8・読心地獄少女S
あのフランとの戦いの後、友希が再び目を覚ましたのはとある紅魔館の一室でのことだった。
赤を基調としたシンプルなベッドの上、窓の外から見える空の具合から推測するにおそらくそんなに時間は経っていないのだろう。
「んん、ここは・・・?」
「あ、気が付きましたか。体の具合はどうですか?」
横からの声に顔を向けると、そこにはいすに腰掛けリンゴの皮をむきながらやさしく微笑みを漏らす咲夜の姿が。
「女神・・・」
「え? 今なんと?」
「いえ、何でもないです! 咲夜さんこそ何を?」
ふとこぼされた微笑みを見た率直な感想を恥ずかしながらに濁し話題を変える友希。
大げさなどではない。その美貌やすでにある友希の咲夜に対する好意が拍車をかけ、「こんな美人に看病してもらえるなんて」と心の底から幸せが込み上げてくる。友希にとって初めての気持ちだ。
「覚えていらっしゃいませんか? 友希さんはあの模擬戦の後気を失ってしまわれていたんですよ」
「・・・もしかして、今までずっと俺の看病を?」
失礼ながら友希の脳内はずっと看病のことで頭がいっぱいである。
「はい。リンゴいかがですか?」
もうほんと天使。
差し出されたリンゴと笑顔にまたもや感想が心にあふれてしまう。
「ありがとうございます。でもすみません。リンゴ、アレルギーなんです。ごめんなさい・・・」
「それは失礼しました! すぐに変えのフルーツを・・・」
「だ、大丈夫ですよ! もう元気です! ほらっ!」
看病してくれただけで感無量なのにこれ以上何か手を煩わせるわけにはいかないと思った友希はひたすらに元気をアピールして見せる。しかし実際にはそんなことはなく、まだめまいが少し残っていた。
「そうですか? では・・・」
ゆっくりと腰を置きなおす咲夜。
「そうそう、友希さんが倒れた理由はおそらく脱水症状かと思われます。能力と症状を考慮するとそれが一番信憑性が高いかと」
それを言われて初めて気がついた。
どうりで周りに氷のくるまれたタオルが所狭しと転がっているわけだ。
そして瞬間的にこの脱水症状を治す方法をひらめいた。それは実に単純、水を十分摂取することだ。
水になった状態で蒸気として出した分だけの水を体に取り込めば、おそらくは大丈夫だろう。
ただ毎回大量の水を飲まなければいけないのは難儀だが。
「そういえばフランは⁉」
「妹様なら大丈夫ですよ。今は疲れて別の部屋でぐっすり寝ておられます」
それを聞いて友希はほっと胸をなでおろす。
吸血鬼ならば特に心配はいらないとも思ったのだが、それでも慣れない戦闘を経験して力加減もわからずに思い切り殴ったりしてしまった。そのことに対する罪悪感や心配を募らせていたのだ。
「今は安静にされるのがベストでしょう。そういえば友希さんは今友達を作っているのですよね? またどこかに行かれるのですか?」
唐突に咲夜から質問を投げかけられた。
「ええ、まあ。もう動けますしフランに声をかけてから、またにとりに案内を頼もうかと」
「あの、そのことなのですが・・・。実はにとりさんが先ほど紅魔館を後にされまして。何でもアイテムを作るとか?」
「あ、そういえば作ってくれるって言ってたっけか・・・」
アイテムとはいったい何の話なのか。咲夜にはよくわからなかったがにとりが作るものはいつもよくわからないので特に気にも留めなかった。
「友希さんは幻想郷に来たばかりでお金の持ち合わせもないと聞きましたが」
「・・・確かに、お金がないと何にもできない。・・・どうしましょう」
アイテム云々の他にもにとりは友希の家も建てる計画をしていると早急に話していたのだ。そうなるとお金を払わないといけないだろうし、それ以前にお金がなければ生きていくことすらできないではないか!
