鬼人様は面倒ごとを躱したい   作:フクマ

6 / 7
再三書き直して、何を書きたいのか分からなくなったので一度、投稿しときます









鬼人様は渦中へと放り込まれる

 禍の団、旧魔王派のトップ、シャルバ・ベルゼブブ含め拠点諸々が粉砕された日より暫く。

 本来ならば、破壊を振りまいた男である宿木棗に対する報復行動に出てもおかしくはないだろう。

 なんせ相手は、()()。神器などが無ければ人外に勝てる道理の無い()()存在なのだから。何より、悪魔というのは総じてプライドが高かった。

 だがしかし、その末路に待つのは破滅だけ。

 

 

「―――――時間の無駄だったな。もう少し、お前たちは建設的な時間の使い方を知らないのか?」

 

 

 ズボンのポケットへと両手を突っ込み見下ろしてくる棗を前にして、クルゼレイ・アスモデウスは絶望というものを嫌というほどに味わわされていた。

 旧魔王派三首領の一人でもあったクルゼレイは、復讐に焦がれていた。

 カテレア・レヴィアタンは、三大勢力のトップに消され、シャルバ・ベルゼブブは拠点もろとも目の前の人間に消された。

 野心と復讐心が彼の中でぐちゃぐちゃにかき混ぜられ、その結果起こした今回の襲撃。

 念入りに、神器を封じる結界に拉致し、そこから念入りな拘束魔法をかけたうえでの遠距離から袋叩き。

 安全策を採った。その筈だった。軋むプライドから必死に目を逸らして。

 

 だがしかし、宿木棗(規格外)に安全策は通用しない。

 そもそも、安全策というのは一定水準を仮定してそれ以上の対策を施すやり方だ。無難であり、安全といえば聞こえは良いが、想定外には対応できないことも珍しくない。

 今回は正にそれだった。

 まず大前提。棗の神器不所持。この段階から既に対応を誤った。いっそのこと、重力数十倍などの物理的な足止め結界にぶち込む方がまだマシだったはずなのだ。

 次に拘束の魔法。あくまでも両腕の動きを縛るだけで、()()()()までは縛っていなかった。そして、彼の斬撃は軽く指を振るだけでも最上級悪魔を刻む。

 拘束は、掛けると同時に破壊され、遠距離からの攻撃はそれを上回る速度の斬撃によって攻撃そのまま術者本人も切り刻まれた。

 そして、今に至る。

 

 

「………なんなんだ、貴様は……!」

 

「ん?お前たちは、分かったうえで向かってきたんだろう?俺は、人間さ。お前たちの馬鹿にする、矮小で愚かで、非力なうえに欲の深い人間だよ」

 

「ふざ、けるな……!貴様のような人間が存在するものか………!存在していいモノか………!」

 

「………はぁ、分からん奴だな」

 

 

 見上げてくるクルゼレイを見下ろしながら、棗は一つ溜息をつくと血濡れの悪魔の前に座り込んだ。そして徐に人差し指と中指を揃えて、そのほかの指は開いた手で彼の頭を掴む。

 

 

「お前たちの前にある事が、事実だ。態々俺に喧嘩を売り、そして勝手に自滅していった。それも全てお前たち自身が自ら招き入れた結果だ―――――()()お前たちが身の丈に合わない事を望んだからこその、未来だ」

 

「貴様ァッ………!」

 

「そら、結末をくれてやる」

 

「待―――――」

 

 

 言うなり、揃えられた人差し指と中指を起点にして斬撃が走る。

 頭のてっぺんから股下へ向けての斬撃だ。クルゼレイの脳は、痛みという電気信号を受け取る前にその機能を停止していた。

 美丈夫と言っても良かった顔に縦の赤い線がまず走り、その目は白目を剥いて鼻血が流れる。

 そして、鈍い肉の音とそれから濡れた塊が地面に落ちる音を立ててその体は真っ二つとなって沈黙した。

 同時に、結界が崩れ棗の体は元の町へと戻ってくる。

 

 これにて旧魔王派は、壊滅。残党が居れども、それらは全て雑魚ばかり。

 余談だが、どこぞの変態貴族悪魔が手を組もうとしていた相手が壊滅したために、どこぞの赤龍帝にボコボコにされる事になるのだが、それは棗の知る由もない事。

 件の彼は、血みどろの殺戮劇を開催したばかりだというのに一切気負う事なく大きく伸びをする。

 

 

「………焼肉食いに行くか」

 

 

 うん、と頷き足を向けるのは馴染みの焼き肉屋。

 彼にしてみれば、食欲というのは如何なる障害があろうとも衰える事のないモノ、であるらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ここまでか」

 

 

