ホラーゲームに転生させるとか、神は俺を嫌っているようだ(Re)   作:かげはし

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第十一話 奇襲02

 

 

 

 俺が知るこの世界はゲーム世界『ユウヒ―青の防衛戦線―』が中心で動いている。

 夕青シリーズは全部で四作品。一年から三年までの夕日丘高等学校の生徒としてのお話とその後をメインにしたホラーゲームだ。

 その後赤組と黄色組をメインにして書かれた、『ユウヒ―赤の攻略戦記―』と『ユウヒ―黄の生存戦略―』がホラーゲームとして新たに発売されるようになった。

 通称夕赤と夕黄は夕青のクリアデータがあればその状況通りに動くようになり、基本的に夕青の日常によってその攻略の仕方が変わるようなゲームだった。

 

 しかし通常のホラゲーとは違って対応策はゲームごとに変化していた。

 特定の化け物が出ると分かっているのは第二話まで。それからは数千にも及ぶであろう化け物共の中から選ばれるとかなんとか。少なくとも俺は何度もリトライしてやっていても同じ化け物と遭遇することはできなかった。

 

 普通であれば第二話の後から行われるゲーム難易度は確実に急上昇する。

 俺の知識が意味のない未知の化け物さえ出てくるかもしれない。そんな状況になるかもしれないと危惧はしていた。

 

 今となっては、もうどうなるのか分からない未知の領域なのだが……。

 

 それに、第一話はプロローグ含めたチュートリアルの練習のようなもの。

 境界線内で出てくる化け物は主に五感のどれかが鋭く、それ以外が劣っているものばかりだ。

 順番で言うと『聴覚』、『嗅覚』、『触覚』、『視覚』――――そして第一話の最後に現れるはずのプレイヤーにとって難題の『味覚』がいる。

 

 夕青だけじゃない、夕赤と夕黄にもそれぞれ別の化け物がいる。

 しかし化け物や境界線の世界へ招かれる場所が違っているだけであってその特徴は同じだ。

 

 だから今回の化け物は嗅覚。匂いが特徴になるはず……。

 聴覚たる化け物と対峙していないからどうなるのかは分からないのだけれど……。

 

 

 鏡夜の態度も気になってはいる。でも拒否権はない。やるべきことをやるために、生き残るために頑張らなくてはならない。

 なんか自ら危険な目に遭うために行動しているような気もしなくもないけれど……まあ大丈夫かな。

 

 図書館の外、化け物がいるかどうか気にしつつ向かった先は駐輪場。そこにいたのは壁に背を向け俺を待っていた桜坂春臣だった。

 俺よりも身長が高く大柄な男である春臣ならなんとかしてくれるかもしれないと期待を持っていた。なんせ彼は夕青の戦闘特化のキャラクター。防衛戦において必要不可欠な存在。まあ戦闘と言うだけあって死亡率は主人公たる鏡夜を抜けば彼が一番大きいけど。

 

 春臣は少し苛立っているようだった。

 鏡夜に頼まれごとをされたせいだろうか。それとも俺を待っている時間が長かったからか?

 

 でも俺を見た瞬間春臣は小さく溜息を吐いてこちらへ手招きしてきた。その様子から見て俺の事は怒っていないらしい。

 

「おう、ようやく来たな紅葉」

 

「ええと、待たせてごめん。……よろしくね。桜坂くん」

 

 彼は何故か、俺に向かって同情したような目で見てきた。

 どういう意味なのかと思って首を傾ける。

 

「ハッ、あの神無月の野郎にこき使われてるんだろ。お互い苦労するな」

 

「う、うん?」

 

「あ? お前神無月に指示されてここに来たんだろ? なんか弱みでも握られてんじゃねえのか?」

 

「い、いやそんなことはないけれど……」

 

「はぁ? じゃあ何であのクソ野郎神無月の指示聞いてんだよ。被虐か?」

 

「いやあり得ないから」

 

 というか春臣くん、どういう目に遭ったんだ。

 一応ゲームでは鏡夜と春臣はちょっと相性が悪くて喧嘩しやすい設定だったし、鏡夜自身人嫌いしてる部分もあるからなぁ。素直に命令聞く春臣じゃないから協力してくれるようになるまでプレイヤーからは全く見えない好感度とか稼がなきゃならないルートとかもあるみたいだし。今回の場合は弱み握ったルートか?

