身の毛もよだつ悪夢から目覚めた少女は、窓の外に彗星を見る――

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 静かで不穏な夜間ホラーです。


見た

 ……この街が太陽の影になる頃合い。

 肉の柔らかい、少女。四つの角がある台の上に横たわっていたが、飛び起きた。みずみずしく、良い色をしている。

 実に美味そうだ。今日はこの娘を頂くことにしよう。

 

*

 

 見た。確かに見た。あまりに現実感のある夢だった。

 手を閉じて開いて感覚を確かめ、まだ生きていることに安堵する。

 ――なぜ? 私は、殺した側ではなかったか。

 人を殺した。いや、正確には、喰った。

 それは構わない。夢なのだから。

 問題は……恐ろしかったのは――何だったっけ?

 壁の一点を見つめ、ゼイゼイと荒い呼吸を繰り返した。寝間着にはびっしょりと汗が染みている。

 ……私は異形の姿をしていた。夢の中で。

 大小異なる目が三つ。大きいものは小さい者の二倍もあった。

 絶えず変化し、ぬめりと光沢のあるごわごわした皮膚から、腕のような器官が互い違いに二本、細く長く伸びていた。これで獲物を捕らえ、巨大な口へ放り込むのだ。咀嚼をする代わりに粘液でじわじわと溶かし、獲物が絶叫し悶え苦しむ感触を楽しむ。

 素早く音を立てずに移動するくせに、獲物の前では雀のさえずるような音声を発する、生々しさの極地を体現した化け物。

 それが私だった。

 たまたま目に付いたアパートに忍び込み、若い女を狙った。女は察しが良く、背後に立つ私に気づいたようだったが、どうにか悲鳴は聞かずに済んだ。

 

 美味だった。

 

 体が震える。歯がカチカチと鳴る。

 どうして? 私は殺した側だったはず。恐れるべきものなどないはずだ。

 背筋に悪寒が走る。汗が乾き体は冷えてきていたが、それだけのせいとはとても思えなかった。

 とてつもなく悪い予感がするのに、それが何なのか思い出せない。

 何だ? 何を忘れている?

 視線を上げると、扉の向かい、私の正面にある窓には月が煌々と輝いていた。静寂に溶け込むように夜闇のただ中を漂っている。

 その近くに尾を引いて通過するものがある。

 

 ――彗星(すいせい)!

 

 そうだ、我々はそこから降りてきたのだ。街が影になる時間を狙い、適当な家屋を見繕って――柔らかな肉の多そうな、そう、例えばこの――

 はっ、と我に返った。

 ……なんだ、私は何を言っている……?

 自分が自分でないかのようだ。彗星? ……降りてきた?

 ……柔らかな肉? 夜中を狙って……

 …少女…

 汗だく

 

 ――!!

 

 背筋が凍り付いていく。辿り着いてしまった。

 窓は閉まっているのに、寒い。体の芯から震えた。涙も出ない。

 私は。私は。

 冷気が首元を舐めた。背(・)後(・)の(・)扉(・)が(・)開(・)い(・)て(・)い(・)る(・)。

 お父さん? お母さん? 違う、飼い犬でもない。

 私だ。

 ……声を出してはダメだ。そうすれば最後……いや、そうしなくても――

 

 知っていた。次に何が起こるか。そして私がどうなるか、そこに何がいるのか。

 ちゅるちゅると鳥の鳴くような音がやけに鮮明に聞こえた。

 笑っているのだ。そう、奴は舌なめずりをして、細い二本の腕を、両側から

 

 ――私が、夢で襲った少女――

 

 悲(・)鳴(・)が(・)上(・)が(・)ら(・)な(・)い(・)う(・)ち(・)に(・)

 

 彼女が振り返り――絶叫する頃には――




 淡々としたホラーを書きました。結構前に書いたやつです。

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