 そんな言葉を絞り出す事しか、彼にはできなかった。

 人の身でありながら、人ならざる者たちを討伐、ないしは圧倒する存在である人類のバグ(宿木棗)を見てしまえばそれもまた致し方なし。

 彼の常套手段は、徹底的な分析からの執念深い対応策にある。

 自分が弱っちい人間であるという認識のもとに行われるそれは、その身に宿した神滅具も相まって究極のテクニックタイプと呼ばれるほどの実力へと至る下地がある。

 そんな彼が、同じく人間とされている棗に対して興味を持つという事は、自然な事でもあった。というか、他陣営と比べても目を付けていたのは随分と早かっただろう。

 目を付けた目的と言えば、自分の陣営に引き込めないかという点。戦力というのは、一度集め始めると、どれだけの大勢力となろうとも不足を感じてしまうのが世の常であるから。

 

 話を戻そう。今回旧魔王派のクルゼレイの依頼により制作した結界装置。そこにある細工を施していたのだ。

 それが今、その目で見た結界の内側を記録できる機能。これにより、更なる情報収集を狙って秘密裏に取り付けられたもの。

 結果、得られたのは宿木棗は規格外という結果だけなのだから微妙な表情の一つもしたくなるというもの。

 

 

「また、彼の記録を見ているのかい?」

 

「ゲオルク………ああ、彼は強い。()()()()

 

「こちらに引き入れるかい?」

 

「………正直なところ、迷っているさ。確かに、彼は強い。恐らく禁手化した神器使いであろうとも一蹴される程度には、な。戦力として組み込めるならば、これ以上のものはないだろう。ただ―――――」

 

「その方法が浮かばない。確かに、天上天下唯我独尊を地で行くような存在を繋ぎとめる手段など無い、か」

 

 

 ただ強いだけならば、何とでもなる。力で下回ろうとも知をもって、あるいは理をもって手元に置くことが出来るかもしれないからだ。

 だが、相手が自分本位な存在ならば話は別。自分よりも相手が上であると認めなければ、誰の下にも就くことはない。轡を並べることも無い。

 可能性としては、敵の敵は味方理論。要は共通の敵を前にして、一時的とはいえ繋がりを作り、そこから関係を発展させていく方法位か。

 少なくとも、戦闘行為は最終手段。現状でかち合えば、まず間違いなく一方的に殺される事になりかねない。

 

 

「とにかく、彼には接触厳禁だな。得るモノよりも失うモノの方が圧倒的に多い」

 

 

 逃げ腰と揶揄されようとも、彼はそう判断を下した。

 仮に戦うならば、場を整え相手の力をすべて丸裸にしてから。

 

 ただ、彼は知らない。これからそう遠くないタイミングで、鬼人様の機嫌を損ねる事になるなど。

 今はまだ、知る由も無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 今や世界的な注目を集める町、駒王町。

 三大勢力の和平会談が行われたから、だけではない。今代の赤龍帝が存在し、今では聖魔剣使いや聖剣デュランダルの担い手、ヴリトラ系神器使い等など話題に事欠かないからでもあった。

 そんな町だが、今回は北欧神話からのVIPが訪れている。

 北欧の主神にして、知の亡者オーディン。VIPもVIP。仮に粗相があれば、神話大戦に発展しかねないそんな存在の訪問だ。

 

 

「噂の鬼人。この目で見てみたいもんじゃな」

 

「座ってろ、爺」

 

 

 案内役に抜擢されたアザゼルは、襲い来る頭痛と腹痛のダブルパンチにぶっ倒れそうな心地だった。

 内心で自分に押し付けてきた残り二つの陣営のトップを毒づきながら、どうしてこうなった、と過去に思いを馳せる。

 

 そもそもの発端は、北欧神話との和平交渉でオーディンがこの日本の駒王町へと足を踏み入れる事になった件だ。

 当然というべきか、勢力というものは大きければ大きいほどその個人単位での意識の統一化というのは難しくなる。

 北欧神話も同様で、神の一人が和平には反対。その結果、この町に新たな戦いの風を運んでくることとなった。

 それだけならば、まだ何とかなる。問題は、この町に触れるどころか、近づきたくも無い爆弾の様な男が居る点だ。

 

 宿木棗。最近では、鬼人と多方面から呼ばれる存在。

 

 神器でも無く、現在の技術体系からも逸脱した力を有した人間であり、同時に台風の目となりつつある存在でもある。

 そんな相手を、知の亡者でもあるオーディンが放っておけるはずもなく、二言目には棗の話題だ。

 

 

「あの男にゃ、こっちも手を出す気はねぇんだよ」

 

「あの悪ガキが、随分と消極的ではないか」

 

「消極的だろうと何だろうと、奴は話してどうこうなる様な輩じゃねぇんだよ。オーディン、アンタが北欧の主神だなんて大層な存在じゃなけりゃ、さっさと放り出して首チョンパされるのを見送ってるところだ」

 

 

