『タドル クリティカルフィニッシュ!』
「はあっ!」
力強く振りぬいた炎の剣から爆炎がほとばしり、迫ってくる妖精の群れに大打撃を与える。
妖精たちはことごとく吹っ飛ばされ、そして電子の泡となって消滅していくのだった。
ここは人里近くのにとりの工房。以前も来たことのある地下研究施設である。
昨日にとりから新しく役立つものを作ったから来てほしいと言われたため、午前の仕事を咲夜に任せて訪れた友希。
「どうだい私の開発したバーチャルバトルシステム、通称『弾幕張れ~る君』は。まだ弾幕勝負に慣れない盟友にはうってつけだと思うんだけど」
「うん、これいいな! これならいつでも練習できるんだもんな!」
先ほどの妖精たちは高度なホログラムで生成されたバーチャル映像。しかも外の世界のものとは比べ物にならないくらいにリアルで、本当に実物が存在するような感触までした。
「どうやったらこんなの作れるんだ?」
当然の質問であるし、友希も何の気なしに口にしてみた。
「いやぁそれは企業秘密ってことで、いくら盟友である友希にも言えないなぁ。それにたとえ言ったとしても理解できないと思うよ」
馬鹿にされたような言葉だったがにとりにそんな様子はないうえ、友希も「そりゃそうだ」と潔く納得した。
「てことは、仮面ライダーの技術を再現してるのも企業秘密?」
「うーん、まぁこれは特に商品化の予定もないし別に・・・。というより商品化したらお偉いさん方に目を付けられるから絶対やらないけど」
にとりがいつも言うお偉いさん方とは以前に会った永琳や幽々子、聖などの権力を動かす存在のことだろう。
「この幻想郷には博麗大結界の影響で忘れられたものとそうでないものがふるい分けられるのはすでに知っていると思うんだけど、それをもっと細分化すると忘れられたもの以外にも命を持たないもの。例えば鍋とか傘とかそういった無機物や花などの植物。そして「電波」とかは結界を比較的抜けやすい傾向にあるみたいなんだ」
「電波?」
にとり自身が妙に強調したこともあってか何やらキーワードになりそうなので復唱してみる。
「そう。そして外の世界から自動的かつ自然に結界を抜けられるのであれば、幻想郷側からの能動的な干渉も可能なはず。ということで外の世界の仮面ライダーの電波だけを限定的に傍受して情報を得てるってわけ」
「それはそれで目つけられそうだけど・・・」
「そうなんだよね・・・。それ以外の電波は取らないつもりさ。さすがに命は惜しいから」
正直そんなにかと思った。にとりの恐怖心の大きさにではなく、「お偉いさん方」が下す代償の大きさにである。
友希にはまだ幻想郷の力関係や仕組みについて分からないことが多かったが、本当にとてつもなく大きな存在が絡んでいると分かって他人事ではないとつい身構えてしまう。
「じゃあ私は別の作業に移っているから何かあったら呼んでね」
「分かった」
人通り話し終えたにとりは背を向けスタスタと戻っていく。
そんなにとりを尻目に友希は特訓を続行しようとしたのだが・・・。
「よし、じゃあ次はこの新しいのいってみよう!」
友希はブレスからではなく部屋の端の机に置いてあった金色の見た目からして強そうなガシャットに目を付けた。
『ドラゴナイトハンターZ!』
「術式レベル・・何だ? まいっか、変身!」
「あっ、ちょっ、それは!」
勢いづいた友希はにとりの静止に気が付かなかった。
「少し奮発して作りすぎてしまいましたか」
午前の業務が終わり早めに昼食の調理をして切り上げてきた咲夜は、友希のいるにとりの工房へと足を運んでいる最中であった。
手に下げたバスケットには、手作りのサンドイッチと食後のアップルパイが所狭しと積まれている。
友希の勤務態度は咲夜からしてみれば素晴らしく良く、周りの妖精メイドや美鈴の怠慢に比べれば目を見張るべき存在だ。
なにより主であるレミリアとそりが合っているようで本当によかったと思っていた。
咲夜にとってレミリアとは、敬愛する主人であり親代わりと言っても過言ではない存在。人間の寿命尺度にしてみてもそれなりに長い付き合いだが、レミリアの気まぐれで大胆な考えは未だに理解ができないこともしばしばであり、内心どうなることかと肝を冷やしたこともあったのだ。
しかしそれは杞憂に終わり、レミリアとのやり取りもさることながら丁寧な仕事と素直に言うことを聞いてくれる優しさもあり、正直友希の存在をとてもありがたいと感じていた。
それゆえの奮発とねぎらいの気持ちであった。
「確かこの辺りに・・」
迷いの竹林ほどではないとはいえ森のど真ん中に立てられた工房なので、咲夜と言えどたまに迷ってしまう。
「あったわね」
先の川沿いに見える建物に向かって歩を進める咲夜。と、その時だった。
グワアァァァァン!
