「カァ! カァ! 休息、休息~! 赤羽隊士、別命アルマデ待機セヨ~!」
俺の頭上を旋回しながら喧しく告げる【
俺達“鬼狩りの剣士”と“鬼殺隊”本部の伝令役を務める言うなれば相方の様な存在ではあるが、昼夜問わず喧しく、偶に俺の事を“幼女趣味”だの“大猿剣士”などとコケにするコイツの事は、偶に本気で焼き鳥にしてやろうかと思ってしまう。
とはいえ俺も連日連夜の任務漬けで疲労困憊。『黙ってろ』という気力も出ない状態だ。
ついでに先の戦いで鬼狩りの要である【
久方ぶりに自宅で静養しつつ、専属の鍛冶師に刀を研いでもらわねばならない。
――そう。呼ばなきゃいけないんだよなぁ。あの変態刀鍛冶娘を……。
腕は良いが性格……というか俺との人間的相性に多大な問題がある専属の鍛冶師の顔を思い出し、ただでさえ重たい足取りが更に遅くなった気がした。
とはいえ、ふた月ぶりの帰宅と休暇には心が弾む。
幼い頃、故郷の村ごと家族を鬼に食い殺された俺を救い、鬼狩りとして戦う力を与えてくれたばかりか、家族として迎えてくれた養父・剛三郎師範。
少しばかり言動が破天荒だが、血の繋がらない俺を実の息子の様に労わってくれる義母の明菜さん。
そして、そんな2人の実の娘であり、家族を喪い失意の底にあった俺に、温もりを主出させてくれた何よりも大切な女の子が待つ、赤羽の屋敷。
帰りを待ってくれる“家族”の顔を思い浮かべれば多少の疲労や面倒な人物と会わねばならない憂いも消し飛ぶというものだ。
「晃、先に赤羽の家に向かって俺は夕刻前に着くと伝えてくれ」
空を見上げ、太陽の高さと現在地から概算すると、真っ直ぐ向かえば正午を少し過ぎた頃に到着するが、俺は敢えて遅めの時間を伝える。
少し回り道になるが、近場にある大きな町に立ち寄り、最近若い娘の間で人気の高い異国の菓子を買って帰ろう。フフ、お嬢様の喜ばれる顔が目に浮かぶ。
「カァ! 甘イ菓子デ少女ノ気ヲ引ク。コレゾマサシク変質者ノ手口~~!」
「黙れアホ鴉!!」
・・・・・
人々を全ての鬼の魔の手から守る太陽が地平の彼方に沈み始める夕暮れ時。
俺は当初の予定通り赤羽家の屋敷。
その裏手にある【
境内の外からでも仄かに漂う香りは、鬼狩りやその支援を行う人々が重用する鬼を遠ざける効果をもっている藤の花のお香によるものだ。
この屋敷に引き取られて十数年。
今となってはこの藤の花の匂いは、懐かしさと安らぎを感じる故郷の匂いだ。
そして中に入ると、鳥居の前では掃き掃除をする巫女装束の少女が、俺に気づいて笑顔を向けながら駆け、俺の胸に勢いよく飛び込んできた。
「お帰りなさい大地ししょー♡」
「おっと、――はい。ただいま帰りました優那お嬢様」
砲弾の様な勢いで飛び込む優那お嬢様を受け止め、俺は親愛と敬意を込めて返事する。
だがそんな俺の挨拶をお気に召さなかったお嬢様は頬を膨らませ、不満そうな目を向ける。可愛い。
「もう! どうして“お嬢様”なんて他人行儀な呼び方をするんですか!? 昔みたいに優那って呼んでくださいっていつも言ってるじゃないですか?」
「い、いや、アレは寧ろ昔の俺が自分の立場が分かってなかったからというか……。それにそういうお嬢様だって、昔は俺の事をお兄様って呼んでいたじゃありませんか?」
「だ、だってそれは……
「? 何になれないですか?」
「うぅうう……とにかく今、大地ししょーは私に呼吸を指南してくれるからししょーでいいんです! だからししょーも、私の事は優那って呼んでください! あっ、“お前”でもいいですよ? ……亭主関白な旦那様って嫌いじゃないですから♡」
「いや、亭主じゃありませんから……」
「もうっ! とにかくししょーはもっとエラソーにしてくれなきゃダメなんです!」
「んな無茶苦茶な……。ではその……ゆ、優那?」
「はーい♡」
クッ!
やっぱり笑顔が超可愛いな俺の義妹……いや、弟子は!
ここ1年は、鬼狩りとして特に忙しく(一応、上位階級に昇進したため)。以前に比べ顔を合わせる機会もあまりなかった所為か、或いは年頃だからか判然としないが、どうにも最近、優那お嬢様……否、胸の内ではあえて優那と呼ぼうか。この子の考えている事は分からない事が多くなった気がする。
昔はよく泣いてよく怒り、そして何よりよく笑う。良くも悪くも喜怒哀楽のはっきりしていて、天真爛漫な娘だった。
俺の事も『大地お兄しゃま♡』とどこにいくにもついてきて、何でも話してくれたものだが、最近は急にモジモジして言葉を濁したり、ジーっと熱っぽい視線を向けたかと思えば顔を真っ赤にして顔を背けたり。……正直、寂しさを感じる事もあったが、これも成長なのだろう。
何しろ優那も数か月後には15歳。そろそろ縁談が来ても良い年頃なのだ……。
「し、ししょーどうしたんですか!? 急に真顔で涙を流して!!?」
「えっ、ああ、いつの間に……。いや、大丈夫だから。少し未来に想いを馳せたら化失くなっただけだから……それよりゆ、優那? もう掃除も終わりだろ? お土産に甘い西洋のお菓子を買ってきたから、夕飯の後、食べよう」
「わああ! ありがとうございますししょー♡ エヘヘ、今日はお土産いっぱいです♪」
「えっ? いっぱい??」
一瞬、背筋が凍る様な悪寒を覚えた。
そしてその次の瞬間――!
