普段は書かない作風と東京に引っ越した友人と以前話をしていてそれを書いた物になります。
混沌の魔法使いにしては珍しいものを書いてるなーくらいの温かい目で見ていただければ幸いです。
夕暮れの光が川面を照らす河川敷に2人の少年の姿があった。2人ともその手にグローブを嵌め、何事か話しながらその手にした白球を相手へと投げる。
「明日の試合はどう? いけそう」
不潔じゃない程度に刈られた黒髪と中肉中背、イケメンではなく、かと言っても不細工でもない。THE平凡というのを絵に描いたような少年が山なりに白球を投げる。それを受け取ったのは長身で、鋭い目付きをしたどこと無く不良という感じの雰囲気をしていた。だが決して乱暴者という印象は受けず、スポーツをしている者特有の気の強さ、負けん気の強さが顔に出た……強いて言うのならばわんぱく小僧という雰囲気をした少年は受け取った白球を握りなおし、軽く足を上げて小さく腕を振りかぶる。
「ちょっ! ちょっと待って!」
振りかぶったのを見て焦ったようにもう1人の少年が待ってと言うが、あそこまで動いているのに止まれる訳が無く踏み込む動きに連動し、上半身が動き風きり音を立てて白球がリリースされる。
「行けそうって誰に言ってるんだよ。予選だぜ? 俺が負けると思ってるのかよッ!」
勿論投げ込みながら文句を言うのも忘れない、事実幼馴染の少年の言葉に気分を害したの本当の事で、このボールが投げれる自分が負けるものかよというのを証明すると言わんばかりの強気な視線と共に投じられた白球は真っ直ぐにもう1人の少年の胸元へと向かい、夕日に照らされた河川敷に小気味良い音が響いた。
「いったぁ……光ちゃん、もうちょっと手加減してよ」
慌てながらも捕球した少年はグローブを外し、手を振りながら目の前の少年――藤堂光(とうどう ひかり)を恨めしげに見つめながら文句を口にする。
「うっせ、お前が失礼な事を言うから悪いんだよ大和」
その視線と文句を鼻で笑い、痛い痛いとぼやきながら手を振る藤島大和(ふじしま やまと)を見ながら、腕を回し肩が温まったぞというアピールをする。
「じゃあ10球だけ全力投球しても良いか?」
「じょ、冗談! もう僕には光ちゃんのボールは取れないよ!」
無理無理と言って白球を隠そうとする大和に光は少し寂しそうな顔をする。かつては大和は自分のキャッチャーで、ずっと2人でバッテリーを組めると思っていた。小学校の時は大和の方が上手かった、だが中学の頃には完全に光の実力が大和を上回り、高校では大和は帰宅部となり、完全に野球から手を引いてしまった。勿論他にも理由はあるのだが、もう光と大和がバッテリーを組む事は未来永劫ありえない事だ。
「判ってるって、冗談だよ、冗談。そろそろ暗くなるから後ちょっとだけ軽くキャッチボールしようぜ」
「……うん」
互いに山なりで白球を投げ他愛も無い話をする。それが試合の前の光のルーテインの1つで、気を落ち着けて試合に備える大事な儀式のような物だった。
「明日の試合、お前見に来てくれるのか?」
「うん。買い物とかを済ませてから行こうかなって」
「試合開始が9時だぜ? 買い物行ってからじゃ途中からになるじゃねえか、最初から見に来いよ」
「そりゃ気持ち的には見に行きたいけどさ、無理なんだよ」
「おじさんとおばさんまた仕事か?」
「また出張だってさ、はぁー自分で洗濯とか掃除とか、ご飯を作らないといけないから本当大変だよ」
「主夫だから大丈夫だろ? 下手な女子よりお前の方が裁縫とか料理とか上手じゃん」
「必要に駆られてだよ。あと主夫って言うの止めてよね」
「わりいわりい」
互いに軽口を叩きながらキャッチボールを続け、十分肩回りがほぐれた所で2人は道具を片付けて帰り私宅を始める。
「午前の試合だから昼飯大和の所で食うわ」
「それそのまま泊まるつもりだよね? 日曜日休みだから」
嫌そうな顔をする大和の首に光は腕を回して悪戯っぽく笑う。
「良いじゃんかよー、俺とお前の仲だろー?」
「……はいはい、判りましたよ」
「言質取ったからな! 後昼飯はそうだなーハンバーグとか食べたい気分だ」
「お昼ご飯のリクエストまでする!?」
「するさ、後そうだなーゲームでもやろうぜ、お菓子とかジュースは俺の方で買うからさ!」
とんとん拍子で話を進めようとする光。これはいつもの事で大和は疲れたように溜め息を吐いて、いつものように光の要求を全て受け入れるのだった……。
スタンドから聞こえて来る押せ押せムードの応援を聞きながらホームベースを清め、アンパイアに一礼してからキャッチャーマスクを被る。その視線はバッターボックスの相手チームの4番……ではなく、マウンド状の光に向けられていた。3回の裏、ノーアウト満塁……しかも球数は47球と普段と比べてかなり多い。対戦チームが強い訳ではない、完全に光にその気が無いのだ。
(ちっ、悪い病気が出た)
光は確かに球速、コントロール、スタミナ、変化球……どれをとっても超高校級のピッチャーだ。1年で背番号10を与えられているのも別格の扱いだが、良いも悪いも気分屋だ。初回から制球が乱れ、ストレートは走っていない、変化球は曲がらないと守備に救われて失点こそしていないが、このままでは失点も時間の問題だ。しかもこのピンチでも光はきょろきょろとスタンドに視線を向けており、ランナーにもバッターにも意識を向けていない。
