ホラーゲームに転生させるとか、神は俺を嫌っているようだ(Re)   作:かげはし

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第一話 ある紅葉の前世

 

 

 

 ふとしたときに思うことと言えば前世の記憶についてだった。

 

 気がつけば俺は女として生まれ変わっていたらしい。紅葉秋音という名の少女に。しかし何故なのか。何故きっかけもなく急に前世を思い出してしまったのだろうか。

 

「転生しても現代じゃあ、面白くもなんともないよなぁ……どっかのテンプレみたくファンタジーちっくな世界でも良かったような、良くないような……」

 

 女として生まれ変わってしまったが、何故か身体に違和感があまりないから気にしなくてもいいか。

 

 それにしても前世の記憶って何なんだ。

 何かしら意味があると思ったがこの国は平和な日本であって、前世とほぼ全く同じである。

 変わったといえば俺が前世で知っている町の名前、偉人などが変わっていたことだろうか。日本の歴史も少し違うみたいだ。

 

 つまりこの世界は前世の延長線上で出来ているわけじゃない。異世界になるけれど、名前がいくつか違うというだけで日本なのは変わりないし、俺が前世を思い出しても何の意味もない。

 

 それならば、前世で何かしてしまったのだろうかと考える。

 

「……いや、ないな」

 

 前世では何処にでもいるような普通の生活を送っていて、それで事故で死んだだけなんだと思う……たぶん。まあ完全に覚えているわけじゃないけど。

 でも異世界転生なんて意味が分からないものをするぐらいなら何かしら特殊な事情に巻き込まれてるとかあってもいい気がする。

 

 例えば強すぎる魔王を倒すために記憶を思い出して対策をする勇者とか。

 ほぼすべての生き物が消えた滅び行く世界で生き残るために思い出す人間とか。そういう感じのやつなら納得できるんだけどな。

 

 俺を生まれ変わらせた神がいるなら、何故俺を生まれ変わらせたのかについて話がしてみたいものだ。

 

 でもまあ、小さい頃から記憶がある方が何かしら得だって考えた方が無難だよな。

 

「それにしても……うーん。これが俺じゃなかったら普通にお付き合いしたいレベルなんだけどなあ……」

 

 鏡の前でまじまじと見た自身の姿にため息が出る。

 

 茶髪のポニーテールに、勝気な顔立ちとスタイル抜群の身体。栗色の瞳は勝気に輝いていて、美人というよりは可愛いと言える容姿。

 黒のセーラー服を着ていると余計にそう思う。やっぱり制服って偉大だよな。

 

「化粧しなくても素で可愛いとか両親の遺伝に感謝しなくちゃな。ほんとに俺可愛い……でもこんなところ弟に見られたらドン引きされるか。前世の視点から考えてだし、ナルシストみたいだからやめとこ」

 

 鏡にいる自分がため息を吐く姿が映る。その姿も可愛いとか思う自分に苦笑して真下にある己の胸を見た。

 おっぱいは平均程度……いや少しだけささやかな気もするが、誰よりも美乳であると自信を持って言える。まあ、誰かに言うつもりはないけれど。

 

「まあ、女でも男でも関係ないか」

 

 身体の違和感がないのはきっとまだ実感できていないからかもしれない。

 女に生まれ変わっても俺の中身は男だから――――誰かと恋人になったり将来は夫婦になったりなどということはないだろうな。

 

 俺にはまだ小学生の可愛い弟がいるから、あの子にすべて任せようと思う。

 秋満は頭もいいし、将来も有望な弟だからモテるだろうし。

 

「うーん……でもどっかで見た顔立ちなんだよなぁ……」

 

 前世を思い出してからたまに、デジャヴのような感覚に襲われるときがあった。まるで自分が自分でないような感覚だ。

 鏡から見える自分が他人のような感じがする。自分自身だというのに何故なのか。前世の記憶があるせいか?

