ホラーゲームに転生させるとか、神は俺を嫌っているようだ(Re)   作:かげはし

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何処かの場所の、何処かの時間。

■■の世界で。






忘却の記憶 春の兆し 前編

 

 

 

 

 6月。紫陽花が綺麗に花咲く季節だというのに本日の気温は30度近く、熱中症になるかと思えるほどの雲一つない晴天。

 梅雨とはいったい何だったのか。こんな状態でまだ夏になってないと言われても誰も信じないだろう。

 

 とにかく、そんな急すぎる気温の変化のせいだろうか。

 半袖に着替え大学へ向かう俺にはこの日差しはきつすぎた。

 

 道は直射日光。アスファルトが焼けて地面も熱く、じわじわと蒸し焼きにされた食材になっているような気分になる。

 

 

「あつい……」

 

 

 汗が頬に流れ落ち、ペットボトルでぬるい水を飲みつつ喉を潤し、眩しすぎる晴天へ向けて小さな溜息を吐いた。

 

 

「せんぱーい!」

 

「ああ?」

 

 

 歩いていた俺に向けて、手を振りながら近づいてきた一人の少女に気がつく。

 

 何故か彼女は涼し気に俺を見ていた。汗一つかかず、紺色のスカートをひらひらと動かして駆けてくる。近づいてきて俺の腕に抱き着いたそいつの身体はやけに冷えているように感じた。

 

 しかしすぐさま彼女は俺から飛びのく。

 

 

「うわっ、汗だらけで暑過ぎじゃないですか先輩! 筋肉のせいですか! 筋肉があり過ぎて熱気出てるんじゃないですか!」

 

「何で筋肉が熱気出すんだ……お前何言ってやがる頭おかしくなったのか?……」

 

「うわーグサッと刺さる言葉だというのに先輩ってばバテバテすぎて勢いが足りなさすぎですねぇ。それじゃあくたびれたゴリラですよ!」

 

「誰がゴリラだ!」

 

「そうそうその元気さがないとですよね! いやでも今日はなんだか夏みたいで暑いですから海に行きたくなりますよねぇ、先輩!」

 

 

 海に行きたいと喚いているくせに、暑さなんか感じてないとでも言うかのような涼しげな笑みを浮かべているため、少しばかり苛立つ。

 

 しかし彼女はその後いつも通り楽し気に俺と共に歩き出す。俺が不機嫌であっても何も変わらず。

 それは入学式の頃から同じだった。気が付けば何故か傍に居て、いつの間にかこうして一緒に学校へ向かっている。他にも友達はいるはずなのに何故俺に構うのか。

 

 先輩センパイと俺を慕うというよりかは、ちょっかいをかけたいから近づいてきたような気がする。

 

 

「ねえ先輩。こう熱いとアイスとか食べたくありません?」

 

「奢らねえぞ」

 

「そうじゃなくて、こう……お化け屋敷とか海とかなんだか夏を感じられるようなことしたくないですかーって話ですよぅ」

 

 

 頬を膨らませた彼女が俺の腕をつかんだ。いや、俺の腕の方が彼女の手より大きいため軽く触れた、といった方がいいだろう。

 

 その手は冷たく、雪のように感じる。

 先程も思ったが、汗一つかかないのはきっと彼女の体温が低いせいだろうな。

 

 

「もう、先輩ってば聞いてるんですか?」

 

「聞いてる聞いてる」

 

 

 考え事をしていたせいで少しだけ聞いてはいなかったがまあ大体は察することが出来るため頷いておいた。

 

 

「むぅ……じゃあちゃんとやってくれるんですよね?」

 

「はぁ?」

 

「ほらもうやっぱり聞いてなかったじゃないですかぁ!」

 

 

 不機嫌になった彼女が言うには、以前から話題のホラーゲームを買ってプレイしてほしいとのこと。できればそれをクリアしてほしいということだった。

 

 

「俺はいろいろ忙しいんだから自分でやれよ」

 

「先輩が暑い~あつい~って苦しんでるから私が涼しくなってほしいと思って紹介してるんですぅ! それに私がやっても……」

 

「ハッ、なんだよ。ホラー苦手か?」

 

「もう先輩ってば。私はホラー得意なんですよぉ! 先輩の方が苦手なんじゃないですか~?」

 