「えっ・・・⁉」
突然辺りに鳴り響く轟音。その発生元はすぐに分かった。
「友希さん・・・!」
目の前で煙を吐き出す工房に向かって急いで駆け寄る。
友希が中にいることはすでに分かっていたので水辺から水を汲んで鎮火するよりもまず救出に向かおうと扉に手をかけたその時、中から自力で友希とにとりが飛び出しその場に倒れこんできた。
「おえぇっ! はぁはぁ、ざぐやざん・・よがっだ・・・」
「うう、水・・びずっ!」
「ちょっと、二人とも大丈夫なの⁉」
二人ともが川に向かって走り出そうとするも、すかさず咲夜が時を止めて水を浴びせかける。
「はぁ、はぁ・・・」
水を浴びたとはいえ大量のすすをかぶってみすぼらしい姿の二人は肩で息をして遠くを見つめ、まるで満身創痍な様子である。
「ありがとうございます、咲夜さん。にとりも、勝手に使ってすまん・・・」
「いや、あんな所に置いておく私も悪かったよ・・。今度からは、どういうものかしっかり動画を見せておくよ」
「いや動画あんの⁉ 早く言って! 俺も、仮面ライダー見たい!」
にとりが外の世界からの資料でライダーについて勉強しているのは知っていたが、まさか電波を傍受して番組そのものを見て参考にしているとは知らなかった。
さらに言えばコブラケータイなどの電話端末はあっても動画を見る機能はついていないのだ。ゆえに今の今まで友希は最新の仮面ライダーを知らないで、諦めの気持ちで過ごしていた。
「これは、しっかりとお洗濯しないとですね」
「うへぇ・・、せっかくのおニューなのに・・・」
咲夜が指摘したのは友希のすすで真っ黒に染まった服装。
昨日の温泉での一件から着てみたくてたまらず、わざわざ執事の服装を着替えてから着てしまったのが運の尽きだった。せっかくの白地が見る影もない。
「私も早いとこ片付けないとなぁ」
「ああ、俺も手伝う。もとはと言えば俺が焦って強くなろうとしたのが悪いから」
実は工房にある弾幕勝負の練習施設はにとりではなく友希の発案だった。
それもひとえに幻想郷で自分の身を自分で守るため、強くなるために必要なこと。そう思って先走りすぎた結果がこれである。
「私も手伝います」
咲夜も共に目も当てられないにとりズ工房に入って行く。
この後結局一日では方が付けられず、にとりに任せて紅魔館に帰宅したのはレミリアが夕食にしびれを切らした午後八時前後のことであった。
(強くなるってやっぱり簡単じゃないな・・・)
次の日、友希は咲夜より館内の清掃を言いつけられ、窓の拭き掃除を行っていた。
咲夜も分かっていていつもこの仕事を任せるのだろうが、友希の身体を水にできる能力を駆使すれば咲夜以上の効率で水拭き・乾燥ができる。なのでいつもほぼ作業と化し、こうやって何か考え事をしながらするのが恒例となりつつあった。
(でも強くなるって言ってもムキムキになりたいわけじゃないし、誰にも負けないほど強くなりたいわけじゃない。そもそも弾幕が打てなきゃ意味ないんじゃ・・・)
強さとはいったい何なのか。
仮面ライダーに限らず他のヒーローや人間にも必ず求められるテーマだが、いざ自分の中で真剣に考えるとなると難しいものだ。
一度は思い知った力の使い方。しかしそれだけでは十分ではなく、他にも細かく考えなければいけないことがある。そしてそれが今後幻想郷で生きていくうえでも大事になってくることはやはり間違いないだろう。
そんな時だった。拭いている窓ガラスの向こうに、少しだけ開いた門からのぞく美鈴さんの姿が目に入ったのは。
眉間にしわを寄せた咲夜も一緒にいることから、またお説教中であることは明白だった。
「そういえば美鈴さんって強い?」