 

 紅葉秋音という名前も、その見た目も。

 そして、これから毎日のように着るはずの高校の制服である黒のセーラー服もどこかで見たことがあるような気がするのだ。

 夕日丘高等学校というこれから入学する場所でさえ、何かデジャヴを感じている。

 

 名前を聞くだけで嫌な予感がした。でもそれが何故なのかわからない。

 

 もやもやするというのに何故かその疑問が晴れない。

 

 何かを忘れているような気がするんだ。

 冬の匂いがする、大事な何かを……。

 

「……悩んでいても仕方ないか」

 

 

 

 

 きっとこれは、俺の悪い癖なんだろう。そうやって問題を先送りにして現実逃避する。

 

 気のせいにしなきゃよかったんだ。

 入学式当日――――教室の中で出会ったその一人を見て、ようやく理解した。

 

 俺が何故こうして記憶のあるまま転生したのかの意味を。

 

(でも俺は何も出来ない。戦う術もないし、この記憶があるだけでも不利に働くんじゃないか。もしかして、死ぬしかないのか……?)

 

 入学式にて集まる新入生達。その中にいる複数の生徒が妙に気になった。

 その意味を、ある男子高校生を目にしてはっきり理解した。

 

「な、んで……?」

 

 この少年が誰なのかを俺は知っている。

 でもなんだか懐かしくなるような――――幼い頃に会ったような感覚。

 それはきっと、前世の記憶のせいだ。

 

「初めまして、今日から同じクラスメイトとして仲良くしよう。僕は神無月鏡夜。これからよろしくね」

 

「は、はじめまして。わ、私は紅葉秋音っていうの……」

 

 

 教室内にて爽やかな笑顔を見せてきた黒髪の美形に対して引き攣った笑顔を返す。

 無理やり平常心を保とうとしたせいか、どうやら声が上擦っていたらしい。

 

 目の前にいる少年は少しだけ訝しげな顔をしたが、すぐに綺麗な笑みを浮かべ直していた。

 

 彼はきっと同じクラスメイト全員に挨拶するためにわざわざ俺に話しかけてきたのだろう。俺個人と仲良くなろうとしての行動じゃないことぐらいわかる。

 

 普通の人ならそれで終わりだったろう。それか彼の優れた容姿に胸を高鳴らせる人がいるか否かといった程度。

 

 ただ────この男の見た目、名前が問題だった。

 

 生き物には見えず、お綺麗な人形かと思えるぐらいにはまつ毛が長く涼しげな目元が特徴の中性的な男。可愛らしいと思える部分はいつか、成長した時には美人に成長するだろう。それぐらい将来性が期待できる顔をしていた。

 スタイルも良く足が長い。男性の平均身長ぐらいだろうか。

 

 いつもの俺だったら、「あーハイハイ。イケメンですねー」で流すだろう。

 

 しかし、深い海を思わせる青色の瞳を見た瞬間、俺はこの世界が何であるかを理解し頭を抱えそうになった。

 

(神よ、俺は何をやらかしましたかあああ!!!)

 

 前世にて人気のあった最難関ホラーゲーム『ユウヒ―青の防衛戦線―』。

 

 通称『夕青』で知られているそれは、夕日丘高等学校の生徒たちがとある不可思議な災害の被害者となったお話だ。

 

 不可思議とはホラーゲームとしての災害を意味している。それこそ初見でやれば全員死ぬのが当たり前。クソゲーかと思える難易度の殺戮が用意された世界。

 

 簡単にいえば、ある世界と世界の境界線を管理している妖精ユウヒが、とある化け物達を退治してほしいという願いによって作り上げられた空間で強制的に防衛戦をやるというもの。

 『境界線の世界』と言われるバトルステージの中心には対象者全員――――つまり、クラスメイトの生命力を集めて結晶化したクリスタルが出現する。

 

 それを囮にして化け物共を引き寄せているため、そいつらを倒すか侵入を防ぐか何かしないとクリスタルを奪われ結果的に対象者全員が死ぬだけ。

 

