「ニヤ・・ニヤ・・」
「・・・なぁ、にとり?」
友希が幻想郷に来てから早二カ月が経ち、体感だけでなく目に映る景色でさえも季節の移り変わりを感じられるようになってきた今日この頃。
今現在、友希がにとりと共に向かっている妖怪の山にもその兆しが表れており、緑だった山の葉たちが徐々に下の方から黄色、橙色、赤色と色づき始めていた。その様子は遠目から見てもすでに圧巻である。
なぜにとりと共に妖怪の山へ向かっているかと言うと、にとりが今まで忙しく手が離せなかったために中断していた幻想郷巡りをここにきて再開するためである。
そこでにとりが行く場所に指定してきたのは、今までにとり自身や紅魔館の面々からも一人で行くのは危ないとして立ち入りを許してもらえなかった「妖怪の山」であった。
妖怪と名の付くように、基本的に住みかとしているのは様々な種族の妖怪ばかりで、人里でも立ち入ることはおろか近づくことすらも推奨されていない土地なのである。
果たしてそんなところに行くのは危険なのではないかと友希も思ったのだが、にとりたち河童も妖怪の山に縄張りを構える存在で、自分がついていれば安全だと豪語したため信頼して今同行しているというわけである。
しかしそれにしても先ほどからにとりの様子がおかしい。心配というよりなんだか気持ち悪い。
「なんか良いことでもあった?」
「いいや、何も。ニヤ・・ニヤ・・」
「いや、絶対あっただろ⁉ だって変だもん!」
「いやいや! ほんとに何もないよ⁉」
絶対におかしい。明らかに口角の上りが隠しきれていない。
しかしにとりに何か企みがあるとしてもこれから妖怪の山に向かって幻想郷巡りをしようということに変わりはないし、友希にいったい何を仕掛けようというのかもまるで見当がつかないでいた。
突き止めようとしても証拠も動機も不完全で、これ以上は無駄骨に終わる気しかしない。
「・・・それにしてもだな、本当に大丈夫なのか? 妖怪の山って、二人だけじゃ何だか不安なんだけど」
「大丈夫大丈夫、河童の力を侮ってはいけないよ。それに二人じゃないから」
「え? それってどういう・・・」
「あ、来た来た!」
にとりからの気になる言葉に引っかかるも、すぐさまにとりに遮られてしまった。
そして声を上げたにとりが指さす方向へ友希も目をやると、先の大きな岸壁の方から一つの白い物体がこちらに向かって飛んでくるのが確認できた。
その白い何かはゆっくりふわふわと飛んで友希たちの目の前へと降り立った。
「待っていましたよ、にとり」
「久しぶりじゃないか。今日は無理言って悪いね、例の件のことは頼むよ」
「ということは、そちらの方が・・・」
「あ、一夜友希と言います。よろしくお願いします」
目の前の人物がいったい自分に何をしてくれるのかは分からなかったが、とりあえず初対面で注目をされたのでいつも通りの挨拶を返す友希。
「初めまして。私はこの辺りの妖怪の山へ続く場所を警備しています、白狼天狗の『犬走 椛』といいます。以後お見知りおきを」
天狗と聞くと、以前の温泉の一件で出会った『射命丸 文』を思い出すが、彼女とは違いこの天狗は髪も服装も白いうえに人間とは違う場所に耳が付いているのだ。そしてそれは白狼天狗の名の通り狼のそれであった。
服装はスカートこそ黒色だがそれ以外はすべで白色でそろえられており、狼の獣耳は頭の上についている。右手には野太いナタにも見える剣、左手には大きく赤い椛が印字された大楯を携えており、いかにも警備しています! 不審者は攻撃します! と言わんばかりである。
「天狗は聞いたことあるけど、白狼天狗っていうのは初めて聞いたかも」
「そうですね、種族としては大きな勢力を持っているわけではないので、妖怪の山の中では割と肩身が狭いんですよ。天狗派閥の中でも地位は最も下ですし・・・」
友希はにとりから聞いたことがあった。
妖怪の山では常時覇権争いやそれに準ずるいざこざが絶えないところなのだと。
