ホラーゲームに転生させるとか、神は俺を嫌っているようだ(Re)   作:かげはし

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第四話 作為的な意思

 

 

 

「桜坂……くん、今は何処に向かってるの?」

 

「確認したい場所があるだけだ」

 

「このままだと学校に遅刻するって言うのに?」

 

「ハッ、遅刻がどうのこうの行ってる場合かよ。真面目にもほどがあるぞお前」

 

「いやそうじゃなくって……入学した時点で妖精は俺達を認識するから、学校じゃない場所にいた状態で境界線の世界に行く羽目になったら死ぬ危険性が高いんだ。だからなるべく遅刻はしない方が良いんじゃないかなって……」

 

「入学式が始まる前に戻ればいい話だろ。オラ、あとちょっとだ」

 

「あー……」

 

 

 危険が伴うかもしれないのに、そこまでしていきたい場所とは何処なんだろうか。そんな興味と、もしかしたら現状を打破できるかもしれないと期待を胸に歩き続ける。

 先ほどまで学校や会社へ向かう人でたくさんいたというのに、裏道やら細く人が通らなさそうな所へ入り込んでいく春臣。

 前へ歩く彼に迷いはない。敵意も感じられない。嘘も言ってはいないのだろう。ただ薄暗い場所を通っていくたびに少し心配になる。

 

 

 だんだんと通行人が少なくなり、やがて俺たちしかいない荒れた裏道へ入り込んでいった。

 ゴミが散らばっており、壁に天使やらよくわからない文字やらの落書きが描かれている。

 

 そしてその先、その奥の通り道を抜け、階段を上がった場所────そこに、見覚えがあった。

 

 

「フユノ神社?」

 

「なんだ知ってるのか」

 

「いやあの……うん。でもどうしてここに?」

 

 

 どくどくと心臓を鳴らし、嫌な汗をかいている俺に目を細めた春臣が言う。

 

 

「夢で見たんだよ。この場所へ向かって歩いている夢をな」

 

「それって、もしかして殺された時に……」

 

「ああ、あといろいろと……奇妙な声も聞こえてきたな」

 

「声?」

 

「女の声だった。聞いたことのない、知らない女の声だ。『道はずっと繋げている』って」

 

 

 不意に、誰かが笑った声が聞こえたような気がする。

 しかしそれが誰なのかわからない。気のせいだろう、きっと。

 

 

「……道なんて何もねえな」

 

「まあ、フユノ神社だからね」

 

「フユノ神社ってか、荒れ果てた建物ってやつにしか見えねえけどな。そんで、てめえは何でここを知ってんだ。それもゲーム知識ってやつか?」

 

「うっ……まあね。フユノ神社────夕青シリーズで出てくるヒロインにしてラスボスの『冬野白兎』ちゃんって子なんだけど、その子が鏡夜と出会った始まりの場所でもあるんだ」

 

「始まりだァ?」

 

「ええと、まず白兎って子は人間じゃない。本来なら福の神として奉られる存在なんだけどね。ある時を境に人に裏切られ、誰も来なくなって忘れられた元神様。でもそれを鏡夜に救われて、追いかけ続けたんだ。夕日丘高等学校の境界線の世界に来る程度には……」

 

「……神様を救う、ねえ。あの野郎、ここでいったい何をしたんだ?」

 

「掃除をしたんだよ。ちょっと捻くれていたけれど、ただの気まぐれかこの神社を綺麗にしてあげた。ただそれだけ。その行為ひとつで彼女は救われたんだ」

 

「ふーん」

 

 

 人を恨み、堕ちそうになった元神様。そして鏡夜を愛し、唯一彼だけを守ろうと決めた守護神のような存在。

 純白な少女は人外であるせいか、死に続けることで堕ちやすく、またルートによっては彼女自身が敵となり鏡夜を殺しに来るパターンも存在する。その場合もうリセットしなければハッピーエンドは不可能。人を恨んでいたせいか堕神ともいえる存在だし、鏡夜のおかげでその悪い部分が出てないと言えるというかなんというか……。

