ウマ娘に転生したけど、私はもう限界かもしれない   作:すごいぞ!すえはら

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第6話 角砂糖を占有する者

「あ、あの……かなり何個も口に入れられているようですけど、それ何個目ですか?」

 

「23個目ですね」

 

 恐る恐るそう尋ねてきた駿川さんに、私は落ち着いて食べた角砂糖の個数を申告した。

 

「だ、駄目ですよ! そんなの! 健康に悪いですから1日1個までにしてください!」

 

 駿川さんは私の抱き抱えている角砂糖の袋をひったくると、そのままバッグの中に入れてしまった。

 

「あ! なにするんですか!?」

 

「角砂糖は禁止です! 禁止! さあ、今日も一緒にトレーニングを頑張りましょう!」

 

 駿川さんからキラキラとした目を向けられたので、私は選手寮の自室の床でのんびりと干し草を食べることにした。

 角砂糖ほどの甘さはないが、干し草も噛めば噛むほど味がでてなかなかおいしい。寝転んだままゆっくりとはむように干し草を口に運ぶ。

 

「ど、どうして一緒にトレーニングしてくれないんですか!」

 

「だって走るの嫌ですし」

 

 駿川さんは顔をしかめてから、部屋のピンク色のカーテンの淵を手に取ってカーテンを全開にした。

 薄暗かった室内に、強烈な太陽の光が差し込む。

 

「さあ、素晴らしいお天気ですよ! 一緒に練習しましょう!」

 

「んー干し草食べ終わったら考えます」

 

「それ、昨日と一昨日も言ってましたよね!?」

 

 私の部屋に駿川さんの耳障りな叫びが響く。

 

 せっかく人が空調の効いた部屋で窓から差し込む陽光を浴びながらのんびりしているのに、騒ぐのはやめてほしい。

 

「んーまだ、レースの疲れが残っているんですよ」

 

「え……カイ食いも良いですし、全くそんなふうには見えませんけど」

 

「いわゆる心労ですね。とにかくトレーニングは無理です」

 

 そう言ってから尻尾をパタパタとさせながら、のんびりと干し草を食む。

 こうしていると、競争社会の疲れた心が洗われるような気がした。

 

「次は芝のレースですし! 重賞ですごく強いウマ娘も出てきますし、負けちゃいますよ!」

 

「んー」

 

 そう言って駿川さんは危機感を煽ってくるが、特に負けてしまっても私個人としてはどちらでも良いのである。

 もうすでに新馬戦で1勝して、繁殖入りは確定させることが出来た。ハンバーグコースは避けられた訳なので、別にそんなに頑張って走らなくても良いのではないかというのが本心だ。

 

「まあ、暑いのでプールなら入っても良いですけど」

 

「プールに行くといつも私のことを落とそうとしてくるじゃないですか!? それに前回もプールでしたよね! 芝を走りましょう、芝を!!!」

 

「えー」

 

 はじめてプールに行って以来そこでトレーニングをする際には、必ず駿川さんをあの手この手でプールに叩き落としていたのだが、最近は警戒されてしまってなかなか落とすことができていない。

 汗をかいてしまうというのもあるが、芝は走ると滑って転んで怪我をしそうになるのが嫌なので、あまり走りたくはない。

 

「さ、行きましょう! 終わったら角砂糖をあげますからね!」

 

「む……動物扱いしないでください」

 

「動物ですよね!?」

 

 角砂糖をダシになんとか私のことを連行しようとする駿川さんに、私は干し草の上で寝返りをうちながら、テコでもうごかないという強い意志を見せつけた。

 

 しかし、30分程粘ったのちに部屋を出て行った駿川さんが鞭を持って再登場したため、仕方なく練習場に向かわざるおえなくなってしまった次第である。

 

 私は非暴力不服従を貫いているというのに、鞭で脅しつけるようなやり方は、非常に良くないと思う。

 これだから、暴力的な女は駄目なのだ。

 

❇︎

 

