ホラーゲームに転生させるとか、神は俺を嫌っているようだ(Re)   作:かげはし

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第十八話 疑念

 

 

 

 

 

《────思い出して》

 

 

 

 そう誰かに囁かれたような気がする。

 でもその声が誰なのか分からない。

 

 少女だった気がする。少年だったかもしれない。

 いやもしかしたら女か男か。それぐらい曖昧で、性別すら分からないぐらい奇妙な音だった。

 

 何を思い出せばいいのか。

 何を俺に求めているのか。それすら分からない。

 ただ頭が痛い。身体中が痛い。まるで何かに締め付けられているかのようで、苦しいと思う。

 

 

《おもいだして》

 

 

 思い出すのは、つい先ほど見たあの映像と音だけだった。

 ゲームのような表記。声は俺に似ていたけれど、俺が出した声じゃないような気がした。

 

 あの映像は、あの妖精の声は……いったい、なんだったんだろうか。

 

 

 

「あ、れ……」

 

 

 目が覚めると、見知らぬ天井が見えた。

 周囲は和室だろうか。中央の布団に眠らされていたらしい。でも誰もいない。襖の外は薄暗いようで、小さな電球だけ付けられており、まるで夢の中の地下室のようで恐怖心を思い出してしまう。

 でもここは違う。きっと。

 頬をつねっても痛みはある。匂いも分かる。周りを見て、一度目を閉じても何も変わらない。景色が一変するわけでもない。

 

 だからきっと、ここは現実だ。

 そう思い込み上体を起こして座ろうとしたが激痛により断念する。

 

 

「ぐぅ……なんだ、これ……」

 

 

 身体中が痛い。まるで全身筋肉痛になったかのようだ。

 

 思い出したくもない記憶にあるのは殺されたという事実。

 あの時、あの鏡の中に引きずられて……。

 

 

「痛みが現実にまで影響を与える……のか……」

 

 

 境界線の世界だったら、どうなっていたことか。

 それだけを考えて眉間に皺を寄せた。

 

 夢について考える。何故アレを見ていたのか。

 必ず理由があるはずだと────

 

 その瞬間、俺の近くで襖が開かれた。

 一度恐怖で肩を震わせてしまったが、そこにいたのが呆れた様子の男────星空だったため小さく息をつく。

 

 

「ようやくお目覚めっすか。アカネちゃんや桃子ちゃんが想定しているよりもながーく寝てたみたいっすけど、もしかして昨日寝てないとか?」

 

「いや、そうじゃない……それで、俺は今どうなんだ。一度死ぬ必要があるとかないとか言っていたが、ちゃんと俺は死んだぞ」

 

「そうっすね~。とりあえずアカネちゃんとお話してからにしましょうか。俺はただ、直感でアンタを呼び寄せただけっすから」

 

「……直感か」

 

「そうっすよ。俺は星空家代々契約している神様のおかげで、直感力に優れてるんでね。……まあ最も、アンタの魂がぐちゃぐちゃになっているとかはアカネちゃん達の力のおかげで分かったんスけど……」

 

「……その神って言うのは、本物の神様の事か? それともアカネって人の通称か?」

 

「いーや。アカネちゃんは俺達の神様って意味」

 

 

 神と言われて、それを信じられるわけがなかった。

 しかし現状あの夢を見た後だと少しだけ不気味に感じてしまう。

 

 

「アカネちゃーん! 早く来るっすよー」

 

「はーい」

 

 

 ゆっくりとやってきたのは、朗らかな笑みを浮かべた少女。

 少々勝気の真面目そうな様子とは違い、なんだか全てを抱擁してしまいそうな雰囲気を感じる。危険性なんて感じられない。敵意もなく、俺が付き飛ばしたらあっけなく怪我してしまいそうなほど小さい少女。

 

 彼女の容姿に心当たりがあった。

 

 

「……あの時、夢の中であったのはお前か?」

 

「あら、素で話すのね……ふふ、ええそうよぉ。私が貴方の縁を切っただけ。あの羽虫のね」

 

「羽虫?」

 

「妖精の事よ。縁切りには記憶も必要になるもの。貴方にとって一番最初に見たもの。出会った時から繋がっている縁を……あなたを殺した瞬間、私が切っただけ」

 

「はっ? いや待て、俺はあんな場所に行った覚えはない!」

 

 

 どういうことなのかと、目の前にいる少女を睨みつける。

 彼女は俺の怒声に怯えもせず、ただ呑気に首を傾けて何かを悩んでいる様子だった。

 

 

「うーん。話すと長くなりそうね。あっ君ちょっと部屋から出て行ってくれるかしら? どうせなんだしお夕飯の準備してきて」

 

「あーもう。俺を関わらせたくなってことっすか? そういうところっすよねアカネちゃんほんと理不尽っていうかなんて言うか」

 

「ふふふ」

 

 

 苦笑しつつも、ひらりと手を振った星空が部屋から出ていく。襖が閉まった瞬間、少女が俺を見た。

 その表情と目の奥に宿る感情は何一つ変わらない。

 

 緊張感のない朗らかな声色で俺に向かって口を開く。

 

 

「忠告を覚えてる?」

 