とはいえ武力による戦争や弾幕を介さない殺傷目的の攻撃などは明るみには行われておらず、あくまで形式的冷戦状態として空気感が緊張状態にあるというのだとか。
そしてそれは種族同士の間だけではなく、その種族の内部でも起こっているらしいのだ。
目の前の白狼天狗の彼女もその被害?にあっているうちの一人なのだろうと、会話の内容から読み取ることができた。
「とりあえず、今日一日はにとりの頼みであなたを護衛させてもらいます。妖怪の山の中を人間が歩くのは非常に危険ですので」
「椛に頼んだら特例だけどオッケーだって」
「そうなんですか。ありがとうございます」
話し方といい立ち振る舞いといい、人間である友希に対しても何と礼儀正しいのだろうか。以前の真っ黒天狗とはえらい違いである。
「本当に大丈夫なの? ここの警備がいなくなるけど」
「はい。丁度他の白狼天狗と交代の時間になりますし、上層部には午後から抜けると言って許可は取ってありますから、心配はいりません」
そう言いながら友希をまじまじと見つめる椛。
「えっと、何か変?」
「い、いえ! 風の噂には聞いていましたが見た目は普通の人間と変わりないなぁと。何でも不思議な力を使うとお聞きしましたが?」
「ああ、それは・・・」
「「仮面ライダー」ですよね! 友希さん!」
いつものように背中にかけていた袋からベルトを取り出して見せようとした友希だったが、唐突に背後から声をかけられたので驚いてその場でしゃがんでしまった。そしてその声にはかなり聞き覚えがあった。
例の真っ黒天狗である。
「お前! この前の変態パパラッチ天狗!」
「誰が変態ですか! 人聞きの悪い!」
「いや、パパラッチはいいのかい・・・」
そう、『射命丸 文』である。
友希やにとりだけでなく椛までもがうんざりした顔で見つめる中、当の文は以前と変わらぬあっけらかんとした満面の笑顔。元気が有り余っているといった様子だ。
「ま~た性懲りもなく仕事の邪魔をしに来たんですか! 暇ですか⁉」
前例のこともあり友希は突っかかろうとしたのだが、それよりも先に椛が声を荒げた。
「あなたもひどいこと言いますねぇ。私はただネタ探しのついでにあなたのその凝り固まった頭を少しでもほぐしてあげようとしているだけなのに」
「余計なお世話ですっ!」
文のひょうひょうとした態度がよほど気に入らないのか何なのか、椛は異常なまでの嫌悪感を見せる。そしてそんな二人のやり取りを見かねて、友希は再度前に出ようと試みるのだが・・・。
「なぁ、俺たち今日は予定が・・・」
「それはそうと見てくださいよこの写真! よく撮れているでしょう、さすがは私と私のカメラ」
案の定友希の話は遮られ、そして写真に写っていたのは俯瞰から撮った友希たち三人の姿。話しかける前からずっと様子をうかがっていたらしい。
「見出しは、そうですね・・・。山の下っ端妖怪、人間と謎の密会⁉」
「「「いい加減なこと言うな‼」」」
文の掴みどころのない会話と早く妖怪の山に入って行きたい気持ちとが混ざり、ついに三人の堪忍袋の緒を切らしてしまった。しかも椛に至っては懐刀を思い切り振りかぶり文に向かって切りつける始末だ。
同じ天狗のコミュニティにいるだけあってか、今までのうっぷんが爆発したらしい。
しかしその様子を見てもまだ文は面白がって空を羽ばたいている。これがまた椛にはそうとう悔しくてたまらなかった。
「今日という今日はもう許しません! いざ尋常に、勝負!」
「ああっ! 椛!」
心配になるほど顔を真っ赤にして文に向かって突撃していく椛。
これで文に少しでもお灸が据えられるのならそれはそれでかまわないが、あくまで今日の目的は妖怪の山の紹介および散策である。取り残された友希とにとりは二人して途方に暮れ顔を見合わせた。
「文の対処法はもう知ってるし、俺も椛さんに加わった方がいいかな?」
「早くしないとすぐに日が暮れちゃいそうだよねー。妖怪の山だってかなり広いから移動するにも時間がかかるし」
