東方友戦録   作:彗星のシアン

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なぜ神が自分たちに対して敵意をむき出してくるのか、依然分からぬまま戦いは激しさを増してゆく。本来の幻想郷のルール『弾幕勝負』の枠をはみ出た肉弾戦闘に、友希は踊り、必死に食らいつく。そして身勝手な神の意向が放たれたとき、友希だけではなく共に来た妖怪たちも立ち上がるのだった!


第27話 無信仰心大暴れ

 とあるなんてことない一日。そしてその昼下がり、博麗神社。

 いつもどうりカツカツの収入をはたいて買った里産の玄米を、いつもどうり自分で炊き上げおにぎりにしてかっ食らう。

 「昼食なんてそんなものでいい」、そう思い浮かべて自分を納得させる。そんな流れた対応をいったい何度繰り返したことだろうと、この神社の巫女・博麗 霊夢は縁側で天を仰ぎながら思い浮かべる。

 そう、それでいいのだ。

 人間が食事をとるのはすなわち行動に必要な栄養を摂取するためである。つまり行動する予定がなければ食事など簡素なもので事足りる。

 最近は異変が起きることもなく、あっても雑魚妖怪の対応程度。霊夢にとってはそんなことは大した行動ではない。

 だから昼食は『そんなものでいい』し、今は博麗の巫女とて空を仰ぎ『だらけている』のだ。これは平和なことの裏返し。むしろ素晴らしいことなのである。

「・・・そういえば。あの男、どうなったかしら」

 ふと頭をよぎった男の顔。この間外の世界から幻想郷に来た人間・一夜 友希。

 少し前までは人里で見かけたり何やら噂を耳にすることもしばしばあったが、最近はめっきり情報が入って来ない。

 神社にいることが多い霊夢なので、人間一人の行動を知りえないのは当然と言えば当然である。

 特に友希に対して肩入れするようなこともない。前会ったかぎりだとなんとかうまくやっている様子であったし、恐らくは心配もいらないだろう。

「・・・紫のやつ、一体何を企んでいるっていうの? 今度会ったら多少強引にでも問い詰めてやろうかしら」

 まだ友希が幻想郷に入ってきてから間もないころ、恐らく友希を幻想郷に送ったあの女性・八雲 紫から霊夢は言われた。

「初めはお遊び半分で幻想郷に入れてみたんだけど、何だか面白いことになりそうだからしばらく様子を見てみることにしたの」

 『お遊び半分』、ではもう半分は? それに『面白いこと』とは?

 取り留めもない言葉のようにも聞こえるがそう甘くはない。

 霊夢は知っている。八雲 紫は大妖怪にして幻想郷を創造した賢者の一人。どんな言葉にも必ず意味があり、そして彼女は聡明だということを。

 いつだって裏と表を見透かし、数多の運命を翻弄する妖怪だということを。

「同じ人間のよしみだものね。もう少し気を張ってもいいのかもしれない」

 何かが彼女の中で固まったのか、勢いをつけて状態を起こした霊夢。

 まだ微かに味のする唇をペロリと舐め、ぐんと背伸びをして気持ちを改める。

 やっと重い腰を上げた霊夢。しかし何も知らないとはいえ、やはり動き出すのが遅かった。

 博麗神社からも見える妖怪の山、その裏側。

戦いの粉塵が高く上がり、何かが起こっていることを周囲に知らせていた。

そしてその根元では今まさしく、一人の命を懸けたあるいは一族の安寧を懸けた決死の大勝負が巻き起こっていた!

 

『ダン・ダン・ダンプ!』

「うおおおおお! 貫けぇぇぇ‼」

 まさしく両者が激しくぶつかりあっている最中。

 友希の変身する仮面ライダードライブ タイプワイルドダンプが右手にドリルを装備して、神にその矛先を突き立てていた。

 だが全く手ごたえはない。恐らく相手が前に展開している謎のオーロラのような膜によって防がれているのだろう。

硬くもなければ柔らかくもない。まるで磁力ではじかれているような感覚だった。

「くっそ、抜けもしねぇ!」

 いったい何がどうなっているのやら、人知を超えた力に翻弄されている友希。

 どれだけ息巻いていてもやはりその焦りは収まらないようで、ドリルに注意がいっていたせいで・・・神が天に右手をかざしていたことに気づきもしないでいる。

「友希っ! 上ぇ!」

「なんだ⁉ ・・・雨か⁉」

 一向にびくともしないドリルに力を込めながら上空を見上げると、そこには無数の光点が眩くきらめいている。

 目に見える光の点であることから、すでにただの雨でないことは分かりきっている。だが問題はその大きさと落ちてくる速度。

 それはまさしく弾幕然とした様相で、深く考える暇さえ与えず早速と友希に降り注ぐ!