というより門番を任されるほどなのだから強くないとおかしい。
以前半ば強制的に拳法の型のようなものを叩き込まれたときは、確かに気合が段違いだった。
実のところ職務をねぎらいに行ったり一瞬の交代の時に話すことはあっても、それ以外では今まで全然絡みがなかった人である。
毎日の食事にも門番であるがゆえに時間帯がずれているため食卓を囲んだことすらもない。
(優しい人だってのは分かるけど、実際のところどんな感じかな)
美鈴に関して友希は何やら考えが浮かんだが、残り一階の窓ふきを終わらせるべく足早に移動していくのであった。
「よし、終わったな」
咲夜であっても時止めなしで二時間はかかるであろう全館の窓ふきを、その半分の一時間程度で終わらせた友希は誇らしげにその軌跡を眺める。
「あら、終わったのかしら。ご苦労様ね」
そう言って後ろから近付いてきたレミリアは手を挙げて友希の肩に手をやった。
「あの、お嬢様。美鈴さんって強いんですか?」
友希は先ほどから気になっていたことを聞いてみた。
「ええもちろんよ。強い者でなければこの紅魔館の門は任せられないわ」
やはりそうなのかと心の中で感心する友希。
「あなた最近強くなろうとしていろんなやつに教えを乞うているらしいわね。さしずめ美鈴に興味でも湧いたかしら?」
「何でもお見通しですね」
さすがと言うべきか恐ろしいというべきか。五百年の人生は伊達ではないということだ。
「いいわ、この際堅苦しい話し方は無しにして、私が話を通してあげる。感謝しなさい!」
「ダメです‼」
「「ええっ⁉」」
美鈴のもとに向かった友希とレミリアだったが、先ほどからそこに居合わせた咲夜は意外にもレミリアの考えを否定したのだ。
なぜそこまで必死なのかものすごい剣幕で二人を睨みつける咲夜。
友希はもちろん驚いたのだが、それ以上にレミリアは目を丸くさせ何度も瞬きをしてしばらく硬直していた。
「え、何でですか⁉ 今まで修行するの許してくれてたじゃないですか⁉ 仕事ならちゃんとやりますから!」
「執事としての業務内容に不満があるのではありません! というかむしろ素晴らしいです! ものすごく助かってます!」
「じゃあなんで・・?」
友希からの問いに咲夜は端で背筋を伸ばして正座させられている美鈴に近づき、左耳を思い切りつねり上げながらこう言った。
「業務内容に不満があるのはこっちです! ただでさえ美鈴は職務中に居眠りをし怠慢の限りを尽くしています! それでも結果を残しているのならまだ良し、今まで何度も魔理沙やブン屋に侵入を許している! これ以上何かにうつつを抜かし本業がおろそかになるのであれば許可するわけがありません!」
怒号と言うほどではないが、咲夜の怒りがじんじんと伝わってくる必死の訴えに美鈴の悲鳴はかき消されてしまっている。
咲夜の言い分はもっともで友希にも反論の余地はない。
「で、でも、この寒空の中過酷な業務は美鈴にしか頼めないわけで、よくやっていると、思うわよ?」
ここでやっと口を開いたレミリアだったがショックでうまく話せていない。咲夜の発言の正当性を認めながらも主としての発言が否定された悔しさで、何とか話を通そうとするも過保護気味なコメントしかできず咲夜の意見を打ち負かせるほど説得力のあるものではなかった。
「お嬢様は美鈴に甘すぎるんです! 本来ならば度重なる失態でクビは免れません! クビですよ、ク・ビ!」
ここにきて勢いづいてきたのか咲夜の下が高速で回る。
「わ・・わたし、ここの主なんだけど? 主、上司、一番偉い。アンダースタンド?」
思っていたことがあふれるレミリア。なんだか泣いているようにも聞こえるが?