そう言ってにとりは背負っている緑色のリュックサックから複数のベルトやらアイテムやらを取り出す。
「めっちゃ出てくるじゃん⁉ どんだけ入ってんの⁉」
「ふっふっふ。この甲羅は特別でね、どれだけ入れても破れることはないし入れた物の重量を軽くすることもできる、河童の必需品なのさ!」
自慢げに鼻息を荒らすにとりをよそに、友希は湧き出てくるアイテムに目をやるが・・・、文撃退の必需品がない。
「なぁ、ジェットコンバットは? というかゲーマドライバーすらないじゃん!」
「ゲーマドライバー自体をメンテナンス中だからね」
「タイミング悪いなぁ~」
「あのね、新しいアイテムを生み落とすのも、それをベルトとうまく同調させるのも、簡単時な作業じゃなの! 幻想郷のパワーバランスとか副作用とか、考えなきゃいけないことは山積みなんだから。ほらこれ! 新しいの、使って!」
感情の忙しいにとりはキッと友希を睨みながら鮮やかな露草色のアイコンを友希の手に握らせる。
「なるほど、弾幕ね」
友希の仮面ライダーの知識は自身が死んでしまった時期的に丁度ゴーストで止まっており、エグゼイドはにとりに電波傍受で見せてもらっている最中なのだ。
なのでゴースト以降のアイテムの詳細は見ればすぐに分かる。
『ゴーストドライバー!』
友希が腹部に手をかざすとブレスの力で腰にゴーストドライバーが出現する。そこに先ほど手渡されたアイコンをセットすると自己主張の激しい待機音鳴り響くのだった。
「変身!」
ベルトのグリップを押し込むと同時に体が変化し、浮遊するパーカーゴーストが友希にまとわってゆく。
『カイガン! リョウマ! 目覚めよ! 日本! 夜明けゼヨ!』
「あれ? 闘魂じゃないの?」
「あれは絶賛調整中だよ」
友希の言う闘魂とは仮面ライダーゴーストが一つ目のパワーアップをした姿のことを言い、通常の黒い素体(オレベース)ではなく炎を思わせる真っ赤な体をしている。
そして本来リョウマを含む複数のアイコンは闘魂の時に使用することしかできないのだが、それが今はオレベースのリョウマとなっており不完全なのである。
「よし、ここから狙うか」
友希はおもむろに銃モードのガンガンセイバーを呼び出し、空中で激闘を繰り広げる文に向かって地上から照準を合わせた。
「ちょっと待って! あともう一つ試してほしいものがあるんだ」
「・・・?」
いくら変身しているからとはいえ地上からの無謀な狙いににとりは待ったをかけ、友希にある策を伝えるのだった。
一方先ほどから上空で冷めやらぬ怒りの熱を発し続ける椛はや、はりと言うべきか文の超スピードに翻弄されていた。
天狗と言う種族は共通して空の支配者であり、飛行する能力とその速さが最大の特徴なのだ。しかしその中でも力の強い鴉天狗、の中でもずば抜けて文は能力が高いようで、以前からあの咲夜も紅魔館から追い払うのには苦労していたそうだ。
「ほらほら、そんな調子では私に追いつくなんて何百年かかるんでしょうねぇ!」
(くぅ・・こんなことでは文さんをさらに調子に乗せてしまうだけです。 もう少し冷静になるべきでした!)
天狗としての実力の差は戦う前から分かっていた。しかしいつまでも彼女の好き勝手にさせていたら自らの仕事に支障が生じてしまう。なにより自分の気持ちが我慢ならない。
とはいえやはり椛には若干の後悔があった。
怒りに任せて威勢よく飛び出してしまった手前、後戻りはできない。そんなことをすれば文にいったいどんな仕打ちをされるか分かったものではないからだ。
きっとありもしない捏造記事として見出しの一面を飾るに違いない。
そんなことを考えれば考えるほど動きに焦りが見え、弾幕も狙いが定まらなくなる。いやなループに陥ってしまっていたのである。
(私のすべきことは文さんと戦うことではない。成すべきことも成せないとは、私は・・・!)
「あややっ!」
「はっ⁉」
今のは⁉
戦闘中にあろうことか深く悩みこんでしまった椛の隙を埋めるかのように、背後からの光弾が文を強襲した!