「防げきれねぇぇぇ‼ ぐあああああ‼」

 やはり雨などという生ぬるいものではなかった。

 粒の一つ一つがまるで槍のようにとんでもないスピードで友希に直撃し、さらに接触した瞬間に破裂するのでダメージも半端ではない。

 ドリルを手放し神から距離をとった友希だが、初めは立って耐えていたのにすぐに地に伏してしまっていた。

 それの激しさたるや轟音が山に響き渡るほど。またしても周り一帯が土煙でまみれてしまった。

「ああ、やっぱりあの方から逃げ切るなんて無謀だ・・・」

 あまりの光景にいつのまにか逃げる策など考えることを止めていたにとり。

 どうやらにとりと文には彼女との面識があったようだが、二人にもこんな状況は初めてみたいだった。

『タイヤコウカーン! マックスフレア!』

 舞う土煙で視認はできなかったが、ベルトから鳴った音で友希の生存と次なる行動を知る。

 ボンッと勢いよく煙を突き抜け、肩のタイヤと両腕に炎を纏いながら一気に神との間合いを詰める友希。

 すると友希には予想外だったのだが、今までロクに動かなかった神が一瞬のうちに移動し、友希の攻撃を回避したのだ。

 その瞬間友希はにとりが逃亡の選択肢を渋っている理由が理解できた。スピードという面でも神は人知を超えていたのだ。それもスピード特化のライダードライブと同等かそれ以上に・・・。

 瞬間始まった目にも止まらぬ高速の肉弾戦。あちらこちらで二人の拳がぶつかったときの火花が散る。

 巻き起こる暴風と爆発の音に、にとりはその場でしゃがみ込み帽子を深くかぶりながら委縮してしまっている。

「もういい加減にしてくれよ! 俺は無実なんだって、話を聞いてくれよ‼」

「お前と話すことは何もないな。戦いを止めたければ、さっさと我が力の前に沈め!」

 同じ高速の中にいてもなお目で追うことが難しい。そんな砂嵐のような空間で気持ちをぶつけるも結局は徒労に終わって、どうしてもいら立ち交じりの落胆が漏れる。

 そして同じく落胆のため息を吐く者がもう一人。無言で立ち尽くし友希たちのぶつかり合いをただじっと見守っていた文だった。

 さすがは鴉天狗といったところで、この暴風の中でもものともしない様子で直立している。

 同じ妖怪の山の者であり人間よりも高次な妖怪である文は、目の前で行われる行為を見て一体何を思ったのだろうか。

 少なくとも彼女の目には少し前のような軽率な眼差しはなかった。

「俺だって、訳も分からずに「はいそうですか」って負けを認めたくない。神だか何だか知らないけど、そんな理不尽が許されてたまるか‼」

 相手にどんな事情があるのかは知らない。だって教えてくれないから。

 教えてくれないくせに自分が絶対に正しいって信じ切ってる。

 そんな奴、神だろうと何だろうとムカつくに決まってる。

 友希の心の中では、もしかしたら敬意のようなものが微かにあったのかもしれない。神様は信じられありがたく祀るのが基本だと、勝手に思っていたのだろう。加えて初対面であったし、失礼の無いようにと思うのは当然のことだ。

 ただどうだ、初対面でこんな理不尽な仕打ちを受けて、こちらが黙って敬ってやるどうりはどう考えてもない。

 もう友希は疲れた。もっと言うとキレた。

『ヒッサーツ! フルスロットル! フレア!』

 友希は手慣れた速度でベルトとブレスを操作し一気にボルテージを高める!

 すると次の瞬間、友希が飛び上がり空中で回転したかと思えば、その回転はみるみるうちに速度を増しタイヤから噴出する獄炎を身にまとい、あっという間にその姿は巨大な火車輪のように変貌したのだ!

