遅れました(1敗
バクシンオーはまだ普通には書いてませんが、今日はお誕生日なので。
今日は待ちに待ったバクシンオーの誕生日である。
学級委員長である彼女はきっと多くのウマ娘からお祝いされているだろうが、それはあなたがお祝いしない理由にはならない。
バクシンオーは何が欲しいのか。そう考えたあなたは一つの結論に辿り着いた。
「それで今日ここに来たという訳ですか!」
──うん、勝手に買って合わなかったら大問題だし。
バクシンオーとやって来たのは練習用のシューズショップ。走る事が大好きなウマ娘達だが、バクシンオーはイメージ的に良く走っている気がする。「バクシン! バクシン!」とか言いながら。
そんな想像をしたあなたは、休日に2人っきりで出かける用事をした。快諾したバクシンオーの手を引っ張り、そしてここへやってきたという訳である。
「ふむふむ……こういうのはよく分からないですが、とりあえず履いてみましょう!!」
──分からないの?
「勿論ですとも!」
何故彼女は得意げなのだろうか。因みに彼女のトレーナーから、分からないと言った時用にこれが良いというのを伺っている。心配が勝ったのだろうが、あなた的には感謝しかない。
たったったと店に入って行き、物色を始めるバクシンオー。ふむふむと言いながら見て回っているが、本当によく分かってなさそうだ。それは長距離用のシューズではないのだろうか。
素人のあなたよりも分かっていなさそうなバクシンオー。下手なのを選ばれても、履かずに眠るのでは買うあなたも寂しいので、トレーナーのメモを頼りに選ぶ事にした。
──バクシンオー。
「おやっ、どうしました?」
──折角だから、僕が選ぶよ。幾つか選ぶから、走りやすかったのを選んで欲しい。
「成程! それではお任せしましょう!!」
よし、とりあえず選ぼう。
デザイン……は置いといて、とりあえず機能性からだ。
バクシンオーは短距離。そして逃げを得意としている。
あなたはバクシンオーの手を引っ張り、短距離シューズのコーナーへと進んだ。
「あのっ」
──? どうしたの、バクシンオー。
「い、いえっ! とりあえず向かいましょう!!」
「落ち着くのです……私は学級委員長学級委員長……
」
ぶつぶつと呟くなんて彼女らしくない。と思いつつ進んで行くと、辿り着いた。
様々なバリエーションの靴が置いてあり、カラーリングも多種多様であった。
ピンクなんてバクシンオーに似合うななんて思いつつ、あなたは候補を選ぶ。
──ほらっ、どう?
「……なんだかよく分からないので、履いてみましょう!」
──そう言うと思った。
あなたは店の店員さんに断り、店の外にある試走コーナーへと向かった。
他のウマ娘はいなく、広いトラックはあなたとバクシンオーしかいない。
芝の生えたトラックに、ピンク色のシューズを履いたバクシンオーが入る。
──どう? 履き心地は。
「結構良いですね! まぁ、走ってみないと分かりませんが!」
──それじゃあ短くで良いから走ってみて。
「分かりました! バクシ──ン!!!!!」
大地を蹴り、バクシンオーが駆け出す。
彼女から出たとは思えない振動があなたに伝わる。言葉通りの驀進王。あなたはその光景に圧倒されていた。
いつもの可愛らしく元気な彼女からは見れない様な真剣な表情を浮かべ、バクシンオーは戻ってきた。
あっという間だった。
──どう?
「結構走りやすいですね! うん、これにしましょう!」
──えっ、それで良いの?
「勿論ですとも。だってあなたが選んでくれましたから!」
彼女の笑顔が飛び込んでくる。思わず熱くなった顔を隠す様に、口元を押さえていると、バクシンオーも自分の発言に気が付いたのか、顔を赤くさせてぽそぽそと呟いていた。
気まずい時間が流れる。双方羞恥に顔を染め、次の話が切り出せない。
先に口を開いたのは、バクシンオーであった。
「とととと、とりあえず! これを買いましょう!」
──そ、そうだね。それじゃあお会計に向かおうか。
「えぇ! そうしましょ──
刹那、バクシンオーの言葉が途切れた。あなたが振り返ると、バランスを崩したバクシンオーが、顔面から地面に向かっている。
まずい、怪我をしては彼女の選手生命に関わる。些細な事から怪我に繋がる。大袈裟かもしれないが、それほどあなたにとってバクシンオーの走りが見れなくなることは、悲しかった。
だから、いつにない速さで彼女の元へ。そして転ぶバクシンオーの体を抱え、そして共に地面に倒れ込んだ。
鈍痛が背中に走るが、無事に彼女の怪我は防げたらしい。迫る衝撃に備えていたのか、キュッと桜色の目を瞑ったバクシンオーは、来るはずのものが来ない事を不思議に思って目を開けた。
「あっ」
彼女の吐息混じりの声が聞こえる。
ふわっと温かい風が包み込む。バクシンオーとあなたの距離は、僅かになっていた。
あなたにはバクシンオーの可愛さと美しさを兼ね備えた顔が、そしてバクシンオーにはあなたの顔が。
ちょっと上から押されて仕舞えば、口と口がくっつくことも辞さない距離感。誰も見ていないからこそ、許された距離感だった。
あたりの音が消えた様な気がした。
「あの……」
──ご、ごめん。直ぐに立たせるから──
「いえ、なんだか不思議ですね」
──えっと……
「どうしてこんなにも心が温かいのでしょうか。手を繋いだ時も、あなたは気が付いてはおりませんでしたが、私は……」
──バクシンオー、とりあえずこの体勢は。
頑なに退こうとしないバクシンオー。
どうしたのだろうか。
「ドキドキしてました。こんな感情は初めてです」
──バクシンオー……
あなたはバクシンオーを地べたに座らせ、そして彼女の隣に座った。ぺたりと可愛らしく座る彼女は、いつものバクシンオーっぽくない。
「いつもは学級委員長として、頑張ってきました。でも、ずっと気を張っているのも、中々疲れるんですよっ」
だから。と、彼女は言葉を続ける。
「今日は、今日だけは頼れる学級委員長のサクラバクシンオーは辞めにして……」
「あなただけのサクラバクシンオーになってはダメですか?」
潤んだ目があなたを貫く。
「なーんて、まだ言えませんねっ!!!!」
──え?
「まだ、未熟者ですから!」
そう言った彼女の顔に浮かぶ残念そうな表情。
だが、それも一瞬の内に消え、満面の笑みがあなたに向けられる。
「さて。それでは今度こそお会計に向かいましょう!!!」
バクシンオーに促されるままに立ち上がるあなた。先程までの弱々しいバクシンオーの姿はなく、いつもの頼れる学級委員長の姿があった。
そしてぎゅっとあなたの手を握ると、バクシンオーは走り始めた。
「バクシンバクシィィィン!!!」
──待って手を繋いだままだとまず──
弱さを少し見せる学級委員長でした。
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