いつものがっつりじゃなくて、まったりとしたいちゃいちゃです。
今日も無事に運び終えたあなた。
そんなあなたに生徒会室へくる様にとの知らせが来た。十中八九、彼女の仕業だろう。という事はエアグルーヴも、誰もいないという事。
こんな汚れた格好でも良いのかと思うあなただったが、行かなかった時の方がきっと面倒くさい事になるだろう。
とりあえずいつも通りゲストの札を貰い、すれ違うウマ娘達に挨拶をしながら、あなたは生徒会室の前までやってきた。
重厚な扉をノックすると、中から彼女の声が聞こえた。
──失礼します。
「何、そんなに固くならなくて良いさ。誰もいないからな」
──というか、ルドルフが呼ぶ時は大体いない時でしょ。
そう言いながら扉を閉めると、むすっとした顔のルドルフがいた。
トレセン学園の制服に身を包んだ彼女は、いつもの表情とは真逆。幼なげに見える表情をあなたに向ける。
そして、漸くどうして拗ねているのかが分かった。
──あー、えっと……ルナ。
「なんだい?」
語尾が上がっているぞ皇帝。
にっこりと笑ったルドルフは、たったったとリズミカルに足音を鳴らし、あなたの腕にくっ付いた。
あなたは『ルナ』と呼ぶのは恥ずかしいのだが、彼女がそう望むのなら仕方がない。引っ張られるがままに、備え付けのソファに身を沈める。
「んっふふ〜」
──どうしたの?
「いやいや、久しぶりだろう? 次いつ会えるかわからないから、こうして君の成分を吸収しているんだよ」
──成分って……
呆れ顔ながらも、そんな彼女を愛おしいと思う。
頬擦りをしながら気持ち良さそうに目を細めるルドルフ。いつもの生徒会長としての顔はなりを顰め、年相応の表情を見せる彼女がいた。
そんな彼女を呆れながらも笑顔で眺め──頭の上で動く耳が気になった。
恐る恐る撫でようとして──いや。きっとデリケートな部分だ。そんな事を思いながら伸ばした手を、彼女の目はバッチリと捉えていた。
「どうしたんだ、撫でないのか?」
──いや、びっくりするかなって思って。
「嬉しくてびっくりするかも知れないが……ほらほら」
ぐいっと頭を差し出すルドルフ。期待の眼差しがあなたを貫いている。
恐る恐る彼女の頭に手を置き、そしてゆっくりゆっくりと撫で始めた。
「んふふ……」
微笑みながら、ぎゅっと力を込めてくる。離さないと言わんばかりの力が、あなたを縛り付けていた。
声が漏れている事にも気が付かず、ルドルフとあなたのゆっくりとした時間が流れる。
次に口を開いたのは、彼女の方だった。
「……最近、あまり休めてなかったんだ」
──そうなの?
「あぁ、ずっと気を張っていた。恥ずかしい所を見せない様にね。私は全生徒のお手本にならないといけないから」
──そっか。
「だから……こうして君に甘えるのが、どんな事よりも幸福さ」
こてんと首を倒し、あなたの肩に寄りかかるルドルフ。
窓からは日が差し込み、あなたとルドルフを照らす。彼女の輝く瞳が、そっと閉じられた。
「こんな皇帝を見れるのは、君の特権さ」
──そうなの?
「勿論だとも。トレーナーにも見せた事ない。ちょっと。恥ずかしいからな……」
ぽしょぽしょと言葉が小さくなり、赤みを帯びるルドルフ。
かわいい。
「ふふっ、幸せすぎて夢かと思ってしまうよ」
まったりゆっくり。そんな時間も幸せだが、もっと恥ずかしがるルドルフも見たい。あなたは芽生えた悪戯心を使う事にした。
ゆっくりとソファから立ち上がると、はてなマークを浮かべるルドルフの手を引っ張り、立ち上がらせた。
「どうしたんだ急に──
そしてそのまま正面から抱き締める。彼女の体を抱き寄せ、そして鼻と鼻がくっつく距離まで詰める。
突然の事に脳が処理出来ていないのか、口をパクパクとさせ急に顔を紅潮させる。
彼女と生徒会室で出会う様な関係になってからだいぶ経った。もうワンステップ進めたい。そんなあなたの気持ちが乗った結果だ。
「ふえっ!!? いや、あの、そのだな……ま、まだ早いんじゃないかそういうのは私はもっと色々なところに出かけたりとかしてだなもう少し距離を詰めてからというかいやいや別に嫌なわけじゃなくてあっ今の
──ルナ。
「ひゃい……」
真面目な顔で見つめると、可愛らしい声をあげ、そしてきゅっと目を瞑った。
ちょこんと口を差し出す様な表情で固まり、あなたを待っている。いつもは見せない彼女の可愛らしさ。あなたにしか見せない表情。
恥ずかしさがあなたを襲う。でも、待っている彼女を蔑ろに出来るか。
温もりが交差し、そっと目を開いたルナと目があった。
一歩進んだ彼女の瞳は、あなたをじぃーっと見つめている。
そして、へにゃりと表情を崩したルナは、あなたの胸に頬擦りを始めた。
「えへへー」
──ル、ルナ?
「もう絶対離さない。嫌だ、このままずぅーっとずぅーっと君といる」
嫌だ嫌だと駄々をこねる様に紡ぐルナ。
皇帝の仮面を剥がし、初めて彼女の本来の姿を見た様な気がした。
そして涙で潤んだ瞳を此方に向け、そしてもう一度顔を近づけてくる。
もう、全てをあなたに見せたルナに、躊躇いなど存在しなかった。
ー
愛しい君。
両親以外にこんなに見せたのは初めてさ。
ってどうしたエアグルーヴ。何? 生徒会室に部外者を呼ぶのはって?
いやいや、彼は立派なトレセン学園の関係者さ。
それに、彼は一般の農家。私はトレセン学園の会長。同じ世界に住んでいる筈なのに、何故か遠い。
私にはそれが悲しかった。
職権濫用は認めるさ。ただ、それでも彼に会いたかった。
どうしたエアグルーヴ。そんな驚いた表情をして。
顔? あぁ、そうか。
皇帝ではない、ただの私を見てくれる彼を思うと。
胸が愛おしく、温かくなるんだ。
嬉しくなると会長らしくなくなる会長の話でした。
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