ニンジン農家   作:玄武 水滉

12 / 17


誕生日って書いてありますが、誕生日要素全くないです(??????)
でも、許して。


帝王 〜誕生日〜

 

 

 

 実家から離れ、一人暮らしを始めていたあなた。

 ニンジン農家として実際に畑に行く事はあるが、以前ほど頻度は減り、今では信頼出来る人に任せている。というのも、その功績を讃えられ、講演会などの話す様な行事が増えたためである。

 非常に慣れないなと思いながらも、話し続ける日々を送っていた。

 慣れない事をするという事は、非常に疲れることでもある。というわけで、毎日死んだ様に眠っていたあなたに、久々の休日が訪れた。

 畑の管理は任せて休んでくれという言葉に感謝しつつ、久しぶりに酒を浴びて眠った。

 

 勿論だが、家には誰もいないはずだった。

 

「ほらー! 起きてよ〜!」

 

 ──……んむぅ……? 

 

 あの声が、好きな人の声が聞こえる。

 いや、そんなはずは無い。何故なら彼女はトレセン学園にいるはず……。

 微睡む頭のまま、あなたはぼやける目を開けた。

 テイオーが笑顔で覗いている。あぁ、きっとこれは夢なのだ。神様が頑張っているあなたに見せた夢。こんな幸せな事はない。

 

「あっ、起きた? おはよっ!」

 

 ──……ていおー

 

「わっ! んもぅ……」

 

 笑顔を向ける彼女を抱える。久々の彼女の柔らかさに心が癒される。

 そんな抱きついたあなたに対して、彼女は慈愛の籠った笑みで頭を撫でる。

 彼女のポニーテールがゆらゆらと揺れ、少しずつ意識が覚醒してくる。

 

 すると、あっ! と声を上げるテイオー。抱えていたあなたの頭をベッドに寝かせ、慌てた様に体を翻した。

 

「ご飯作りっぱなしだった! 起きたらリビングに来てねー!」

 

 たったったっと彼女の去る音が聞こえる。

 寝室の扉が音を立てて閉ざされ、漸くあなたはそこで彼女の温もりを淋しがった。

 離れてゆく熱を逃さない様に、あなたは再び布団をかけて。

 

 ──あれ? 

 

 そこで漸く夢では無い事に気が付いた。

 テイオーが自宅に来ている。しかも、ご飯を作りっぱなしだったって? 

 寝ている場合では無いのかもしれない。ベッドに腰をかけ、伸びをする。音を立てる背骨を労りつつ、あなたはリビングへと向かう事にした。

 

 あなたの長くて短い一日が始まる。

 

 

 

 

 

 

 ー

 

 

 

 

「起きたー?」

 

 ──うん、おはよう。テイオー。

 

「えへへっ、もうご飯出来てるからね!」

 

 ──ありがとう。

 

 2人がけのテーブルに座り、テレビのリモコンを手に取った。そしていつも通りテレビを見ようとして──やめた。

 味噌汁の匂いが漂っている。炊き立ての白米が湯気を上げ、焼き魚が香ばしい匂いを発する。スタンダードだが、非常に懐かしい食事。実家にいる時、いつも母親が作ってくれていた朝食だ。

 テイオーが持ってきたプレートには、あなたの作ったニンジンが煮物として姿を表した。テイオーの朝食だろうか。

 

 ──いただきます。

 

「召し上がれ〜。頑張って作ったんだからね!」

 

 味噌汁の味は、あなたの家のとほぼ同じだった。家に味噌を買って置いた記憶もないのだが、もしかしてテイオーが買ってきてくれたのだろうか。

 

「実はね〜、あなたのお義母さんに教えてもらったんだよっ!」

 

 お母さんのニュアンスのズレを感じる。

 そんな細かい事はどうでもいいが、態々習いに行ったのだろうか。

 

「ボクは花嫁修行もしてないし……どうしようって困ってたら、教えてくれたんだ!」

 

 ──うん、立派なお嫁さんだね。

 

「えへへ……いつでもいいよ? ボクは」

 

 せめて卒業までは待とうか。

 嬉しそうに微笑むテイオー。甘々さは残っているが、以前に比べて随分と余裕が見える。テイオーの自覚がそろそろ花を咲かせているのか。

 かくいうあなたも、自宅で朝食を作ってくれるという行動に、あまり違和感を感じていなかった。

 これが自然なのだと。脳みそがそう認識している。

 エプロン姿のテイオーも。味の感想をドキドキしながら待つテイオーも。美味しそうにご飯を頬張るテイオーも。何故か不思議な感じはしなかった。

 

 ──ああ、そっか。

 

「どうしたの? もしかしてなんか変だった?」

 

 ──いや、幸せだなって。

 

「そうでしょそうでしょ! 頑張ったかいがあったよ! あなたにそう言ってもらえて!」

 