 ヤダヤダ、と首を振り懐から取り出した錠剤をペットボトルの水で流し込むアザゼルを尻目に、オーディンは己の白いあごひげを扱きながら頭を回していた。

 研究者気質と言えども、アザゼルは大戦を生き残った実力を有している。開発した人工神器を用いれば、神クラスの出力も可能だ。

 そんな男が、接触すらも拒む存在。興味が掻き立てられない方が難しい。

 

 未知を知りたい。それこそがオーディンがオーディンたる所以だろう。

 なんせこの神は、知識を得るために片目を犠牲にし、ルーン文字の全てを知るために自分を串刺しにしてユグドラシルで首を括り、自分自身(オーディン)に己を捧げるような神なのだから。

 そんな神の興味が向けられる人間。

 どうしたものかと考え、そして考え付くのは悪だくみ。

 その結果、神話体系に何かしらの不具合が起きるかもしれないし、逆に起きないかもしれない。

 

 それすらも、()()()。だからこそ、智の神は行動を起こすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 宿木棗には、駒王町において馴染みの店というのが幾つか存在している。

 干渉して来ず、飯が旨く、食事のみに集中させるそんな店。

 それは、焼き肉店であったりラーメン屋であったり、すし屋であったり、はたまたステーキ、フレンチ、イタリアンと料理の種類は問わない。

 共通するのは、それらの店ではまるで人が変わったように棗は大人しいという点。

 

 

「あむ………」

 

 

 ナイフとフォークを行儀よく使いながらも、その一口は大きなステーキの凡そ四分の一を持って行った。

 ソースが口の端を垂れる事も、口の周りを汚すことも無く、口を開いて噛むことも無い。

 芳醇な肉の甘みと、酸味と甘味、塩味などが複雑に入り混じったソースのハーモニーを味わいながら、次の一切れを切り分けていく。

 付け合わせなども食べ終えて、皿を避ければ次の皿が彼の前に置かれた。

 時折、パンを千切って口へと運び食べ進める事、実に十三皿。四百グラム十三皿だ。食べ過ぎというものなのだが、彼の腹部は満腹による膨らみは確認できない。

 最後に、ウーロン茶を飲み干し一つ息を吐きだす。

 確かな満足感。腕のいい料理人というのは、やはり良いものだ、と内心で呟きながら食後の余韻に浸る棗。

 この瞬間の為に今を生きていると言っても過言ではない

 

 故に、この時を邪魔する存在はたとえ()()()()()()()()()()

 

 

「―――――ここに、オーディンが居るのか?」

 

 

 ずかずかと入ってきたのは、黒い服に銀髪の美丈夫。かなり独創的な見た目であるが、この店においては誰も突っ込まない。

 

 

「お客様。こちらへ―――――」

 

「必要ない。豚の餌など食えたものではないのでな」

 

 

 傲慢極まる男の言葉が、棗の耳に届く。

 余韻を邪魔する不届きものだ。ついでに、気に入っている場所を貶す様な発言でもある。無視はできない。

 席を立ちあがると、財布をテーブルの上に放りずかずかと大股で嫌味な男の下へと歩み寄る。

 

 

「おい」

 

「む、なんだ貴さ―――――」

 

「来い」

 

 

 目にもとまらぬ早業で、口ごと顎を右手で鷲掴みにした棗は、おろおろとする店員へ財布から代金を抜いておくように言うと、そのまま暴れる男を引きずって店の外へと向かってしまった。

 入り口を抜け、引きずり、引きずり、向かうのは路地にあったゴミ捨て場。

 

 

「―――――ゴアッ!?貴ッ様ァ……!!」

 

「失せろ、ゴミ屑。二度とその面見せるな」

 

「ふざけるなよ、オイ。この我にここまでの行いをして、生きて帰れると思うのか!!!」

 

 

 ごみを振り払い、魔力を昂らせていく男、ロキは血走った目で目の前の少年、棗を睨み付ける。

 

 北欧神話において重要な役割と同時に有名どころの一柱でもあるトリックスター、ロキ。

 魔法の扱いに長けており、その実力は並の悪魔や天使程度一蹴する程度には優れている。

 だが、彼を語るうえで最も重要なのは、神をも殺す牙を有する狼、フェンリル。その生みの親であるという点だろう。

 全勢力の中でもトップ10入りするほどの力を有し、その牙は神を殺し、爪の一振りは神滅具の禁手化した鎧すらも切り裂くほど。

 

 そんな彼が、なぜ好きでもない人間の店に訪れたかと言えば、オーディンが原因だ。

 言ってしまえば、誘い込まれた。如何に魔法の扱いに優れていようとも、相手は森羅万象全てを知りたいと目を失ったような神だ。油断も重なれば、相手の思惑通りに動いてしまう可能性も十分あった。

 その結果が、今の惨状。

 もはや、プライドはズタズタだ。この汚辱は、目の前の少年を殺し、その上でラグナロクを引き起こさなければ収まりが付かない。

 

 こうして、まんまとどこぞの隻眼爺の思惑通りに相対した神と人。その果てに待つのは、凄惨な現実だけだった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。