「……紅葉秋音をどうにかしろって話か?」

 

 

 思い出すのは彼女が夢の中で言った言葉。

 死にかけていた俺に向かって小さく『紅葉秋音を殺してしまいなさい。そうすればきっと、糸は切れるわ。その後は充分注意して、死なないようにね』といっていたこと。

 

 

「紅葉を殺すっていうのは、どういう意味だ」

 

「そのままの意味よ。境界線の世界で一度でもいいから死んだ方が良いってこと」

 

「何故? 紅葉に何があるんだ?」

 

「妖精の操り人形が彼女なだけよ」

 

 

 何故そう言い切れるのか。

 紅葉秋音について何を知っているのか。

 

 言いたいことは山ほどあったが、それを聞いていいのかと戸惑う。

 彼女を信じていいのかと思ってしまう。

 

 

「操り人形だから糸を切らなきゃいけないの。彼女はまだ、妖精の手の内だもの。あのままじゃ羽虫の計画通りの動きしかしないでしょう?」

 

「だから予想外の動きをさせようってことか?」

 

「そういうこと。頭の中に巣食う者は私がどうにかするわ。ただ一度でも死ねば妖精の興味は違う方へ行くわ。だって死んだ方が妖精にとって都合がいいもの」

 

「都合がいいなら死なせない方が良いんじゃないのか?」

 

「いいえ、そうじゃないわ」

 

 

 にっこりと笑ってそれ以上は何も言わない少女に俺はまた眉を顰めた。

 頭の中でグルグルと回る言葉に疑念が増え続ける。

 

 

 

「縁切りについては分かった。じゃあ俺を殺した後については? 何で俺にあんな記憶を見せたんだ」

 

 

 ホラーゲームの知識については俺は何一つ知らないはずだった。

 俺は転生していない。紅葉のような記憶なんて何もないはずだ。ないはず、だったのだ。

 

 なのにあの時見た光景は、あの映像と音声は────悲鳴は、何だったのか。

 

 俺が何故あれを見ることが出来たのか。

 ホラーゲームの知識を持ったうえで転生したわけじゃないのに、何故。

 

 

 

「俺の記憶じゃないよな。アレは誰の記憶だ。あの時何があった。何故俺にあれをみせたんだ」

 

 

 

 彼女は笑う。嗤う。

 俺の顔をじっと見て、観察する。

 

 

 

 

「……あはは、何故だと思います?」

 

 

 

 

 ────ゾッとした。

 

 その口調はなんだか先ほどと違うように感じた。

 にっこりと笑った顔は少しだけ歪んでいるように見えた。

 思わず鳥肌が立ち、身体が痛くとも彼女から遠ざかろうと足に力を入れる。

 

 それを見た彼女はすぐさま先ほどの優しそうな笑みに変わって「大丈夫、私は何もしないよ」と言ってくる。

 

 

 

「答えは簡単よ。それは、貴方が知らなくてもあなたが知っているから。……貴方が私のことを見つめていると気づくなら、私も貴方を見つめてしまう。知ってしまうの。それはどんな状況でも変わらないわ」

 

 

 意味深に笑うアカネに、俺は息を呑んだ。

 嫌な感覚が身体に走る。

 

 もしかしたら、俺はここに来ない方が良かったかもしれない。意味がなかったかもしれない。疑念が頭のなかで増えては消化できずに積み重なっていくのだ。

 

 ただ思うのは最悪の事態。

 ここに星空がいなくて良かったかもしれない。そう思うのは一瞬。

 

 

 

「……質問してもいいか?」

 

「なぁに?」

 

 

 それはまるで、あの悪夢のなかで見た光景とは真逆のもの。

 

 

 

「お前は一体、誰なんだ」

 

「神様よ。……少なくとも、貴方達にとってはね」

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 これ以上話すことは何もないと言われ、神社から出てからすぐさま自宅へ帰ることにした。

 

 頭の中でグルグルと回っている疑念を言葉にしてまとめておきたかった。

 でもそれは止めておいた方が良いと思い、考え続けることにした。

 

 嫌な想像をしてしまうのだ。

 このままではいけないような気がするのだ。

 

 

 紅葉秋音を殺せと言った言葉を信じていいのか、それともまた違う誰かを信じればいいのか。

 

 もういっそのこと、紅葉そのものを信じて突っ走った方が楽な気がした。

 でもそれじゃ駄目だと思うのは────あの時アカネと言う少女と話してからのこと。あの夢で見た全てに意味があるのなら。目覚めようとしていた瞬間、あの時俺に思い出せと誰かが囁いたのだって何か意味があるはずだった。

 

 あの時、あの男が実況していたゲームでの話に意味がないだなんてことはないはずだ。

 だって意味がないものを長く見せ続けるぐらいなら、さっさとあの手記か何かを見せればいいだけのこと。俺に伝えたい何かがあるはず。

 

 もっとも、俺に伝えるべきことすらなく、ただ嘲笑うために意味がないことをさせているのかと、嫌な想像もしてしまうが……。

 

 

「もういっそのこと集まった方がいいか……」

 

 

 頭の中で思い浮かぶのは、あの星空の少年と────何かを知っているらしい海里夏のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

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