魔館の事件と時を同じくして、友希もまた新たな戦場にて強敵と相まみえていたのであった。

「くっ、何なんだこの人! さっきとはまるで強さが違う!」

目の前には強者らしく仁王立ちで友希を見下ろす一人の女。

「おやおや、さっきまでの威勢はどうしましたか? あなたから来ないのであれば私から仕掛けるまでです!」

紅魔館での珍事などつゆ知らず、友希はただ目の前にある虎柄の圧倒的存在に敗北を喫する覚悟をするのであった。

 

 

 

 戦いの発端は一時間前にさかのぼる。

 この日友希はとあるお寺のもとで生活をし、朝を迎えたのであった。

 というのも、先日白玉楼にて剣士兼庭師の魂魄妖夢師匠に弟子入り?を果たしたのだが、妖夢には直近で予定が入っておりすぐには相手はできないということだったのだ。

 友希はそれでも全然問題はなかったのだが妖夢は彼女なりに負い目を感じたようで、本人曰く「体だけでなく心も、心身ともに鍛えるべき」「自らを見つめなおすにはとっておきの場所がある」だそうで、そのあとすぐにこのお寺のことを教えてもらったのだ。

 話にだけは聞いていたがなんとこのお寺、平然と妖怪が出入りをしているだけでなく住職は名の通った魔法使い、その補佐を務める人物はなんとあの七福神の一角毘沙門天と関係の深い人らしい。

 その他もろもろ含め、このお寺はいろいろと予想外かつぶっ飛んでいたのである。

 とはいえこのお寺「命蓮寺」の外見は普通の立派な木造建築で、やっていることも仏教の信仰と割と由緒正しきしっかりとした場所なのだ。

 ここに入り浸る妖怪たちも姿こそ愛くるしい者からおどろおどろしい者まで様々だが皆心優しい者ばかりで、ここの女住職である聖 白蓮はそんな他種族の存在達をまるで聖母のごとく優しく包み込んでくれる人物であった。

 そう、何を隠そうこの聖白蓮と言う人物、さらにはこの命蓮寺と言う場所は以前永琳先生から教えてもらった幻想郷の権力トップ5に数えられているお方である。

 医者と幽霊に加えてお寺の住職であり魔法使いとは、なんだか数々の仮面ライダー達を追憶しているような気分になるが実際のところそうなのだ。

 初日は特に何事もなく優しく迎え入れてくれて、そのうえで基本的な仏教の歴史や教えなどを学び、さらには座禅を組ませてもらったりもした友希だったが、思った以上につらい作業で肝心の心が特に疲弊してしまったのだった。しかしそれこそが心を鍛えるということであり当初の目的どおりと言えばそうだ。

 昨日はそのまま就寝し今日もかなり早くから起床して白蓮の経を聞いていた友希。とりあえず友希は経など覚えていなかったのでただ眼を閉じ耳を傾けるだけだ。

 体を鍛えたり技を磨いたりするほど実感や疲労があるものではないが、それでも心は静かに休まっているような整理されているようなそんな感覚だった。

 友希の母方の母が仏教の家だったのでよく経を聞いたり寺に赴いたりはしていたのだが、今は昔と状況も心の内も違う。ゆえに友希の身にはより一層力が入っていた。

 本題に戻ろう。

「そういえば、あなたは特異な妖術を使うとうわさされている人間と同じではないのですか? 確か最近現れた人間はそういう不思議な者だと耳に入れましたが」

 そうやってもはや聞きなれた友希の妙なうわさ話の審議を訪ねてきたのは、この命蓮寺において住職の聖白蓮の最も近くで行動を共にすることの多い毘沙門天代理と名乗る女性、寅丸 星である。

