タキオン誕生日おめでとう。という事でタキオン編です。
今日は四月十三日。タキオンの誕生日だ。去年は聞いた時には既に過ぎており、お祝いのできなかったあなただったが、今度こそは祝ってみせようと意気揚々と臨むあなた。
だが、タキオンの好みは分からない。一年間仲の良かったあなただったが、タキオンが好きなものといえば実験とお弁当ぐらい。お弁当はいつも作って行ってるし、趣味嗜好を変えたとしても、お弁当の範囲は超えないだろう。それでは誕生日の特別感がない。
うむむ、困った。
「で、君は酔狂になってしまったと」
──酔狂とは失礼な。
「だって、自分を好きにしていいなんて。小説の中ですらあまり見た事がないぞ?」
結論から言えば、あなたは自分を好きにして良いとタキオンに言った。勿論、タキオンの実験台。そしてご飯を作ることや物を運ぶ事など全てをひっくるめての発言だ。
これならばお弁当を超え、そして何でもする男が1人現れた。誕生日には相応しいのでは? と思った次第。
いやいや、可愛いものとかあるだろう。タキオンに似合うアクセサリーとか。でもあなたは、その様な物をあげても喜ばないのではと一抹の不安があった。
「はぁ……とりあえず確認だ。
──うん、大丈夫。
「私は学園内ではあまり好まれないマッドサイエンティストだぞ? 君にどんな薬やらを飲ませるか、何をするかも分からないぞ?」
──だって、タキオンはそんな事しないって信じてるから。
タキオンが唾を飲んだ。
きゅっと赤くなった顔を隠す様に咳払いをし、タキオンは白衣のポケットから小さな瓶を取り出した。
中にはピンク色の液体が入っている。タキオンが傾けると、粘性が高いのかゆっくりとガラスの壁面を流れていく。
もしかして劇薬では? この提案は不味かったかと思うあなた。
一方のタキオンも、これを渡そうか迷っているのか、あなたに差し出せないでいた。
──それは?
「…………一種の自白剤の様な物だ。効果は既に実験済み。ただ他にもデータは欲しいのだよ」
──なるほど、分かった。
「本当に分かっているのかい? 君はこれから質問された事に対して隠せなくなる。秘密のニンジンの製法だって聞き放題だぞ?」
──いいよ。そもそもタキオンには隠し事なんてないし。君が知りたいのなら、教えるよ。タキオンは悪用しないって分かるから。
「……全く君には敵わないな」
タキオンはやれやれと言わんばかりに首を振る。刹那、決意を目に宿らせた。
そして瓶の蓋をくるりと開け、そしてタキオンは自分自身の口の中に液体を流した。
当然あなたが飲むと思っていた。突然の行動に驚きを隠せない。
──なんで?
「ふふっ、君になら全てを曝け出してもいいって思ったからさ。おっと、一つだけ忠告だ。よく聞いてくれ」
──何?
「私が何を言っても、君は受けて入れてくれるかい?」
──勿論だとも。
「そうか……っ」
くらりとタキオンの体が揺れる。
風に靡く白衣を目にし、あなたは慌ててタキオンの体を支えた。細身だが、しっかりと鍛えられた体だ。とても自室にこもっている様な体つきではない。
すると、タキオンは、あなたの首の後ろまで手を回した。立ちながら行うその様子は、抱きついている様に見える筈だ。
──大丈夫?
「ああ……ふふ、こんな気持ちになるんだな。すっきりとした世界だ。思考もまとまる。君への気持ちもはっきりと分かる」
──タキオン?
「おっと失礼、君を置いてけぼりにしてしまった様だ。さて、それじゃあ……いつマイホームを買おうか」
──タキオン?????
話の意図が分からない。マイホーム? 何の話だろうか。
するとタキオンは、分からないと言わんばかりに首を傾げるあなたを不機嫌に思ったのか、可愛らしくぷくーっと頬を膨らませて話し始めた。
「むぅ……いきなりはダメか。私が研究して、君がご飯を作る。常に同じいる空間にいる幸せ。呼んだら君が来てくれる幸せ。私は良いと思ったんだけどな」
──ねぇ、タキオン。さっき飲んだ薬について教えて。
タキオンが言っていた通り自白剤の様な物であるのならば、きっと質問した事は全て教えてくれる筈だ。今日のあなたは何故か冴えていた。
「さっき飲んだのは、私が作った素直になれる薬だよ。スカーレット君に試したら結構上手くいってね」
──それでマイホームってのは?
「聞かなくても分かるだろう? 私と君の愛の巣だよ」
あっけらかんと言うタキオンに、思わず顔が熱くなる。
素直になる薬と言ったが、ここまで直球に来ると心臓に悪い。タキオンは何がいけないのかと首を傾げているほどだ。
だが、これがタキオンが考えている事だと言うのは明白だった。
「ふふふ、考えるだけでも幸せだ。だけれども、順序は踏まないといけないね、失敬失敬。君といるのが幸せすぎて、思わず過程を飛ばしてしまった様だ」
──過程?
「そうだとも。まずはそうだな、君からプロポーズしてくれ。勿論私からでも良いのだが、私は包まれる方が好きだ。受け身でありたいのだよ」
なんだろう。
「そしてだ。研究を一緒にやるのも良いな。いや、お洒落なカフェでのんびりと話すのも良いな。うーん、君が好きなのを選んでくれ」
今日のタキオンは甘い。ものすっごく甘い。
「君が好きならば、私も好きな筈だ。だってそうだろう?」
──そうかな。
「そうだとも。だって君は私が好きな人なんだから、当たり前だろう?」
予期せぬ言葉に思わず詰まるあなた。
タキオンは言葉を重ねると、少しずつ抱擁を強くしていく。ぎゅっと離れないぞという意思がひしひしと伝わってくる。
彼女の甘い吐息が首に掛かる。
「ふふ、好きだぞ」
「この時間がずっと続けば、私は何て幸せなんだろうか」
いつもらしく理性のないタキオンの姿。
これが、この言葉全てがタキオンが今まで留めていたもの。彼女が一体どんな気持ちでいつもあなたを待っていたのか。彼女に聞かなくても明白であった。
「ぎゅっとして?」
──分かった。
「あぁ、君の熱を感じるよ。私が思っていたよりもずっと温かい。うん、このまま君に連れ去ってもらいたいね。私はプリンセスなのだから」
──連れ去るって。悪役っぽいね。
「勿論悪役からさ。お姫様抱っこで、愛の逃避行も悪くない」
だが。と言葉を続けるタキオン。心なしか頬が赤い。
タキオンの熱が離れる。とっとっと、そんな音を鳴らしながら、タキオンは一歩二歩と後ろに下がった。
笑みを浮かべたタキオンは、あなたに向かって
「……そろそろ行かないとね」
──お誕生日おめでとう。
「あぁ、気持ちは受け取ったさ」
くすくすと笑うタキオンに、あなたは何故か安心感を感じた。
それから恥ずかしそうに体を縮こませると、タキオンはぽしょりと口を開いた。
「君が好きだよ」
そんな言葉が風に乗ってあなたに運ばれてくる。いつもならば聞き逃す筈のそれを、あなたは聞いていた。
だから、あなたは声で返すのではなく、思いで返した。
口を開き、口パクで返事を返す。
受け取ったタキオンは、羞恥に頬を染めながらも、幸せそうな表情を浮かべて帰って行った。
タキオンはその言葉を噛み締める様に、ゆっくり、ゆっくりと歩く。
寂しさと幸せを噛み締めて。
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