ニンジン農家   作:玄武 水滉

11 / 17

お待たせしました。
机作ったりひぃひぃ言ってて遅れました。
ちなみに難産です(いつも通り


黄金の不沈艦

 

 

 

 

 トレセン学園は景色が良い。

 

ニンジンを運び、暫く経ったあなたが見つけた小さな秘密だ。特に夕陽が地上を照らす日なんて。きっと、その光景はちっぽけかもしれないが、忘れられないものになるだろう。

 あなたはそんな秘密を抱え。今日も疲れた体を癒す様に、その光を浴びていた。汚れた作業着が際立ち、あなたがそこにいるのだと再確認させてくれる。

 コツコツコツ。そんな音が背後から響く。既にトレーニングを積んでいたウマ娘達は寮に帰っているはずだ。では、一体誰だろう。

 

 振り返ってみると、そこにはまごう事なき美女が立っていた。白く輝く髪を下ろし、ゆっくりと寄ってくる彼女。頭を見るとウマ耳が。生徒だろうか。いや、長く通っているが見た事はない。

 大人の優雅な雰囲気を携えたまま、彼女はあなたの隣に立った。そして、沈んで行く夕陽を見る。別れを告げる様に落ちて行くそれを見ながら、彼女は此方を向いて笑った。

 爆笑でも嘲笑でもない。ただただ、ふふっと優美に笑う。あなたはそれが非常に──

 

 ──ってゴルシちゃん。どうしたの。

 

「…………はて、生憎ですが(わたくし)は──

 

 ──いやいや、どう見てもゴルシちゃんじゃん。

 

 たらりと額の汗が流れる美女……もといゴルシちゃん。

 きっとなんかの悪戯なのだろう。他のウマ娘と違い、破天荒で賢いゴルシちゃんだからこそ、あなたは悪戯の線を疑わなかった。

 見抜かれた。騙せないと感じ取ったのか、儚げな雰囲気を崩し、いつも通りの色が戻ってくる。

 長いため息を吐くと、どんよりとした顔を此方に向けてくる。

 

「どーしてわかったんだよぉ……結構自信あったぞ?」

 

 ──まぁ、ゴルシちゃんだし。

 

「くっそー! だぁああぁぁ……」

 

 実は何度も悪戯されているが、そのたびにあなたは飄々と切り抜けてきた。

 その度にゴルシちゃんは悔しそうに顔を歪めるのだが、ふと気になる。

 何故、こんなにもしつこく悪戯を仕掛けてくるのか。

 

 ──そういえばなんで僕にばっかり? 

 

「あん? そりゃあ……まぁ、別にお前にばっかりってわけじゃないけど……」

 

 ──そうなの? 

 

「マックイーンとか結構良い反応するぜ? でも、一度も引っ掛からなかったのは、お前が初めてだ」

 

 なるほど。たしかに一度も引っ掛からなければ、引っかかった時のリアクションを見たくなるのか。

 そこでふと思い付く妙案。いつも悪戯を喰らっているあなただ。ちょっとした趣向返しで、仕掛けてみる事にした。

 

 ──でも、最初は分からなかったよ。

 

「……へぇ」

 

 ──だって、こんなにも綺麗な人見た事なかったから、目を奪われてたんだ。

 

「…………へっ?」

 

 あなたは敢えて彼女の顔を見ずに、夕陽を眺めながら述べる。

 

 ──最初は夢かと思った。幻想かと思った。消えてほしくないって思った。

 

「……………………」

 

 ──でも、よく見ればいつも話してるゴルシちゃんで。でも、ゴルシちゃんでよかったって思った。

 

「………………………………」

 

 ──だって、ゴルシちゃんは消えないでしょ? 

 

 

 ──だからよかったって思っ──

 

 言葉半ばでゴルシちゃんへと顔を向けて、そして彼女の鬼灯の様に紅くなった顔が飛び込んできた。はて、これは夕陽の所為か。それとも、彼女の心の内か。

 ボーッとしながら、あなたの言葉を噛み締めていくゴルシちゃん。いや、ゴールドシップは、ゆっくりゆっくりとあなたの顔を見つめていく。

 そのパーツを舐め回す様に、一つ一つ吟味していく。ゴールドシップが再び口を開いたのは、既に夕陽が沈み切ってからだった。だが、顔の紅潮は未だに引かず、それがゴールドシップが感じている気持ちだと、あなたは思った。

