ウマ娘に転生したけど、私はもう限界かもしれない   作:すごいぞ!すえはら

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第5話 競馬は才能>>>>>努力

 俺の名前は火下教。

 初めて競馬に出会ったのは小学生の時。競馬歴30年の生粋の競馬ファンにして、競馬記者だ。競馬のレースを見るために出張して記事にする。給料は安いがそれなりに充実した生活を送っている。

 

 小倉競馬場、ダート1700mの新馬戦。

 日本ウマ娘トレーニングセンター学園の理事長が馬主を務める期待の外国産馬サーキーがダントツの一番人気に推されて1.7倍。素人はこれだから困る。

 サーキーの血統は、父ネヴァーベンド系に母の父はヨーロッパ最高の種牡馬と名高いサドラーズウェルズ、良血には違いないだろうが日本向きの血統じゃあない。

 日本のウマ娘への舶来信仰にはウンザリしているんだ。アメリカから持ってきただけでロバでも走ると思っていやがる。

 だいたい、これだけ話題になっている馬が田舎のダートの新馬戦に出ている時点で、その実力は眉唾ものである。調教のタイムは悪くないが、特筆するほどのものではない。

 16頭立てのこのレースで1.7倍がつくような馬じゃあない。長年競馬を見てきた鬼記者としての勘がそう告げている。

 

 危ない人気馬。

 

 こういうレースにこそ、馬券の妙味があるってもんだ。

 2番人気に推されているフジノサンルイスを本命として、1700のダート良馬場なら7番人気のアクアエリアンも血統的に、面白いかもしれない。

 

 競馬新聞と、フジノサンルイスの3000円分の単勝馬券を握りしめて、俺はパドックへと向かった。

 

『なんでこんな大勢の前で生き恥を晒さなくちゃいけないんですか!!!』

 

『お、落ち着いて下さい、サーキーさん。普通のことですから、普通のこと』

 

 尻尾をバンバンと地面に打ち据えて、首を上下に動かしている。完全に大勢の人の前で我を失っている状態である。

 サーキーを引く駿川師の右腕が、大きく上下に動いている。

 厩務員と2人でなんとかなだめすかして1周回らせることに成功したようだったが、その後は馬列を止めて、中央部の人工芝に大きく割り込むとサーキーはまた大暴れを始めた。

 

「……調教師もいると思ったらそういうことかよ。ありゃあねえ」

 

 厩務員をヒャッハーロデオで振り回して、少し落ち着いたのかサーキーは耳を真っ赤にしながら大人しく再度周回を始めた。

 これはレースに出走して良いレベルなのだろうか……

 俺はその様子を音とフラッシュが出ないように何枚か写真で撮ってから、引き上げていくサーキーと手元の馬券を見てため息をついた。

 

「ここまで、暴れられたらみんな買わなくなっちまうよなあ」

 

 グングンとサーキーのオッズが上昇して気付けば、1.9倍になっている。二番人気のフジノサンルイスが割を食う格好だ。

 

「まあ、仕方ねえかあ。俺の眼力はたしかだったってことだしな」

 

 頭の後ろをポンポンと2回叩いてから、俺はメインスタンド前へと向かった。映像は後からいくらでも確認できる。

 競馬場のファンの生の雰囲気。

 これを俺は楽しみにしているんだ。

 ゴール地点前のカメラ集団に一声かけてから、一段高い位置へと向かう。片手にはスマートフォンの競馬場中継。

 

 これで準備は万端。

 

 話題の馬だ。記事になるかもしれない。サーキーお前の実力、俺がしっかり鼻を明かしてやるぜ。

 

『さあ、16頭立て……8番サーキーがやや、ゲート入りに手間取っていますが……』

 

 競馬中継から聞こえてくるアナウンサーの声を聞いて俺は再度目をつむった。

 

 あまりにも、酷すぎる。

 

 調教師はなにをやっているのだろうという言葉が喉まででかかったが、調教師はあの駿川師だ。

 完全にナスルーラの生き写しのようなあのウマ娘に問題があるのだろう。

 貫禄の目隠し入場でなんとかサーキーはゲートに入った。

 