「んなわけあるかふざけんな」

 

 売り言葉に買い言葉。

 いつの間にか彼女が持っていたゲームソフトを持たされてしまった。

 

「……夕青、か」

 

「はい! 新しくリメイクされた難易度はそこそこのホラーゲームですよ! きっと、先輩がやったら驚くでしょうね!」

 

「はぁ? 何が驚くってんだよ」

 

「だって、先輩の名前にそっくりなんですよ。ほらここ! このキャラクターの名前! あと声もそっくり!」

 

 ゲームソフトのあるキャラを指差した彼女に眉をひそめた。

 そして理解するのだ。最近のあの不可解な視線を。声を発しただけで様々な人に見られ、小声でヒソヒソと何かを話される苛立つ場面を。

 

 なんだかモヤモヤしていた意味がはっきりしたせいで別の感情が込み上げてきた。

 

「ああ、だからか────」

 

 これはいったい誰が作ったというのか。

 名前も見た目も声も同じとか、偶然にしては出来すぎているような気がする。

 

 そう、俺は小さく舌打ちをした。

 

「……ゲームキャラにそっくりだなんて気に食わねえ。まるで意図的に作られたみたいで気持ち悪い」

 

「んーそうですか? でも私もいろんな人に見られますし、偶然なんじゃないですかぁ?」

 

「はっ? お前、このゲームに出てくるキャラにそっくりなのかよ?」

 

 パッケージを見るが三大ヒロインと思わしき人物。そして主人公のいけ好かない顔と、もう一人。それ以外に彼女に似ている存在はいない。

 

「私がいるかどうかはお楽しみ。ゲームをやってみれば分かりますよぉ」

 

 彼女がまた楽しげにクスクスと笑う。

 暑すぎてダルいっていうのに、本当に元気だなお前。

 

「あーでも、ソフトはあってもゲーム機ねえな……」

 

「えっ、じゃああとで持ってきましょうか?」

 

「いやいい。流石に後輩に借りすぎるのもアレだ。それにこのホラーゲームって……お前が言うにはシリーズものなんだろ?」

 

「そうですけど……」

 

「じゃあ新しく買ってくる。その方が涼しくなれるんならちょうどいい」

 

 目を見開いた彼女が嬉しそうに頬を赤らめた。

 

「もうそういう思いきったとこ好きですよ先輩! 恋愛の意味は含みませんがね!」

 

「ヘイヘイ」

 

 

 

 

 

 

 なんで俺は無駄な体力を使う約束をしたのか。

 

「面倒だな……」

 

 授業は終わり、家へ帰る前にと電気量販店へ向かうことにしたが流石に遠回りをするため暑く、汗で冷房が身体を冷やす。

 このままだと温度差で風邪をひいてしまいそうだ。

 

 後輩はまだ学校だからきっと俺が当日、帰る前にすぐさまゲーム機を買うだなんて思いはしないだろう。様々なゲームを見つつ、夕青のソフトのゲーム機を品定めする。

 

「んん、ん?」

 

 夕青ってユウヒ-青の防衛戦線-だよな?

 他のシリーズといっても、夕青の続きって意味じゃなかったのか。ソフトを見ている客の中には赤色や黄色のものがあった。

 シリーズというよりは、派生だろうか。

 

 それにしても人気ありすぎだろ。一人が同じゲームソフトを三本買っている。

 あと帽子をしていてよかったのか、チラ見はされるがそこまでじゃない。ゲームキャラクターの見た目に似てると面倒だ。こちらに近づいてきそうな人間もいる。何故かそいつらの目は隈ができており、かなり重症のゲーム中毒になっているのか。

 

 

 話しかけられる前にとっとと終わらせよう。そう思った時だった。

 

 

「ねえ、そこのあなた」

 

「あ?」

 

 振り向いた先にいたのは、真っ黒な服を着た、黒髪の女だった。

 この暑い日に黒色のワンピースに黒髪と全身真っ黒なくせに肌は雪のように白く、汗一つかいていないのか花のような香りが感じられる。

 

 俺を見つめる視線、その瞳は冬のように冷めていた。

 

 

「ユウヒゲームシリーズをやるのはおすすめしないわよ。とくにあなたはね、桜坂くん」

 

 

 

 

 

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