「死ね! この汚らわしい大猿男!!」
無数の包丁が、俺に目掛けて飛来した。
「ぬおおおおおおおっ!!」
咄嗟に日輪刀を抜いて叩き落したが、恐ろしい事に飛来してきた全ての刃物が的確に人体の急所に目掛けて投擲されていた。
人に向かって刃物を投げる事に対する躊躇がない。どころの話じゃない。
絶対に何があっても『俺を殺す』という純度の高い殺意がなければこんな攻撃出来はしない。
さて問題。いきなりこんな恐ろしい攻撃をしかけるのは一体だ誰でしょう?
正解は――俺の専属の刀鍛冶だよちくしょう!
「チッ、また
「それはどうもありがとう! ところで前にも言ったが、曲がりなりにも担当隊士の抹殺を白昼堂々と試みないでくれるかな
「フッ、何を言うかと思えば惰弱な……。私みたいなか弱い刀鍛冶の小娘に暗殺される程度の腕前で鬼狩りが務まるとでも?」
「か弱い娘は人に刃物を投げたりしねえよ!」
他人様に自家製の刃を投げておいて(余談だが、全ての包丁には“大猿滅殺”と刻まれている)、全く悪びれた様子を見せない黒鉄沢さんに無駄と分かりつつツッコミを入れてみたが、案の定、全く響いていない。
一応、会話が成立している筈なのに全く意思の疎通がとれてないのではないかと錯覚するこの感覚。精神構造の決定的な違いを感じずにはいられない。
「
「ええ、久し振りね優那。最近ますます綺麗になったわね? 気乗りしない大猿もどき相手の仕事でも、貴方に会えることだけは僥倖よ。あっ、これお土産のお団子と髪飾りね」
「わあ、ありがとうございます! フフ、この間ししょーが贈ってくれた着物に合いそうです♪」
「着物? そ、そう…………チッ、猿がこじゃれた贈り物を」
「お前、わざと俺にだけ聞こえる様に呟いたろ?」
溺愛する優那に対しては満面の笑みを向け、仲の良い姉の様に接しつつ俺には痛烈な毒を吐き散らすこの娘は、鬼殺の要である日輪刀を製造する刀匠の1人であり、座右の銘は『私の打った刀が全ての乙女を悪鬼から守る。男は別にどうでもよい』。
年齢を問わずとにかく可愛らしい女性が大好きらしく、若い身空で鬼殺という修羅の道を選択した女性隊士の力になりたいという信念の下、鍛冶師になったらしい。
逆に男の刀は打ちたくないと駄々をこね、師である父親や里長を困らせていたそうだが、その父親と俺の養父であり育手である【赤羽剛三郎】様が懇意にしている関係でその養子である俺の担当を“渋々”引き受ける事になった。――正直、俺も勘弁してほしかった。
とはいえ、如何に気乗りしない仕事であれ仕事に手を抜く様な真似“だけ”はせず、実際に打ってくれた刀は命を預けるに足り得る出来栄えなのは間違いない。
――というか、そもそもの話。剣士から彼女の様な後方支援を受け持つ者に至るまで徹底的にな“実力・実績主義”である鬼殺隊では彼女の様な“優れた能力を持つ問題児”はわりと珍しくなかったりするのだ。
噂によると、刀匠の中には任務の中で刀を折った新人隊士を『よくも折ったな俺の刀を!』包丁を持って追いかけまわす狂人もいるらしい。――本当に大丈夫か刀鍛冶の里?
オリジナルの呼吸紹介
【鳥の呼吸】
・本作の登場するオリジナルの呼吸。炎の呼吸の派生で7つの型で構成される。
・剛三郎の3代前の初代赤羽家の隊士で当時の炎柱(例によって煉獄顔)の継子だった隊士がより自身の適性に合った型を模索して編み出された。誕生して50年程の比較的新しい呼吸。
・赤羽家は神職の家系であることもあり、使い手は代々鬼狩り役と伝承役、2人の弟子を育て、片方が前線で戦い、もう片方は毎年神事で舞として型を披露しながら後進を育てる。
・元となった炎の呼吸と同様、しっかりと地面に踏みつけて放つ攻撃力に秀でた剣術だが、攻め込んできた相手の攻撃を正確に捉え捌き、返し技を放つカウンタースタイルで真価を発揮する。正確に敵の攻撃を見切る観察眼と適切なタイミングで技を放つセンスが必要。
・『相手の攻撃を捌いて斬る』という性質上僅かなミスが死を招き、習得には並外れた動体視力か、尋常ならざる反復練習が必須。
【型一覧】
壱ノ型
・正面から攻めてくる敵の攻撃を見切り、躱しながら頸を斬り落とす。基本の型。
弐ノ型
・高所から飛び降りながら落下する重力も乗せて放つ
参ノ型
・武器を持った敵に対し効果を発揮する二連撃。一太刀目で得物を振る相手の手を斬り落とし、二太刀目で頸を斬り落とす。
肆ノ型 |啄(ついばみ)
・相手の勢いを削ぐ為に放つ牽制用の連続突き
伍ノ型
・正面から攻めてくる敵の攻撃を回転しながら躱し、背後をとって頸を斬り落とす。
陸ノ型
・巨躯の鬼に対し効果を発揮する対空斬撃。強く踏み込んで飛び上がり、高い位置の標的を斬り裂く。
漆ノ型 ???
・鳥の呼吸最後にして最大の奥義。