『サーキー、ゲートに収まります。これで全ウマ、ゲートの中……スタートしました!』

 

『フジノサンルイス、そしてサーキーも好スタート、まずはスタンド前どの馬が先行するでしょうか……徐々に10番、ホットアイランドそれに続きまして13番アクアエリアン、この二頭が前に行きます』

 

「おーちゃんと、スタート切りよったな」

 

 予想に反した好スタートをサーキーは見せて、前をいく二頭の後ろにつけるフジノサンルイスの後方についた。

 

『1コーナーを回って、先頭13番アクアエリアン、リードは半馬身くらい2番手に10番ホットアイランド追走します、1コーナーから2コーナー、3番手は1番フジノサンルイス、8番サーキーが続いて、外から一気に16番モミジハーミット先頭に並びかけようかという勢い。3番サウンドファイターは後方からの競馬になります』

 

 結果として、縦長の展開ハイペースではあるがフジノサンルイスとサーキーは最高の位置どりにつけた格好だ。この差だと後ろのウマはなかなか前に届かないか?

 フジノサンルイスが、するすると前の2頭を捉えにかかって3コーナーから4コーナー。

 

「おし、最高の手応えや! 突き放せ!!!」

 

 思わず応援に熱が入る。この展開なら勝てる。2番人気とはいえ単勝は8倍強、今日の飲み代を踏まえても充分すぎるおつりになる。

 

『4コーナーを回って直線コース、8番サーキーだ! サーキーが来た。先頭、フジノサンルイスに並びかけ……いや、並ばない、並ばない! まだ、持ったまま持ったまま、サーキー先頭に変わった』

 

『8番サーキー先頭! 完全に抜けた、2番手1番フジノサンルイス、サウンドファイターは届いてこないか、3番手10番ホットアイランド! しかし、先頭は4馬身、5馬身!!!』

 

『サーキー後ろを振り返る、とてつもない強さ!!! 2番手は接戦! フジノサンルイス、ホットアイランド、そして5番フジヤマロールズも突っ込んでくるがっ!』

 

『先頭、8番サーキー1着ゴールイン! 全く問題にしませんでしたっ! 2着にフジノサンルイス、3着以下は接戦』

 

 あっという間にフジノサンルイスは、かわされて俺の馬券は紙屑になった。

 競馬は、努力ではなく才能。その言葉を俺は忘れていた。

 全く前傾姿勢をとらずに5馬身差、好位につける最高のレース運びでサーキーはデビュー戦の勝利を飾った。

 背筋にゾクゾクとするような電流が走る。

 

 馬券のことはもうどうでも良い。俺は最高の名馬の誕生に立ち会ったんじゃないか?

 これまでもデビュー戦を大勝して消えていったウマ娘はたくさん見てきた。

 だが、サーキーは違う。

 早熟どころか、次のレースに出走できるのかも怪しいほどの気性難。持ったまま相手を差し切るスピードと、そして何より圧倒的なスタミナを持っていた。

 

「これは……面白くなってきたぜ」

 

 手帳に向かって文字を走らす。今日の原稿はこれにしよう。話題性だけじゃない、実力も折り紙付となればデスクも逆らえまい。

 次の記事もその次の記事も俺がサーキーのことを書いてやる。

 

 怪物、サーキー! パドックで大暴れ!

 

 記事の見出しはこれが良いだろうか?

 手帳にそうボールペンで記入して、記事の構成を練っていると遠くから声が聞こえてきた。

 

『はあ!? ウイニングライブ? そんなの聞いてないですよ! 何で勝ったのにそんなことしないと行けないんですか!?』

 

『お、落ち着いてください……立ってるだけで良いですから! ね?』

 

『絶対嫌です!』

 

 5馬身差! 怪物サーキー ウイニングライブ断固拒否!!!

 

 俺は新たに手帳にその文字を書き加えて、ウィナーズへと向かうと、なかなかやってこないサーキーのことを温かい目で見ながら、口取り式をするためにウマ主の秋川理事長が待機していた。

 

 なお、口取り式までそこから10分以上かかった模様。

 

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