タキオンより頭が悪いので、書けないと思いましたが、登場人物の頭を軒並み悪くする事によって、難産ですが書く事に成功しました。
いつもニンジンの世話で早起きをしていたあなただったが、今日はより早くの起床だ。
寝惚けた顔に冷たい水が沁みる。
何とか目を覚ましたあなたは、早めにニンジンの世話、そして箱詰めを開始した。
というのも、とあるウマ娘と約束をしてしまったからである。勿論デートなんて大層なものではないが、経験のないあなたにとって少しどきどきの展開でもあった。
どうしようかと悩みつつ、あなたは丁寧に手を洗った。
そして、『お弁当のおかず』と書かれたレシピ本を手に取り、慣れない手つきで弁当を作り始めたのだった。
ー
時は移り変わってお昼時。次いでに自分用のお弁当も作っていたあなたは、待ち合わせ場所に来ていた。
ただ、約束した彼女はその場にはいなかった。きっと遅れているのだろう。そう思ったあなたは、先に食べていようとお弁当箱を取り出し──
「やぁ、すまないね。遅れてしまって」
背後からの柔らかい感触に、思わずお弁当を落としそうになった。
振り返ってみれば、あなたの乱れる姿が面白かったのか、口元に袖を当てながらクスクスと笑うタキオンの姿があった。
彼女はトレーニング用にジャージではなく、白衣姿でやってきた。研究をしているとだけ聞いていたあなたは、タキオンの白衣はとても似合っていると思う。
「約束通り用意してくれたのかい?」
──まぁ、頼まれたし。
「見せてもらおうじゃないか……って、これはこれは。随分と綺麗に出来ているじゃないか」
──食べさせるものだしね。慣れない間は少しでも綺麗にしようかなって意識したんだ。
ぱかりと蓋を開けたタキオンは、そんな感想を述べた。その目はいつもよりキラキラしているようにも見える。
彼女に箸を渡し、いただきますと言ったあなたとタキオンは、お弁当を食べ始め──
「そうだ、折角だから、君が食べさせてくれよ」
──はい?
「こんな可愛い女の子に食べさせる経験など、そうそう味わえるものじゃないぞ?」
──いやでも、タキオン自分で食べられるでしょ?
そういうと、若干頬を膨らませたタキオンは、渋々といった様子で理由を述べ始めた。
「……実験さ。最近感情が与えるエネルギーについて研究していてね。ただ。あまり羞恥という感情は自分でも味わいたくない。そこでデータ取りと食事を同時に行えれば、効率が良いと思ったんだ」
──なるほど……
彼女の言っている事はよく分からなかったが、とりあえず実験らしい。それならば協力してあげるのが、彼女の為だろう。
でも、自分の箸を使うのはまずい。という事でタキオンの手から箸を取り、自分の弁当を傍に置いた。
「あっ」
──どうしたの?
「な、何でもないさ! さぁ、さぁ!」
やけに気合の入っているタキオン。ぽっと頬を染めた事にも気が付かず、あなたはニンジンを使った金平牛蒡をタキオンの口に運んだ。
ぱくっと可愛らしく口を閉じたタキオンに、思わず心臓が跳ねる。
「……なかなか美味しいじゃないか。才能あるんじゃないか?」
──一応レシピ本見て作ったしね。ニンジンが美味しいってのもあるかもしれない。
「成程……もっと研鑽を重ねれば美味しくなりそうだな」
──またお弁当作るの?
「当たり前じゃないか。これからもずっと作ってもらうからね」
何かぼそぼそと言っていて聞こえなかったが、とりあえずまた弁当を作る事は確定したらしい。まぁ、彼女のお気に召したのであれば、作った甲斐がある。それに褒められた事は嬉しい事だ。
再び目を閉じて口を開けるタキオンは、ふと何かを思い出したのか、持っていた小さいバックから小型の機械を取り出した。
──何それ?