身近にあった何よりも大きな問題だ。考えただけでも友希の額からは冷や汗があふれ出ていた。
「そこでですね、にとりさんからの提案なのですが・・・」
何か言いたそうに口ごもる咲夜。そして友希はそれを不思議そうにのぞき込む。
「もしよろしければ、この紅魔館で執事として働きませんか?」
「・・・!」
思いがけない提案に目を丸くする友希。
「お嬢様もこの提案には賛成してくださっています。・・・どうでしょうか?」
正直、友希にはこの提案を断る理由など何一つとしてなかった。
お金が必要なのは言うまでもないが、執事という言葉からの連想や咲夜の仕事をちらほら見ている限りでは、館内の清掃、食事の準備などが主な仕事だろうと予想できる。
レストランの接客などお金や人との積極的な対応がないのは友希にとってありがたいことだったから。
そして何より咲夜と一緒にいられることに胸を躍らせていた。もちろん公言はできないが。
「ぜひ! お願いします!」
「本当ですか⁉ よかった! あっ、すみません、大声をあげてしまって。じ、実は男手も欲しいなぁと思っていたんですよ」
「そうなんですか・・・?」
崩れてしまった髪形を整える咲夜と、うれしい話に頬を緩ませる友希。
「あー、何かめっちゃ安心しました。本当によかったです。そうすると、次はどこ行きましょうかねぇ」
「あの、そのことなんですけど」
顎に手を添えて考え込む友希を見て、咲夜が口を開いた。
「お嬢様のご友人になら今すぐに連絡を入れることが可能です。少々気難しい方ですが、お嬢様からのご紹介とあらば大丈夫かと」
「へえ、いったいどこにいる人なんですか?」
「それが、少しわかりにくく。さらに友希さん一人で向かわれるとなると、さすがに危険すぎるかと・・」
自らの提案に難色の表情を示す咲夜だったが、そこへ・・・。
「その心配はいらないわ!」
「「えっ⁉」」
突然の声に二人して首を向ける。
そこにいたのは、主役登場と言わんばかりに胸を張るレミリアと服の襟をつかまれ引きずられて来た、図書館にいたあの金髪の少女だった。
おそらくパチュリーにかなり絞られたのだろう。金髪の少女はその頬を赤い手形に染め、目にはうっすらと涙を浮かべていた。
「魔理沙に同行させるわ。よって心配ご無用よ!」
「ん? 誰?」
ドンと体ごと前に突き出される少女だったが、友希は気絶していたのでもちろん誰だか覚えているわけもなかった。何かを感じたあの時だって明確に存在を意識していたわけではなかったのだ。
そのことが魔理沙という少女には頭に来たようで、涙にぬれた目を鋭くとがらせこちらを睨み叫んだ。
「お前に邪魔されてひどい目にあった普通の魔法使いだ! コノヤロー!」
フランの様子を見てからみんなにあいさつをし、紅魔館を後にして三十分ほどが経っただろうか。
たどり着いたのは、大きく口を開けまるで吸い込むように冷気が流れ込む不気味な洞窟への入り口だった。
嫌々に同行してきた自称魔法使いにに導かれるまま不安な気持ちを抱えながらここまで来た友希は、明らかにただ事ではない目の前の空間を見て全身の身の毛がよだった。
しかしそんなことはお構いなしにどんどんと奥に突き進んでいく魔理沙。
魔理沙は半ば怒り気味でさっさと用を済ませようというのが目で見て分かったが、それは友希も同じこと。何を話しかけても物調ずらでまともに会話すらしてくれない調子が続いていたせいで友希も段々腹が立ってきていた。
そんなにひどい目にあったのが気に食わないなら初めから泥棒なんてしなければいいのに。そう告げれば「泥棒じゃない。永遠に借りてるだけだ!」なんて訳の分からない理論を展開され、「こそこそしている時点で悪気があるじゃないか」と思ったもののこれ以上話しても無駄だろうと無理やり自分を納得させてきたのだ。