「だからこそ、もっとしっかりとしたご判断を!」
「うう・・・パ、パチェ~‼」
いつもとは明らかに違う咲夜の様子。いつもの威厳はどこへやら。この高圧的な空間に耐えられなかったのか、ついにレミリアはこの場から逃げ出してしまった。
咲夜もいつも美鈴に説教をしていたのでついに堪忍袋の緒が切れてしまったのだろうと、いつも温厚な咲夜の豹変ぶりを見て友希は心の中で必死に言い聞かせる。
「最近は里の方でも妖怪が暴れるおかしな事件が度々発生しているというのに、これからもこの状態じゃ困るわ」
「あ、はい。すみません・・・」
美鈴にいつもの覇気はない。なんならやつれたようにも見える。
「今日はそのままで門番をしなさい。もちろん昼食・夜食は抜きよ。行きましょう、友希さん」
「・・・はい」
友希の嫌いなことの一つに「怒りの感情」があり、外の世界ではなるべく怒りのない生活を送りたい一心で他人の顔色を窺っていた経緯がある。
そんななかで一つ学んだことがあった。それは普段怒らない人が怒ると本当に怖いということだ。
そしてその例が今の状況だろう。
友希はこれ以上何も言わず、ただ無言で咲夜の後をついていくしかなかった。
「はーーーっ。寒いですねぇ・・・」
その日の夜、皆が寝静まった頃。紅魔館の門の前で白い息を吐きながらポツリと独り言をこぼす美鈴。
咲夜に言われた通り昼頃からずっと地面に正座をした状態で門番をしていたようだがさしてつらそうな様子はなく、それよりも食事を抜かれたことによる空腹の方に顔をゆがませていた。
グウゥゥゥ・・・
「何のこれしきっ」
他から見ればどうしようもなく不憫な美鈴に対して、容赦なく秋の乾いた風が吹きつける。
「あれ・・?」
そんな時、美鈴は門の内側からある一つの気配を感じた。友希である。
ギィと鈍い音を立てながら年季の入った木の門がゆっくりと開いてゆく。
そして美鈴の感じた通り、その隙間から厚着をして小刻みに震える友希が姿をのぞかせたのだった。
「いったいどうしたんですか? こんな夜中に」
「いやぁ、どうしてるかなって思って・・・」
寒さのせいでうまく動かない表情筋に苦戦しながらも軽く笑みを返す友希。
わざわざ様子を見に来てくれたことにはもちろん感激だったがそれ以上に、友希の手元には数個のおにぎりが握られており、空腹の美鈴にはそれがたまらなく嬉しかった。
「ああこれ、美鈴さん何も食べてないでしょう。どうぞ」
「ありがとうございますぅ~! 助かりました!」
予想以上の感動に友希は少しばかり恥ずかしくなった。
おにぎりは逃げないと言ったが、美鈴はお構いなしにガツガツと口いっぱいにほおばりまるでリスのようだ。
そんな美鈴を横目で見ながら隣に腰掛ける友希。
「ふぅ、ごちそうさまでした!」
「えっ⁉ 早っ!」
友希がちょっと目を離した間にすでにいくつかあったおにぎりは全て美鈴の胃袋に吸い込まれてしまっており、友希はアニメのような綺麗な二度見をかましてしまった。
「いやぁ、もうお腹ペコペコだったんですよ~。最大の敵はやはり空腹か」
手に付いた米粒を一つずつ口に含みながらそう話す美鈴。
「そうですね~」
美鈴の言葉を軽く受け流しつつ、友希は満天の星空を見上げてゆっくりとため息をついた。
友希にとっては何の気なしにした行動だったのだが美鈴はそれを見逃さず、一度呼吸を置いてから友希の方へと体を傾ける。
「何かありましたか? 私でよければ相談に乗りますが」
「・・・それはこっちのセリフですよ、美鈴さん。咲夜さんと何かあったんですか?」
予想外の返答に美鈴は少し驚く。
「どうしてそう思うんです?」
「だって、今日の咲夜さんの美鈴さんへの当たり強くなかったですか? いつも妖精メイドに怒ってるのともまた違う感じがして、あの後ちょっと気まずかったんですよ」
「なるほど・・・」
美鈴は友希の話を心の中で吟味する。