 でもそうなると鏡夜が危険な目にあった場合、桜坂春臣が助けてくれる可能性は限りなく低くなると思うんだけれども……。いや何度か命を救えばどうなるかは分からないけれど。

 

 まあここはゲームの世界じゃないし考えなくてもいい……か?

 ……あれ、そういえば俺の『生き残りたい』っていう願いは鏡夜にとって弱みになるのか?

 

「おら、考えてる時間はねえぞ。早く乗れ」

 

「……自転車での二人乗りは違反じゃない?」

 

「あぁ? こんなわけ分からねえ世界でんな律儀なこと言ってんじゃねえよ面倒くせえ! おら、お前は周囲を警戒しとけ、行くぞ!」

 

「アッハイ」

 

 これ以上春臣を待たせていたらキレそうだから素直に乗ることにしよう。

 というか本当にこいつ顔だけ見れば西洋の王子様みたいな人なのに口を開いたら残念だよなぁ。まあ見た目が良くて中身が残念という意味では鏡夜といい勝負だろう。

 

 自転車に乗って、勢いよく漕ぎ始めた春臣に掴まりつつ周りを見渡した。

 移動速度が速いため景色が流れるように進む。図書館から出る途中で────白い少女を見たような気がした。

 

 でも無理やり後ろを見たが、そこには誰もいなかった。

 白い少女たる、白兎の姿は何も映っていなかった。

 

 それに少しだけ焦燥感が募る。

 

(白兎に話しかけても、きっともう無理か……)

 

 夕青は白兎を助けラスボスを闇落ちさせないための物語でもあると、俺はそう思っている。

 けれどプロローグで妖精が殺されゲームが中断した状況で白兎がどうなったのか分からないし、いまもそうだ。

 

「なんか……おい紅葉、こっちであってんのか?」

 

「えっ?」

 

「あぁ? 聞いてねえのかお前。赤組がいる方向はこっちで合ってんのかって聞いてんだよ!」

 

「あ、う。うんそうだよ。市民プールに赤組がいるよ」

 

 

 そう、夕赤での第二話はプールの周りで攻防するゲームとなる。化け物は嗅覚に鋭いため、匂いを追って襲い掛かってくる。

 クリスタル結晶はプールの中に沈んでいるので正直言ってこの時の夕赤は自身の身を第一に考えて動くこと。

 匂いを追うのは生徒たちの方を優先しており、時々プールの中へ潜み隠れつつ奴らの隙を狙って攻撃しなくてはならない。

 

 そうじゃなければいつか化け物達がプールの中にクリスタル結晶があると悟って水の中へ入りに行くのだ。

 化け物が水に入ると一気にスピードが増し、まるで狂暴なサメのように口を大きく開いて全てを呑み込もうとするため、詰みだったはず……。

 

 つまり、陸地では嗅覚を使って獲物を追いかける化け物と攻防しつつ、プールの中へ入れさせないようにするステージだった。

 そのプールと図書館までの距離を考えてか、春臣は自転車を漕ぎつつも嫌そうな顔で舌打ちした。

 

「チッ、町の正反対にいるんじゃねえよ全く」

 

「まあそれは妖精が配置したせいだから……はは……」

 

 派手な舌打ちをもう一度したが、それ以上の愚痴言わないことにしたらしい。彼はただ、まっすぐ前を見て漕ぎ続ける。

 そうして────やがて、何か驚いたような声を出してきた。

 

「化け物か。俺達はまだ会ったことがない、よな?」

 

「うん、まだ会ってはいないよ。きっとこれから会うことになると思うけれど……どうしたの、桜坂くん?」

 

「いや、なんか前にもこういうことがあったような気がしてな……町中を走り回って、それで化け物に追われて、喰われたような……」

 