 自信が縦に回転しながら方向を制御したり意識を保つことは容易ではないが、それでも友希は自らの闘志にモノを言わせて一直線に神へと突進を仕掛ける。

「いい加減、倒れろぉぉぉ‼」

「力だけでなく、あらゆる面において勝ち目はないとまだ理解できないのか?」

「・・・!」

 火車が接触したその瞬間、神はそれを左腕で受け止めた。何の苦もなく。それも一瞬のうちにピタリと止めてしまった。

 あまりにも簡単に無効化されてしまったものだから、友希には理解が追いつかなかった。

 そのまま友希は強烈に地面に叩きつけられ苦しみの声を上げた。そして、首を鷲掴みにされゆっくりと神の目の前に掲げられる。

「かはっ・・ひゅー・・・」

 友希の喉からは弱々しいかすれた音が漏れ出す。

 荒れた広大な境内に、ただ無情な事実のみが映し出されている。

 そんな得も言われぬ光景に、にとりはただ身をすくめることしかできなかった。

「教えてくれないかしら、一体早苗のどこが素晴らしいと思っているのかを」

「なん・・だ、とぉ・・」

 えらく口数が少ないからそんなにも憤慨しているのかと思っていたが、この状況で友希に問をかけるとは。しかも何を言っているのか、話が理解できないから本当に困ってしまう。

「勘違いしないでほしいけど、早苗の素晴らしいところは挙げれば枚挙にいとまがないわ。当然ながらね。ただ重要なのは貴方がどれだけそれを理解し、どれだけ本気であるかよ」

 分からない。だが分かったこともある。

(この女ぁ、勘違いで初対面の人間をこんなにもいたぶりやがって! しかも自分が正しいと全く疑わないなんて!)

 友希だって初対面の人に対して無礼な態度や感情は控えたい。人間の礼節として。

 だが相手が真っ先に友希の思いを踏みにじった。そして痛みでそれを上塗りした。

 痛みは恐怖へと変わり、興奮へと昇華され、そして神の圧倒的な強さと自己愛はその思いを憎悪へと変貌させてしまった。

 もう友希は止められない。そして何より、止まりたくはなかった。

(こんな奴、神でも何でもない! 絶対にぶっ潰してやる‼)

「しかしこの程度の強さでは元より頼りないことこの上ないわ。加えて神に対し拳を振り上げるその礼節を欠いた舐めた態度。貴様は早苗にふさわしくない。身の程を知れ、野蛮で愚かな人間」

 神の首を掴む握力が強まる。

 と同時に友希の拳が叫びと共に放たれた。

「舐めてんのはお前だ! クソ野郎おおおおお‼」

 一心不乱に叫び友希には周りを見る余裕など皆無であった。

 だからだろう。友希の高速の拳よりも先に、神の背後に弾幕が着火したことに気づかなかったのは。

 そのおかげで喉を掴む手から力が抜けて友希は解放され、そのせいで友希の渾身の拳は空を切った。

「がはっ・・げほっ、あぁ・・・」

 変身は解かれ、ぐったりと地面に倒れる友希。一次的とはいえ死の恐怖から解放されたことで全ての力が抜けたのだ。その安堵感は先ほどまでの凄まじい憎悪をも発散させたほど。

 にとりは見たのだ。友希の危機を救うかのように、神の背中に狙いを定めて弾幕が放たれたその瞬間を。

 そして空間を切り裂き疾風のごとき弾幕を放った張本人の姿を!

「・・・そこで黙って見ていれば良いものを、一体どういうつもりだい? 鴉天狗風情が・・・」

「はぁ・・はぁ・・、文・・・?」

「あ~~や~~~‼ ありがど~~~‼」

 友希を救出してくれたことがよほど嬉しかったのだろう。にとり緊張の糸が切れて顔が涙でぐじゅぐじゅである。

「貴女の私に対する評価などこの際どうでもいいです。あまりにも貴女の行動と言動が酷すぎて、つい手を出してしまいました」

 何だか仕方がなくといった文言だが、友希とにとりには照れ隠しのように聞こえて仕方がなかった。

「この幻想郷にいる人間、妖怪、神、また他の存在は、非常に繊細なバランスでもって成り立っていることくらい知っているでしょう。では、貴女の今行っている行為はどうでしょうか。一方的に力を誇示し、自分本位の考えだけで彼を痛めつけている。これは立派なルール違反。幻想郷における異変首謀者の行動とさして変わりません!」

