今年はちょっと、趣向を変えて。
どうぞお楽しみくださいな。
~羽依里 side~
四月三日。
空はどこまでも青く澄み渡り、降り注ぐ日射しに体はしゃんと背を張る。
この島と初めて出会ったあの日から5年。
俺は、ある決断をした。
「・・・俺さ、島の外に出ることにした。やりたいこと、この島の外に見つけたんだ」
そう、俺は世界を旅することに決めたのだ。
鳥白島少年団の面々の前でそう語ったのは、今から二日前の事。結構前から決めていたけど、発表した日付が日付なだけに、みんなからは嘘だろと言われた。
けど、その言葉に嘘はないんだ。
そして、気が付けば出発の前の日になっていた。
「鷹原がいなくなると、寂しくなるな」
「またいつか帰ってくるよ。この場所に恩返しもしたいし」
「当たり前だ! 絶対に帰って来いよ」
「ああ。それでもって、時々卓球の相手にもなってもらうぞ」
「ははっ、考えとくよ。そのころに体が動くのか分かんないけど」
冗談を絡めて、島の同期のみんなと談笑する。
けれど、俺はそれをするためだけにここにいるわけではない。待ち人を待っているのだ。・・・が、一向に来ない。
「? どうしたの? 羽依里」
「いや・・・。あいつが来なくてさ」
・・・そう、いつまでたっても、鴎が来ないのだ。
共に行くと約束した、あいつが。
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~鴎 side~
羽依里に出会った。
それが夢なのか現なのかは分からないけど、私は羽依里に確かに出会った。
そしたら、私は目覚めちゃった。
どんな奇跡を重ねても足りないくらいの奇跡が私を呼び起こしたんだろう、きっと。
なんて、それは恋の魔法だったりして!
ゆっくりだけど動けるようになった足で、私は今度はちゃんと羽依里に出会った。
そして、もっと好きになった。
二人で島で過ごした。そしたら、もっと好きになった。
・・・でも、私にはもっと好きなことがある。今度はそれが欲しくなっちゃった。
もっと、冒険をしたい。
見たことないものたくさん見て、知らない場所を歩いて、笑って泣いて喧嘩して仲直りしたい。
そんな私の手を羽依里は取ってくれた。
一緒に行こうって。
・・・でも、でもね。
私はわがままだから、もう一つ欲しい言葉があるの。
だから・・・いたずらしちゃうんだ。
羽依里。私を見つけてね。
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~羽依里side~
結局、いつまでたっても鴎は来なかった。
バイクで島中を一通り巡ってみたけど、全く手ごたえ無し。ここまでくると不安になる。
そんな俺が一旦家に帰ると、俺宛に置手紙がしてあった。
「鴎から・・・!?」
『羽依里へ
私を見つけて。私はそこで、あなたをずっと待ちます
鴎』
「あいつ・・・」
どうしようもなく、俺は苦笑いを浮かべた。
出発を前にして、私を探して、だなんていかにもあいつらしいいたずらだ。
苦笑交じりに手紙を裏返すと、もう一文別の言葉が書いてあった。
『ヒント・・・教えてあげないよ、じゃん!』
「イラッ」
ヒントという文字が見えて、一瞬でも期待した俺がばかだった。でも、そんなあいつだから、俺は好きになったんだ。
島のほとんどは回った。けど、まだ一か所だけ行っていない場所がある。
立ち入り禁止を気にして入ることが出来なかったけど・・・、そこしか宛がないなら行くしかない。
俺の、この島での最後の冒険だ。
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あの日は日が昇っていた道を、今は夜道をかき分けて進む。
明かりなんてものはない。手持ちの心もとないライトを頼りに、先先進んでいく。
それでも、見えるものはあった。
錆びたレールに、小さな岩場に、あの日の幻影がよみがえる。
大人になった今でも、あの日のことは忘れられない。
きっと、この道の先に鴎はいる。
さあ、どんどん進んで行こう。
スタートラインはもうすぐそこだ。
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~鴎side~
日は落ち、遠くで月がぼんやりと水面に映っている。
私は海賊船の上で、ただ待ち続ける。
小さなランプで灯らせた手元、いつかみんなから貰った手紙を読みながら、足をぶらつかせて待ち続ける。
「・・・あ、これ羽依里のだ」
子供らしい、大きな文字で書かれた感想文。
その無邪気な文章に、私はそっと笑む。
・・・聞こえる。遠くから足跡が。だんだんとこっちに近づいてくる。
幼心のような、無邪気な笑みを浮かべた彼が、だんだんと近づいてくる。
「鴎!」
「やっ。やっぱり、見つけてくれたね」
結構急ないたずらをしたっていうのに、羽依里は涼しい顔をしていた。ちょと悔しくて頬をふくらませる。
「なんでそんな余裕そうなのさ」
「なんでったって、鴎のいたずらには慣れたからな。それに、ここしか選択肢がないだろ」
「まあね」
ヒロインは、思い出の場所で主人公を待つものだから。
私もヒロインになりたいんだもん。ここしかないよね。
「よっっと」
羽依里は海賊船に端からひょいと上って、私の隣に座る。
そして、二人で遠く揺れる海を羨望の眼で眺めた。
「鴎」
「どうしたの?」
「何か忘れ物とか、あったりしないか? この島に」
「ないよ」
うん、この島に残したものはもうない。
羽依里との出会い。いつか夢見た海賊船。幸せな日々。
もうたくさんのもの、貰っちゃったから、忘れ物なんてない。
「そうか・・・。でもな、俺は一つだけあるんだ」
「え?」
驚いて、羽依里の方を向く。
その羽依里の左手には、小さな小箱が。
「えっ?」
「鴎とはさ、この島で結ばれたくて・・・」
小さな箱が開かれる。
そこには、白金に輝くリングが一つ。
「俺はこの島で鴎と出会った。この島で好きになった。だからな、ちゃんとここでゴールして、結ばれたい。・・・鴎、俺と結婚してくれ」
驚きのあまり声が出ない。
けれど、胸の奥の方がいままでにないくらい熱くなってる。・・・ああ、そっか。私、嬉しいんだ。
そりゃ、プロポーズされて嬉しくない彼女なんていないよね。
・・・うん、受け入れるよ。ちゃんと、見つけてくれたから。
「・・・ふふっ」
「どした?」
「私、プロポーズされちゃったんだ」
「まずかったか?」
「ううん。・・・とっても嬉しいよ」
「それじゃあ・・・」
「うん。末永くよろしくお願いします」
私がそっと微笑むと、また羽依里は無邪気そうに喜ぶ。
すると、遠くから小さく鐘の音が響いてきた。どうやら、日をまたいで四月の四日になったらしい。
「あぁ、そうだったな」
「?」
「誕生日、おめでとう。鴎」
言われて私も初めて思い出した。さっきのプロポーズで頭真っ白になっちゃっただけかもだけどね。
「うん、ありがとう」
そして言葉もなく、私たちは軽く口づけを交わした。
それ以上のものはいらない。最高の誕生日プレゼントだ。
だからさ、私も最高のお返しをしなきゃね。
「ねえ、羽依里」
「?」
「だーいすきっ!」
出発までもう少し。それまで二人でこうして果てのない海を眺めていよう。
君と一緒なら、どこまでも行けるから。
無邪気なキャラクターに、シリアスは似合わない!()
などとまあ、これまで幾多の激重SSを書いた男が申したところで説得力はありませんが、今回はこんなテイストで攻めさせていただきました。
感想、評価等お待ちしております。
ご拝読、ありがとうございました。