ウマ娘に転生したけど、私はもう限界かもしれない   作:すごいぞ!すえはら

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第4話 メイクデビュー小倉、真夏のダート決戦

 メイクデビュー小倉。

 ダート1700m、新馬戦の舞台にサーキーは出走していた。

 

「良いですか、序盤は前に出過ぎず後ろすぎず落ち着いて……最後の直前になったら全速力ですよ!」

 

「まあ……善処しますけど」

 

 レース前の控え室で駿川さんにそう言われたが、やるべきことがよくわからない。そもそも、レースなど一度もしたことがないのに想像するのは無理である。

 

「せっかくゲートも出来るようになったんですから、落ち着いてやれば絶対に勝てますよ」

 

「はあ……」

 

 昨月はゲート試験を合格するために、何度も何度もゲートに入ることを強要されたので、生き残るために、競馬をしようという気持ちも消え失せてしまった。

 干し草を食べてのんびりしていたいだけなのに、どうしてこんな目にあわなければいけないのか。

 

「ゲートに入らないで、競馬をする方法ってないんですか?」

 

「ないですね、耐えてください」

 

「私、フライングとかしたりしませんよ?」

 

「サーキーさんはそう言いますけど、そういう子ならそもそもゲートに入るのを嫌がらないので」

 

 にっこりと笑って、『てめえの言うこと信用できないんだよ』という趣旨の発言をした駿川さんに少しムッとした。

 これまで寮のガ◯ジ達とも問題を起こさず、品行方正にトレーニングに取り組んできたのに、あまりにも酷い扱いではないか。

 

「最初はゆっくりって言いますけど、いきなり飛ばして他ウマと差をつけちゃ駄目なんですか?」

 

「最初に飛ばすと途中でバテちゃって、抜かされてしまったりしますし……序盤は他の子の後ろについて、風の抵抗を避けた方がいいんですよね」

 

「え? そんなの関係あるんですか?」

 

「ありますよ、大ありです。2番手集団からスルスルと抜け出して勝つような、美しい競馬が理想ですね」

 

「あと、サーキーさんの場合は……」

 

 そこまで言いかけてから、駿川さんはニッコリと笑顔を作って言うのをやめた。

 

「え? なんですか?」

 

「い、いえ……なんでもありませんよ?」

 

「気になるじゃないですか! 言ってください!?」

 

 私がそう詰め寄ると駿川さんは観念したように目を逸らしながら言った。

 

「……やめてしまうと思うので」

 

「え? やめる? どういうことです?」

 

「序盤にリードを奪ったら確実に後半はナメて走って、レースするのを辞めてしまうと思うので序盤はじっくり足を溜めてくださいね^^」

 

「あ、私のことバカにしてますね^^」

 

 駿川さんに再三、序盤は前に行くなと言われたのでそれは実行してあげることにして、後半も頑張って走らずに、ジョギングをしてやろうと思った。

 それで控えたことで負けたとしても、今度は自由にやらせてくれるはずなので、ここは駿川さんから、主導権を得るためにも適当に走っておかなければいけない。

 そもそも、走ることそのものが嫌いである私が、こんな暑い日に走ること自体が間違っているのだ。

 私の競走馬としての強い信念が、ここでは走るなと訴えかけてきていた。

 

「そ、それで……相談なんですけど」

 

「なんでしょうか?」

 

「レース用の蹄鉄のシューズに履き替えてはいただけないでしょうか?」

 

 駿川さんがオズオズと下手にでながらそう言ったので、なにを頼まれるのかと不安になったが特に問題のない頼みで安心した。

 

「ええ、わかりました」

 

「本当ですか!? 今、装蹄師を呼びますね」

 

「ええ、お願いします」

 

 安堵したようなため息を漏らしてから、駿川さんはハッと気付いたような顔をしてから私のことを見つめた。

 

「油断させておいて装蹄師さんを、蹴り飛ばすとかやめてくださいね! 本当に死んじゃいます」

 