 何やら難しいことを言ったようだが、要は相手が無茶苦茶しているのが見ていられなかったのだろう。

「ふふ・・そうか。そうだね、確かに私も少しやりすぎたかもしれないねぇ。しかしどうだ? 自分の大切なものを邪な者から者から守ろうと思うのは当然のことだとも思わないか? お前だってそうするんじゃないのかい?」

「なぜ彼が邪だと決めつけるんです? 我々はここに着いてから一度も貴女とまともな会話を交わしていませんが?」

 友希は感心した。一見飄々としている文だがそこはさすが長寿の妖怪鴉天狗と言ったところ、状況をしっかりと把握したうえで混乱した状況下でも冷静な判断ができている。これも新聞記者として曲がりなりにも活躍してきたその本領なのだろうか。

いずれにせよ以前の温泉での一件や椛との共同戦線の際には感じられなかった本気を文に感じたのだ。何より目の前の神よりよっぽど輝いて見えている。

「いずれにせよ、貴女の行いは幻想郷の在り方に反するもの。一度静まっていただこう」

(これに乗じて大和の神の弱みを握れば、天狗が幻想郷を統べる日も近くなること間違いなしです!)

 文はうまく本音を隠して行動に移したつもりだろうが、そんなことだろうと実は友希は薄々気づいていた。

 だがどんな理由であれ、今彼女と協力することは願ってもないことであるし、この場を収めるにはそうせざるを得ない。

『ドライブ! タイプワイルド!』

 瞬時に友希は変身し、その速さをもって文のもとへと駆け寄る。

「助かった、ありがとう」

「まだ状況は悪いままです。気を引き締めてください」

 恐らくあの神が先ほど天狗風情と言い放ったことから察するに、やはり神からしてみれば所詮妖怪も人間と同じくらいのレベルにいるのだろう。

 正直周りの凄さが抽象的にしか分からないので何とも言えはしないのだが・・・。

「彼女の名は八坂 神奈子。複雑な背景を持つ神ではありますが、主には大和の神と呼ばれています」

「一体どういう神なんだ? 無茶苦茶すぎてよくわからないんだが」

 どうも機嫌が少し良くなった様子の神 神奈子は、なぜだか待ってくれているようなのでこの際聞いてみる。

「全容は私にもはかり知れませんが、とにかくドでかい木の柱が大好きで、よくそれを大量生産して他人を殴っているのですよ」

「やっぱりやべぇな‼」

「おい、ほらを吹くな!」

 どうしたって止められない軽口のせいで結局相手を怒らせ、臨戦態勢に入ってしまった。

 仕切り直しに心躍るのか、二人になったことに気合を入れているのか、凄まじい気の入れように大地が地震のように軋みだす。

「あとどれくらいやれそうですか?」

「すでに結構つらいけど、何とか気合入れなおす!」

「もし足手まといになるようでしたら置いてきますからねっ!」

「ちょっと待て!」

 咄嗟に友希は文の羽を掴み制止する。

「ちょっ・・羽は、だめですって!」

「すまん! でも、お前は前衛じゃない。俺のサポートを頼む」

 ただでさえ慣れない高速で参っているのに、そのうえ度重なる神奈子の攻撃で痛手を負っている友希。にもかかわらず続けて自分が先頭に立って戦おうというのはなぜなのか。明らかに妖怪であり戦闘慣れしている文の方が有利に戦える。

「俺のこの姿じゃお前のスピードについていけないってのもあるけど、たぶんお前の速さとか弾幕とかって細かいサポートに向いているんじゃないかって思うんだよ。相手の攻撃を避けるのも上手いし、鴉の高い洞察力も持ってる」

「それは否定しませんが、何より貴方が彼女の攻撃に耐えられる保証の方がない。無理なら正直に休んでいてください!」

「あいつと正面からやり合うつもりはない!」

 気が付けば例の木柱が大量に友希たちを狙っており、それにいち早く気付いた友希は言い放ったと同時に神に向かって立ち向かって行った。

「羽交い絞めにしてでも話を聞いてもらう!」

 やっと自分のペースに持ち込めると思ったのに、結局友希に乱されてしまい文は頭を抱える。

(近づくのは危険だしうんざりだけど、こうなりゃ気合で食らいついてやる・・・!)