 しかし境界線の世界にいる間、生徒たちは化け物によって殺されても現実で死ぬことはない。

 ただの悪夢のように、全てが終わったら目が覚めるのだ。

 

 序盤で死ぬのなら、ただ不幸な目に遭うというだけ。

 負けを繰り返せば恐ろしいことになってはいくし、心霊現象に悩まされるようになってしまう。

 

 それと夕青ゲームの世界では共通して人の生命力とは『幸運値』を意味するものだとされている。

 幸運がなければ死ぬ確率が上がり、またあの世の住人から餌として狙われる可能性が高くなる。

 

 一番怖いところは、ゲームオーバーし続けることによってじわじわと不運が襲い掛かり、突然の不幸によって死ぬという場面だろうか。

 

 階段からこけて頭から落ちたとか、急に花瓶が降ってきたとか。それぐらいならまだマシな方だと言えよう。

 グロ注意は確実。突然の主人公の死とかあれはない。

 

 そのための救済措置として妖精から貰えるアイテムがある。

 しかしそれでも最難関と言われるだけあってバッドエンドになりやすいのだ。

 

 そして、最大の問題として夕青ではヒロインを除くキャラクター全員に特殊な能力など何もない。続編で出てきた夕赤と夕黄は何かしらあるというのに。

 

 一応戦うことは出来ても、化け物に殺されるまでの時間稼ぎでしかない。他のクラスなら確実に倒すことは出来るだろうに……。

 

 目の前で首を傾けている鏡夜もそうだ。ホラーゲーム主人公のくせにモブと同じく死亡率が高いし、戦う力もない。

 

 夕青の最大の特徴は、主人公が頭脳特化型であるということ。────でも、頭脳が良くても化け物と対峙するのは難しい。

 

 妖精が退治してくれと望む化け物は、人間でもこの世界にいる生きた動物でもない。怪獣かと思えるような気味悪い知性のない獣ばかりいる。

 体力も人間の数倍はあって、倒すことはほぼ不可能。

 

 だから夕青のゲームは『防衛戦』がメインなのだ。

 

 戦うのではない。

 クリスタルを守るために妖精が作り上げた空間内で道具や武器を拾い上げ、一定時間の間に壁やなんやらを作り時間を稼ぐというもの。

 

 それが出来なければバッドエンドを迎える。

 

 そういうゲーム知識が頭の中で鮮明に思い出した。

 何故かは知らないけれど、これから先でそういうのが起きるって直感が働いたんだ。

 

「あはは……」

 

「ん、どうしたの紅葉さん?」

 

「……これから入学式だから緊張しているだけなの。気にしないでね神無月くん」

 

「そうかい? ならよかった」

 

 この主人公、今は何を考えているんだろうか。

 

 腹黒で毒舌キャラなのを隠して、最初は猫かぶりからスタートするから爽やかそうに見えて内心では俺のことを値踏みしている可能性が高い。

 

(ああ家に帰りたいっ! 面倒くさい!! でも帰っても意味がない!)

 

 転生したら異世界だったならよかったのに、何で俺はホラーゲームの世界にいるんだよ!!

 そう頭を抱えて、どうすりゃあいいのかと思い悩んで――――ふと、思ったのだ。

 

(そういえばこの神無月鏡夜って頭脳特化だったな。頭いいならこいつに全部押し付けて考えてもらう方が良いか?)

 

 俺が頭おかしいとか思われても仕方ない行動をしている自覚はある。

 しかし、死亡フラグが乱立しているこの世界で俺が生き残るための手段は主人公たる神無月鏡夜にしかない!

 

 ならばと俺は、他の生徒に話をして離れようとする彼の腕を引っ張った。

 

「ねえ神無月君。入学式前にちょっとお話したいことがあるんだけれどいいかな」

 

 

 ――――今思えば、ここから崩壊は始まったのかもしれない。

 

 いいや、すでに崩壊は始まっていたんだろう。

 前世の記憶なんて、ある方がおかしいのだから。

 

 

 

 

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