「ああ、はい。多分そうだと思います」

「多分と言うことは少し相違があるということでしょうか」

 その話し方や変に律義で深読みしてしまうその性格から見て、かなりまじめな人なんだろうと感じた。

「いずれにせよあなたの使うその術について少し興味があるのですよ」

 この流れはもしや、と友希は思った。そして的中だった。

「そこで、よければその術を見せていただけないかなと。もちろんあなたの意思は尊重しますよ。ですがその術がもし危険なものであった場合私共としても看過できませんし・・・。ああ、別に幻想郷の自警団になったなんてつもりはありませんよ! ただもしそうだった場合、関わっただけに捨て置けないと言いますか・・・」

「・・・・・」

 まじめだったり良識のある人物は皆決まって力の危険性について注意している。

 寅丸も例には漏れず。友希の話題を耳にして、当の本人が目の前に現れて、それがなんて事のない子供で、となれば「こいつ力をよからぬことに使ってるんじゃないだろうな?」となるのは至極当然のこと。

 それに友希自身つい最近まで身に覚えがありまくりな人間だったが故に余計に胸に刺さる。

「そういうことならいいですよ。でも見せるだけのためにただ変身したことは他の人には言わないでほしいんです。ある種の戒めと言いますか、気軽にはこの力は使わないようにって決めたんで」

「いえいえ、そんなに簡単に終わらせるわけがないじゃないですか。ここはひとつ幻想郷の礼儀、弾幕勝負と行きましょう!」

 何もかもがいつもどうりの流れ。幻想郷にいる人は全員弾幕勝負でしかカタをつけられないのだろうか。

「でも俺、弾幕打てませんよ?」

「あれ? そうなんですか? てっきり妖術とはそういった類のものかと・・・」

「まぁ撃てるのもありますけど、みんながやってるような鮮やかな感じのは無理だと思います」

「・・・?」

 幻想郷の住民が放つ弾幕及び弾幕勝負は激しいだけでなくとても美しいものなのである。

 実際それを勝負の加点の基準にもしているそうなので、だとすればなおさら友希には難易度が高すぎるのである。

「それでは弾幕肉弾混合にしましょう。それなら問題はないはずです」

「あの、仏教ってそういう暴力的なのはありなんですか? もっと平和なのがいいんじゃ」

「問題ありませんよ」

 友希がふと思った疑問を口にしたとき、背後からこの寺の住職の優しい声が聞こえた来た。

 二人ともが声のした寺の廊下をのぞき込むようにして見る。

「確かに故意に他人に対して欲望のまま、または痛めつける目的で拳をふるうことは言語道断、許される行為ではありません。ですが弾幕を含めた勝負、これはこの世界の定められた規律であり、ある意味必然でもあります。両者合意のもとで勝負と銘打って拳と技をぶつけあうというのであれば、この戦いを己を高めるための修行の一環と考え容認しましょう」

「ありがとうございます、聖!」

 友希は初めて面と向かったときに感じていたが、本当にこの聖白蓮という女性はまるで聖母のようなのだ。

 これは形容でも何でもなくまぎれもない事実。物事の全容を冷静に見極め、どんな存在だろうと平等にかつ寛容に接してくれているその様は聖母と言うほかないだろう。

 少なくとも友希が見ているうちではこの人も幽々子と同じく終始微笑みを絶やさないのだが、幽々子と違うのはその笑顔には全くよどみが感じられないということである。しかし全くよどみがないというのもある意味裏を勘ぐってしまうのでそれはそれで怖いのだが。