 万策通じなさそうな神に対してこの暴策は致し方ないように感じたが、そうなればここからはもっと気が抜けなくなる。せめて蹂躙だけは勘弁したいところだ。

『ワイ・ワイ・ワイルド!』

 勢いに任せてレバーをシフトアップ&一直線に突進タックル!

 多少後ずさった神奈子だがすぐさま押し返し友希の背中に強烈な肘打ち! からの大きく振り払い!

 しかし半ば自暴自棄になった友希は痛みを気合で堪え、神奈子の服を掴み遠心力で振られる体を何とか保持する!

 まとわりつく友希に対してより強力な一撃を叩き込もうと振りかぶる神奈子だったが、その時ものすごいスピードで風が舞い上がり、同時に数多の方向から鋭い弾幕が彼女めがけて放たれた。

「貴方が無茶苦茶な動きをしなければ弾幕は当てませんから、この際思いっきりやっちゃってください!」

 文の姿は見えない。早すぎてドライブ頭部の視覚サポート機能を以てしても捉えられないのだろう。

 この文の攻撃を期にさらに凄まじい神のオーラと殺気を奮い立たせる神奈子。だが友希はもはやお構いなしだ。

 神奈子が何かしようとする前に連続パンチを織り交ぜたタックルを全力で押し込む!

「友希! これ使って!」

 そう言ってカバンの中から二台の新たなシフトカーを発進させたのは、満を持してのにとりだ。

「私じゃまともに戦える気がしないけど、サポートならお任せだよっ!」

疾風に乗った弾幕に加えてシフトカー二台の細かな攻撃が神を襲う。端から見ても非常に鬱陶しい攻撃だ。

しかし優勢に立ったかと思われたのもつかの間、先ほど友希たちを狙っていた大量の御柱が空から地中から一斉に襲い掛かってきたのだ。

「ん~っ、相変わらず無茶苦茶しますねぇ!」

 そう言いつつしっかり避けている様子の文。

「あわわっ! 『空からだけは絶対守~る君』3号ー!」

 一見何の変哲もない大きな傘を広げてその中に隠れるにとり。

「来いっ! フッキングレッカー!」

 友希の呼びかけに応じて、にとりが放ったものの一つで濃緑色をしたレッカー車型シフトカーがやってくる。

『タイヤコウカーン! フッキングレッカー!』

 強靭な鉄線からは何人たりとも逃れることはできない。高速の運び人 仮面ライダードライブ タイプワイルドレッカー!

 タイヤからフックを取り外し神奈子に向かって投げつける。すると見る見るうちに腹部に巻き付いてガッチリと絡めてしまった。

「よし! 捉えたぞ!」

「ナイスです、友希さん!」

「遠隔ロケット一斉発射~!」

 友希が神奈子を捕まえた瞬間、文とにとりも各々の弾幕で追撃を仕掛ける!

「ははは、いいぞいいぞ! 皆、満身創痍で持ちうる手を尽くして激しく弾幕・拳をぶつけ合う! 祭りはやはり心躍るな!」

 友希たちはともかく神奈子もすでに当初の目的を見失っている、というよりもしかしてこっちが本命だったんじゃないかと思うほどの高揚ぶりだ。

 皆神奈子のそんな様子を見て少し引いたおかげで、冷静に何だか嫌な予感がした。

「風の流れが・・・⁉ まずいですっ!」

 その文の忠告の意味は何となくだが友希にも理解できた。空気感とか攻撃の順番とかそういうことではなく、シンプルに大気の流れが急に別方向に激しくなったのだ。

「くおぉぉおるあああっっっ‼」

 神奈子は右手で空を掴むと、雄たけびと共に大きく振りかぶってみせた。

 するとどうだ、まるで空間そのものを掴み揺らしたかと思うほどの爆風の塊が急に吹き荒れたではないか!

 文やにとり、友希もその爆風に殴られ体勢を崩さずにはいられなかった。しかも友希に関しては風だけでなく、神奈子がワイヤーそのものに手をかけ圧倒的なパワーで引き始めた!

