……この街が太陽の影になる頃合い。
肉の柔らかい、少女。四つの角がある台の上に横たわっていたが、飛び起きた。みずみずしく、良い色をしている。
実に美味そうだ。今日はこの娘を頂くことにしよう。
見た。確かに見た。あまりに現実感のある夢だった。
手を閉じて開いて感覚を確かめ、まだ生きていることに安堵する。
――なぜ? 私は、殺した側ではなかったか。
人を殺した。いや、正確には、喰った。
それは構わない。夢なのだから。
問題は……恐ろしかったのは――何だったっけ?
壁の一点を見つめ、ゼイゼイと荒い呼吸を繰り返した。寝間着にはびっしょりと汗が染みている。
……私は異形の姿をしていた。夢の中で。
大小異なる目が三つ。大きいものは小さい者の二倍もあった。
絶えず変化し、ぬめりと光沢のあるごわごわした皮膚から、腕のような器官が互い違いに二本、細く長く伸びていた。これで獲物を捕らえ、巨大な口へ放り込むのだ。咀嚼をする代わりに粘液でじわじわと溶かし、獲物が絶叫し悶え苦しむ感触を楽しむ。
素早く音を立てずに移動するくせに、獲物の前では雀のさえずるような音声を発する、生々しさの極地を体現した化け物。
それが私だった。
たまたま目に付いたアパートに忍び込み、若い女を狙った。女は察しが良く、背後に立つ私に気づいたようだったが、どうにか悲鳴は聞かずに済んだ。
美味だった。
体が震える。歯がカチカチと鳴る。
どうして? 私は殺した側だったはず。恐れるべきものなどないはずだ。
背筋に悪寒が走る。汗が乾き体は冷えてきていたが、それだけのせいとはとても思えなかった。
とてつもなく悪い予感がするのに、それが何なのか思い出せない。
何だ? 何を忘れている?
視線を上げると、扉の向かい、私の正面にある窓には月が煌々と輝いていた。静寂に溶け込むように夜闇のただ中を漂っている。
その近くに尾を引いて通過するものがある。
――
そうだ、我々はそこから降りてきたのだ。街が影になる時間を狙い、適当な家屋を見繕って――柔らかな肉の多そうな、そう、例えばこの――
はっ、と我に返った。
……なんだ、私は何を言っている……?
自分が自分でないかのようだ。彗星? ……降りてきた?
……柔らかな肉? 夜中を狙って……
…少女…
汗だく
――!!
背筋が凍り付いていく。辿り着いてしまった。
窓は閉まっているのに、寒い。体の芯から震えた。涙も出ない。
私は。私は。
冷気が首元を舐めた。
お父さん? お母さん? 違う、飼い犬でもない。
私だ。
……声を出してはダメだ。そうすれば最後……いや、そうしなくても――
知っていた。次に何が起こるか。そして私がどうなるか、そこに何がいるのか。
ちゅるちゅると鳥の鳴くような音がやけに鮮明に聞こえた。
笑っているのだ。そう、奴は舌なめずりをして、細い二本の腕を、両側から
――私が、夢で襲った少女――
彼女が振り返り――絶叫する頃には――
淡々としたホラーを書きました。結構前に書いたやつです。