 いずれにしてもこの女性と話していると悪い気は一切しない。

「それでは早速お願いします!」

「は・・はい、分かりました」

 再び仮面ライダーの力を試されることになった友希だが、今回も割とまんざらではなかったのだ。

 もちろん力を揮えることがではなく、昨日もまたにとりからタイミングよくロールアウトしたベルトを試運転してほしいとの連絡があったからだ。

 そして今回はついに主役ライダーを食う勢いで共に活躍してきた二号ライダーの力が使えるとあって気合が入っていたのだ。

「でも、どれから使ってみればいいかな・・・」

 命蓮寺の石畳でできた歩道をはさんで砂の上に立つ二人。

 とここで友希はあることに気が付いた。

「・・・?」

 目の前に見える寅丸の様子がおかしい。妙にそわそわしているというか、どこか目が泳いでいるようにも見える。

 立派な装飾の施された槍を右手に携えていたのだが、それも少し震えているような・・・。

「あのー、大丈夫ですか?」

「へっ⁉ あ、はい! 大丈夫ですよ! ほんと何にも問題ありませんからね⁉」

 動揺しまくっているのがまるわかりである。

 友希にとって弱いことは恥じるべきことではなく攻め立てられるものでもない。そう感じてしまうのは周りの環境の求める尺度が高すぎるだけにすぎないのだ。

 しかしこの時の友希は、寅丸が自ら戦いを望んできたこととなんだか様子がおかしいことから不覚にも思ってしまった、「この人実は弱いんじゃないのか?」と。

 決して自らが強いとかうぬぼれているわけではない。ただあまりにも相手がうろたえているのが分かったものだから、そんな相手に容赦なくライダーの力をぶつけるわけにはいかないと思った。

「応援していますよー、星ー」

「は、はひぃっ!」

 友希から見ても動揺が見て取れるのに白蓮が気づかないはずがないのだが。知ってか知らずか白蓮の厚意の言葉がかえって星を委縮させてしまった様子。

 どうにも変な感じが残るこの状況に戸惑いながらも、友希はその手に指輪のようなものを転送させる。

 そしてそれを自らの右手中指に装着し、腹部にかざすとそこから銀の扉が装飾された黒いバックルが出現した。

『ドライバー オン!』

「おお、あれが」

「うう・・・」

 未だその泳いだ目で恐る恐る友希の方へ視線をやる寅丸。

 友希は逆の左手に別の指輪を装着して高らかに突き上げる。そしてゆっくりとおろしてゆき両手を回転、左側に腕を突き出しながら気合を入れて宣言する!

「変~身!」

『セット! オープン!』

 左中指の指輪をバックル側面の穴にセットし鍵のように回すと、正面の扉が解放され中から金色の獅子があらわになる。

 友希が腹部に力を籠め何かを放出するように体を大の字に開放すると、バックルから黄金の魔方陣が形成されゆっくりと友希を飲み込んでゆく!

『L・I・O・N! ライオ~ン!』

「姿が変わった⁉」

「魔方陣も見えました! と言うことは、彼も魔法を使えるということでしょうか⁉」

 ギャラリーとして見ていた命蓮寺一派の一人、青髪の雲居 一輪が白蓮に向かって叫ぶ。

「当然、それも意識しましたよ! 金色の獅子! 古の魔法使い 仮面ライダービーストだぁ!」

 友希はその場で軽く構え、ポーズをとって見せた。

 丸い緑の瞳に顔全体に広がる金色の鬣。左肩には金色のライオンの装飾、全身が金と黒で完成されたシンプルだが力強さも感じるその姿。

 魔力を食らい生物の力をその身に宿す、輝きのライオン魔法戦士! 仮面ライダービースト!

「さぁ! ランチタイムだ!」

「くっ、仕方がありません・・・」

 小声でなにやら覚悟を決めた寅丸をよそに、駆けだして一気に距離を詰める友希。

「はあっ!」

 単純なパンチだが威力はバッチリ、その圧まさに荒ぶる獅子のごとし!