「あああ! 遠心力きっっっつーーー‼」

 いくら捉えたとはいえ友希と神奈子とのワイヤーの距離は五メートルはあった。普通五メートル先の人間を振り回そうと思えば、強大な回転力とそれに耐えうる筋肉が必要で人間では到底不可能なのは言うまでもない。

 しかし目の前の神はそれをいともたやすくやってのけるのだ。

 ピンと張ったワイヤーの先に遠心力で引き伸ばされた友希が成すすべなく振り回される。まるで友希で風を絡めとるかのように、神奈子を中心として突風が渦を巻いている。

「くそっ、弾幕の軌道が定まらない・・・!」

「ロケットの目標がブレブレだよぅ!」

 二人は負けじと弾幕を放ち続けるが、かき混ぜられ成長し凄まじい勢いとなった台風はそのすべてを絡めとり無に帰してしまう。それどころかかき混ぜに利用されている友希に全て当たってしまっている。

「こんのぉぉぉ! まだ諦めねぇぞ‼」

『レッ・レッ・レッカー!』

 遠心力でうまく動かせない体にむち打ち、力を込めてブレスを操作する友希。

 ブレスを操作するということは、タイヤの回転を上げるということ。そしてドライブのシステムで装着したタイヤの回転数を上げるということは、全体のパワー・スピード・全体のエネルギーを増強することに繋がるのだ。

 こと今回のシフトアップにおいては神と戦うためのエネルギー増強も必要だったが、今ピンと張ったワイヤーをタイヤの回転を利用して巻き取るようにして神奈子に接近しようというのが一番だ。

 ぐんぐんとワイヤーが巻き取られて友希と神奈子との距離が詰まってゆく。距離が短くなるにつれて振り回されるスピードも遠心力も強まりよりきつい状況になってゆく。

 そんななかでも友希はこの機を逃すまいと必死に空中で攻撃態勢をとった。

『ヒッサーツ! フルスロットル! レッカー!』

「くらえっ!」

 力を込めた拳を振り上げ相手に一撃でも入れようと息巻く友希だったのだが、次の瞬間神奈子は自身に絡まっていたワイヤーをパワーで千切り振り払った!

 要は捉えることができたと思っていたが、神にとってはその程度のことは容易く切り抜けられるレベルのことで、むしろ友希たちの方が遊ばれていたということだ。

 急にワイヤーが千切れてバランスを崩した友希。しかし一度近づくために巻き取ったことによるベクトルはなくなることはなく、無防備になった友希の横腹に神の強烈な拳が炸裂。そのまま上方に向かって打ち上げられてしまった。

 友希が宙を舞うのを見た文は、すかさずうちわで空を仰ぎ友希を包むような風の流れを作る。そして同時に神奈子が起こした竜巻を相殺する向きに風を巻き起こし、見事に打ち消して見せた。

「今です、にとりさん! 上は大丈夫です!」

「よしきた! カモン、『らくらく・くっさくん』5号~!」

 にとりの号令がかかるとすぐに地面が地鳴りを始め、ちょうど神奈子の立っている辺りが徐々にめくれあがってゆく。

 実は相手が友希の接近や文の弾幕に気を取られている隙に、にとりは地中に掘削を行うマシンを待機させ攻撃の準備をしていたのだ。しかし恐らく悟られるであろうと半分諦めの気持ちもあった。そしてそれは的中したようだ。

 今にもマシンが飛び出してきそうな足元を見ても特に動じている様子の無い神奈子。もはや神には何も通じないのだろうか。

 だが先ほども言ったように、にとりは神奈子に攻撃が効こうが効かまいがそれは考慮済みであり、自分の攻撃だけで仕留めようなどとは微塵も思っていなかった。

 その証拠に何も言わずとも文は追撃で先ほどの倍はある量の弾幕を張っている。そして先の文からの合図「上は大丈夫」というのはもちろん友希のこと。上方に吹っ飛ばされながらも文の操る風のおかげで体勢を立て直した友希は、しっかりと神奈子を眼下に捉えながらまた新たなシフトカーをブレスにセットしている。

『タイヤコウカーン! ローリングラビティ!』

 ロードローラー車の押しつぶす力を応用した高圧力空間操作戦士 仮面ライダードライブ タイプワイルドグラビティ!