そんな少しの過去を思っていながらも友希たちは着実に洞窟の中を進んでいく。
そしてもっと不安なことにこの洞窟、向こう側へと抜けているのではなくどうやら下っていっているみたいなのだ。
途中井戸のような原型をした垂直降下地点やロッククライミングを彷彿とさせるほどきりたつ岩肌を慎重に下って行った。
となると地下のマントルか何かに通じている非常用通路なのかもしれないと、友希はまたしても言い知れぬ不安感に駆られるのだった。
それから十数分歩いたところでやっと出口がお目見えしたのだが、明らかに地下に下ってきたはずなのにそこからは暗めながらもしっかりと灯りが煌々と漏れ出しているではないか。
というより、もとからレミリアの友人がいるところを目指して歩いて来たのだから先に何かないとそれはそれでおかしいのだが。
先へ先へと進む魔理沙を追い悲鳴を上げる体に鞭を討ち一気に下へと駆け降りる。
するとその先に広がっていたのは、ぼんやりとした暗がりの中で大量のちょうちんなどの淡い光により浮かび上がる地上顔負けの里の姿だった。
多くは木造の建築物であろうか。一・二階建ての家や宿屋、飲み屋などが立ち並んでおり、里中には川までと流れている。
地底なのだから当たり前なのだが日の光は注がれておらず、天を仰げばそこには鍾乳洞のように鋭く突出した岩が存在している。そこから不規則に滴り落ちる水滴は氷のように冷たく、肌に触れるたびに飛び上がってしまうほどだ。
地底に広がる予想外の、不気味ながらも優美な風景にちょっとだけ感動しながら徐々に里中を歩を進ませる。
しかし何かがおかしい。全く人の姿がない。
どこかで宴会でもやっているのか笑い声が薄っすらと反響して聞こえるのみで見渡した限りではどこにも生き物の姿が見当たらない。
「なぁ、ここっていつもこんなに静かなのか?」
「んん? ああそうだな。暗くて湿っぽくて私はあんまり好きじゃない」
奇妙な雰囲気を警戒しつつもただひたすらに魔理沙の後をついてゆく。
そんな中異変を感じたのは目的となる館を探して里のちょうど中腹あたりまで来た時のことだった。
サササという謎の音が近づいてきたかと耳をすませてみれば、今度は風に乗って何か糸のようなものが顔にかかり驚いて咄嗟に払いのける。
この感覚は今までで一度は感じたことのあるもの・・・そう、クモの巣だ。
ハッとして見渡すが、すぐ前方にまで迫っていたのは見るもおぞましい大きなクモの大群。それが地面や家の壁を埋め尽くしてこちらに進撃してきていたのだ。
それを見るや否や友希はとてつもない叫び声をあげて一目散にクモに背を向け、確実に今までの人生の中で最速のスピードを出し薄暗い街道を全力で駆けてゆく。
しかしながら中学を卒業してからしばらく運動をしていなかったせいですぐに息が切れてしまい、自分の怠惰を恨む。
だがだからと言って止まるわけにはどうしてもいかない。息も絶え絶えになりながら見渡しのいい大通りをがむしゃらに走り抜ける。
どこに向かっているのか分からず魔理沙の声もいつの間にか聞こえないが、それよりも今すぐにこの状況から抜け出したい。そんな時目の中に大きな石造りの館らしき建物が飛び込んできた。
その風貌はまさに紅魔館を想起させるもので玄関らしき広場には噴水が作られており、館の壁には温色でまとめられたステンドグラスがちらほらと見受けられる。
クモから逃れるためにはスキマのない完璧に身を隠せる場所が必要だったとはいえ、その恐怖から友希は後先考えずに中庭を超えてその館の戸を引き中に転がり込んでしまった。
高鳴り高速で鼓動する自らの心臓を手を添えてなだめる。
それから冷静になり周りを見渡すと、外見だけでなく内装の床にまでステンドグラス調のデザインが見受けられ、洋館の紅魔館とは異なりどこかギリシャチックな薄暗い神秘的な印象を受ける。
しかしながら魔理沙はいったいどこへ?