 

 

「……フユノ、か」

 

「ん、なに?」

 

「いや、どっかで聞いたことあるような気がしただけだ。それよりこの神社に鏡はあるのか調べるか?」

 

 

 春臣が神社の中へ進んでいき、倒れかけた扉などを避けつつ中を覗き見る。

 しかし目当てのものはなかったらしく、彼は顔をしかめていた。

 

 鏡と言えば日記に書かれていた『かがみこわせ』の縦読み。

 それが何処を示すのか、何で鏡を壊さなきゃいけないのか分からない。白兎については細かく思い出せるというのに、俺のゲーム知識が役に立たない何かが起きたのだろうか。

 

 

「白兎って女がいるなら鏡の在処ぐらい聞きてえな」

 

「うーん、それはちょっと無理な気がする。だって彼女は人じゃないし、見えるとしたら鏡夜ぐらいだし……」

 

「意味ねーってことか。チッ……しっかし、日記を見る限り何かが起きたのは十月かそれ以前か……少なくとも夏以降かもしれねえな」

 

「ああ、確かにそれはあり得るね。夕青って時間が進むにつれてイベントが多く……あれ……」

 

「どうした?」

 

「…………イベント、ルート……なんだっけ……えっと……」

 

 

 頭が痛い。でも何も分からない。

 思い出せない。ゲームについて細かくやってきた。理解していた。知っているはずだ。だって私はいっぱいやってきたんだから。

 キャラクターがどんな運命を辿るのかも知っている。最悪のバッドエンド。唯一いけるハッピーエンド。それら全て知っている。知っている、はずだ……。

 

 

 ────あれ、なんだったっけ。

 

 

「おい紅葉!」

 

「はっ、あっ……ああ。ごめんはるお……桜坂くん。ちょっと思い出せなくて……」

 

「春臣でいい。それより大丈夫か。顔色が悪いぞ」

 

「……うん。あのさ、この世界が現実で、ゲームじゃないって言うのは分かってるんだ。そう言ってくれたのは春臣だし。でもなんというか、知識ってつまり予言みたいなものだろ? ないよりはある方が良い。俺は夕青のゲームをたくさんやってきたし、クリアだってしたはず。覚えているはずなんだ」

 

「でも、覚えてねーと」

 

「うん」

 

「……単に忘れたってわけじゃなさそうだな」

 

「どう、だろう……」

 

 

 夕青のゲームはルート分岐が多い。クソゲーとも呼ばれているぐらい鬼畜で、バッドエンドもたくさんある。だから数多いそれらを全て覚えているわけにはいかず、いろいろあったせいで忘れた可能性も高い。

 でも、こんなに何も……全く思い出せないってことがあるんだろうか。

 

 もしかしたら────。

 

 

「妖精が、俺の頭に何かしたかもしれない」

 

「頭に?」

 

「ああ、春臣も見ただろ? あの妖精ユウヒは人の頭を覗き見ることが出来る。それで脳を弄ることも可能で……もしかしたら、それで忘却させられたかもしれない」

 

 

 汗が出る。手が震える。

 愉快が揺れて、不安でいっぱいだ。

 

 何も知らずに前へ進むのが苦しい。殺されたくない。死にたくない。知らないからどうやって回避すればいいのかもわからない。それが一番怖い。

 

 そう思っている俺の背中を、春臣は軽く叩いてきた。

 

 

「逆転の発想してみろよ」

 

「えっ」

 

「お前が覚えてねえ、あの妖精が忘れさせるほどの何かがあったってことだ。奴にとって都合の悪い何かがな」

 

「あっ……」

 

 

 ハッと顔を上げた俺を見た春臣はニヤリと笑った。

 都合の悪い何かがある。それはきっと夏以降。十月に何かが起きるかもしれない。それが良い事なのか悪い事なのかは分からないけれど、少しだけ希望が見えた気がした。

 