 そのタイヤが肩に装着された瞬間、タイヤに付いていた1tの表記が目を引く大きなおもりが外れた。

『ヒッサーツ! フルスロットル! グラビティ!』

 必殺技が発動した状態で宙のおもりを神奈子めがけて蹴り落とす友希。

 もし本当に1tもの重さが直撃すれば、いくら神とはいえダメージは免れないだろう。そう文とにとりは予想した。

 しかしおもりの軌道は神奈子から少しズレるように計算してあるのだ。なぜなら目的はあくまで相手の拘束だから。それにも気づいているのか、神奈子に避ける様子はない。

 そのうちに耳を塞ぎたくなるような打撃音が地面に響き渡った。

 その瞬間神奈子を取り囲むように辺りに重力場が発生し、本来の地球上の重力の何倍もの重力が襲う!

 自身にかかる超重力を耐えている神奈子だが、他にも周りから地中から攻撃が迫っていることも忘れてはいけない!

「いけるぞ! 押しきれ!」

 これまで圧倒的な神の力を見せつけられ、何度も心が折れそうになった友希たち。

 しかしたとえ力が通じなくとも、すんなりと負けを認めるなんてプライドが許さなかった。だからこそ三人ともが協力して立ち上がったのだ。

 そして今全身全霊の攻撃が神奈子に対して浴びせかけられている。

 相手の実力がどうあれ、もうこれ以上ないくらいの全力を振り絞った。そこには前まであった絶望感などもうなかった。

 なのに・・・どうして神とは、こんなにも圧倒的なのだろうか・・・。

 友希の頬を何かがかすめた。おもむろに顔を向けてみる。

 にとりの目の前には、美しくも奇妙に光り輝く車ほどの大きさの赤い光玉が空間いっぱいに広がっていた。

 そして文は戦慄した。この神社に来てから時間が経っているとはいえ、体感でもまだ午後二時くらいだろうと思う。しかし今目に見えてとんでもないことが起こっている。

 見渡す限りの青空が、明るく戦場を鮮明に照らしていた太陽が、ぐにゃりと歪み辺りが暗く影を落とし始めたのだ。

 これは十中八九神の力によるものだろうが、なにも時を操っているわけではなさそうだ。

 というのも完全に真っ暗になったというわけではなく、まるで日食時のように微妙な明るさを残しているうえに見えている風景もまだ少しだけ歪んでいる。直接でないにしろ神の覇気のようなものが精神に影響しているのではと思われる。

 長々と説明してしまったが、この間はおよそ瞬きをするほどしかない。

「今すぐここを離れます! 早くっ‼」

「うおおぁっ!」

 友希が周りの状況を知覚してすぐ、文の切羽詰まった声と共に体がぐいっと引き寄せられる。

 引き寄せたのはもちろん文だ。彼女に手を引かれ猛スピードで逃げるにとりの元へ駆け寄って行こうとするが、そんな文の顔を横目で見て今起ころうとしていることのヤバさを知った。

 どこからともなく声が聞こえる。

「人の一生は儚きもの。未来も過去も、明けも夜も変わらぬ。等しく世の上にあり」

 これは「頭の中に直接」というやつだろうか。正直もう何が何だかよくわからん。

「謳歌せよ、人の子よ。畏怖せよ、取るに足らぬ数多の個よ。恐怖こそ原初の信仰だ!」

 暗く影を落とした風景に、点々と赤い光球が輝きを放っている。

 よく見るとその光球は、まるで何者かの命を宿しているように灯りの鼓動を刻んでいる。

 そしてその鼓動は段々と早くなってゆき・・・、弾けた。

 目の前どころか頭の中まで真っ白になる。鳴り響くのは嵐の爆音か、はたまた雷鳴の轟音か。体が、世界が、ぐるぐると周り揉まれ、まるで天変地異でも起きたかのように、全てがぶっ飛んだ。

