ニンジン農家   作:玄武 水滉

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この作品初の二部構成です。なので短いです。
因みにこの話の次に続きが必ずしも来るとは限らないので、待っててくれると幸いです。


ミスパーフェクト 

 

 

 

「よしっ……!」

 

 ダイワスカーレットの朝は早い。

 日光を浴びるためにカーテンを開け、尻尾についた癖を櫛で丁寧に直していく。日課となった動きに、迷いはないはず……だった。

 だが、今のスカーレットは、誰がどう見ても緊張していた。耳も固まり、起きた時からガチガチなスカーレット。

 今日こそ今日こそとぶつぶつ呟くスカーレットが煩いと、同室のウオッカは思う。だが、彼女が今までどれだけ失敗してきたか。妥協の嫌いなスカーレットが妥協しそうになっていた時は、ウオッカが励ました。

 幾度の失敗を乗り越えて、今現在がある。ウオッカは寝ぼけ眼だったが、今日こそは成功するのではないかと、ふと思った。

 

「行くわよアタシ! 絶対にアイツとデ……出かける約束を取り付けるんだから!」

 

 そこはデートって言えよと思うウオッカだった。

 

 

 

 ー

 

 

 

 

 

 最近スカーレットの様子がおかしい。そうあなたは思う。

 以前まではよく笑う彼女だったが、近頃はキーキー言っている事が多い。動きも何処かぎこちないし、もしかしたら怪我をしているのかもしれないと不安が過ぎる。

 だが、彼女に怪我をしているのかと聞くと、何かを呟いた後に走り去ってしまうのだ。

 ううむ、もしかして何かしてしまったのだろうか。今までの行動を振り返るが、笑いかけたり、頭を撫でたり……それぐらいだ。もしかして、下手に触れるのはタブーだっただろうか。心なしか顔も赤くしていたし、怒っていたのかもしれない。

 今日怒っていたら謝ろう。そう思いつつ、ニンジンを運んでいく。

 

 運び終えたあなたは、今日はスカーレットはいないのかと思い、辺りを見渡すと、木の影に見慣れたツインテールが──

 

 いや、気が付いていないふりをしてあげよう。

 

「お、おはよう! 良い天気ね!」

 

 ──おはようスカーレット。もう昼だけど。

 

「細かい事は良いのよっ!!」

 

 ぴこぴこと耳を動かしながら、スカーレットは言う。

 そのまま「来なさい!」と言われ、ベンチに腰をかけるように指示をされる。

 とりあえず言われるがままに座るが、肝心のスカーレットは座らないようだ。

 

 ──隣、空いてるよ? 

 

「分かってるわよ! 心の準備が必要なの!!」

 

 心の準備とは一体。と思っていると、勢い良くスカーレットが座った。

 そのまま彼女に目を向けるが、やっぱりいつも通りぎこちない。やっぱりどこか──

 

「今日もニンジン運んでたの?」

 

 ──え? まぁ、それが仕事だからね。

 

「ふぅん、いつもお疲れ様」

 

 ──ありがとう。

 

 そっぽを向いたままであるが、労ってくれるスカーレットに感謝の言葉を告げるあなた。

 余談ではあるが、尻尾と耳が激しく動いていたらしい。どんな意味があるかは知らないが。

 

「……ねぇ、一つ聞いても良い?」

 

 ──どうしたの? 

 

「アンタってニンジンが好きなの? そ、それとも──

 

 ──いや、ニンジンは実はあんまり好きじゃないんだ。

 

「ほぇ?」

 

 ニンジンが好きではないことを告げると、呆けた様な声を漏らすスカーレット。

 恥ずかしさからか頬を染めたスカーレットに気が付かず、あなたは語り始める。

 

 ──元々は、ウマ娘達の力になりたかったんだ。僕が塞ぎ込んでた時、必死に走って、喜んで悔しがるウマ娘達を見て、僕も何か出来ないかって思ったんだ。

 

「それでニンジンを……」

 

 ──だからまぁ、自分の好物を作るんじゃなくて、ウマ娘達の好物を作りたかった。それで少しでも速く、そして美味しく食べてくれれば良いなって。

 

「……そ、それじゃあさ。もしも、もしもよ」

 

 ぽつぽつとスカーレットは言葉を紡ぐ。

 耳はぴたりと止まり、不安そうな彼女の顔があなたの目に飛び込んできた。

 きっと、何か大事な事を言おうとしているのだ。思わず背に力が入る。

 

