ツンデレキャラを書くのは7年書いてきて初めてだったりします。
──よしっ。
デートに誘われたあなたは、鏡の前で気合を入れた。
あの後、直ぐにお洒落な友人に頼み、マシな格好にしてもらった。そこそこの額は財布から消えていったが、仕方がない。酷い格好で向かえば、自分だけでなく彼女にも恥をかかす。そんなわけにはいかない。
緊張が身体を突き抜けていく。だが、彼女はきっと楽しみに待っている筈だ。
デートプランも考え、出来るだけ彼女の意思を尊重しよう。そんな事をぶつぶつと呟きながら、あなたは待ち合わせ場所へと向かった。
ー
余程早く来てしまったらしい。待ち合わせ場所に彼女の姿は無く、あなたは薄型の携帯を取り出して暇潰しを始めた。が、どうにも集中できない。
人生初デート。それはあなたに想像以上に重くのしかかっていた。
ただ、今日の役目はスカーレットを楽しませること。それだけを念頭に置いていれば良いのだ。
「おまたせっ!」
若干急いだ様子のスカーレットが、あなたに声をかけた。フリルのついた白いブラウスに、青いチェックのロングスカート。
豊満な胸が揺れ、思わず目を奪われそうになるが、胸への視線は女性は感じるから見るなとの助言を思い出す。
破顔一笑。笑顔であなたの側に駆け寄ったスカーレット。
「ごめんっ……ってもしかして、結構早く来てた」
──ちょっと緊張しちゃってね。
「そ、そう…… アタシで緊張してくれたんだ……えへへ」
──スカーレット?
「な、何でもないわよ! ほらっ!」
顔を赤くしながらそっぽを向くスカーレット。そんな彼女から差し出された手。
あなたはそんな彼女の手を握った。が、うまく握れず、手と手が何度も絡み合う。スカーレットの方もどうやって握ればいいのか。いや、そうではない。
あの握り方をして良いのか。それだけがあなたを支配していた。
それでも、あなたは握るべきだと思った。彼女が一番喜ぶ。そして、現状から一歩進む為に。
「えっ……」
──行こう。スカーレット。
「う、うん! 行きましょっ!!」
恥ずかしそうにしながらも、満面の笑みを浮かべた彼女。
恋人繋ぎの手をチラッと見た彼女は嬉しそうな表情を浮かべていた。
頭の中で練っていたデートプランを思い返しつつ、あなたは覚悟を決めた。
ー
ブティックでは。
「ほ、ほらっ! アンタはこっちの方が似合うんじゃない?」
──そうかな。じゃあ着てみるよ。
「ふへへ……」
──スカーレット?
「なっ、何でもないわよ! さっさと買って来なさい!」
彼女の選んだ服を買い。
「ど、どうかな……」
──可愛いよ。
「そ、そう? じゃあこれにしようかな。アンタが可愛いって言うなら……」
ぽしょぽしょと顔を赤らめながらいう彼女に、服を買ってあげたり。
何度も何度も手を絡めあいながら、ぎこちなさが滲み出ても、手を繋ぐ。
何度も見た笑顔。いつしかあなたはスカーレットから目が離せなくなっていた。
可愛いと言われて嬉しそうに笑うスカーレット。
クレーンゲームで落とし、悔しそうにするスカーレット。
美味しい食事に頬を緩ませるスカーレット。
それでも、どんな事があっても彼女はあなたに笑いかけていた。
そして気が付けば日が沈み始め、あなたはデートプランの最後。遊園地の観覧車に来ていた。
正午から入った遊園地も、気が付けば少しずつ人が減り、いつしかカップルの方が目立つようになって来た。
そんなカップルと遜色ない状態に、あなたは改めて彼女とデートしているのだと理解した。
学園の事。レースの事。そんな他愛の無い話をしながら、あなたは彼女と観覧車へと向かう。
──乗ろうか。
「……うん。これで最後なのよね」
──そうだね。時間的にもこれで最後かな。
寂しそうに笑いかけながら、スカーレットとあなたは観覧車に乗った。
扉がゆっくりと閉まり、ゆっくりと浮上し始めた。
空に浮く感覚に2人で驚きながら、そんな顔を見て2人でくすりと笑った。
夕焼けが差し込む。
そろそろ、本番にして終盤だ。心臓が跳ねる。
「ねぇ」
──えっと……
言葉が被る。
ここはスカーレットに譲ろう。