咲夜に感じた異常性はそれだけにとどまらず、あの時主であるレミリアに対してかなり高圧的に接していたことが、友希の中ではとてつもなく引っかかっていたのだ。本来ならば、少なくとも今まで友希が見てきた限りならば、絶対にありえなかったことである。
あの時に限ってはレミリアの威厳やらカリスマやらが完全に消え失せ、見た目相応の子供じみた逃避行動をとっていたのも衝撃的だった。
「・・・友希さんは少し、勘違いをされているのではないですか?」
「勘違い?」
今度は美鈴の変な返答に友希が目を丸くした。
自分は目に見えて感じた皆の態度の変化を憂いているのに、いったい何が勘違いなのだろうk。
「友希さんは、なぜ咲夜さんがお嬢様や私に厳しくしたのか分かりますか?」
「・・・・・」
友希は美鈴の質問の意味からすでに理解できていない。だが、だからと言ってすぐに「分かりません」と返答を返したのでは興味がないように映ってしまい具合が悪いので、ここは形だけでも考えてみる。
美鈴は友希と同じように天を仰ぎ、その真意を口にした。
「家族だからですよ」
家族だという言葉の含む意味はまだよくわからずとも、友希の中での紅魔館は少なくともそんなほっこりとしたくくりで見たことはなかった。
「咲夜さんがきつく当たるのは家族としてしっかりしてほしいから、相手のことを思いやっているからなんです」
「つまり・・・単なる主と従者の関係ではないと」
「そういうことです。もちろん私も」
気が付けばさきほどまで吹いていた冷たい風は止み、雲が流れ夜空に光々と三日月が輝き二人を照らしていた。
とっくに友希の作ったおにぎりを食べ終えていた美鈴は正座を崩すことなく後ろの門壁に寄りかかり、そして目を閉じ穏やかに話をし始める。
「私や咲夜さん、パチュリー様に至ってもここがかけがえのない我が家なんです。種族や出生が違っていても、みんなレミリアお嬢様の寛大なご厚意で集められた家族。ほかに帰る場所なんてないんです」
「・・・・・」
「だからこそお嬢様には高貴で気高き存在であってほしい。咲夜さんはそんな思いでお嬢様に意見をしたんですね」
貴族とか西洋意識とか、あまり多文化に触れてこなかった友希にはよく理解できなかった。しかし、美鈴が本気なことは十分に理解ができた。
別人である咲夜の心境も濁さずはっきりと断言して代弁する辺り、その真剣さがうかがえる。
「皆多少は考えが違えどもその根幹となる感情は同じであると私は信じています。私もお嬢様にはずっと私たちを導いてくださる存在でいてほしいと思っています。ですがたまには息抜きしないと、心に余裕がないと壊れちゃいますよね」
「だからサボってるんですか?」
「いやいや! ちゃんとやってますよ⁉ 寝ているように見えてしっかりと気は張っているんです!」
とかなんとか言う美鈴だったが、初めて会ったとき爆睡しすぎて気配を感じれていなかったことを友希はしっかりと覚えていた。
「それに、なんか良い感じの事言ってますけど、これって単に美鈴さんが職務中に居眠りをしなければいいだけの話では?」
「い、いやぁ・・。痛いとこつくなぁ」
美鈴の言い分は理解したし、紅魔館内の関係については疑っても証明の仕様がない。
しかしながら美鈴の怠慢はそれでは正当化できない。
「ていうか美鈴さんっていつ寝てるんですか?」
本当に素朴な疑問だが、門番をやっていれば寝る間など存在しないように思える。実際に美鈴がベッドで寝ている姿など友希には想像すらできなかった。
「う~んと、紅魔館がフルで働いているときに少しだけ休憩の時間をもらっていますよ。例えばお昼前とか午後二時頃とか・・・」
「それ睡眠時間足りてます?」
「気を繰れば睡魔に襲われることはまずありませんが、正直なことを言うと、一度しっかり寝てみたいですねぇ」
「そんなレベルなんですか⁉」
紅魔館は巨大な敷地を有する以上、それぞれの業務が多少なりとも辛いというのは身をもって分かっていたつもりだったのだが、それにしても美鈴の業務形態には群を抜いてブラックさが溢れていることに驚きを隠せない友希。