「えっ」

 

 急にそう言ってきた言葉に驚いて彼を見た。背中しか見えないけれど、彼の声はなんだか戸惑いに満ちているような感じがする。

 でも何かを確信しているような感じがしてならない。

 

「あっ」

 

 ────不意に、真横から物凄い勢いで何かがぶつかってきた。

 まるで車にはねられたかのような衝撃。自転車がなぎ倒され、俺達は転がり落ちていく。

 反動が凄まじく、身体中に激痛が走る。何処か痛めたのか、思うように立ち上がることが出来ない。

 

 明滅する視界に見えたのは奇妙な音を奏でる化け物。

 複数の人間の身体を物理的に切り取り、つぎはぎにしてくっつけたかのような奇妙な生き物がいた。

 

 そういえばと、忘れていた。

 夕青は図書館、夕赤はプール。夕黄は商店街だったはずだ。ゲームステージは。

 

 俺たちが向かっていたのはプール。

 その最中、商店街を通り過ぎなくてはならなかったはず。

 

 ここは一体、何処だ?

 何故俺は忘れていたのだろうか。

 

「ぐっ。おい紅葉、大丈夫か!?」

 

「う、ん……いちおう……」

 

「チッ!」

 

 力が抜けて立ち上がることすら出来ない俺を背負い、化け物から遠ざかるために駆けていく。

 化け物はまた奇妙な音を出し、人間の腹に位置する箇所にくっつけられた歪な顔が俺たちを見ているとぼやけた視界から理解できた。

 

「クソが!!」

 

 走っても走っても化け物は追いかけてくる。俺を見捨てて逃げればいいのに。死にたくないけれど、身体に力が入らず逃げることすら出来ない足手まといを抱えている春臣ならできるはずだというのに。

 

「ギィ!」

 

 聞こえてきた奇妙な声がしたのは真後ろから。

 春臣が呻くのを見て、ふと足元を見れば足先にて見えたのは複数の足をくっつけた化け物だった。その足先にくっついている様々なサイズの歪な顔が、春臣のふくらはぎに噛みついていた。

 

 化け物の複数の手が春臣の肩に掴みかかっていているのが見えた。

 春臣が激痛に呻いているのが見える。

 なんとかしようとして、痛みが走る身体を無理やり動かし立ち上がろうとしたが、そうしている間にも化け物の腕の一つに掴まってしまった。

 

 グチャっというような肉が潰れる音が聞こえる。

 骨がバキバキと鳴る音がする。

 

 化け物の力が強い。異質で気持ち悪い見た目をしている奴らが、俺達を食い物として見ている。

 痛い。痛いのになんで……。

 

(な、んで……)

 

 夕黄の生徒たちが商店街にいない理由が分からない。

 助けてもらおうと思ったのに、誰もいない。何もいない。なんで?

 

 

《ふふ、うふふふふ。アハハハハハハ! 私がここに居て驚きました? うふふ。貴方を■■■■て良かった。私はね、■■のおかげで自由になることが出来たんですよ?》

 

《私を自由にしてくれた■■に感謝を!》

 

《私はゲームマスターです。私こそが■■■なんですよ!》

 

《今は殺さないであげるんですから感謝してくださいね? だって私がこうして出られたのは■■のおかげですし?》

 

《これからの短い時間。とっても短い人生を楽しんでくださいね。――――まあ、すぐに私が殺しちゃいますけど》

 

 

 

 ────走馬灯のように広がるこの声は、いったい何?

 

 

 それを考えるより先に、意識が消失していく。

 朧げに感じた意識の中。春臣が食われかけている場所を遠くから眺める人物がいると気づく。

 図書館にいるはずの神無月鏡夜が、俺たちを助けもせず観察するように見ていると分かってしまったのだ。

 

 なんで鏡夜がここにいるの?

 

 

「────リセット」

 

 

 風に流されるように微かに聞こえてきた声は、聞き覚えのある少女のものだった。

 

 

 

 




ここから先は紅葉が知らない裏側の話────。



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