ニンジン農家   作:玄武 水滉

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書く前「よーし、書くぞ!」

書いた後「え、誰これ」




常識破りの女帝

 

 

 

 

 

 あなたは慣れない手つき……いや、玄人の様に洗練された動きでサイリウムを振る。会場全体が一丸となって、勝利を飾ったウマ娘を祝福する。光の波が気持ちを押し出すように奔流となって流れた。

 

 ──凄かったね〜。

 

「なっ……! 見に来てたのか!!?」

 

 そんな話をトレセン学園で出会ったウオッカに振ると、彼女は恥ずかしそうにしながらそう答えた。

 そう、あのウイニングライブのセンターはウオッカだ。仲良くしている彼女が勝利したと聞き、レースは生で見れなかったがせめてライブはと駆けつけたのだ。

『うまぴょい伝説』を踊るウオッカを見るのは初めてだったが、かなり練習したのだろう。キレッキレのダンスを見せ、笑顔で終えた彼女に対する声援はかなりのものだった。

 

 ──ウオッカのライブ見たかったしね。

 

「ああもう……」

 

 顔をぐしゃぐしゃとしながらそう呟くウオッカ。レースの時に着ていた勝負服ではなく、彼女はトレセン学園の制服に身を包んでいた。

 恥ずかしさからかそっぽを向いてしまったが、ちらちらと此方を見ている。

 

「それで、どうだったんだよ」

 

 ──何が? 

 

「らっ、ライブの感想だろ! もっとなんかあるだろ……こう、凄いとかだけじゃなくてその……」

 

 ──可愛かったよ。

 

「かわっ……かわいいって言うなぁ!」

 

 真っ赤に染めながら叫ぶウオッカ。どうやら彼女はかわいいと言われるのが恥ずかしいらしい。

 顔をぱたぱたと仰ぎながら、キッと睨むウオッカ。

 

「ったく……折角ならかっこいいって言ってくれよな」

 

 ──いやいや、ほら。

 

 あなたは薄型携帯でウオッカのライブを再生した。余談ではあるが、会場で見れなかった人向けにこういったライブの配信も行われている。勿論あなたは現地に行ったが、仕事が忙しい時などはこうして配信で見ていた。

 画面の向こうのウオッカが、アップにされてそして投げ──

 

「ああもう! 見たんだろ! もう見なくていいだろ!!!」

 

 ──何でさ。かわいいじゃん。

 

「だって……かわいいって言われるの恥ずかしいだろ……」

 

 ──かわいい。

 

「だぁー! もう! 慣れてないんだよ、照れるだろ! 分かれよ、 バカ……

 

 恥ずかしさがピークに達してしまったのか、頭から湯気を出しぽしょぽしょ呟くウオッカ。両手の人差し指をつんつんと合わせながら、縮こまっている。

 素直に言っただけなのだが困らせてしまったか。申し訳なさを感じ、謝ろうと彼女の方を向くと、潤んだ目が此方を見ていた。上目遣いがちらちらと垣間見える。

 

「かわいい?」

 

 思わず息を呑んだ。

 男勝りな彼女から、年相応の可愛らしい表情が。あなたの胸にキュッと響いた。

 質問に対して答えを待つウオッカ。まるで子犬が頭を撫でて欲しそうに尻尾を振っているようだ。かわいい。非常にかわいい。

 

 ──かわいいよ。

 

「えへへ……そっか」

 

 胸に手を当て、その温かさを逃さないように大事そうに抱き締めるウオッカ。

 いつもの表情は消え、そこには只々言葉を噛み締める少女の姿があった。

 

「俺さ……ずっとカッコいいって言われたくて。だからかわいいとか言われるのあまり慣れてなくてさ」

 

「でも、なんだろう……お前にかわいいって言われるとさ。やっぱり、は、恥ずかしいんだよ……」

 