「どうにかした方がいいでしょう、それ」
「これが私のやるべきことなので、何ともですね」
友希は何かを考えこむように顎に手を添えうつむき軽く唸った。
友希には美鈴をねぎらうだけでなく他にも目的があったのだ。というよりそっちの方が本命と言っても過言ではなかった。
「じゃあこうしましょう!」
「ん?」
「美鈴さんの門番を俺が半分肩代わりします! その代わりに美鈴さんが門番をしている間に修行をつけてほしいんです!」
「ええっ⁉ いいんですか、また咲夜さんにダメって怒られちゃいますよ⁉」
「美鈴さんが怒られたのは門番をしっかりやって・・いないように見えるからじゃないですか? 美鈴さんは起きていればずっと気を張り巡らせることができるんですよね? じゃあ俺に修行をつけていても問題はないですよね。むしろそのほうが目も冴えますよ!」
「た、確かに最近体の訛りを感じていましたし、理にかなっているとは思いますが。友希さんの業務が増えてしまいますよ?」
「俺は多少増えても問題ありません。咲夜さんと分担してますし、何より能力のおかげでスムーズに進みますから。時間には余裕があります!」
今まではゆっくりと入念に仕事をしていたために時間いっぱいまですることが多かったが、友希にはもっと効率化を図れるところもいくつか感じていたのだ。咲夜からも慣れてきたらスピードを上げる練習をしてほしいと言われていたのでこれが良い機会だろう。
「咲夜さんには俺から頼んでおきますから! お願いします!」
「・・・・・」
またしてもしばらくの静寂が訪れる。
時がたち、夜空にあった雲が一つ残らず流れ消え去っていた。
チラチラと輝く星々はまるで運命を示しているように、眩くはっきりと二人の目に映る。
「戦士の力に頼らないため、自分の力で生きるために・・強くなりたいのでしたね」
「はい」
「・・・そのために私の力が必要だとおっしゃるのなら、ご期待に沿えるよう全力を尽くすまでです」
「・・・! ありがとうございます!」
「でもまずは、咲夜さんを説得しないとですね」
時刻は丑三つ時にもなろうという頃だろうか。何かが前に進んだようで、気持ち高ぶる美鈴とずっと心を縛っていた緊張がほどけ安心した友希。
二人はその後他愛もない話を交わし、二カ月ほどの計り知れなかった自身の近況について語り合った。
何者にも邪魔されない静かで落ち着いたひと時だった。
さらに次の日の朝一番、いつも通り先に支度を済ませ仕事に取り掛かっていた咲夜を引き留め、夜に話し合ったことについて了承を得ようと友希は勢い任せに土下座をかました。
もちろん何が何だが訳が分からない咲夜はひどく混乱した。
こんなに狼狽えた咲夜は今まで見たことがなかったが、それでも友希は引き下がるわけにはいかなかった。
美鈴とすでに約束をしてしまったということもあるが、何より自分で決めたことはなんとしても自らでケジメをつけなければならないと思ったから。そうしないとここで一人では生きていけないと感じていたから。立ちふさがる壁を壊すことにした。
「なぜ、そこまでして強くなることを望むのですか? 幻想郷にいるからといって友希さんが戦う必要なんて何もありませんよ? もし危険が及べば、私やお嬢様が貴方を守ります」
それはその通りだ。
しかしただ守られるだけで、危機に直面した時に狼狽えることしかできない。そんな自分の姿を想像したら、自分で戦えるようになった方がよっぽどましだと思った。
そして幻想郷は、そんな友希の思いを受け入れてくれると感じたのだ。だから行動に移している。
「守るって、家族だからですか?」
「そうです。友希さんはもうすでに紅魔館という小さな世界の仲間。私の数少ない家族なんですよ」
「いえ、違います。ぽっと出の俺なんか貴女の家族じゃない」
友希は土下座で見えていないが、咲夜の顔が驚きで一瞬歪んだ。
