ホラーゲームに転生させるとか、神は俺を嫌っているようだ(Re) 作:かげはし
ちょっと気まずいながらも、家にいるよりかはマシだと思い────あの日記を持って外へ出て学校へ向かって歩き出す。
途中、春臣が「どうせまだ大丈夫だろ。寄ろうぜ」と公園のベンチへ案内してくれた。
「まさか桜坂君も記憶があるだなんて思わなかったよ……」
「あぁ?」
「え、いやあの。ループ……というか、時間が巻き戻ってた時の記憶全部覚えてるんじゃないの?」
「ああなんだ、お前もか。……いや、違うな。ループしたってはっきり言うってことはお前何度か経験してんのか?」
「あーっと……」
「俺たちが死ぬ前……あそこにいた神無月もそうだろ。あいつ平然と俺達を見ていたからな。その後に聞こえてきたリセットっていうのも……あれだろ、お前と神無月、どっちもこの現象を知ってるんだろ」
「いや、はっきりと分かっているわけじゃないけどいやでもなんというか。そうじゃないんだけど似たようなものでいや似てないけどなんというか……」
「はっきりしねえな! そういうグズグズした女うざってえだけだぞ!」
「アッハイ。すいませんです……」
不機嫌に舌打ちする姿は不良のそれと変わらないぐらいおっかない。
しかし彼は頭を掻いて「違う……そうじゃなくてだな」と何度か言葉を躊躇うように言っていた。
首を傾けながらも春臣が何を言うのかを待つ。
周りは静かだった。公園には誰もいない。早朝だからか、それとも入学式だからか。
ただ、風が心地よい。
公園に咲いた桜が舞って、綺麗な絨毯が地面に出来上がる光景をぼーっと眺めていた。
そうして、不意に彼が話し始めたのだ。
「これ、ゲームみたいだよな」
「えっ!?」
「何だよその顔。気持ち悪いぞ。……いやだから、急に時間が巻き戻ったことやらあの妖精やらファンタジーなのが続くだろ。なんかゲームっぽいなって思ってな。……こういうの、どこかで経験したような気がしたんだよ」
「経験……」
「そういやぁあの時もそんなこと口にしてたな」
「えっ」
「自転車で走ってた時だよ。あん時も俺は言っただろ? 逃げていたけど喰われたような気がするってな」
「……そう、だね」
「まあそれに……ちょっと嫌なことを思い出してな……」
「嫌なこと?」
「てめえには関係ないことだ」
もしかしたら、ループ前の記憶。デジャブのような何かを思い出しているのかもしれない。
ゲームでは春臣は真っ先に死ぬキャラクターだった。善意による人助けで死んで、境界線の世界で死に続けた結果現実で死んで。鏡夜のある選択肢によっては殺されて、事故死して────ただ、生き抜くことが難しい存在。
桜坂春臣という存在は、夕青において決定的な戦力になり得るから公式があえて殺しているんじゃないかと言われている。その時点で紅葉秋音が戦力となってはいるが……。
夕青で戦うことが出来る人だからこそ、死んでしまう。その記憶を持っていたとしたら。
「……喰われたような気がした時ってさ、なんか……辛くなかった?」
「なんだそれ。辛くはねーよ。ただ……そうだな。少し腹立たしいだけだ」
「腹立たしいって」
彼はまた舌打ちをする。鏡夜とはまた違った格好良い顔だというのに、それを台無しにするような凶悪な顔で虚空を睨みつけている。
「あの妖精も、俺たちが喰われていた先で観察し続けていた神無月も……誰もかれも腹立たしいんだよ。あいつら俺らを虫か何かだと勘違いしてんじゃねーのか。いくら時間が巻き戻るとはいえ、人が死ぬんだぞ。殺すようなもんだぞ!」
「それは……」
思い出すのは、鏡夜の瞳。
冷めたような目で俺たちを見つめているもの。
春臣は何を思い出しているのだろうか。俺と同じものだろうか。
ギリギリと歯ぎしりをして、青筋を浮かべるほど拳を握りしめている。今ここに鏡夜がいたら、彼が真っ先にぶん殴られていたかもしれない程度には激怒しているのだろう。
「俺は神無月鏡夜を信用しない。妖精と同じようにしか人を見てねーあいつを、俺は信じない」
このままじゃ、いけない気がする。
なんとなくだが、そう思ってしまった。
だから────言った方が、良いだろうか。
俺の事。鏡夜の事。そしてこの世界の真実を。