そう告げると、短く感謝の言葉を述べつつ、スカーレットはぽつりぽつりと話し始めた。
「今日はありがとう。アタシの我儘に付き合ってくれて」
──いや、僕も楽しかったよ。
「そう? それならよかったんだけど……」
いつに無く弱気なスカーレット。
儚げな表情は、沈もうとしている夕陽へと注がれていた。
「アンタがもう学園に来なくなる……もう会えなくなるって思ったから、少しでも思い出を作りたくてね」
──スカーレット……
「アンタのことを絶対に諦めたくないって思った。どんな事をしてでも迎えに来てもらう。それぐらいアタシを見て欲しかった」
目に涙が溜まっていた。
「これからアンタはもっと色々な人に関わって、きっとアタシより可愛い子なんていっぱい現れる」
「でもね、もしもアタシが好きなら……きっと迎えに来てくれる、そう思って今日はデートに誘ったの」
スカーレットは迎えに来て欲しかった。誰でもないあなたに。スカーレットが好きなあなたに。
だが、あなたはこれからどんどん忙しくなる。トレセン学園にも来れなくなる。そして、きっとスカーレットを忘れてしまう。その為に思い出作りとしてスカーレットはあなたをデートに誘ったのだ。
もし、他に出会って。それでもスカーレットが好きならば、忘れられないのであれば迎えに来てくれる様にと。
スカーレットの番は終わった。次はあなたが、彼女に想いを告げる番だ。
──誘ってくれてありがとう。
「ううん、こちらこそ来てくれてありがとう」
──今日は楽しかった。スカーレットの色々な表情が見れたしね。
「なっ、忘れっ……て欲しくはないわよ」
どんどん下がるスカーレットの声。
そんな彼女の手を奪った。決して離さないように、痛くないほどの力を込めて。
──多分これから僕は忙しくなる。仕事も増えて、会える日も減る。
「そうよね……」
──それでも、僕はスカーレットに会いたい。
「えっ?」
──はっきりと言うよ。
待ち望んでいた言葉。スカーレットはその言葉を察し、彼女の目から涙がツゥーと流れる。
意を決した。心に決めた。彼女が好きだって。あなたは口を開いた。
──スカーレット、好きだよ。
「嘘……」
──嘘じゃない。笑った表情も、怒った表情も。走ってる姿も、全部好きだ。
「でも、これから忙しくなるんでしょ! きっとアタシの事なんて──
──忘れない。忘れるはずが無い。
もうスカーレットは涙でボロボロだった。綺麗な顔が歓喜の涙で埋まっていく。
──だって、スカーレットが一番好きだから。
「アタシでいいの? だってそんなに可愛くないし、素直じゃないし……だってほら、もっと他に素直で可愛い子なんていっぱい……」
自虐の止まらない彼女。
ふと、友人のアドバイスを思い出した。こういう時は、幸せで自分が信じられなくなっているからと。だから、あなたの取る行動は一つだと。
対面に座る彼女の体を抱きしめた。ふわりと香る歓喜の匂い。驚いた様に反応した彼女の体も、それが嘘ではないと実感する様にゆっくりとあなたの背中に手を回した。
──スカーレットがいいんだ。
「好きっ……! 大好きっっ!!!」
彼女の温もりが、あなたを支配する。
ガラスから差した緋色の光が、あなたとスカーレットを包み込んだ。
「いっぱい喧嘩するかもしれない」
──その時は一緒に謝ろう。
「しばらく会えないかもしれない」
──それ以上に愛すよ。
「もう離さないわよ」
──僕も離さないよ。
「ねぇ、あなた」
──何? スカーレット。
僅かに離し、あなたとスカーレットの目線が合う。潤んだ彼女の目があなたをずっと見据えていた。
そして距離が縮まる。鼻と鼻がぶつかる様な距離まで──
「だーいすきっ!!」
ダスカ編はこれで終わりかな。ありがとうございました。気が変わったらダスカ書くかもしれないです。個人的に一番推しなので。
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これからもよろしくお願いします。
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