 だからこそ、次の言葉が出ないあなたの顔は、いつになく熱くなっていた。

 

「ごっ、ゴルシちゃんはそろそろ行かなきゃなー」

 

 棒読みが過ぎるぞゴールドシップ。

 あなたの手が空を切る。嫌だ、もう少し話していたい。折角なら、もう少し心を開けたい。

 だが、そんな願いは虚空に消え、少しずつ離れて行くゴルシちゃんの影を掴まない。

 

「そ、それじゃあ……」

 

 ──また……

 

 お互いに離れたくない気持ちが募る。だが、それよりも、ゴールドシップはその気持ちに名前を付けられないでいた。

 

 

 ー

 

 

 

 

 

 

 

 ゴールドシップは走る。気持ちを流す様に。へばりついた幸せを剥ぎ取る様に。

 ゴールドシップは走る。その不可解なものを流す様に。自分ではない自分を剥ぎ取る様に。

 

「何だよっ……何だよこれっ……!」

 

 離れれば離れる程苦しくなる。胸をキュッと抑えながら、ゴールドシップは走った。

 ふとそこで、見覚えのある背中が映る。これを解決してくれるのなら、誰でも良いと思っていたゴールドシップは、彼女に話しかけた。

 

「マックイーンッ!」

 

「おわあぁあ! ってゴールドシップさん!? どうしましたの!?」

 

「なぁマックイーン! 教えてくれよ! なぁ!」

 

「ちょ、ちょっと落ち着いて下さいまし! って随分と顔が紅──

 

 肩をがっしり掴んで、ゴールドシップは叫ぶ。

 

「分からないんだ! あいつと離れたらどんどん苦しくなって……ッ!」

 

「……あいつ?」

 

「そうだよ! もっと話したいって、離れたくないって! でも恥ずかしくなって……もう分からないんだ!」

 

「……なるほど。一旦整理しましょう」

 

 何か分かったのか、マックイーンは一旦ゴールドシップを落ち着かせる。

 肩で息をするゴールドシップ。何とか落ち着いたのか、マックイーンの瞳を見る。

 

「あなたの言う『あいつ』はどんな人ですか?」

 

「あいつは優しくて、悪戯しても何回も躱されて……」

 

「では、『あいつ』と離れたらどんな気持ちになりましたの?」

 

「嫌だって。寂しいって、もう少し一緒にいたいって」

 

「成程……最後に」

 

 ゴールドシップは唾を飲んだ。

 

「私と一緒に『あいつ』がいたら──ッ!」

 

 マックイーンは言い淀んだ理由は一つ。

 それはゴールドシップから感じ取った怒気。だが、それも一瞬の間に霧散していく。

 ちょっと安心したマックイーンは、そして目の前の光景に驚きを隠せないでいた。

 いつも騒がしく、色々と引き起こすトラブルメーカーのゴールドシップ。そんな彼女が──

 

「あぁ、そっか……」

 

 いつになく幸せな表情を浮かべていた。柔らかい笑みを浮かべ、うるりとした目をここにはいないはずの『あいつ』へと向けていた。

 元々ゴールドシップを賢いと思っていたマックイーンは、ヒントを与えればきっと己で辿り着くであろうと思っていた。が、まさかその過程で怒りが発せられるとは思ってもなかった。

 それほど大事に思っているのだろう。そんな相手がいるゴールドシップの事が少しばかり羨ましくなった。

 

 一方のゴールドシップ。胸に手を当て嬉しそうに微笑んでいた。感情を全面に出し、雰囲気さえも和んでいく。元々絵画に出てくる様な美女であるゴールドシップが笑うと、より一層絵になる。

 ゴールドシップは、隣にマックイーンがいる事も忘れ、只々己に芽生えた感情を大事そうに温めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アタシ……あいつのこと、好きなんだ」

 

 

 その芽が花を咲かす日も、近いかも知れない。

 

 

 





ゴルシちゃん編はまだあります(歓喜
そういえば、鬼灯って花言葉に偽りとか自然美とか。はたまた誤魔化しなんて意味があるらしいですね。書き手の解釈は話しませんが、ご自由に解釈頂いて構いません。
Twitterのフォロー及び読了ツイートありがとうございます。励みになってます。また、更新出来なそうな日は、無理とか何も呟かなかったりするので、良ければフォローしてくれると更新が分かります。


https://twitter.com/kurotakemikou

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。