 にっこりと笑う彼女には敵わないな。

 そう思いながら、あなたはテイオーの作った食事を噛み締めていった。

 

 

 

 

 ー

 

 

 

 

 

 

 今日はなんと外に出る気分ではないらしい。

 疲れていたあなたを気遣ってくれたのかと思ったが、そうではないらしい。

 単純に、この自宅に一緒にいるという日常を楽しみたかったのだとか。

 

「もっと撫でてよ〜!」

 

 彼女の鹿毛をわしゃわしゃと撫でると、気持ちよさそうに目を細めた。

 現在、リビングのソファに座り、映画を見ていた。テイオーが持ってきた映画。内容は恋愛もので、離れ離れになったウマ娘とトレーナーが、数年後に出会って無事にゴールインするものだ。

 かなりのヒット作だったが、あなたは忙しかったので、見ていない。気になってはいたので、幸運な事だ。

 

 映画で若干過激というか、年頃の女の子が見れば「きゃー!」目をハートにしながら叫びそうな描写が多々あるが、そんな事が起きる度にテイオーはそれを強請る。

 

「ほらほらっ! 壁ドンしてよ!」

 

 ──うーん、そんなに良いかなぁ? 

 

「いいからいいから!」

 

 頼まれてやってみると、こつんと鼻と鼻がくっつく距離に。

 それでも以前みたいに臆する事なく、テイオーは嬉しそうに微笑むだけだ。

 一方のあなたは慣れていなく、その度に顔を赤らめてテイオーに撫でられる。

 撫でる側が撫でられる側に。テイオーの余裕を益々感じる。

 あなたはもっと照れるテイオーを見たい。その気持ちが募る。

 

「うーん、なんで離れ離れになったんだっけ?」

 

 首を傾げるテイオー。

 

 ──確か、留学とかじゃなかったっけ。

 

「あぁ、そうだった! えへへ、忘れてたよっ!」

 

 笑顔の後、テイオーは己の瞳に大人の余裕を宿した。

 いつもとは違う彼女の瞳があなたの奥底を見透かす。ぐいっと迫るテイオーに、あなたは目が離せなかった。

 

「でも、ボクは離れないよ。ずっと、ずぅっと」

 

 ──僕も離れないよ。

 

「うんっ! 一緒に居ようね!」

 

 ふっと彼女の炎が消え、何事もなかったかの様に映画が動いてゆく。

 気が付けばもうクライマックスのシーンだ。留学から帰ってきたウマ娘が、凄腕のトレーナーのスランプを助け、そして一生添い遂げると誓うシーン。

 映画の中の俳優の影が重なる。暈した描写ではあるが、あれはきっと間違いない。

 

 テイオーが。いや、帝王があなたを覗く。

 テイオーが帝王に変わる瞬間。あなたはそれを見計らっていた。

 あなたが見たいのは。あなたが好きだと思ったのは。

 

 帝王じゃない。

 

 トウカイテイオーなんだ。

 

「うむぅっ!!!?」

 

 彼女の驚く顔。

 映画のエンドロールを傍目に、彼女との温もりが交差する。

 それでも、あなたはテイオーから目を離さなかった。

 彼女の息継ぎと同時に、離れてゆく。真っ暗になったテレビの画面に反射して、あなたとテイオーの顔が映る。いつになく、幸せそうな顔が──

 

「すきっ」

 

 ──僕もだよ。

 

 

 

 そしてもう一度。何度も。幾たびも。

 

 

 

 

 

 ー

 

 

 

 

 

 

 

「結局やられっぱなしだったよ……」

 

 ──まぁね。僕の方が歳上だし。

 

「もー!」

 

 ぽかぽかと叩いてくるテイオーを撫でる。

 疲れているあなたに対して、何かしてあげたい。リードしたい。というのが今回のテイオーの魂胆だったらしい。

 いつも受け身になるから、偶には大人らしく振る舞う事で余裕を見せようとしたとか。

 でも結局あの後、むすっとしながら甘えてきたし、諦めたのだろう。

 テイオーの帝王らしさ。それも良いなと思ったあなたであったが、でもやっぱり──

 

「んぅ? なぁに?」

 

 ──何でもないよ。

 

「むっ! もっとちゃんと撫でてよね! 帝王の頭を撫でられるのはあなただけなんだからっ!」

 

 

 

 甘えてくるテイオーの方が好きだ。

 







誕生日回で誕生日ネタ出してないのは詐欺じゃないか?誕生日記念回って事にすれば良いか(震え
Twitterのフォロー及び読了ツイート励みになってます。また、リクエストや感想はTwitterでも大丈夫です。
よければフォローしていただけると、いつ更新するか分かるのでよろしくお願いします。


https://twitter.com/kurotakemikou
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。