「アンタはニンジンが作れなくなったら、どうするの?」

 

 ──その時はお客さんとしてレースを見に行くさ。応援したいからね。

 

「でも、こうやって話す事は──

 

 ──出来ないね。トレーナーになる選択もあったけど、僕には才能が無かったから。

 

 スカーレットはそれを妥協だとは思わなかった。

 トレーナーの才能がないから、必死にニンジン作りに励んだ。一体どれ程の人間が、そんな事を成し遂げられるだろうか。ニンジン作りだって茨の道だった筈だ。

 だから、スカーレットはあなたの事を好いた。

 

 ──そういえば、今更なんだけどさ。もう直学園には来られなくなるんだ。

 

 ふと思いだしたついでに、仲の良かったスカーレットに言う。

 

「……え?」

 

 スカーレットは先程とは違い、重くそして不安そうな声色で声を出した。顔が心なしか青い気がする。

 

 ──僕も結構忙しくて。代わりに運んでくれる人が見つかったんだ。

 

「…………」

 

 ──そうすればもっと改良出来るかもしれないし、もっと雇って拡大させる事も出来る。そうすれば──

 

「……だ」

 

 

 ──へ? す、スカーレット? 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嫌だっ!!!」

 

 がばりと顔を上げて、あなたの手を掴むスカーレット。その目には涙が溜まっていた。

 何が嫌だと言うのか。あなたは持ち前の鈍さを発揮していた。

 

「どうして急に言うのよ! そんなの……心の準備が出来てないわよ!!」

 

 涙を溜めたスカーレットは、何かを決心したかの様に、立ち上がってあなたの事を指差した。

 

「約束よ!!!!」

 

 有無を言わさない彼女の勢いに、押し負けたのか頷くあなた。

 

「今度の休みの日。私とデートして」

 

 ──で、デート? 

 

「そう。朝早くに待ち合わせして。買い物をして。美味しいものを食べて」

 

 

 

 

 

 

「一緒に夕焼けを見るの」

 

 

 

 

 美しく笑う彼女の顔が目に焼き付く。

 年相応ではない背伸びした表情に、思わずあなたの心臓が跳ねる。頬が熱くなった。

 手を優しく握り、心からの約束にあなたは頷いた。

 

「それじゃあ約束よ!」

 

 

 

 

 ぱっとあなたから手を離し、離れていくスカーレット。

 彼女の温もりが、空に溶けていく。あなたはそれがとても寂しく感じた。

 

 

 

 

 

「アンタのこと、絶対に諦めないんだからっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ー

 

 

 

 

 

 愛しいアイツ。

 

 気が付けば好きになっていた。

 

 ひたむきな姿勢。どんなに苦難があっても諦めない心持ちに惹かれたのかもしれないわね。

 

 前々からで、デートに誘おうとしてたけど、恥ずかしかったし……って、ウオッカ! 何笑ってるのよ!!! 

 

 ……まぁ良いわ。って良くないのよ。どうやらもうそろそろ来れなくなるって言うじゃない。

 

 そんなの許さないわ。まだ、アイツにアタシを知ってもらってないもの。

 

 まだ、アイツの笑顔を見ていたい。

 

 まだ、アイツの声を聞いていたい。

 

 まだ、アイツの温もりを感じていたい。

 

 

 

 

 まだ、アイツと離れたくない。

 

 その為のデートよ。

 

 アタシを刻んで、知ってもらって。

 

 

 絶対に忘れられない存在にして。

 

 

 

 離れても絶対に迎えに来てもらうんだから! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







続きを書くか、新しいウマ娘を書くかは気分です。
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後、私用で申し訳ないのですが、金曜日がダントツで忙しく、更新できない可能性の方が高いです。今回はTwitterで告知しても明らかにこちらの方が見ている方が多いので、寝ぼけ眼を擦りながら必死に書きました。なのでちょっと短めです。後で加筆もするかもしれないです。
なので金曜日に更新されるかどうかは、下記のURL先のTwitterを見てくださると幸いです。更新前には必ず予約投稿のツイートをするので、21時までにツイートがなかった場合は更新がないと思って下さって大丈夫です。
ご迷惑をお掛けしますが、これからも拙作をよろしくお願いします。


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