 しかしながらこの隙だらけのパンチをしっかりと槍で絡め防御した寅丸。そのままなぎ払い形成を自分に持っていこうとする。

「はっ、ほっ、せいっ!」

 長槍は遠心力が強くかかり、かつ刃先が自分よりも遠いところにあるので、攻撃の強度や自らの体の一部として扱うことが難しい武器である。にも関わらず寅丸はとてもなめらかで正確な突きを繰り出してくる。

 予想が外れなかなか懐に潜り込めない友希は一旦距離をとることを選択。しかしここでも機転の速さを見せた寅丸が弾幕を鋭い矢のようにして発射、友希を追撃する。

「そっちが武器を使うんなら・・・! はぁっ!」

 迫りくる弾幕を魔方陣により召喚したビースト専用武器「ダイスサーベル」で切り払った。

「いい目よ、来い!」

 この武器はダイスと名のつくように柄の少し上にサイコロの目を模したルーレットが付いており、それを回すことによって出た目に応じてより強い攻撃を放てるというユニークな武器なのである。

『4! セイバーストライク!』

「・・・っ! どこだ⁉」

「上だぁ!」

 弾幕によって巻き起こった土煙を利用し、飛び上がり上部からの奇襲をかける友希。

 再び槍で受け身を取ろうと構える寅丸だったが、攻撃の違いに気づくのにはそう時間はかからなかった。

 フェンシングの槍のように鋭くとがったサーベルの刀身がまばゆく発光し徐々に獅子の形へと変貌してゆく!

 正確には発生したエネルギーが変形し独立して分裂を始めている。

「ふんっ!」

 勢いよくサーベルを振るおろした途端、剣から4匹のライオンが寅丸めがけて至近距離で迫る!

「これは・・、だめだっ!」

 通常の攻撃とたかをくくり甘い姿勢で受け止めてしまったことを後悔した寅丸だったが、案の定すぐに体勢が崩れてしまい獅子の牙をもろに食らってしまった。

 せめてもの策として体をくねらせ転がることで衝撃と威力を緩和させる。

「あら? 少し調子が悪いようですね。星ったら、どうかしたのでしょうか?」

「ギクリ・・・」

 何やら痛いところを突かれ額から嫌な汗が噴き出したのは寅丸だけではなかった。白蓮の隣にいた一輪と、水兵服とその帽子に身を包んだ湖畔の亡霊、船長こと村紗 水蜜も寅丸の異変には気が付いており、その正体も知っていたのである。

「このままの勢いで!」

 そう言って新たな緑色の指輪を装着し、ベルトに接続させる友希。

『セット! カメレオン! GO!』

 今度は緑色の魔方陣が展開され、ビーストの右肩から徐々に包み込んでゆく。

『カカ・カ・カカ! カメレオン!』

 急いで体勢を整え友希を視認しようと顔を上げる寅丸。しかし、やはりと言うべきかそこに友希の姿はなかった。

 経験から直感的に自らの頭上を見上げるがそこにも姿はない。

(くっ! こんなこと、いつもなら何ともないのに! 早く・・ナズーリン・・・!)

「・・・!」

 またしても思案に気を取られていた寅丸は、どこからか飛んできた攻撃を見切ることができずその場に倒れこんでしまった。

 いや、見切れる見切れないの問題ではない。そもそも見えない攻撃だったのだから。

 緑のカメレオンビーストリングでフォームチェンジした、仮面ライダービースト カメレオンマントはまさにカメレオンのように姿を周りの風景と同化させる透明化魔法を得意とし、右肩に顔をのぞかせるカメレオンの顔の口からは虫を捕食する際の細長い舌が相手めがけて鞭のようにしなるのだ。

 よって今の寅丸には避けることはおろか視認することすら不可能と言うわけである。

「はぁっ!」

「・・・っ、これは⁉」

 追い打ちをかけるように何かに縛られるような感覚に陥る寅丸だったが、案の定これも友希の透明化魔法と舌によるもの。

『3! セイバーストライク!』

 どこからともなく表れた小型のカメレオンに周囲を囲まれ、縛られたままでなすすべのないまま飛び掛かりの突進を一身に受けてしまう寅丸。

 いくら小型の動物とはいえ魔法で作り出された、加えて仮面ライダーの力で呼び出されたものであるから当然そのダメージは決して軽くはない。

「ぐああっ!」

 体と舌を同時に駆使した連続攻撃の嵐に、たまらず寅丸から苦痛の声が漏れる。

 その期を見計らってか命蓮寺の瓦屋根の上にて攻撃を指示していた友希が寅丸めがけてサーベルを振り下ろす!