「文ぁ! お前にかまっている暇はないんだよ!」
椛を援護したのは友希であった。しかし声の方へと目をやった椛と文は思わずギョッと目を丸くしたのだった。
そこには一本の角が生えた戦士に変身した友希と思われる人物。そしてその人物が乗っていたのはなんと、禍々しく睨みを利かす目と真っ赤な口のある漆黒の幽霊船! それが空中を浮遊し椛に向かって進んできていたのだ。
その後唖然とする二人をよそに椛のそばへゆっくりと船はつく。
「えっと、何ですかこれ・・・?」
「これはですね、ゴーストを支援する自立型の幽霊船『キャプテンゴースト』。あ、俺が今変身しているのが仮面ライダーゴーストで、この姿は『日の丸を背負って逆境の海を突き進む! 新時代の革命戦士 仮面ライダーゴースト リョウマ魂』です!」
「はぁ・・・」
見たこともない装備とそれをさも当然のごとく扱う友希を見て抜けた声が出てしまった椛に対し、それに反応するかのように鈍い音を立てて鳴くキャプテン。
見た目こそ異様で不気味なキャプテンゴーストだが、仮面ライダーゴーストの指示に忠実でサポートもそつなくこなす頼れるメカなのだ。
「ちょっとー、私のこと忘れてませんか? 私こんなことをしに来たのでは・・・」
勝負の最中であることを忘れ、完全に蚊帳の外になってしまっている文。話しこける二人に対して離れたところから声をかけるのだが。
「一緒に行きましょう、椛さん!」
「はい! 今こそ文さんに一矢報いるとき!」
「あー、これ完全に聞く耳持たない感じのやつじゃないですか・・」
友希の加勢により再び心に火の灯った椛は、文の方を力強く見つめ今にも飛び掛かって行かんばかりである。
「貴方はできるだけ文さんを翻弄してください。その隙を狙って私が一撃を叩き込みます」
「いいですけど、それで倒せますか? 正直この姿じゃ追い詰められないと思います」
「それでも大丈夫です。本当に文さんの注意だけを引いていただければ、天狗のスピードと狼のどう猛さをお見せできるでしょう。私だって天狗の端くれですから!」
静かに作戦を話し合う友希と椛だったが、そんなことは文にはお見通しであった。
しかしそれでもなお文は一つの策を思索していた。それは「この戦いにわざと負けること」である。
文としてもこの策はあまり実行に移したくはなかったのだが、それ以上に優先しなければいけないことが文にはあったのだ。
(仕方がありませんね。こればかりは、私がたきつけたのも悪かったですし)
ひとしきり考えてそしてまとまった文は、ゆっくりと椛の目を見据える。
今までには見たことのない言いようのない文の表情に不信感がよぎるも、それが友希の行動に発破をかけキャプテンのブースターがうなりを上げる。
「出航ぉ!」
とはいえ友希自身にはどうやって文を攪乱しようか、全く考えはなかった。
前回のようにコンバットシューティングゲーマーで戦えば話は早いのだが、にとりはリョウマ魂をご所望の様子。その上相手は人間じゃないだけに同じ手が通じるとも思えなかった。
だから友希は、この際持てる機能をすべて活用し戦況だけでなく相手の思惑さえもかき乱してやろうと逆にやる気に満ち満ちていた。自分自身にも分からない戦法が文に予測できるわけがないだろうというわけである。
「正面突破ですか。愚かな、私の力を再びお見せしましょう!」
友希が銃を構えて文に向かい突き進む!
文の右手には何となく既視感のある赤い葉うちわがなびく。
「はぁぁっ!」
いわゆる天狗のうちわだろうか。文の振りかぶりと同時にしなりを見せたそれ。
しかしその効果は友希の想像のはるか上を行く、風を仰ぐなんて生易しいものではなかった。
ボンッ‼
その瞬間友希の耳に何か大砲が放たれるような重圧な音が聞こえたかと思うと、今度は目に見えない鈍器で全身を殴打されたかのような衝撃に見舞われた。
落とされまいとキャプテンの帆の支柱部分につかまる友希だったが、当然帆も今の風を一身に受けて転覆しそうな勢いでグワングワンと船体を揺らす。
「ぐあぁぁっ・・旋回っ!」
友希がそう命じると、キャプテンゴーストはうまく船体の揺れを利用し振り子のように向きを変えた。そして友希も負けじとうまく狙いが定まらないながらも文を狙い打とうと銃口を向ける。
「まだまだ、こんなものではありませんよっ!」
その後も次々と容赦のない突風が四方八方から船体に襲い掛かった!