「藤堂! ちゃんとしろッ!」
「バッターに集中!」
グラウンド、そしてベンチから怒号が飛ぶがそれでも光はどこ吹く風だ。その様子を見て相手バッターも怒りの表情を浮かべている。
(不味いな)
このまま投げさせたら確実に失点する――それが判っているからキャッチャーは眉を細め、スタンドに視線を向ける。
「すいません、タイムお願いします」
「タイムッ!」
アンパイアに声を掛け被っていたキャッチャーマスクを脱いでマウンドへと走る。
「次はちゃんと投げますから早く帰ってくれますか?」
「大和がいたぞ」
言葉短く大和がいたとキャプテンが告げると光の目の色が変わった。それを確認してからキャプテンは再びホームベースに戻り、対戦相手とアンパイヤに頭を下げてキャッチャーマスクを被る。
「……おせえよ、ばーか」
三塁スタンドに大和の姿を見つけた光は人差し指をビッと大和に向け、帽子を被りなおす。
「ッ」
(遅いのはお前だ、馬鹿が)
大和の姿を見て光の目の色が、纏う雰囲気が変わり相手バッターが身を竦める。今までの腑抜けた様子ではない、相手をねじ伏せるという強い意思を感じ取りストレートのサインを出しキャッチャーミットを構える。
「シッ!!!」
力強い息を吐く音と共に投じられた白球は地面すれすれから大きく伸びてど真ん中に収まる。破裂音に似た音が響きキャッチャーミットに納まり、スイングした相手バッターはその伸びと重さに驚いた表情を浮かべる。
「ストライークッ!!!」
「ナイスボールッ!」
ほんの少しの怒りを込めて投げ返した白球を軽く受け止めた光は自信満々という表情を浮かべた。
「当たり前っすよ、キャプテン」
今の今まで手を抜いたピッチングをしておいてと思いながらもエンジンが掛かった光は紛れも無く超高校級の選手だ。ゆったりとしたフォームから放たれる白球の伸びは先程よりも凄まじくボールの下を叩き高く上がったフライを光が捕球し、ニッと笑みを浮かべる。
「ここから先は1球も打たせねぇし、塁にも出させねぇぜ」
その強い言葉に相手ベンチからは怒号が飛び、3塁側から歓声が上がるのだった……。
試合が終わってみれば3安打、6四球、失点ゼロの完封勝利を収めた光と共に帰路に着く大和。
「ちょっと最初は危なかったね」
「寝不足だったんだよ、まぁそう言う時もあるさ」
大和は光の不調が自分がいなかったことが原因だなんて夢にも思っていないので、光の言う通り寝不足が原因だと思い、ちゃんと寝ないとと注意する。
「ま、良いさ勝ったんだからさ。それより早く帰ろうぜ、腹減った」
「はいはい、判りましたっと」
光に促され大和は少し早足で歩き出す、身長差もあり大和と光が並んで歩くと大和が少し早歩きで同じ位の歩幅になる。
「汗でべとべとだから風呂入れて入っていいか?」
「……光ちゃんは自由すぎるよね、まぁ良いけど」
勝手知ったる他人の家。光は大和の家に当然のように自分の荷物を置いているし、その逆に大和も光の家に自分の荷物を置いている。互いに泊まったり、泊まりに行ったり、16年の人生の半分以上を2人でいるのが当然で過ごし、親同士も仲が良い2人の関係はとても近い物だった。
「んじゃ、風呂入ってる間に飯頼むな」
「はいはい、ちゃんとつからないと風邪引くからね」
「判ってるっつうの、つうかお前はおかんか!」
自分を子供扱いする大和に光はそう怒鳴り風呂へと歩いて行き、大和は苦笑しながらエプロンを身につけて昼食の準備を始める。
「ほっと」
光が食べたいと言っていたハンバーグをフライパンで焼いていると音を立ててリビングの扉が開く、その音を聞いてキッチンから顔を出す大和。
「あ、光ちゃん。もうちょっとじ……かん……が」
尻すぼみに大和の声は小さくなっていき、首からタオルを下げている光を大きく見開いた瞳で見つめる。
「判った判った、待てるから問題ないぜ」
タオルで髪を拭きながら歩く光は時期も時期なのでまだ日焼けをしておらず、白い透き通るような肌をしている。その白い肌を僅かに覆っている肌着に視線を奪われた所で大和はキッチンの中に引っ込んで声を上げた。
「ちゃんと服を着てからリビングに来てよ!? 光ちゃんは女の子なんだよッ!?」
胸と下半身を覆っている薄桃色スポーツブラとショーツを見て大和は耳まで真っ赤になり半分怒鳴るようにして叫ぶ。
「あーはいはいっと」
そんな大和に光は興味無さそうに返事を返し、リビングを出て行く。
「し、心臓に悪い……」
「……駄目じゃん、先輩……言ってること違うし」
互いに耳まで真っ赤にし、胸を手を当てる。早鐘のように脈打つ心音と、幼馴染でずっと2人でいるのが当然だった大和と光。
「光ちゃんは友達、光ちゃんは友達で幼馴染」
今まで通りに仲のいい友人として、そして幼馴染でありたい大和……。
「あーくそ、やっぱり大和が好きだなあ……」
今まで通りではなく、そこから一歩進んだ彼氏彼女になりたい光……。
イケメン女子と平凡男子の関係性は高校進学と共に変ろうとしてるのだった……。
東京に行った友人に以前送った小説を少し加筆してみた物を供養を兼ねて投稿してみました。イケメン女子と平凡男子(おかん系)。BLに見せかけたNL物と、まぁ性癖が天元突破してる友人のリクエストなので普段と違う作風ですが、エイプリルフールということで許してください。