ホラーゲームに転生させるとか、神は俺を嫌っているようだ(Re)   作:かげはし

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忘却の記憶 春の兆し 後編

 

 

 

 涼しげな眼でこちらを見つめる女を、俺は知らない。

 しかし俺と同じくらいの年齢の女が俺に向かってはっきりと「桜坂くん」と呼んだ。ゲームキャラにそっくりだからコスプレしてるんじゃねえかと誤解されていたとしても、それに興奮して俺に向かって話しかける変人だとしても────この夕青というゲームをおススメしない奴はいないはずだ。たぶん。きっと。

 

 

「……俺とどこかで会ったか?」

 

「貴方が知らないなら初対面よ」

 

「何だその意味深な言い方は」

 

 

 俺に向かって向けられる感情は親しみが込められている。それと心配しているのか。変な女だとは思う。

 無視してもいいが、なんだかそれはやっちゃいけないような気がした。

 

 

「……ユウヒのゲームをやっちゃいけないって言うのはどういう意味だ。怖すぎるゲームだからやらない方が良いってか?」

 

「確かにそうね。身の毛もよだつ程怖いゲームだと私は思うわ。だからこのゲームとかやってみたらどう?」

 

「はぁ?」

 

 

 奴が見せてきたのはギャルゲー、乙女ゲー。恋愛要素がふんだんに盛り込まれたハーレムやらクソゲーやら、まあとりあえずホラー要素が一切ないゲームを選んでいた。それもあまり売れていなさそうなものばかり。

 

 

「嫌がらせで変なゲーム俺にやらせようとすんじゃねえよ!」

 

「あら、ユウヒゲームとは真逆の駄作を選んでいたつもりなんだけど、それは嫌だった?」

 

「だから何でわざわざ駄作選んでんだよふざけんじゃねえぞ!」

 

 

 初対面であれば目つきの鋭さにビビッて逃げるはず。それなのにこの女は肩をすくめて小さく溜息を吐いた。仕方がないなというような目で俺を見るんじゃねえ。なんだこれ俺が悪いのか?

 

「じゃあこれなんてどう? 桜坂くんは確か格闘ゲームが好きだったわよね?」

 

「……いや確かに好きだけどそれクソゲーって言われてるほどバグがやばいゲームじゃねえか。それも一昔前の。どっから持ってきた!?」

 

「ポケットから」

 

「私物じゃねえか!!」

 

 

 俺の嗜好を知っているのもおかしい。やはりこいつ、ストーカーだろうか。

 不気味に思えてきたのと、暑すぎて怠いのもあってか、考えるのも面倒になってきた。とにかくこの女から離れたい。それだけしか考えられない。

 

 

「はぁ……もういい。お前みたいな変人に用はねえ」

 

「待って。悪ふざけしたことは謝るわ。こうすればあなたゲームなんてしないと思ったから。だからそのユウヒシリーズのゲームソフトを買うのを止めなさい」

 

「だから何で止めようとするんだよ。店の人に営業妨害がいますって言ってやろうか?」

 

「安心しなさい私が買うなって言うのは貴方だけよ」

 

「いや普通に妨害してんじゃねーか!」

 

 

 それも何故俺に向かって言うのか。

 あれか、新手の詐欺か何かか?

 こんな奴に付き合っていてもしょうがないというのに、女は俺の腕を掴んで離そうとしない。

 

 流石に店の中で騒ぎを起こして変な目で見られるのも癪に障る。俺が悪いわけじゃないのに俺のせいにされても困るしなぁ……。

 

 

「何でそこまでして止めようとするんだ」

 

「……そうね、いくつか理由はあるけれど」

 

 

 女は考えるように視線をうろつかせる。

 その間に離れてやろうかと思ったが、俺の腕を掴む力が強い。果物のような爽やかな香水を頭からぶっかけたんじゃないかと思うぐらい強い香りが俺の鼻に直撃する。そのせいで少しだけ気分が悪くなった。しかしこの女は俺の様子に気づかない。何を言おうか悩んでいるように感じる。数秒数分と、そこまで悩む必要があるなら離れればいいというのに。

 

 彼女の顔が動くごとに黒髪が揺れる。それでようやく気付く。この女の髪の毛に白髪が混じっている様子に。黒髪を脱色させたのか、それとも若白髪か何かか。

 

 この女がどういう存在なのか、俺の知り合いなのかすら分からない。ストーカーだとしても一度はあっているはず。しかし近くで見ても分からない。この女は初対面で間違いないはずなのに、

 

 やがて、人差し指を俺に向けて言う。

 

 

「桜坂くんはこのゲームの始まりが学生によって作られた同人ゲームだって言うのは知ってる?」

 

「……はぁ?」

 

「たった数年でここまで有名になった……ええそうよ、今じゃ立派なゲームになったけれど、以前はそうじゃなかったの。それはどうしてか、貴方には分かる?」

 

「……んなもん、他の人間がやってみて面白かったから、なんじゃねえのか?」

 

 

 目の前にいる女が俺の顔を覗き見る。

 それでようやく気が付いたのだ。

 

 この女の目が────瞳孔が開ききっていると。

 黒く気味の悪い目だと思った。

 薬か何かやっているのか。それとも病気なのか。

 

 思わず力づくで俺の腕を掴んでいる手を振り払い、数歩離れる。

 女は振り払われた手を摩り、苦笑していた。

 

 

「もしかして、私が怖い?」

 

「……気持ち悪いんだよ。初対面のくせにべたべた触りやがって」

 

「あら、女だから乱暴にしない紳士っぷりだし、私から離れないと思っただけよ」

 

「チッ」

 

 

 もういい。もうどうでもいい。

 とにかく離れよう。ゲームは……先ほどまで持っていたユウヒシリーズのソフトはあの女に取られたが、ゲーム機は持っている。また女に近づいてソフトを手にするわけにはいかないため、会計の方へ進むことに決めた。

 

 また別の店でソフトを見つけよう。そう決めたのだ。

 

 

「ユウヒシリーズのゲームはやらないで。後悔するわよ。桜坂くん」

 

「知らねえ」

 

「……まあ、貴方はもう手遅れだって分かっているから仕方がないわね。……桜坂くん、一つだけ忠告よ!」

 

 

 距離を離し、背中から聞こえてくる大きな声を無視する。

 

 

「私はもうあなたに会うつもりはないわ。だから、次に私に会ったら、それは私じゃない何かってこと。アレは現実で魂を喰らいたいだけの存在。あちらへ行ったとしても、道はずっと繋がっている。私が繋げ続けるから、逃げ道はあるわ!」

 

 

 意味が分からないことを言う。頭がおかしいのか。

 女は迷惑そうな周りの視線を気にすることなく叫び続けた。

 

 

「私の名前は冬乃。それだけは覚えておいて!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






 ……そういえば、と。
 彼はゲームソフトを見て思い出す。


 あの後輩の名前も同じ、■■■だったなと。



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