「さあ! サーキーさん! グリーンの絨毯ですよ! ダートよりも走るテンションが上がってきたんじゃないでしょうか!」

 

 たしかに屋外練習場の青々とした芝生は綺麗だが、さんさんと照りつける太陽があまりにも暑いためテンションなど1ミリたりともあがりようがない。

 駿川さんの言葉を無視して、コースの脇の芝生に寝転んで寝返りをうってゴロゴロしているとじっと睨みつけられたので、仕方なく立ち上がって準備体操を始める。

 

「次のレースは芝なんですか?」

 

「札幌ジュニアステークス! GⅢの重賞レースですよ! ついにレースに興味を持ってくれましたね」

 

 欠片も興味などないのだが、嬉しそうに話す駿川さんを止めるのも面倒なの、で適当に頷いておく。

 駿川さんは関心があると思ったのか、1勝している馬だけが出走すること、1800mのレースであることなどを教えてくれた。

 未知の強豪との戦いと言うけれど、あの新馬戦の内容を考えると、あそこで勝ったからといって強いという訳でもないと思う。

 

「芝を走るのはいいんですけど……1200mくらいの競争はないんですか?」

 

 私がそう問いかけると、駿川さんは自信満々といった表情で言った。

 

「サーキーさんはスタミナ血統ですからね! スプリントよりも中長距離のほうが得意だと思って、2歳世代の中ではあえて長めのレースを選びました!」

 

 余計なことを……

 短距離が得意なウマ娘と思われていれば、600mほど楽ができたのに台無しである。

 

 ここで負ければ、次からは短い距離のレースになったりしないだろうか?

 

 

 準備運動を終えて駿川さんが何か言っていたが、聞くのが面倒なのでそのまま走り始める。

 とりあえず走れば、文句を言われることもないだろう。

 

 

 軽くジョギングを始めたつもりでも、暑いなか緑のスーツを着たキ◯ガイの姿は、あっという間に小さくなっていった。

 途中から駿川さんの声の音量が、人間が出せる最大近くになっていた気もするが気のせいだろう。

 勝手に小さくなっていったので、よく聞こえなかったし。

 

 芝はダートに比べて土を捉えにくく、靴の裏が滑るような感覚がある。あまりスピードを出すと転んでしまいそうなので、意識的にスピードを緩める。

 

 ある程度走ると、駿川さんもどこかに消えてしまったので、木陰のベンチでのんびりと休憩をとることにした。

 

 前世ではこうした時に、本を読んでいたけど……仕事が忙しくなってからは、読まなくなっちゃったなあ。

 

 前世では、成長するにつれて徐々に徐々にと心のゆとりがなくなっていった気がする。

 

 たいして好きでもなかった麻雀という競技のプロで生計をたてていたのも、良くなかったかもしれない。

 

 賞賛や期待の言葉は嫉妬へと変わり、いつしか勝って当然という重圧へと変わる。

 

 周囲の人は麻雀が大好きな人が多かったけど、私はどちらかといえば嫌いだったと思う。人より少しだけ麻雀が得意だったから、競技から逃げられなかっただけだ。

 

 一緒に麻雀をする友達が出来て楽しいと思うことは一瞬はあっても、真剣にやればやるほど人のドロドロとしたところや、競技自体のつまらなさが目について……

 

 思えばその繰り返しだった。

 

——ま、今も同じようなもんか。

 

 楽しそうにグリーンのターフを走る他のウマ娘たちの姿を眺めやる。

 

 その中にキョロキョロとあたりを見回しながら走る緑の畜生の姿が確認できたので、私はゆっくりとベンチから立ち上がった。

 

 軽くジョギングをして、もといた芝生のあたりでゴロゴロしていることにしよう。

 日差しがキツすぎるのは問題だが、青空を眺めながらふかふかの芝の上で、お昼寝をしたらそれなりに楽しいはずだ。

 

 隠し持っておいた角砂糖を口の中に放り込むと、じわっとした甘みが口いっぱいに広がった。

 

「お昼寝、お昼寝♪」

 

 

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