ホラーゲームに転生させるとか、神は俺を嫌っているようだ(Re)   作:かげはし

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第十話 突入01

 

 

 序章で行われる最初のステージは体育館から。

 棒人間のような大きな怪物に襲われるステージである。

 

 しかしその化け物は聴覚が鋭い反面、盲目の怪物であり音さえ立てなければどうにかなる。

 ゲームの中じゃそれに気づくのに苦労して、ステージをクリアするのにかなりのバッドエンドを迎えてしまったが……。

 まあでも、この境界線の世界で死んでも現実でそうなるわけじゃない。

 発狂するかもしれない。痛みで気絶するかもしれない。

 

 でも死ぬわけじゃない。だから俺はゲームが始まったのと同時に春臣を連れて体育館から脱出することを決めた。その時反対方向の外側の出入り口から移動をする夏と鏡夜が見えたけど……彼らもまた何かをするために動いているのだと思って見なかったことに決めた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 

 廊下を走る。

 化け物が出てこない今のうちに。

 

 ゲームが本格的に始まる前に逃げないといけないから。

 だって体育館に出現したあのクリスタルは俺達の命と連動している。あれが食われたら終わり。音を立てる人の方を先に狙うだろうけれど、それでも死ぬのに時間はかからない。

 

 俺達はこのゲームを捨てる代わりに、鏡を見つけるために巣穴へ挑むんだ。

 

 

 

 

「なぁ、クラスメイトそのままにしておいてよかったのかよ」

 

「うん。……本当はどうにかしてあげたいけど、俺達も早く朝比奈と合流してあの空間の割れ目に急がなきゃ。それにここで死んでもそれが現実になるわけじゃないから、大丈夫……今はとにかく調べないと」

 

「……ああ」

 

 

 春臣はとても複雑そうに背後の────体育館の方を見つめていた。

 しょうがない。彼は凄く優しいから。口が悪くとも、喧嘩っ早くても、それが春臣の良いところであって、死にやすい欠点でもあるのだから。

 

 乱れた息を整える時間も惜しい。

 赤組がいるステージ、その場所から体育館まで遠いから。

 朝比奈もきっと俺たちの方へ向かっているけれど、その時間すら────。

 

 

 

「ぎ、ぃぃぁ!!!!」

 

 

 不意に、曲がり角から細長い黒い手が俺へ向けて伸ばされる。

 

 

「っ────」

 

 

「紅葉!!」

 

 

 俺の手を引っ張り後方へ避けた春臣によって攻撃は避けられた。

 でもその声に反応した化け物は、細長い図体をゴリゴリと天井を削りながら移動してくる。

 気持ち悪い姿に春臣が眉を寄せる。図体がでかいからスピードは遅くても、手が長いせいでこちらの距離を掴まれたらすぐに攻撃してくるだろう。

 

 目がない生き物の口は、とても鋭い。

 

 どうしたらいいのかと思っていた刹那。

 その怪物を一閃するように、何かが通り抜けた。

 

 赤く、燃えるような輝きに見覚えがある。

 それは怪物を捉えていた。冷静に、襲い掛かってくる手を避けてはぶった切り、そうして顔へ向かって特攻する。

 

 

 

「ぎ、ィ────」

 

「鈍いな。それと柔らかい身体だ。私の木刀でも真っ二つか」

 

 

 化け物が黒くチリとなって消えた先に現れたのは木刀を持った朝比奈だった。

 

 

 

「あ、朝比奈!?」

 

「悪い、助かったぜ朝比奈!」

 

「気にするな。あのような化け物にしり込みする気持ちも分かる」

 

「いや人間が化け物相手に特攻とか普通ないからな!」

 

「そうか? あれほど柔らかい肉であれば傘の一本で済む話だろう」

 

「そう言えるの赤組だけだから!!」

 

 

 

 ほんと脳筋集団赤組の筆頭はこれだから!!

 いや助かりましたけど! いろいろと死にかけたようなものだったし、命の恩人に向かって怒鳴るのもアレだけど!

 

 

 春臣も呆れたような顔で俺の頭を叩いてきた。

 

 

「落ち着けよ紅葉。今はそんな無駄話してる場合か?」

 

「あっ、そうだな。よし、合流も出来たことだし行こう!」

 

「ふむ。こちらか?」

 

「朝比奈そっちじゃなくてこっち!」

 

「分かった。従おう」

 

 

 向かった先にあるのはゲームで何度か見ていたあの空間の割れ目。俺達にとっての化け物の巣穴。 

 そこに躊躇なく手を突っ込んだ朝比奈が「人の身体が入っても大丈夫そうだ」と呟く。

 

 それに俺は冷や汗をかきつつも、春臣を見た。

 春臣もにっこりと笑って俺の背中を強く叩いた。

 

 

「気合は十分だな?」

 

「おう」

 

 

 怪物がまだ出てきてない今がチャンスだと、俺達はその中へ足を進めた。

 

 

・・・・

 

 

 

 なんか巨大な生き物の体内にいるような感覚がする。

 ドクンドクンと脈打つ壁。そして何かの液体が地面を流れる。時々壁や地面が柔らかい部分があり、そこを押してみるとちょっとだけ動く感触があった。

 

 

「気持ち悪い……」

 

「同感だ。さっさと探してここから出ようぜ」

 

「…………」

 

「ん、どうした朝比奈?」

 

 

 顔を青ざめさせている俺や春臣とは違い、涼しげな顔をした朝比奈が何かを考えるかのように周囲を見ていた。どうしたんだろうか。

 よくわからず首を傾けると、彼女はハッと我に返り俺を見た。

 

 