「咲夜さんはそれでいいかもしれないですけど、俺は納得できない。俺にもよくわからないですけど、それじゃ嫌なんですよ。だから俺は自分にできることを全力でします。幻想郷じゃ、それも全然変なことじゃないでしょう?」
「・・・・・」
どうやら自分でも気づいていなかったようだが、昨日の夜に美鈴と話し合っていたことで、自分の中の気持ちに整理がついていたようだ。
思っている本当の気持ちがするすると口から出てくる。
そしてどうやら咲夜の説得もあと一押しのようだ。
「正直どれだけやったって咲夜さんや妖夢みたいに強くなれる予感はしません。それでも! 俺が自信を持ってこの世界で生きていけるようになるには、自分が強くなるしかないんです! お願いします! 許可してください!」
友希はここぞとばかりに額を床に擦り付ける。
それを見た咲夜はついに折れたのか、深くため息をつき言葉を発した。
「・・・分かりました。業務の合間に美鈴の指導を受けることを許可します。ただし、自分の本来の業務を疎かにしないこと。そして美鈴が門番をサボらないよう目を光らせておいてもらうこと、それが条件ですよ」
「・・・! ありがとうございます!」
本当に友希に押し負けて仕方がなくといった様子の咲夜だったがそれでも嬉しかった。
こうやって自分の思いを真剣に相手にぶつけることは外の世界では一度もなかったことだが、にもかかわらず友希にできたのはこの幻想郷の風土や環境が友希の意識を変えていったからだろう。そういう意味では、友希の精神は知らず知らずのうちに鍛わっていたのだろう。
そしてさらに、友希にはもう一つ安心したことがあった。
「そうそう、初めから運命はこうなると告げていたのよ!」
「・・・もう、お嬢様ったら」
友希と美鈴の意思を伝えに咲夜に突撃した時、傍には咲夜だけでなくレミリアもいた。
友希が来る前に何を話していたのかはわからなかったが、様子を見ているだけでも昨日のわだかまりは解消されているようで、二人ともの顔に笑顔が見られていた。
このまま険悪な雰囲気が続くようならどうしようかと、心の片隅で心配していたので本当によかった。
「・・・・・」
会話の様子からいつものような主従関係が友希の目に映っていたが、昨夜の美鈴の話を聞いた今ではそれが今までとは違ったふうに見える。
守るべき主でありながら大切な家族。過去にどういうことがあったのかもやはりわからないし、咲夜たちの思いも友希にはまだわからない。
外の世界では絶対に出会うことのなかった境遇とその特殊な感覚。
おそらくだが幻想郷にはそういった新しい環境がごまんと点在しているような気がする。というかもうすでにいろいろなロケーションに足を運んでいるので、そのたびに感じたことのない不安と興味が溢れるのだ。
「ほら咲夜、朝食が遅れているわよ」
「あっ、申し訳ありません! 友希さんも手伝ってください!」
「はいっ! もちろん!」
そんなこんなでいつもどうりの幻想郷での日常が再び動きだした。
まだまだ考えることがいっぱいだが、それでも着実に前に進んでいるという不確実だがかすかな自身が友希を突き動かすのだった。
第二十四話 完
ご清見ありがとうございました。作者のシアンです。
今回の第24話は、ライダーの活躍を一旦お休みしての紅魔館の掘り下げ回でした。
まだその一端しか垣間見えなかったものの、紅魔館で働く者たちの他とは違う考え方を描くことができたと思います。
要は単に仕事や運命で縛られた負の関係ではなく、互いに認め合い家族として精神的にも支えあっている関係だということですね。
そしてその考えは主であるレミリアとの間にも・・・。
これからもこうやって、ある一つのまとまりの中にある特別な関係のような話を、原作にあるような複雑な関係や過去の境遇を抜きにして、『東方友戦録』として語っていけたらと思っています。
さて今回もさらりとではありますが、これにて後書きを終了したいと思います。
次回第25話は再びライダー登場、そして新しいキャラクターとの出会いがあります。
目指すは妖怪の山! こうご期待!