友希も一心不乱に逃げていたので周りを確認せずに来てしまった。それゆえに魔理沙を一方的に攻めることはできないが、ナビゲーションを失った精神的負荷は友希にとって大きかった。
普通に考えてこれでは不法侵入なのでとりあえず館から出ようと背後のドアに手を駆けるも、レミリア達からの情報によれば目指すべき目的地も紅魔館と同等の大きな館、地底の奥にたたずむ目を引くものだというのでこれかもしれないと思い、思い切って足を踏み入れていくことにした友希。
内装は紅魔館でも感じたような似た廊下と部屋の繰り返しで、薄暗いこともあってかどうにも目が疲れ気がめいってしまうほどだ。
ゆっくりと館内を進んでいるうちにたどり着いたのは、廊下の突き当りに現れた他のものとは違う二回りほど大きな扉。
そのたたずまいから、おそらくこの館の主はここにいるのではないかと予想し、恐る恐る三回ノックを繰り返してみる。
アポは取ってあるから大丈夫。自分は招かれた客人だ。と心に言い聞かせながら。
すると中からとても静かな声で返事が返ってきた。友希はノックした身ではあるがその素直な反応に正直驚いた。
恐る恐る扉を引き中に入ろうとする友希だったが、どうしてそうなったのか上半身が押し出されたような感覚に襲われ、思い切り中へ転倒してしまった。
突然男が突入してきて地べたに横たわっているのだから、不思議のまなざしを送られるのは理解ができる。しかしそこにいた桃色髪の少女の目は、まるで理解できないものを見るかのようなとてつもなく冷ややかで蔑んだまなざしを友希に送っていた。
これに友希は・・・傷ついた。
「と、これで全部よ。これが私の能力。他者から忌み嫌われ続けてきた力。どう? 怖い?」
「・・・・・」
友希の目の前の少女は、今までの友希に起こった出来事をどういうわけか知っていたかのようにマシンガントークで復唱してきた。
友希の前でやる気のなさそうな顔をしているピンク色の髪の少女の名は古明地さとり。そしてその能力は『心を読む程度の能力』であり、自身の身体についている赤い血管のような管と接続されている胸前の眼球のみの器官が関係しているのだろうか。ずっと友希のほうを見つめている。
先ほどの内容はすべて友希の心を読んで話していたのだが、どうやら本人はこの自身の能力に嫌悪感を抱いているようで、それはその振る舞いや言動から見て取れた。
ちなみにさとりの話した内容は細かいところは省かれているにしろ本当に当たっており、部屋に突入して嫌悪のまなざしを向けられた後、互いに自己紹介を済ませてから気だるげにしているさとりに向かって彼女の能力についての興味を示したが最後、先ほどまでの長い話が始まってしまったのだ。
しかし。しかしだ。
さとりのご丁寧な回想は全て、残念ながら肝心の友希の耳には全く入ってきていなかった。
「・・・あなた、さっきから上の空という感じだけど、私の話ちゃんと聞いていたのかしら?」
「えっ・・ああ、うん。聞い・・てた・・・?」
「はぁ・・、これだから人間は。ほんと気分悪い・・・」
何やらぶつぶつと言っているが、それも友希には聞こえない。
友希のまなざしをほかの何よりも引き付けるその原因は、他でもないさとりにあった。
正確には、さとりのそばでくっついている何者かの存在に平然としているのが不思議で完全に意識がもっていかれていたのだ。
さとりは話をきちんと聞かない友希に対しひどく機嫌を損ねたようだが、友希にしてみれば鼻の穴両方に指を突っ込まれて鼻血が出るのではと心配になるくらいにほじくられているのにもかかわらず、何も起きていないかの如く平然とした顔で話すさとりのほうが信じられなかった。誰だっておかしいと思うはずだ。
しかも鼻に指を突っ込んでいる当の本人である緑髪の少女は満面の笑みで罪悪感のかけらもないなのだから余計に怖さ倍増である。
「・・・なぁ。それ、大丈夫なのか?」
「指をささないでください、不愉快です」
確かに失礼な行為だったと反省する友希。だが無論、指したのはさとりにではない。
「いや、でも、結構痛いと思うんだけど・・・」
「あなた・・さっきから何を言っているんですか? 気でも狂ったんですか?」
