「今の戦いはなかったことにします」
一通りの戦闘を終えて寺の石段に腰を下ろしながら一息ついたその矢先に、変わらずの優しい微笑みを崩さず白蓮がそう言い放った。
「え? 聖、いったいどうしたという―」
「宝塔」
「なかったことにするのがっ! 一番いいと思いますっ!」
友希共々皆疑問に思ったことを寅丸が代わりに解消してくれそうだったのだが、なぜか聖の一言で手のひらを返し同調してしまった。
周りにいた命蓮寺の者たちは薄々感づいてはいるようなのだが、少なくとも友希にはさっぱりだった。
「本当に申し訳ありません、一夜友希さん。星は少し頭を冷やす必要があるようです」
ゆっくりと友希の方へと向き直り事情を説明しだす聖。
一日を命蓮寺で共に過ごしたはずなのだが意外にも住職である白蓮をしっかりと見たことはなく、こうやって面と向かって話しかけられると容姿端麗で落ち着いた雰囲気の漂うその美しい姿に思わず息をのんでしまった。
「詳しくは言えないのですが、星は「宝塔」という神器が力の源なのです。そしてその宝塔をどうやら今の今までなくしていたようなのですよ。本来それだけでも私から喝を入れる必要があるのですが、あろうことか彼女は秘められた力の一端を人間である友希さんに使ったのですから、看過することはできません」
そういうものなのだろうか。どうして使ってはいけないのか、宝塔とはいったい何なのか、そのあたりが特によくわからなかったが、とりあえず聞いてもわからなそうなのでここは黙っておく友希であった。
「ということで、どうでしょうか? これから改めて試合を行うというのは」
正直この提案には乗り気にはなれなかった。
第一寅丸から理由をつけられて勝負をしたのも、やらなくていいのなら戦いたくはなかったのだ。
しかも力を見せるだけなら先の試合ですでに完了したと言ってもいいはずなのだが。
そんなことを考えているうちに、本当はこの聖白蓮が力を試したいんじゃないかという考えに至った友希だったが、白蓮からの提案は・・・。
「こちらからはナズーリンに出てもらいましょう」
「えぇ⁉ なぜ私なんだい⁉ 正直、ご主人の一件でヘトヘトなんだけど・・・」
「うう、申し訳ありません」
戦いの場に自分ではなく他の人を指名したことにも驚いたが、なぜか提案の答えを待たずに試合をすることが決まっていることにいかんせん納得がいかない友希。
「それでは早速仕切り直しましょうか!」
(この人、見かけによらず結構強引なのかも?)
自分の考えでグイグイ話を進める白蓮に、友希だけでなく周りの数名も苦笑いを隠しきれていなかった。
「はぁ、仕方がない。ほら人間、さっさと済ませるよ」
そう言って愚痴を垂れながら戦場に足を踏み込んだナズーリンと言う名の小柄な少女は、背の大きさこそ完全に小学生だが灰色の髪の隙間から生えた丸く大きな動物の耳に、スカートの後ろから堂々とはみ出た同じくピンクの尻尾。それに謎の金属棒を携えたその姿はどう見ても人間ではない。その色合いから恐らくはネズミの妖怪だろうか。
友希も渋々と再びリングに立つ。
次に使うライダーの力はもうすでに決めてあったが、準備をする友希にナズーリンは声をかける。
「なあ君。おそらく聖様は私なら無茶なことはしないだろうとお考えになって、私をこの場に立たせていることだろうと思うんだ。しかしだ、私も一人の主に使える者。まあ手前ご主人の失態もあるからね、下手に負けられないのさ」
あれだけ渋っていたのに随分流暢にしゃべりかけてくると目を見開いて話を聞く友希。
「生憎私は肉弾戦なんて野蛮なことは苦手でね。弾幕のみで勝負するが文句はないよね。手加減もしないよ」
そう言い終わると静かに特殊な型の棒を二本構え、周りにぽつぽつと光の玉が浮かび上がってくる。
「俺だって子供みたいに小さい奴を思い切り殴れるほど肝は据わってないね」
以前そんなことがあったような気もするが、自分のことを棚に上げて事を進める。
『ゴーストドライバー!』
友希の腰にすうっとベルトがまかれていく。それはいつかの橙色の幽霊戦士のものだ。
構えた目玉の形をしたアイテムのスイッチを押し、ベルトに装填する。
『アーイ! バッチリミロー! バッチリミロー!』
聞いた感じ怪しな音声が辺りに響き渡ると同時にベルトの「目」の部分から青い線の入った漆黒の幽霊がはい出て友希の周りを浮遊し始めた。
その中心で深く腰を落としながら構える友希。
「変身!」
いつもどうり宣言し、ベルト右のレバーを引いて押し込む!