 そんな情景を神社に続く参道から見ていた二人の影があった。

「あれは、一体何事でしょう⁉」

「あれは神奈子の仕業だねぇ。まったく何やってるんだか」

「そんな悠長にしている場合ですか⁉ 早く戻りましょう!」

 ここに来た時のこの神社は、果たしてどんな風貌だったろうか。

 今この一周まわって綺麗な更地と化した境内は、神のお気に召されるのだろうか。

「あややや・・・、羽・・こんなに抜けて・・・」

「私の努力が、バラバラに。パーツぽろぽろポロロッカ・・・ガクッ」

 今更優しく吹く山風が辺りの粉塵を払いのけ、友希たちの身体を撫でるように這う。

 露わになったのは境内の地面だけではない。憎き紫色の邪神、その無駄に威厳のある堂々とした立ち姿に再び恐怖といら立ちと絶望がぶり返してきた。

「うわあああああっ‼」

 正真正銘の考え無し。ストレス発散ともとれるやけくその咆哮を発し、友希は・・単身で突撃していった。

 文はもう疲弊して声もかすれて出やしない。変身の解けた丸腰の友希の背中を右腕で掻く。

 にとりは先ほどから気絶しっぱなしだ。

 神奈子も触発されてか正面を向かって走り足す。

 まさに泥沼。お互いに戦う理由も忘れ、ただ退きたくない一心が体を動かしている。少なくとも友希はそうだ。

 終わりなど見えない。この後のことなど分からない。誰かこの無意味な戦いを終わらせてくれ。その祈りが通じたようだ。

 生身の人間の拳と強大な神の拳が、今まさに勢いそのままにぶつかり合おうというとき。

「はい、そこまで」

「がっ!」

「・・・っ!」

 急に目の前に謎の人物が出てきたと思ったら、両者に強烈なデコピンが食らわされた。しかもそのデコピンはただのデコピンではなく、神奈子はその場でのけぞるようにして衝撃を逃がし、友希はなんと境内の端まで吹き飛ばされてしまったのだ。

 力を抜いていればよかったのだが、急に出てこられたことでびっくりして体に力が入ってしまい、水になって衝撃を逃がすことができなかった。

「ああっ! 諏訪子様、何やってるんですかもう~! 大丈夫ですかー⁉」

「あちゃあ、二方向で威力を変えるのは、たまに失敗しちゃうんだよなぁ」

「おい諏訪湖! 何するんだい急に! 邪魔するんじゃないよ!」

 どうやら三人は面識があるようだ。

「何するんだはこっちのセリフだよ、神奈子。ほんっと何考えてるのさ!」

「何がだ⁉ 私はただ早苗を不届きな男から守ろうとだな―――」

「はあ・・良かった」

 やっと傍若な神を止めてくれるものが現れたことで、安堵からさすがに全身から力が抜けバッタリと倒れこんだ文。

 頭部に衝撃を受けたことで、目を回して気絶してしまった友希も含め守矢神社を訪れた三人全員が倒れてしまうという緊急事態に、言い合っている二人をよそにただ一人緑髪の女性だけが友希を心配し慌てふためいていた。

「もしもし、しっかりしてください! 気を確かに! 何でこうなっちゃうんですか~⁉」

 

第二十七話 完

 




どうも、作者の『彗星のシアン』です!
第27話 最後まで見ていただきありがとうございました!

今回は個人的にかなり文字を詰め込んだ印象です。凄く見にくいと思った方もいらっしゃるのではないでしょうか?(いつもそんな感じでは!?)
グダってしまったような気もしますが、何とか神と仮面ライダーの超越的な戦闘を書ききれたと思います。まだまだ精進しなければ!

とはいえ話が終わってもまだ神奈子が襲い掛かってきた理由が釈然としません。最後に出てきた二人の人物の詳細も含めて、次回の話で明かしていきますので悪しからず・・・。

あと今回の話で注目していただきたいのは文とにとりの行動についてですね。少しだけ何を思っていたのか覗いた一節もありましたが、それも含めて彼女たちの妖怪の山内部での立ち位置や関係、性格などが垣間見えたと思います。
いつもは適当にしている文ですが、心の中ではしっかりと考えを持っていてむしろ周りを出し抜く気が満々です。
にとりは今までどうりの優しい性格のようですが少し臆病でもあります。しかしやるときはやりますし自前の発明品を用いてサポートもそつなくこなせます。
神奈子は・・・言うまでもなく皆に恐れられています。あと正確にはある意味難があるようですね。

という感じで、これからも見やすい小説を心がけて作って参りますので、何卒温かい目で見てくださるとうれしいです。
さて次回、物語は友希をさらに山の奥深くへと誘い、とあるミッションが開始されます!
乞うご期待!
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