ホラーゲームに転生させるとか、神は俺を嫌っているようだ(Re)   作:かげはし

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第七話 白兎の行方

 

 

 

 

 鏡夜は夕青の知識について俺が覚えている範囲で細かく聞いてきた。

 学校の中ではない。でも誰も来ることのないだろう場所。鏡夜や俺の家ではなく、誰にも邪魔されることがないという理由でカラオケ店へ。

 しかし歌うことはせず、部屋越しに聞こえてくる下手な歌やら熱唱やらをBGMにしつつ、話し合うばかりだった。

 

 その空気は異様としか言えなかった。

 まるで尋問されているようだった。嘘をついたら絶対に許しはしない。そういう容赦のなさが窺い知れる程度には鏡夜は本気なのだろう。

 

 

「……でもさ、妖精があの時殺された。いや夏が殺したようなもの? なんだし、未来は確実に変わってるはずだよね。だからその……俺の知識ってあんま意味なくなるんじゃねーかって思ってるんだけど……」

 

「そうだな」

 

「あの、鏡夜? なんか疲れた顔してるけど大丈夫か?」

 

 

 俺を見た鏡夜が深い溜息を吐いてきた。

 最初に見た頃の鏡夜の爽やかな感じは何もない。あの猫かぶりも何もない、ただの苛立ったような雰囲気漂わせている少年。

 

 そんな彼が俺を睨み、言うのだ。

 

「朝から急によくわからない超常現象に巻き込まれてみろ。まだ見知ったばかりのクラスメイトに狙われると言われた気持ちが分かるか?」

 

「あー……」

 

「この世界がホラーゲームだのなんだの。お前の知識についてもいろいろ分からない部分がある以上。安全と呼べる場所が限られているんだぞ」

 

「そう、ですね?」

 

 

 学校以外も安全かどうかわからない。鏡夜はたぶんそう思っているのだろう。

 自室以外が安全じゃないとか思って引きこもる……わけはないよな。うん。この主人公なら何とか生き抜こうとするし。

 

 

「これから先また巻き込まれるのかと思うと腹が立ってしょうがない。あの妖精についても分かっていないことがあるんだぞ」

 

「あ、やっぱりそっち?」

 

 

 やっぱり神無月鏡夜か。

 ひねくれた性格だから何かしら理不尽な事態に巻き込まれても絶対にひざを折らないと思った。そういうメンタル面は強いとこあるし。

 

 

「ただ……」

 

「ん? どうかしたか?」

 

「……いや、なんでもない」

 

 

 俺を見た鏡夜が首を横に振る。

 何を考えているのか彼は答えようとしない。まだ心が開かれていないような距離感に少しばかり寂しい思いはするけれど、まあ鏡夜だから仕方ないかと諦める。

 

 そう思って────ふと、思い出した。

 

 

「……そういえば、白兎は?」

 

「ん……ああ。確かお前の話だと……将来、ラスボスに成り得る女のことか?」

 

「そうだよ。あの境界線の世界で会うはずだったのに、夏のせいで何もかもなくなっちゃったから……」

 

 

 あの時のゲームで出会うはずの少女。

 髪の毛が純白で、兎のようだと感じるぐらい可愛らしい女の子。確か紅葉秋音よりも背が低く、庇護欲をそそられる見た目と雰囲気でプレイヤー達を騙し、選択肢によっては彼女がラスボスとなり鏡夜を殺しにかかるキャラクターでもあった。

 

 彼女は夕日丘高等学校の生徒ではない。

 あるふるびた神社の神様として知られているのだが……。

 

 

「会わない方がいい」

 

「えっ? でもあのままにしてたら……」

 

「いや、止めておこう。藪をつついて蛇を出す行為は避けるに限る」

 

「でもそれって大丈夫なのか。本当に」

 

 

 白兎は鏡夜を好いている。しかし彼女が出会うことのできる場所は境界線の世界のみ。

 いやでも、ゲームの選択によっては現実世界で白兎に会えることはできるけれど、それって限られてるしなぁ。

 

 それに比べて一番遭遇しやすい境界線の世界は化け物が多く、死にやすい危険な場所。

 白兎はそこで鏡夜に会おうとするがいつも死にかける。

 

 ……いや、実際に死ぬのだ。

 あのゲームの序盤でもそうだったはず。

 

 死んでまた生き返って鏡夜に会って、また死にかけて……プレイヤー次第で死ぬ。

 そういう嫌なループを刻んだ彼女は死ぬ回数に応じてラスボスルートへ最も近くなっていくのだ。

 