すると辺りが一瞬暗くなり友希の身体が変化し始める。
出現した幽霊と同じく真っ黒な素体に何やら心電図のようなギザギザ模様の青い筋が浮かび上がった奇妙なその姿。
そんな友希の上半身に着こなされる形で先ほどの幽霊が憑依し、その象徴として何もなかった顔面にいかにも切れ者を彷彿とさせるるマスクが装着されるのだった。
『カイガン! スペクター! レディゴー! 覚悟! ドキ・ドキ・ゴースト!』
冷静な意思と信念の冷気が混じり合い、鋭い瞳が戦場を切る。生き様を語る二本角の亡霊戦士! 仮面ライダースペクター!
「俺の生き様、見せてやる! っていうか戦い様を見せてやる?」
「何で疑問形なんだい・・・」
ビーストとは全く異なる変身に周りの者たちは様々な表情を浮かべた。
友希からすればよっぽど変な妖怪たちですら、変身には興味津々な様子だった。
「ふっ。もしかして、この命蓮寺に墓地があるからその姿なのかい? さっきのは聖様が魔法を駆使されるから、それともご主人を意識してのこと? 違うかい?」
「いや、さっきのは意識したけど、これは全くの偶然だ。墓地なんてあったのね」
こんなふうに一見他愛のない会話ができるほど余裕があるそぶりを見せてはいるものの、少なくとも友希は内心バックバクだった。
やっと終わったと思ったのにまさか仕切りなおす羽目になるなんて。もう痛いのは嫌なのだ。
『ガンガンハンド!』
ゴーストの時と同じくベルトの目の部分から武器が出現し、腕の形を模したスペクターの専用武器であるガンガンハンドを手にする。
「ようし! 行くぞ!」
武器を手に威勢よく突撃していく友希だがこれは誤った選択であった。
開戦前にナズが弾幕のみで勝負すると言っていたのが、緊張により頭から抜けていた。それにより相手の攻撃範囲内に堂々と丸腰で突っ込んでいる状況になっているのだ。
戦闘のスタイルや判断は変身者に依存する。その最たる例であろう。
「甘いよ」
友希の愚行にうろたえることなく冷静に弾幕を集中射撃するナズーリン。
当然友希は驚いて、一瞬でも足を止めようとするが勢いは止まらず、飛び交う弾幕を一身に受けながら突進を続けるほかなかった。
「うおおおおおっ!」
とはいえ早速痛い目にあってしまった(自業自得ではあるが)友希も負けてはおらず、ナズーリンの想定していた攻撃量を何とか耐えきり、見事に懐まで到達した友希は思い切り武器の平手部分でひっぱたいた。
「うわっ!」
実に単純な攻撃だったがライダーに変身した友希のパワーは人間のそれとは比べ物にならない。
体勢を崩したついでに間合いを取り調節するナズーリン。
そして友希はそれよりも早く悔いを改め、対策としてすぐさま別の紫のアイコンを取り出し装填するのだった。
『カイガン! ノブナガ! 我の生き様! 桶狭間!』
出現し友希に着こなされた紫色の幽霊は鎧を模した肩部と後頭部に飛び出たちょんまげに押し出た武将モチーフの姿をしており、まさに戦国時代の魔王『織田信長』の魂と言うだけのことはある。
新鋭の銃を使いこなす史上きってのカリスマ。仮面ライダースペクター ノブナガ魂だ!
「意味のない変化はありえないな」
そうつぶやいてやはり距離を取ろうとするナズーリンだったが。
「射撃準備ー!」
『ダイカイガン! ガンガンミロー! ガンガンミロー!』
手に構えたガンガンハンドのポンプを引き、先に付いた開き手を握らせる。そして持ち手の近くにある二本角の眼球を描いたクレスト部分をベルトの目にかざしたのだ。
すると相手に向かって構えたガンガンハンド ガンモードから左右に十倍、上下に三倍の計三十個に分裂し、すべてがナズーリンめがけて銃口を向ける!
「なるほど、君も肉弾戦だけが取り柄じゃないわけだ」
「くらえ!」
『オメガスパーク!』
一斉に放たれた無数の弾幕がナズーリンを襲う!
しかしながらこのノブナガ魂に球を曲げるような特殊な能力があるわけではなく、ただただ銃から直線的な弾が飛び出すのでナズーリンには避けることは造作もないようだった。
見事に隙間を縫って飛襲するナズーリンに友希はなすすべがない。と思いきや、近寄ってきたナズーリンの身体を肩から垂れさがるローブがしっかりと巻き取って捕まえてしまっているではないか!
「しまった!」
ここぞとばかりに体を大きく使って地面にたたきつける友希。
さらに地に転がったナズーリンに銃弾の応酬をお見舞いする!