「酷ぇな! ああもう、なんでなんだよ⁉ もしかして見えてるの俺だけ⁉ 幽霊⁉ 怖えよぉ‼ だれかぁー‼」
さとりがイライラしているのは分かるが友希も同じくらいイライラしてきていた。ので耐えかねて叫んでしまった。本当に気が狂っていると思われても仕方がない。
「見えてるって・・・まさか⁉ こいし!」
さとりもようやく気が付いたのか思い切り体を震わせた。それに合わせるように緑髪の少女はさとりから離れ、友希のほうにテトテトと小走りで寄ってくる。
とはいえまださとりには見えてはいないようで、少女が離れた今もずっとただひたすらに顔を真っ赤にして体から振り払っている。
「なぁ、もう女の子は俺の目の前にいるけど」
「えっ・・・」
友希のほうに目をやりしばらく目を凝らすさとりだったが、なぜかやっとその姿が確認できたようで次第に顔が晴れていくとともに憤怒の表情に変わっていった。
「こいし! あなたまたお姉ちゃんに変なことしてたわね⁉」
さとりはこいしと呼ばれるその少女を捕らえようと腕を大きく広げとびかかる。そしてそれを顔色一つ変えずにひらりとかわし、先ほどの友希と同じように地べたにはいつくばってしまったさとりを気にも留めず友希のほうに向きなおるのだった。
「お兄さんすごいね! はじめから私のこと見えてたよね? すごいすごい! はじめてだよぉ!」
「やっぱり普通は見えないの? えぇ・・」
「そんなに暗い顔しなくても大丈夫だよ! むしろ慣れていかなきゃだめだよ! 世の中目では見えないことなんてたくさんあるんだからさっ!」
「励ましたいのか叱りたいのかどっちなの?」
このこいしという少女、非常につかみどころが分からない。少し話しただけでも何となくそれは伝わった。
とても元気な様子で友希に話しかけてくるのだが、その目にはどこか吸い込まれるような、奥深くまで続く洞窟のようになっている、そんな気がするのだ。なんというか焦点が合っていないような、うつろなような。
それに姉妹ゆえに同じ眼球の器官がついているのだが、こいしの方は紫色で強く目を閉じている。
「おかしいです・・・。なぜ姉妹である私に見えないのにあなたのような低俗な人間にこいしが見えるのですかっ・・!」
「どういう原理かとかなぜ俺に見えるのかはこの際置いておいて、俺の扱いひどくない⁉ 俺そこまで嫌われることした覚え無いんだけど・・・」
「なぜ感知できるのかのほうが遥かに大事です!」
気が付けばすでに近くにこいしの姿はなく、他人事のように部屋の端にある本棚を物色していた。
まるで瞬間移動したのかと疑うほどに行動が読めない。というか見えない。
時を止めたり心を読めたりが普通に行われるのだから、瞬間移動ができるものがいたとしてもおかしくはないのかもしれないが、どうもこいしのそれは瞬間移動とは別物のようだが・・・。
「別に俺も最初から見えてたかって言われると断言はできなくてさ。初めはこの部屋には二人しかいないと俺も思ってたんだけど、なんか違和感を感じてそこを見たら見つけたって感じなんだけど」
「わからないですね。いったいどうして・・・?」
うつむきながら真剣に思案するさとり。その様子から本当に珍しいことなんだなと思いつつこいしの方へと再び目をやる。と、その瞬間。
「あっ! そうだ!」
突然こいしが声を上げこちらの方を向いたかと思うと、友希のそばまで近寄ってきて目を輝かせながらとある提案を持ち掛けてきた。
「かくれんぼしよう!」
「え? かくれんぼ? なんで今?」
「理由なんて何でもいいじゃん! ねぇ、早く早く!」
「あ、おい! ちょっと!」
「ああっ! 待ちなさい、あなたたち!」
二人を制止しようと手を伸ばすさとりだったが間に合わず、またしても気にも留めない様子で強引に友希の袖を引きながら部屋を飛び出していくこいし。
「なあ! さとりのことはいいのかよ⁉」
「いいのいいの! あっ、おりーん! おくーう! 一緒に遊ぼー‼」
引っ張られるままに直進する前方にはまた別の二人の人影が。
「・・・? お空、今何か言ったかい?」
「うん? 何にも言ってないよ?」