 滲み出る恥ずかしさを抑え、溢れ出る幸福を抱き締めた。

 カッコよさを追い求めるウオッカ。彼女を知っている人がこの光景を見たら、きっと驚いていたであろう。

 乙女の表情はあなたを見ている。

 

「そっか、俺。嬉しいんだ」

 

「お前にかわいいって言われるのが。なんでだろうな、よく分からないけど」

 

 ウオッカは一歩踏み出した。恥ずかしさを乗り越え、嬉しさをあなたに伝える。

 とくとくとくと心臓の音が響く。だが、心地の良いものだった。

 昔の自分が今の表情を見ればなんというか。カッコいいとは言わないだろうと思うウオッカ。でも、きっと羨ましがる筈。

 

「……なんか吹っ切れたな。もうかわいいって言われても照れないぜ俺は」

 

 ──かわいい。

 

「うっ……やっぱり恥ずかしいな」

 

 照れながら髪の毛を弄るウオッカ。

 それでも目を逸らさず、彼女ははにかむ。

 

 すると突然。名案が浮かんだと言わんばかりに、ウオッカは手を叩いた。

 

「今度どっかに出かけね?」

 

 ──どっか? 

 

「そうだな〜まぁ、買い物でも良いや。休日に食事でも行こうかな〜って思ったんだけどな」

 

 それは、つまり。

 

 ──デートって事? 

 

「そうだな、ってなんだよ〜照れてんのか?」

 

 ──いいや、全然。

 

「なんだよ〜顔赤いぞ〜!」

 

 頬をツンツンしてくる。こんなにウオッカはぐいぐいくるウマ娘だっただろうか。

 少年の様な笑みを見せながらも、時折見せる少女の表情があなたを惹きつけた。

 

 ──じゃあ行こうか。

 

「おっし! そんじゃあ楽しみにしてくれよな!」

 

 ──うん。

 

「へへっ……ってなんだよ。そんな目で見て」

 

 ──いや、変わったなって。

 

「なんだよ。俺を変えたのはお前だぞ?」

 

 ぐいっとあなたの肩を持ち、下に押すウオッカ。どうやら少し屈んで欲しいらしい。

 お望み通りに少ししゃがむと、ウオッカはそっとあなたの耳に口を寄せた。生温かい吐息が掛かり、ゾクっとした感触が走る。

 

 

 

 

「俺を変えた事。後悔しろよ」

 

 

「これからいっぱい、いーっぱい俺のかわいいところ見せるからな」

 

 

「勿論カッコいい俺もお前に見て欲しいけど……」

 

 

 

 

 周りの音が消えた。

 

 

 

 

「かわいい俺から目を逸らすなよ」

 

 

 ウオッカが離れてゆくのは分かった。が、余韻があなたをその場に縛り付けている。

 たったったと足音が離れ、あなたは漸く遠くに行ってしまったウオッカの姿を見た。

 

 心地良いほどに軽快な足音だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ー

 

 

 

 

 

 もう恥ずかしさなんてねぇ。

 

 最初は言われ慣れてないってのが大きかったけど。それでもかわいいと言ってくれる人がいた。

 

 カッコいいウマ娘を目指す夢はまだ諦めてない。勿論、それは揺るぎない軸だ。

 

 でもよ。

 

 まぁなんだその……偶にだ。偶には、お前がかわいいって褒めてくれるならそれでも良いかなって。

 

 って、何鳩が豆鉄砲を食ったような顔してんだスカーレット? って協力? なんだよそんなに急に乗り気になって。

 

 でもまぁ協力してくれるなら、是非してくれ。

 

 

 あいつをアッと驚かせたいからな! 

 

 

 

 

 

 

 





レポートとゼミから逃げ回ってます。
感想やTwitterのフォローありがとうございます。励みになってます。
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後、オリウマ娘ものの新作書いたんで呼んでくれるとありがたいです。
https://syosetu.org/novel/257011/
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