 当然縛られ動けない寅丸はなすすべなくもろに斬撃を受けてしまった。

 舌を巻きつけたまま斬ると無駄に舌にダメージを追うことになるので直撃の瞬間に巻き付けた舌をほどいたのだが、それによって固定されなくなった寅丸は衝撃で寺の門のあたりまで飛ばされた。

「くっ・・まさか、これほどまでとは・・・。完全に侮っていた・・・」

 寅丸はとても意外だったようだが、それは友希も同じこと。

 垣間見た落ち着いた風格と口調、そして自ら戦いを望んできたその気概、どれをとっても強者の予感しかしなかったのに割とあっさりと地に伏せさせることに成功してしまったのだから。

 別にもっと手ごたえが欲しいとか物足りないとか、そんなそこかしこにいる戦闘狂みたいなことは言うつもりはないが、どうしても力の差を感じてしまって変に申し訳なくなってしまうのだ。

 しかしだ。今すでに寅丸が勝機を得ていることに、友希は気づかなかった。

 というのも寅丸が吹き飛ばされて門前に伏したそのすぐ後、寅丸の背後に小さな影が一つ接近した。背後であると同時に土煙も少し待っていたので変身した友希にも気づくことができなかったのだ。

「ご主人、もういい加減にしてくれたまえよ。ほらこれ」

「おおっ!」

 背後を振り向かずとも寅丸にはそれが誰だか見当がついていた。

 彼女を、これを、待ちわびていたのだから。

「ふっふっふ、今までのはほんの小手調べですよ。本番は・・ここからです!」

「えっ?」

 一瞬だった。ほんの一瞬。

 ゆえに友希には理解ができなかった。

 今、自らが地に伏し、天を仰いでいることに。

 そのことを考え出すと同時に後から苦痛が滲んできた。

 一点だけの痛みではなく、まるで大木で全身を思い切り殴られたように鈍い痛みが広範囲にじんわりと広がっている。

「うう・・なんだ! 魔法⁉」

「違いますよ。魔法よりもっと、恐ろしく気高きものです」

 友希が寅丸の姿を再び視認した瞬間、今までとの違いに体が硬直してしまう。

 姿は変わってはいない。しかし、その身からあふれんばかりに発せられている威風。今までとは「大きさ」が違って見えたのだ。まるで巨大な虎ににらみを利かされているような、嫌な汗が噴き出すのを自分で感じ理解することができた。

「いったい、どういうことだ・・・⁉」

『6! セイバーストライク!』

 サイコロにおける最大数の6が出たことにより、最も強力な魔力を得た6匹のカメレオンが一斉に寅丸に向かっていく。

 しかしまるで羽虫でもたかっているかのように右腕でフッと薙ぎ払っただけでそのカメレオンたちはもろとも消滅してしまった。

「・・・・・」

 先ほどとはまるで人が変わったような強さを発揮する寅丸に唖然とする友希。

 その間は友希にはずっと長く感じられ、周りで見ていた者たちのざわめきも聞こえてはいなかった。

 しかしそんなにしっかりと時間を感じられていたということは、すなわち寅丸は友希を眼中に収めるばかりで攻撃をしようとしなかったということ。それは強さによる余裕の表れか、弱々しさなど消え不敵な笑みまで浮かべている。

 何も起こらない状況に体が違和感を感じたか、ふと我に返った友希は急いで別の指輪を取り出そうと腰のストラップに手をやる。

 だが友希も薄々気づいてはいたが、そんなことを寅丸が許すはずもなかった。

「ふっ!」

「ぐぁっ!」

 まるで信託の杖のごとくまばゆく発光する槍は、友希の胸元を的確にかつ強烈に突いた!