まるで遊ばれているかのようにはじかれながら転がっていく。
その隙に友希はまた別のアイコンを取り出しフォームチェンジを行うのだった。
『カイガン! エジソン! エレキ! ヒラメキ! 発明王!』
銀の身体にアンテナのような角のあるこの幽霊は、前にも仮面ライダーゴーストの状態で使用したエジソンゴースト。差し詰め仮面ライダースペクター エジソン魂と言うところである。
ちなみにどの幽霊でもゴーストがまとえば額の角は一本、スペクターでは額の角は二本になるのだ。
「これなら簡単には避けられないだろ」
フォームチェンジしたことでガンガンハンドの銃口からは電流が発せられるようになり、所かまわず電気が走っていく。
「うう・・ご主人の時といい、よくもまあこんなに色々と変わるね」
さらに友希には予想外だったのだが、なぜかナズがずっと持って離さない謎の棒が避雷針の役目を果たしているようで、ひたすらに電気を集めているのだ。
これによって友希の攻撃はナズーリンに直撃しっぱなし、ナズーリンは苦渋の表情で耐えるしかなかった。
『ナンデヤネン!』
ポンプアクションで操作して、銃口の握り手を開き手にする。
『ダイカイガン! オメガフィスト!』
ナズーリンは電流に耐えながら細目で友希の動向を確認していた。
ガンガンハンドを天に掲げ、エネルギーが具現化し巨大な平手の形を形成する。
まるでチョップをするように平手を縦にして、思い切りナズーリンめがけて振り下ろす友希!
このままではまずいと感じたのかナズーリンは力を振り絞り真横へと緊急回避をかける。
何にも当たらずに攻撃が地面に衝突したので、轟音と共に土煙が巻き上がった。
「はぁ・・はぁ・・。少しよくないね、これは」
回避には成功したが疲労の色が隠せないナズーリン。いくら妖怪とはいえ電気を一身に長時間浴びればただでは済まないということらしい。
「最後はこれで!」
『アーイ!』
最後のダメ押しに新たなアイコンをベルトに押し込む!
『カイガン! ダーウィン! 議論! 結論! 進化論!』
表れたオレンジ色のゴーストは、かつて神の定めた生物の真理に真っ向から疑問を呈し、人類の出生の歴史を明らかにした生物学者 ダーウィンの魂の具現体。
そしてそれをまとったスペクターは、生き物の常識を覆す不思議世界の創造主! 仮面ライダースペクター ダーウィン魂!
「ただでは終われないよ。負けるつもりはさらさらないけどね!」
「いや、もう終わりにしたい!」
攻撃を仕掛けたのは両者ほぼ同時。ナズーは二つの鉄棒に、友希はドライバーのレバーグリップに手をかけた!
ナズーリンの周りに一斉に出現した光弾からレーザーが友希を狙うが、目の前に現れた謎の正八面体の結晶がまるでミラーボールのように光線を拡散させて、いわゆる弾幕の美しい模様を描き出す!
それに対して友希はグリップを操作し必殺技を宣言したとたんから、体がまるで流動する霧のような形状に霧散し、弾幕をものともせずナズーリンを一気に取り囲む!
「ななな、なにあれ⁉」
今まで友希がやった数々の技を見てきた観客たちだったが、これには一番の驚きを見せたようだ。
「そんなっ⁉」
友希は霧になっているのだから、どれだけ緻密な弾幕を張ろうともその隙間をいとも簡単にすり抜けてしまう。
両者が動き始めてから三秒ほどしかたっていない。当然戦況が変わることもない。
ナズーリンの周りを友希が取り囲み、ともども徐々に上空へと上がっていく。
いくらもがこうとも逃れることのできない橙赤色の濃霧がナズーリンを空中で締め付ける!
『ダイカイガン! ダーウィン! オメガドライブ!』
「うわああああ!」
これが命蓮寺で急遽始まった力試しの決闘、その終幕の瞬間だった。
始まる前、過去を思い不安だった友希は、この世界のルールに戸惑いながらも自分だけのライダーの力で見事戦い抜いた。
虎と鼠、二人の雄姿は友希にも確かに感動と影響を与えたことだろう。
「えっと~、その・・・大丈夫か?」
そう言って恥ずかしそうに右手を差し伸べる友希。
「・・・問題ないよ。私は、人間ほどやわじゃないからね」
皮肉にも聞こえたがしっかりと友希の手を取り立ち上がったナズーリン。
そんな二人に賞賛の拍手が鳴り響く中、微笑みながら寅丸とともに見つめる聖。
時刻はすでに昼になろうというところ。
帰らなかった紅魔館のことを思いながら、この一件はこれにて幕を閉じたのであった。
第二十一話 完
どうも、作者のシアンです!
第21話でした、読んでいただきありがとうございます!
実は前回で20話まで来ていたんですね。気づきませんでした~。
今回の話は少し短くなってしまいましたが、命蓮寺での戦闘が一区切りつきました。(一区切りと言うことは・・・!?)
やはりまだまだストーリーと戦闘描写が薄いですね~。反省を次に生かしていきたいです。
とはいえこの東方友戦録、まだ始まったばかり。
まだ幻想郷の、或いは幻想郷に住むキャラクター達の紹介パートでしかないのです!
恐ろしいことに、まだまだ交錯する重厚なストーリーを描ける基盤にすら到達していません。
なのでしばらくは今回のような短い話・一つの場所場面でしか事件が起きない話が続きます。しばし我慢ください。
さて次回~。
和む友希。外出する僧侶達。そんな状況を知ってか知らずか、正体不明の存在が牙をむく!