「すまない……すこし、懐かしく思えてな……」

 

「え゛?」

 

「おいおいこんな気持ち悪い場所に懐かしさを覚えるとかどんな幼少期を過ごしたんだよ朝比奈ぁ」

 

「いや、なんでもないんだ桜坂君。何故かはわからないが、そう思ってしまったというだけだよ」

 

 

 そう言って、前へ進みだした朝比奈に俺たちはお互いの顔を見つつ慌てて彼女の後を追いかけた。

 空間の割れ目は所々にある。

 そこに目を向けると、境界線の世界の────学校のどこかしらが映し出されていた。

 

 右隣には屋上の風景が。

 その左には、校庭の様子が。

 

 つまりここから外へ出ることが可能。どの空間から出ても構わないということだろう。

 

 

 それにしてもと思う。

 朝比奈が足を進めているから前へ歩いているけれど、後方にも道は広がっていた。

 それ以外にもたまに分かれ道があったり、四方にそれぞれの道が広がっていたり。

 

 

「迷路みたいだな」

 

「広すぎるのも探す手間が増えて嫌なもんだ。でもま、これだけ広いんだから何かしらはあるだろうよ」

 

「だといいんだけど……」

 

 

 もしも何もなかった場合はどうしようか。

 やはり白兎に会って何か話した方が良いのか。

 

 いろいろ考えているうちに前方を歩く朝比奈の足が止まったらしい。彼女の背中に俺の鼻がぶつかってしまい、思わず両手で鼻を押さえる。

 

 

「な、なに?」

 

 

 朝比奈は呆然と何かを見ていた。

 隣にいた春臣を見ると、彼もまた驚いたような様子で何かを見ていたのだ。

 

 それも顔じゅうから汗を流し、身体を震えさせ怯えている様子で。

 化け物であれば朝比奈が倒してくれるだろう。だからこれは、きっと違うものだ。

 

 

 恐る恐る朝比奈から横にずれて前を見た。

 

 

「えっ」

 

 

 狭い通路とは違い、広い空間が広がっていた。

 いや違う、外のようなありえないほど奇妙な景色があった。

 

 赤い月。赤い液体が池のように広がっている校庭。

 バラバラに砕けた人の形をしているマネキンのパーツ。そしてぬいぐるみの残骸が赤い池に浮かんでいるのが見えた。

 学校は所々が崩壊しており、古くさび付いていた。

 

 そして中央には────クリスタルがあった。

 そのクリスタルに見覚えがあった。

 なんせゲームの中では命の結晶。クラスメイト全員の魂を凝縮させたもの。

 

 それが何でここにあるのか。

 

 

「……紅葉、あの中を見ろ」

 

「えっ」

 

 

 春臣が指さした場所。

 それはクリスタルの中だった。

 

 通常だったらその中は透明であるはず。でもここにあるモノは一つの小さな人影があったのだ。

 それに俺たちは見覚えがある。憎たらしいほどに小さく可愛らしいそれは。その影は……。

 

 

(えっ、なんでクリスタルの中に……妖精がいるんだ?)

 

 

 よくわからない。でもアレはきっと、重要な何かだ。

 ごくりと息を呑んだ俺はそのクリスタルに近づくため、一歩足を動かそうとした。

 

 

 

《あらあら、迷い込んできた虫が三匹いますねぇ》

 

 

「っ!」

 

 

 背後から聞こえてきた声にゾッとする。

 反射的に振り返ろうとして、それが俺の横から前へ移動しすれ違う様子が見えた。

 

 

 狭い通路から、血濡れの校庭へ。

 そのクリスタルの目の前へ。

 

 

《哀れなあなた達はゲームに負けました。それをどう償ってもらいましょうか?》

 

 

 クスクス、クスクス。

 妖精は笑う。嗤う。

 

 クリスタルの中にいる妖精と同じ姿で、可愛らしく飛び回りキラキラと羽を輝かせながらも。

 

 

《命にリミットはありません。私が欲しいのは生贄となる命》

 

 

 楽しそうに笑って。嗤って。

 妖精は独り言のように呟いている。

 

 

《選択権はあなたですよー。さあ、どの命を犠牲に―――――します?》

 

 

 なんだろう。デジャブだ。

 その台詞、その声に聞き覚えがあった。

 

 

 

《生贄となるのはどっち? 海里夏? それとも────》

 

 

 

 どこかで聞いた。ゲームでの重要なストーリークリア。

 そこで必ず海里夏が犠牲になって死んでしまうもの。夕青の続編ステージでの……。

 

 

《あなた?》

 

 

 

 妖精が指さしたのは、何故か俺だった。

 それに困惑し冷や汗を流す。もう背中がぐっしょりと濡れているのが感じられるぐらい、現状が受け入れられなかった。

 

 

「な、何を言ってるんだ。だって俺は────」

 

 

 その台詞の意味が分からない。

 そう呟くと妖精は失望した目で俺を見た。

 

 

《まだ自覚が足りないってことですね。まあいいわ。どうせ死んじゃうんだもの》

 

 

 

 くるりと一回転した妖精が指をパチンと鳴らす。

 そうして何かが壁や地面から出現する。それは人よりも大きな卵だった。

 卵が割れて、大きな化け物が生み出されていく。その勢いは早く、朝比奈が動く前に数十数百と数えきれないほどの化け物によって囲まれてしまう。

 

 もう俺たちに逃げる隙は無かった。

 

 

 

《飛んで火にいる夏の虫ってこういうことを言うんですよねぇー! アハハっ!》

 

 

 

 楽しそうに笑った妖精に、自らの死を幻視した。

 

 

 

 

 

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