 そのまま今度は友希が門前まで転がり突っ伏してしまうのだった。

 そしてその衝撃でカメレオンマントが剥がれ解除してしまった。

「ああ! くそぉっ!」

 痛みと悔しさ、そして混乱に声を荒げながら再び前線に戻ろうと顔をあげ前を向いた友希。しかしすでにそこには寅丸の手に持つ槍の刃が友希の喉を冷たくなぞっていたのであった。

「・・・・・」

 全くである。

 全く勝てる気がしない。

 確かに仮面ライダーの力は絶大。使い手の力量にも多少は影響されるものの、それにしたって手ごたえがなさすぎるのだ。

 目の前にただ仁王立ちで友希を見下ろすこの寅丸 星と言う女性は、先ほど友希が優勢になったタイミングで別人のように何もかもが変わり、仮面ライダーの力が、少なくともビーストの力が全く通用しないレベルにまで強くなったのだ。

 理解しがたいこの状況に友希は、ただただ敗北の濃厚な味をかみしめるのであった。

「おやおや、さっきまでの威勢はどうしましたか? あなたから来ないのであれば私から仕掛けるまでです!」

「・・・・・」

 突き立てられた刃に力が込められていくのが肌で分かった。

「そこまでです!」

 寅丸が振りかぶるよりも前に白蓮が厳しくも慈悲のこもった声で決闘の終結を宣言してくれた。

 その一声で友希はドッと疲れを感じ、自然と変身が解除されていく。

 寅丸も肩の力を抜いて大きく息を吐きだす。

 そして周りのギャラリーたち、命蓮寺の仲間たちは寅丸に、無関係の妖怪たちは興味と賛美で友希のもとへと駆け付ける。

「かっこいい! その腰の、見せてくれよ!」

「君、すごいんだねぇ。まさか寅丸様をあそこまで追い詰めるなんて」

「ははっ、そうすか・・。どうも・・・」

 完全に意気消沈してしまった友希は中途半端な生返事しか漏らすことができなかった。「追い詰められたのは、俺の方なんだよなぁ・・・」そう心に秘めたまま。

 

第二十話 完

 




どうも! 作者のシアンです!
この東方友戦録を綴るにあたり、実は一つ悩みが出てまいりまして。(本当はいっぱいあるのですが、挙げればきりがないので・・・)
今までの20話分を顧みても思うのですが、「東方の元ある設定と仮面ライダーの細かな設定をわかりやすく説明して両立するなんて、無理がある!」と、最近よく感じるようになったのです。
「どちらかを知らない人やどちらも知らない人でも楽しめる作品にしたい」と度々後書きでも口にしてきましたが、それって普通に考えて無理じゃね? と結構マジに絶望してます。
というのもやはり、こちらからお話を提供するにあたり、読者の方々に調べるなどの作業を煩わせるわけにもいかないというのが私の考えにあるのです。そして悩んでいるからこそ最近の話の後書きで「興味のある方は調べてみてください」などと考えと矛盾したことを言い出すようになったのが、もう本当にやるせなくて・・・。

と、いうわけで。
少しずつにはなりますが、お話をもっと友希目線強めで綴らせていただくことにしました。(語りが消えるわけではありません)
つまり友希は幻想郷に入ったばかりでまだ何も歴史や因縁などについて理解していないので、それに合わせて語りも「よくわかっていない風」になります!
とはいえそれで話の本筋がよくわからないのではいけないことは重々承知しています! そこは今までどうり、話数を重ねながら自分の腕を上げてカバーしていきたいと考えています! よろしくお願いします!

さて次回予告です!
次回、寅丸に敗北した友希の次なる相手は、今回もチラッと登場した小さなネズミ!?の賢将!

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