何やら会話をしていた二人組をこいしはこれまたお構いなしに呼びとめ、大きな羽を生やした高身長ロングストレート髪の女性の方の腕を強引に引っ張り連れて行こうとした。
「どんだけかくれんぼやりたいんだよ!」
「ん? 体が勝手に動く? およよ、どうしよう!」
「ちょっ、ちょっと待ちなよ! どこ行くのさ、お空! そこのお兄さん・・・もダメなのかい⁉」
もしやとは思ったがやはりこの二人にもこいしの姿は認知されていないのだろう。
連れていかれる二人を追いかけてもう一人の、三つ編みをした猫耳赤髪の女性も猛ダッシュで後を追ってくる。
この状況はカオスだと、すでに友希は考えることをやめた。
「あははははは~!」
「・・・・・」
満面の笑みで廊下を走り抜けて玄関のある方へと角を曲がり消えてゆくこいしたち。
彼女たちををただただ見送ることしかできず、再び静寂が訪れた空間で一人立ち尽くし取り残されたさとり。
「何なのよ、まったく・・・」
声をあげたり体を打ったりしたせいでしばらく動かしていなかった体が疲弊したのか、さとりは大きくため息をついた。
いや、それだけではないだろう。
「恐れるどこか友達だなんて・・・。訳が分からないわ、あの人間・・・」
第八話 完
どうも、最後まで読んでくださってありがとうございます! 作者の彗星のシアンことシアンです。
今回のこの後書きでは、この東方友戦録においての原作との時系列の違いについて触れておこうと思います。
まず初めに確認しておきたいのはこの物語の年代は2016年(もっと細かく言うと第一話時点では2016年の7月)です。つまり今後登場する最新の仮面ライダーは「仮面ライダーエグゼイド」であり、それ以降のビルドやジオウは登場しません(時系列が進めばその都度物語中でも友希はその存在を認識し登場します)。どのようにライダーの力が関わってくるかはまだ言えませんがそういうことです。
そしてもう一つ重要なのが原作の異変との関わりです。
自分は二次創作小説において無意味な原作との相違は控えめにしていきたいと考えているのですが、これに関してはしっかりと物語を紡ぐうえで定義しておきたいと思います。
とは言っても東方に関してはもともと明確な時系列が明かされておらず、あるのは異変ごとの前後区別くらい。さてどうしたのものか。
私自身皆さんには裏の事情を考えずに一つの物語をめいっぱい楽しんでほしいのでここは敢えてたんぱくにかつ物語的に説明します。
まず初めにこの世界の幻想郷では今から丁度四年前に謎の赤い霧に覆われ生命が活力を失うという異変が起きました。俗にいう紅霧異変です。この2012年時点でレミリアたちが幻想郷に現れ異変を起こしました。
そしてその後紅霧異変を皮切りに今までの幻想郷ではありえないほど高頻度で異変が頻発するようになります。それは皆さんがよく知るであろう異変たちが順番そのままに次々とほぼ三カ月に一回のペースで巻き起こるようになってしまうのです。
これには霊夢だけではなく他の様々な者たちも不安を感じざるを得ません。異変を起こした当の本人たちに聞いてみても皆特別何か意思があって重ねたわけでもないというのです。そしてそんな幻想郷全体を襲う不思議な現象のさなか突如として現れたのが本作の主人公一夜友希なのです。つまりこの時点ではつい最近までいわゆる「東方紺珠伝」にあたる事件が巻き起こっていたのでした。それ以降の異変に関しては今後関わってくることがあるのかどうか・・・。
友希の出現もまた立て続けに起こる異変の一部なのか前触れなのか、幻想入りさせた八雲紫に何か思うところがあるのか、それは誰にも分かりません。
というのが友戦録における時系列のざっくりとした概要です。これについては結構重要なことなので今後自然な形で友希たちも触れていくことでしょう。う~ん、難しいですね!
ということは皆帰ってきたばっかりなので疲れているんじゃないですかね?そんな中友希が来ても割と親切に対応してくれる辺りみんな優しいですね~。
はい。長くなってしまいました。目が疲れたでしょう?今回はこれでお開きとさせていただきます! ご清見ありがとうございました!