しかし友希もやられっぱなしでは終わらない!
「ヒヤッとしたけどこれは好都合だ! キャプテンゴースト、GO!」
「・・・⁉」
威勢のいい声が聞こえた次の瞬間、文の目の前で不思議なことが起こった。
先ほどと同様に吹き荒れる突風にあおられながら右左に揺れるキャプテンゴーストだったが、心なしかぐんぐんとスピードを上げ文に近づいているように見えたのだ。
これだけ船体が不安定なのであれば加速するのはおろかまっすぐ進むことすらままならないはず。しかしどういうわけか友希の乗った船は風をものともせずどんどん接近してくる。
「これは・・いったいどういうわけです⁉」
以前のこともあってか動揺と不安を隠しきれない文は、さらに体を大きく使ってうちわをなびかせる。その様からも文の必死さが伝わってきた。
しかしどうやらそれも徒労に終わったようだ。
甲板で直立している友希こそ振り落とされないようにしっかりと船体にしがみついてはいるものの、当の船はさらに加速を始めついにものすごいスピードで文を追尾するまでとなったのだ。
「そんな馬鹿な⁉」
「すごい・・・。凄いです、友希さん!」
離れたところから準備をしていた椛だが、いつの間にやら友希の不思議な戦い方に見入ってしまい途中からただの観戦者になっていた。
右から左から、前から下から、ひとつずつが台風クラスの威力の高い風であることに変わりはない。だが友希はそれをまるで荒れ狂う大波を進むかのように豪快に乗りこなしている。
以前に文を追い詰めたジェット機の能力ならまだしも、なぜ船であるキャプテンゴーストが文のスピードについていくことができているのか。その秘密は同乗している友希にあった。
正確には友希が今現在変身しているリョウマ魂の能力がキャプテンをさらに強化しているのである。
実はリョウマ魂のパーカーには周囲に存在するあらゆるエネルギーの流れをコントロールしそれを推進力に変えるという能力がある。よって文の操る風によるエネルギーをその能力により取り込み、船の進む推進力としてずっと利用していたのである。
つまり文が焦ってより強い風を起こせば起こすほど友希たちのスピードは上昇し、最終的に文のスピードに追随までとなったのだ。
さらに幸運なことに前回の戦いで文に指摘した機動力を上回ればいいという面は、文が繰り出す四方八方からの風によって縦横無尽に駆け回ることに成功しているためカバーできていた。
したがって現在友希が文を追い詰めているというわけなのである。
「逃がさねー!」
キャプテンゴーストの帆にしがみつきながら晴天の大空を駆けまわる。
追いつかれはしないもののしつこく付きまとう船舶に業を煮やす文。
さらにそれに追い打ちをかけるように友希は文めがけて容赦のない銃撃を放つのだが、文をさらに困らせたのはまたしてもキャプテンの力量だった。
「撃てぇ!」
「・・・っ!」
キャプテンゴーストは幽霊船だが同時に戦艦でもあった。つまり船体側面から顔をのぞかせた複数の主砲が虎視眈々と文に狙いを定めていたのである。
ドン! ドン! ドン!
文の操る暴風よりもさらに鈍くそして重厚な音を発しながら大砲は次々光弾を吐き出してゆく。
超スピードで空を駆ける文と風を受けそれを追う友希、二人による高速のチェイスが妖怪の山上空にて繰り広げられる。
「なるほど、どうなるかと心配でしたが杞憂だったようですね。白狼天狗、犬走椛、参る!」
「実践データの撮影ついでに椛の雄姿も記録してるよー!」
運動会を観戦する親のような反応でカメラを構えるにとり。
椛も文と違うとはいえさすがは天狗の仲間、かなりの速さで友希にすぐに合流し簡素だが鮮やかな弾幕で文を翻弄し始めた。
「そんな、二対一なんて卑怯ですよ!」
そうは言いつつもうっすらと笑みを浮かべて実は楽しんでいる様子の文に対し、やはりしぶとさを感じずにはいられなかった。
友希自身もこんなにも激しい攻防戦は初めてのことで、甲板で揺られながら手に汗を握っていた。
満を持して参戦した椛は、怒涛の勢いでとても密な弾幕模様を描き友希の攻撃を援護する。
「俺たちはやることがあるんだ。これで終わらせてもらう!」
『ダイカイガン! リョウマ! オメガドライブ!』
気が付けば文の周りには無数の弾幕が張り巡らされ、逃げ場こそあるもののその模様は文に向かって意味深に伸びている。
まるでそう、蒼い海原に出現した渦潮のように。
「流れに乗れ、キャプテン! これが最後の『ようそろー』!」
友希の指示を待ってましたと言わんばかりにぴょんと跳ねたキャプテンゴーストは、渦を巻く椛の弾幕のすぐ上に陣取り弾幕の流れと共に高速で文の周りを旋回する!