 

「今は生き抜く。そんで、怪しい鏡は見つけ次第全部ぶっ壊していくぞ」

 

「……ああ」

 

 

 今やるべきことは、生き抜くこと。それしかない。ここは現実だから、死ぬわけにはいかない。

 

 そのために、前を向いて歩くことを決めた。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 時間が戻った矢先、すぐさま海里が俺の家へとやってきた。

 そうして部屋へ入り込んだ海里がとんでもないことを言ってくる。

 

 

 

「まず神無月に言わなきゃいけないのは、ここがゲーム世界だってこと。それだけよ」

 

「はぁ?」

 

「頭がおかしいんじゃないかっていう顔だけど、それは事実。受け入れろ」

 

「いや待て、お前も紅葉みたいなことを言うがゲーム世界ってどういう……」

 

「そのままの意味、ここはゲーム世界。妖精にとってのおもちゃ箱。だからループするんだ。死ぬことで救済される意味もない。魂を弄られてあの害虫の都合のいいようにされるだけ」

 

 

 そう言って、絶望を叩きつける。

 正直に言えば頭がおかしいんじゃないかと思えた。妖精がいることは事実。あの化け物が出てくる世界についても受け入れた。

 

 それでもなお、海里の言うことを全て信じるわけにはいかない。

 

 

「いいよ信じなくても……私はただ、アレをどうにかして殺したいだけなんだから。だから私の邪魔さえしなけりゃいい」

 

「……だから紅葉を信じるなと?」

 

「そうだよ。紅葉だけじゃない。人を信じない、人の言うことに従わず自分の思うままに進んでもらった方が都合がいいだけ」

 

「それはつまり、お前のことを信じなくても良いということだな?」

 

「そうだね。私が言っていることを信じず紅葉秋音の傍へ戻っても構わない。でもその時は最悪の状況になることだけは覚悟しておくんだね」

 

「……」

 

「アレはもう、紅葉秋音じゃない」

 

 

 海里と協力したのはある種の利点のため。

 嘘をついているかどうかを知ること。そしてちょっとした検証も含めていたのだ。

 

 だからそれについては問題ない。

 紅葉秋音が俺達に失望し、離れていくことに心は痛まない。

 

 ────しかし、今こうやって思う感情が本当かどうかが怪しくなってきたのだ。

 

 なんせ妖精は頭を弄る。

 あのリセットの最中に感じた声がすべてだとすれば、俺の頭が正常かどうかすら怪しい。

 

 忠告のように言う海里をどこまで信じればいいのか……。

 断言するということは、紅葉秋音の身に何かがあったということ。それが本当なのかはまだ分からない。しかし真実だとすれば────それはつまり、俺達の身に降りかかる可能性もあると言えるだろう。

 

 断言する程度の知識が本当かどうかすら分からない。

 疑心暗鬼すぎるこの世界で、信じられるのはほとんどない。その事実だけが重くのしかかる。

 

 

「……妖精を殺すと言ったな。それはどうやってやるつもりなんだ?」

 

「データを殺すんだよ」

 

「データだと?」

 

「そう。この世界はホラーゲームの世界。リセットをしていても記憶は残っている。つまり何処にでもある強くてニューゲームってなだけ。本当のリセット。全てを真っ白にして、妖精をぶっ殺すためのデータがどっかにあるはずなんだ」

 

「データって……どういう……」

 

「そのままの意味。セーブデータ。キャラクターデータ。そして選択肢……それら全てをぶっ壊してやれば、あの害虫も無傷では済まないでしょ」

 

「あるかどうかすら分からないものを探すってことだろう。それは無理があるんじゃないか」

 

「不確定の話じゃない。絶対にあるんだ。だからあの害虫はリセットを繰り返している。何かを隠すためにね」

 

 

 彼女の話に少しばかり思うことはあるが、今は海里に協力した方が良いか。

 巻き込まれた方が、分かることもあるはずだからな。

 

 

 

 

 

 

 

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