 だから彼女が死ねば死ぬほどラスボスとして強くなる。

 鏡夜が助けなければならない存在のはず。

 

 なのに彼は会うつもりはないと言ってくる。

 そのせいで何処か知らないところで白兎が死んだらどうするのかと思うのだけれど、彼は何も言わない。

 

 

「とりあえず次に妖精に呼び出された時……図書館での化け物戦だったな。その間に対策を考えておく。……お前はその間、夏に情報を貰えるかどうか試してほしい。何か分かったら話してくれ」

 

「お、おう」

 

 

 主人公が考えていることが分からない。

 それが少しだけ不安だけれど────それで今こうして危険も何もなく生き残れているから大丈夫なんじゃないかって思えるんだよなぁ。

 

 

 とりあえず白兎についてはまた境界線の世界に行くことになってから考えよう。何処に表れるのかは分かっているし。

 一週間の間に夏に話が出来るとは思えないんだけれど……まあ、頑張ってみようかな。

 

 

 

 








「夏から話とか聞いてみるけど……期待はしないでくれよ?」

「分かってる。こちらも準備しておくから……まあ、後は頼んだぞ」


 そう言ったあとの紅葉秋音は納得した顔で鏡夜と別れていった。
 鏡夜はただ紅葉秋音の後姿を見て考えていた。見送っているふりはしていたが、彼女の言動、その言葉の無意識にある何かに気づいていたのだ。


(今までの過去からして生徒の犠牲数は数えきれないほど多いはずだ。しかし外部には漏れていない。いや、話すことが出来ないのかそれとも何か意図があるのか……)


 鏡夜は考える。学校で何が起きているのか。
 あの妖精が何なのか。海里夏は何故妖精を殺そうとしたのか。自分が狙われている意味。

 そしてあの紅葉秋音の────。


(頭の中を覗けると言ったが、俺の考えや海里の行動を読めていたら殺しにかかることを避けるために姿を現そうとはしないはず。それとも頭の中を覗き込み、読むための条件があるのか……)


 鏡夜は不可解な部分が多すぎて頭が痛くなっていた。
 正直言ってこんな超常現象に巻き込まれるために学校に入学したわけじゃない。死ぬために学校へ通いたいわけでもない。

 それは、ほぼ全員の生徒がそう思っているだろう。
 なのに何故まだ学校に通おうとするのか。何故、毎年のように起きているあのテロのような妖精の襲撃にあってもなお入学式が行われるのか。

 先生たちは当たり前のような顔をしていた。
 先輩たちは諦めきった顔をしていた。

 それが当然の事だと、受け入れていた。

 あの紅葉秋音でさえそうだ。
 鏡夜は自分と出会った直後に感じ取れた紅葉の表情の変化。そして記憶を思い出した直後だというあの慌てっぷりが嘘のような現状の受け入れに違和感を感じていたのだ。

 もしも妖精が、学校に入学する生徒に何かをすることが出来たなら。
 自分を狙う理由に何か意味があるとしたなら────。

 きっと、妖精自身が好むような状況を望むはず。
 記憶を持った少女なんて好都合な存在を望むはずはない。だというのにそれを知らなかった。いや……まだ知らなかったのか? それとも知っていて、故意にそのままにしたのか?


(違う。紅葉秋音が覚えている内容に何かしらの意図があったら……)


 紅葉は何故、白兎に会わせようとするのか。
 その意味も何かあるのかもしれないと……。



「……尾行するにしても拙いぞ。そろそろ出てきたらどうだ」


 深い溜息を吐いた鏡夜が考えることを止めて後ろを振り向いた。

 周囲には誰もいない。もう太陽が沈み切っており、街灯によって照らされた道は薄暗かった。人がいないせいでとても静かだ。
 しかしこれは鏡夜が望んだ結果の一つ。なるべく人通りが少ない道を選んだ結果のせいでもある。

 カラオケ店へ向かう直後から誰かにつけられているなと感じていた。
 紅葉は何も分からなかったみたいだが、鏡夜にはわかっていた。

 そうして曲がり角へ声をかければ、出てきたのは背の高い男だった。
 黄色────いや、なんだか星空が似合いそうな男だと一見して思えた。


「あっ、バレてたっすか?」


 軽薄そうな口調からして、喋ったらいい印象が台無しだなと鏡夜は笑ったのだった。


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