「やりませんよ!? なんで靴履き替えるだけで蹴らなきゃいけないんですか!?」

 

 どう考えたらそんな発想が出てくるのかと、駿川さんのほうをじっと怨みがましく見つめてやると、駿川さんは居心地の悪そうに目を逸らしいた。

 若い短髪の装蹄師さんがシューズを履き替えさせてくれたので、トントンとその場で軽くジャンプをすしてみせた。

 

「悪くないですね。ありがとうございます」

 

「それは良かったです、またお願いします」

 

 私がそうお礼を言うと装蹄師さんは手際の良い動作で、荷物を片付けて部屋を後にした。

 その様子を不思議そうな目で、駿川さんは見ていた。

 

「なんでしょうか?」

 

「い、いえ……履き替えるときに暴れる子も多いので本当に大人しくしているとは思えなくて……やはり私とウマ娘との絆が、」

 

「あ、絆はないです」

 

 駿川さんが言いかけた言葉を遮って、私はそう伝えた。ただ靴を履き替える間、大人しくしていただけで褒められるのは、馬鹿にされているといっても良いだろう。

 

「ふふっそういうことにしておいてあげますね、今日のレース一緒にがんばりましょうね!」

 

「善処します」

 

 何やら嬉しそうな駿川さんをを刺激することもないので、そう短く答えることにした。

 

「それじゃあ、そろそろレースも始まることですしパドックに行きましょう」

 

 穏やかな声でそう言った緑色の畜生の右手には、真っ赤な首輪と革製のひもが握られていた。

 嫌な予感しかしない。

 

「パドックってなんです?」

 

「ああ、レース前にお客さんの前で私と一緒に歩いて集中したり、ファンに状態をアピールするための場所ですね」

 

「はあ……それは別にかまいませんけど……」

 

 私は駿川さんの持っている首輪に目を向けながら恐る恐る訪ねた。

 

「その首輪とロープは何につかうんです?」

 

「え? サーキーさんの首につけて私が手に取って、一緒にお散歩するためのものですけど……」

 

「とうとう馬脚を露わしましたね、この犯罪者^^」

 

 パドック、調教師、美少女、首輪、お散歩。

 完全に役満である。

 

「犯罪者って……な、なにもしてないじゃないですか」

 

「駿川さんにそんな性癖があるなんて知りませんでした! 近寄らないでください!」

 

「え……性癖?」

 

 私はオドオドする駿川さんから距離をとって、尻尾をバンバンと床に打ち据えて抗議の意思を伝える。

 

「女の子に首輪つけてお散歩とか頭おかしいんじゃないですか!?」

 

「あ、いや……女の子とは言ってもサーキーさんはウマですし」

 

「わたしにじんけんはないのか」

 

「いえ……だってウマでしょう?」

 

 当たり前のように、そう言った緑の畜生のことをキッと睨みつける。

 真っ赤な首輪をつけて年上のお姉さんにリードを引かれながらお散歩している様子を、公衆の面前で晒し者にされるなど、私にとっては魂の殺人に等しい。

 

「とにかく! 首輪をつけて人前でお散歩なんて絶対に嫌ですからね!!!」

 

「えっと……もうレース時間が……」

 

「そんなの知りませんよ! 私は絶対に行きませんから!」

 

「そ、そう言わずにお願いします」

 

「そんな姿見つかったら、お嫁にいけなくなるじゃないですか!?」

 

「さ、サーキーさんは良血ですし、きっと良い人が見つかりますから大丈夫です」

 

「そういう問題じゃないですよね!?」

 

 なんの慰めにもならないことを言いながら、赤い首輪を持ってにじり寄ってくる駿川さんに、私は正義のローキックを食らわせることに成功した。

 しかし、その後駿川さんが長鞭を持って登場したため、私は無事パドックを首輪をつけて引き回される運びとなった。

 

 ウマ娘に転生したけど……私はもう限界かもしれない。

 

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