ホラーゲームに転生させるとか、神は俺を嫌っているようだ(Re)   作:かげはし

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第十話 奇襲01

 

 

 急に始まった事態に俺は困惑する。

 妖精は姿を見せず、何もかも突然ゲームを開始させてきた。

 

 人を嘲笑うこともしない。阿鼻叫喚エンドのように何かしら意味深なことを言うわけでもない。

 

 

(やっぱりゲームがおかしくなっているのか……?)

 

 

 キリキリキリ、という何かが裂ける音が聞こえる。

 紙を引き裂いたような音に似ているが、この世界では始まりを意味する音。

 

 化け物が空間を裂いてやって来た、ゲーム開始の合図だ。

 

 慌てて周りを確認するが、化け物らしき影は見当たらない。

 まだ始まったばかりなのか、それとも化け物は……。

 

(そういえば第二話って白兎が外に居るせいで化け物が狙うのがクリスタル結晶じゃなくて……)

 

 

 あれ、これってやばくないだろうか?

 悲鳴はまだ聞こえないけれど、追いかけっこしている最中だとしたらやばい。

 

 そう思い鏡夜を探す。

 クラスメイトがいる図書館内はただただ騒然としていた。

 

 

「何? また何かやらされるの!?」

 

「えっ待ってスマホ県外だし……ここ何処なの?」

 

「ここって夕日丘図書館だよな。部活してたはずなのに……」

 

 

 彼らは狼狽えていた。

 何が起きてのか分からず、混乱しきっていた。

 

 夏は壁に背を付けて周りを観察しているだけ。

 春臣は……鏡夜に何かを話して離れていく様子が見えた。

 何時の間に仲良くなったんだろうか。いや春臣の様子からしてなんか怒っているみたいだし煽り倒して何かをやらせようとしているのだろうか。

 

 そうして鏡夜は────図書館の奥にあるクリスタル結晶の前でそれを睨みつけている。

 何を考えているのだろうか。なんだか声をかけにくい雰囲気を漂わせていた。

 

 眉を顰め、唇を噛みしめている。

 クリスタル結晶に触り、遠くを睨んでいるのだ。

 

 鏡夜がいる方向を見ても誰もいない。

 もしかして白兎が来たのかと思った。白兎は現実世界だと鏡夜しか見ることが出来ないようなものだから……。

 

 でもここは境界線の世界。つまり白兎がいても俺達が見つけることが可能。

 なら何を見て────。

 

 

「き、鏡夜?」

 

「……ああ、紅葉。突然なんだが少しお使いを頼めるか?」

 

「え、急に何言ってんだ!?」

 

 いやマジでこいつ何言ってんだろう。

 もしかして妖精に頭を弄られたのか? そう思って頭を見ていたら鏡夜が俺を見て目を細め「妖精に何もされてはいないぞ」と言う。

 

 しかしそれだけでは納得しきれず、俺は冷や汗をかいた。

 なんだか怖いのだ。このまま頷いてはいけないような気がしてしまう。何か怖いことが起きる前兆化と思える程度に悪寒が走る。

 

 これは駄目だ。

 たぶん、きっと……。

 

 鏡夜が何を考えているのかが分からない。

 絶対的な味方であるはずの神無月鏡夜が怖いと思ってしまう。

 

「ボーっとするな紅葉。やるのか、やらないのか?」

 

「いやでも急にお使いって……だってあの音聞いただろ!? 化け物がここにやってくるんだよ! それに白兎のことも気になるし……それなのに俺に何をさせようっていうんだよ!?」

 

「別クラスと共同戦線だ」

 

「……はっ?」

 

「お前が海里夏を追っている間に赤組と話を付けておいた。クリスタル結晶は赤組が守り、戦力外のクラスメイトは避難してもらう作戦を立てていたんだよ。……ゲームが始まるのと同時に何処にいるのか伝えるつもりだったんだ」

 

 

 鏡夜がスマホを見ながらそう話す。

 もしかして……難しそうな顔をしているのは、連絡することが出来ない状況だからだろうか。

 

 でも、それでも何で嫌な予感がするのだろうか。

 彼の頼みごとを受け入れてはいけないような気がするのだ。あの時夏が妖精を殺しかけてから何かがおかしいような気が……。

 

 

「赤組が主人公の派生ゲーム……たしか、夕赤と言ったな? お前ならあいつらが何処にいるのか分かるだろう。赤組の奴らが来る間に俺たちはクリスタルを守る。お前は桜坂春臣と一緒に向かってほしい」

 

「それは、でも……」

 

「紅葉、お前は死にたくないだろ? このままここに居ても仕方がない。俺の頼み事を聞けるはずだろう?」

 

 

 

 彼に言い訳をすることなんて出来ない。

 何も言えず狼狽える俺に残されているのは頷くという行為のみ。

 

 ────拒否権は、なかった。

 

 

 

 

 


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