しかもその合間も余すことなく大砲をぶっ放し続けるので勢いは増すばかりだ。
「ならば、これならどうですか!」
全方位から押し寄せる弾幕の渦にさすがの文も苦戦を強いられたよう。そこでお得意のうちわ捌きを駆使し弾幕を吹き飛ばそうと勢いよく空を仰ぐ。
だがそれは完全に失策だった。
すでに渦と言う形で全体の軌道を決めていた弾幕の勢いは止まらず、むしろ風の流れを受けてさらにトリッキーかつ勢いのある弾幕に変えてしまったのだ。
さらに言えば先述のように友希もリョウマ魂の能力で加速が上乗せされもした。
目がチカチカするほどに鮮やかな弾幕の不規則な嵐に、もはや文の敗色は濃厚。それは文自身でも不本意ながらうすうす気づいているに違いない。
本来ならば有り得ない敗北。すでに一度味わった雪辱だが、一度目は自らの過信と油断、そして二度目は自分と比べて劣るとはいえ敵が二人となり手を組んだこと。
別々の脅威が一つとなり逃げ場を失ったのだ。
「はああああっ‼」
「おらあああっ‼」
次々と追い打ちを駆けるように生み出されていく弾幕の渦。
その中を颯爽と泳ぐ幽霊船と放たれた光弾の数々。
まるで凝縮される物質、獲物を得た魚群、時に逆らう逆花火のように強烈に文に襲い掛かる!
「うわぁぁ! 盟友! 椛ぃ!」
辺り一帯を照らす激しい閃光と炸裂した弾幕のはじける爆音にあてられるにとりは巻き上がり迫りくる土ぼこりから伏せて身を守った。
そしてその光は妖怪の山を照らし遠くからは人里からでも確認することができたという。
「はぁ、随分時間食ったな~」
「そう? 実はそうでもなかったりする。ほら、大体30分くらい」
「何はともあれ太陽が昇りきる前に終わらせられて良かったです」
時刻はすでに昼前。先ほどの戦いを勝利で締めくくった友希と椛、そしてにとりは文を縄で縛り上げ三人で話し合っていた。
ただでさえ変身して戦うことに体力を消耗するというのに、加えてキャプテンゴーストの激しい操縦で友希の身体は今にも筋肉痛になりそうなくらい悲鳴を上げている。
椛も軽く息を切らしているのだが、そんな中文は面白がっているようなばつが悪いような、そんな顔をして額に汗をかいていた。
「はいにとり。これ返しとくわ。ブレスとの同期がまだなんだろ?」
「うん、ありがと。これで文も少しは身の振り方を考えるんじゃない? 河童も結構捏造記事に困らされていたからねぇ」
「捏造ではありません! もっと素晴らしく目を引く記事に盛ってあげただけです! むしろ感謝してほしいくらいですよ!」
この場にいる文以外の全員がこう思ったことだろう。「ダメだこりゃ」と。
「って、こんなことをしている場合ではなかったんでした!」
急に大声を張り上げて縛られたまま立ち上がる文に、友希は随分騒がしい奴だと苦い目を向ける。
そんなことはお構いなしに文は会話を続ける。その対象は椛だった。
「椛、大天狗様がお呼びですよ!」
なぜだろうか。失態を犯してしまったという焦燥感があるはずの文だがそれに加えてどこか明るいような、椛の反応を心待ちにしているかのような別の感情を垣間見ざるを得ない。
今までを振り返ってみてもそうだがかなり感情が豊かである。
しかし文は自らの軽率な行動を少し後悔することになった。今までのこともあってか椛はとても攻撃的に文を攻め立てたのだ。
「だ・か・ら‼ 何でそういう大事なことをさっさと言わないんですか、文さんはぁ⁉ しかもその顔、とてつもなく腹が立ちます‼」
文が振り返えり終えたその直後、つまり文が話し終わる前にはすでに椛の足は動いていた。