「心拍計だ。持つだけで測れる上、何と数値が上がれば音までなる優れものだよ。折角だから持っててもらおうかなって」
──分かった。
測ってどうするのだろう……そんな疑問は口から出ていかず、心の中に留まる。
まぁ、いつも難しい事を言っているタキオンの事だ。きっとこれも何かに使うのだろう。彼女が悪人ではない事を分かっていたあなたは、タキオンからの申し出に快諾した。
左手に心拍計を持ち右手に箸を持ったあなたは、タキオンにお弁当箱を持ってて貰う。
卵焼きを箸で掴み、目を閉じて口を開けるタキオンに、食べさせてあげた。
ぴーぴーと心拍計から音が鳴る。どうやら恥ずかしくないと思っていたが、体は嘘をつかないらしい。
ただ、タキオンは音に気が付かないのか、美味しそうに頬を緩めているだけだ。
うっとりとした目を開け、そこで気が付いたのか、悪戯っ子の様な笑みを浮かべるタキオン。
「鳴っているけどドキドキしたか?」
──まぁ、そりゃあ……ね。
「そうかそうか。君に持たせた甲斐があったというものだ」
嬉しそうに笑うタキオン。そんな彼女を見てこれで良かったのかと首を傾げていると、ポケットに入れている携帯がぶるりと震えた。
携帯を取り出すと、父親に今すぐ帰ってくる様にとの連絡。
あなたの携帯を覗き込んだタキオンは、少し寂しそうな顔をすると、あなたの手から箸と心拍計を取った。柔らかい彼女の手の感触が、あなたに寂しさを覚えさせた。
「まぁ、ある程度データも取れた。よし、もう大丈夫だ」
──そう? それなら良かったんだけど。
何が参考になるのかは分からないが、満足そうなので良いのだろう。
食べるどころか、ほぼ手の付けていない弁当箱を仕舞おうとして、横から手が伸びた。
タキオンは、仕舞おうとしたはずの弁当箱を掻っ攫い、ぱかりと蓋を開けると、タコさんウィンナーを取った。
「ほら、どうせだから少しぐらい食べたまえ」
──えっ?
「ほらほら、こんな美少女があーんしてくれるんだぞ? 良い機会じゃないか」
思わず恥ずかしくなるあなただったが、タキオンがそう言ってくれているのだ。好意に乗ろう。モテない人生でこんな経験は二度とないのかもしれないのだから。
箸を突き出してくるタキオンに向かって口を開けようとすると、タキオンの真っ赤に染まった顔が映った。
だが、その瞬間に口にねじ込まれたタコさんウィンナー。箸の抜かれる感触と共に口を閉じると、満足そうに頷くタキオンの姿。
「ほらほら、そろそろ行かなければならないのだろう?」
──そうだった! ごめん、タキオン。
「いいさ、君がお弁当を作ってきてくれた時点で、私はもう大満足さ。それにデータも取れたしね」
一緒に彼女とお弁当を食べる事は達成されなかったが、それでも良い思い出ができた。
急いで身支度を終えたあなたは、心に残る寂しさを押し切り立ち上がって──
──タキオン?
「なっ、何でもないさ! 早く行きたまえ!」
箸の先をボーッと見ているタキオン。心なしか幸せそうに見えた。
声をかけると慌てて行くように促された。そんな彼女にさよならとだけ言うと、あなたは学園前に止めてあるトラックの元へと向かった。
そういえば、あなたの耳には、タキオンの握った心拍計の音は聞こえていないようだ。単純に鳴らなかったのか、それとも──
ー
親愛なる君。
すまないね、嘘をついてしまって。
私はあまりこう言う事には疎いのでね。ちょっと騙させてもらったよ。何、私とて初めての経験だ。思った以上だったがね。
勿論あんな方法ではデータは集まらない。というか数値を取って行動させる事で初めてデータとなり得るのに、ただの心拍数を測って何になると思ったのだろう。
君は非常に人を信じやすいのかもしれないな。
……あまりこういうのは私っぽくはないのだが、
側にいてあげた方がいいのかな?
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