「突然だけど俺、前世の記憶があるんだ」
「は?」
俺は話し続ける。前世の記憶。この世界がゲームと同じってこと。ノートを取り出して見せる、秋満が見つけてくれた謎。そして鏡夜の事。夏の力。ゲームの記憶について。
最初は信じていないようだった。呆気にとられたような表情をしていた。
怒りをどこかへ忘れてしまったような顔。
でもノートを出した時から真剣に俺の話を聞いてくれた。
「ここまでが俺の知っていること。だからこのゲーム知識でどうにか生き延びる方法を探している最中なんだけど……」
「そうかよ」
「ええっと、信じてくれた?」
「いや全然」
「えっ」
微妙そうな顔であのノートをパラパラとめくっていく。
そうして最後のページを見て、春臣は小さく溜息を吐いた。
「信じるとかどうでもいい。それをただ受け入れるってだけだ」
「はい?」
「紅葉、てめえは何でこの世界がゲーム世界だって思ったんだ?」
「いやそれは、妖精がいるし、いろいろと同じだって思ったから……」
「ここが、本当にゲームだって思ってんのか? 人が死ぬのもゲームで、誰かが苦しんでるのもゲームってことか? あぁ?」
「それは……」
「ここに、ゲームと同じ選択肢ってやつがあるのか? お前はゲームと同じような道をたどっているのか?」
「……ううん」
「ゲームの世界ってだけで、てめえは死んでも構わないって思ってんのかよ」
……それは違う。
それだけは分かる。俺だって死んだ。化け物にかみ殺されて死んでいった。
冷たくて痛くていたくて、誰も助けてくれない全てに絶望したあの時を。鏡夜が何を思ったのか分からないあの瞳がトラウマになるほどに。
ベッドから起き上がれなかったあの長いようで短い時間を忘れることが出来ない。
「この世界がどうかはともかく、お前は今ここにいる。それはゲームだからか?」
「……違う」
「てめえは俺がゲームのキャラクターだと思うか?」
「違う! そんなことない!」
「ならてめえも受け入れろ! 今目の前にいるこの俺はゲームキャラクターじゃない、現実の桜坂春臣だ! お前が持っているのはそれに似た知識なだけだってな!!」
怒声を聞いた通りすがりのサラリーマンが驚いたような顔で俺たちを凝視し、そのまま逃げていくように駆けて行った。
それを眺めつつ、怒鳴りつけてきた春臣がまた長く溜息を吐く。
「……この世界がゲームだったら良かったんだがな」
「はい?」
「いや、何でもねえ。とにかくこれからどうするんだ?」
「……鏡夜に会う?」
「ぶん殴るぞおいゴラ」
「いや喧嘩はちょっと……いろいろ聞きたいことはあるけど、まあ時間はあるだろうし……ノートについても聞こうかと思ってたんだけど……」
まあ確かに、あの鏡夜は怖い。
知識について全て教えてしまったせいか、それとも人嫌いを発症したのか何か分からないけれど、俺をただの道具とみて行動しているような気がする。
人として扱われないなら、俺は……。
「……そういえば、お前このノートを書いた記憶がないんだったな」
「うん、というか今思うと子供のころからの記憶も曖昧で……なんかこう、穴ぼこが開いてるような感覚?」
「あっ? ちっさいガキの頃なんて大体そうだろ」
「ん、でもなんか気になって……」
それにあの死ぬ間際で見た────妖精の声が忘れられない。
もしかしたらたくさんループしていたどこかの俺かもしれない。ノートを書いて、今は思い出せない頃の俺の記憶かも。
分からないことがこんなに怖いだなんて思わなかった。
何も分からないから、どう動けばいいのか分からない。何をすればいいのかすら分からない自分が怖い。なんでこんなに頭が動かないのか。自分ではどうしようもない。
「……あのさ、どうしたらいいと思う?」
「そこを俺に聞くのかてめえは」
「いやちょっと、いろいろ知識があると下手に動いたらやばいって思って動けねーんだってば!!」
呆れたような目で俺を見ないでくれよ確かに決断できない俺が悪いかもだけどさ!!
────春臣は、仕方がないと立ち上がった。
「行きたいところがある。ついて来い」
「え、何処に?」
彼は俺の問いかけに答えず、ただ前を進んでいく。
流石に見失うわけにはいかず、慌ててその後ろ姿を追いかけた。