ガッと文の胸ぐらをつかみ上げ眼球をむき出しにして激昂する椛は、まさに狼のどう猛さを体現したかのように見える。その姿に先ほどまでの穏便できりっとした印象を持っていた友希は、少しばかり身の毛がよだってしまうのだった。
「ってこんなことをしている場合ではない! 早く大天狗様のもとへ行かないと!」
「あっ・・ちょっと椛!」
ひどく焦り出した椛を落ち着かせようと声をかけたにとりだったが、そんなことはお構いなしに今までで一番のスピードでまっすぐに飛翔していってしまった。
「・・・大丈夫かな?」
「めっちゃ焦ってたな」
「それはそうですよ。大天狗様直々のお呼び出しとあれば焦り緊張しない天狗はいません!」
「でも、一緒に来てくれる約束だったんだけどな」
「それなら心配ご無用! 私が代わりを務めさせていただきますよー!」
「えっ、暇なの?」
「ネタ集めの一環です!」
文に対する感情であれば皆意気投合できるであろう。二人はあからさまに嫌な顔をして文を上から睨みつけた。
「あ・・ははは・・・。わかりましたって、もう何も横槍は入れませんから・・・。だからこれほどいてくださいよ~」
「・・・・・」
なんというか本当につかみどころのない性格をしていると改めて感じたと同時に、もう考えることが面倒くさくなってしまった友希は何も言わずそっと文の縄をほどいた。
そして案の定縄から解き放たれた文は嬉々として飛び上がり、そして羽をたなびかせ元気よく空を飛ぶのであった。
「よ~し、ではでは早速行くとしましょう! 次はどこに行くおつもりで?」
「次も何も初めから守矢神社にしか行かないつもりだったよ。そこくらいだろ、妖怪の山内で堂々と人間が歩ける所なんて」
神社と聞くと真っ先に博麗神社が思い浮かんだ友希だったが、他にも神社が存在しているらしい。そのことを問おうとも考えたがやはりもう面倒くさいので黙ってにとりの後を行く。
「それでは妖怪の山ツアーの始まりです! 私も付いているので心配はいりませんよ!」
(それを一番心配してるんだろうが!)
転んでもただでは起きない文。非常に上機嫌な彼女にツッコミを心の中で決め、にとりと一緒に渋々と歩を進めたのであった。
第二十五話 完
どうも、最後まで見ていただいたいてありがとうございました!
作者の『彗星のシアン』です!
いろいろと突っ込みたいところはあるかと思います。
特にこの『東方友戦録』を最初から見ていただいている方は「あれ? そういえばこんなこと言ってたっけ?」みたいな。
説明へたくそですね、すみませんでした!
まずはタイトルですね。超えるのは番犬ではなく鴉でした・・・。
これに関してはもう文が悪いです。誰が何と言おうと文が悪いです。はい。
だって乱入してきたんですもん! 本当はにとりも簡単には入らせてくれないじゃないかって思ってました。椛がね!
うまくいきそうだったのに! 何事もなく入らせてくれそうな雰囲気だったのに!(それはそれでタイトル詐欺ですが・・・)
あと友達作ろう作戦の事ですね。そんなの忘れてたよって人、多いと思います。
それに過去にもそんなに意欲的に取り組んでなかったような・・・。
すぐに仮面ライダーに変身して、友希が覚悟決める流れまで友達作りなんか全然やってなかったような・・・。
まあこれは、にとりの興味の赴くままって感じもあるので、おそらくまたしばらくしたら忘れているはずです。(それはそれで問題ですが・・・)
なにはともあれ、ここからは心機一転。再び物語が動き始めます!
これから友希たちが向かう場所とは? 次回もお楽しみに!