よう。俺の名前は……そうだな、チンピラAとでも呼んでくれ。
俺には前世の記憶がある。といってもその記憶が役にたったことなんてほとんどない。むしろ記憶があったせいで最悪の人生になってしまった。神がいるのならば、今すぐにでも殺してやりたいほどだ。
まあ、この生活にも慣れてきて、ヴィラン―――この世界では犯罪者のことをそういうらしい―――としても最近そこそこ名が売れてきていて少しだけ調子に乗ってしまったんだ。
自分の力を過信して、バカなことをやってしまった。夜中に、突然手を顔に付けた男が現れて一緒にオールマイトを殺そうと誘ってきた。オールマイトっていうのは、クソ強いお方である。ええ、最近腕一本で天候を変えたって聞きました。生まれる世界を間違えてると思う。
正常な俺だったら、丁寧に断ったんだけど、当時の俺は調子に乗っていてお酒も少し入っていた(未成年ですが何か?)から変なテンションで誘いに乗ってしまったんだ。
ふっ、十分前の俺よ。十分後の俺は凄く後悔しているぞ。今すぐにでも時間を越えた拳を叩き込みたいぐらいには。
「四対五だ」
「モヤの弱点はかっちゃんが暴いた………!」
「俺らでオールマイトのサポートすりゃあ勝てる!」
上から順に頭半分イケメンクソ野郎地獄に落ちろ、そばかす頭マリモくん、上半身裸の露出狂だ。
生徒強すぎワロタ。ちょっと待て、ヒーローの卵だろ?卵じゃねぇよこれ。完璧に孵化しちゃってるやん。
ていうかさっき凄く喋っていた釣り目イガグリ頭くんは何もいわないのね。うわーお、これがギャップ萌えというやつですか。気持ち悪いな俺。
さて、何故こうなったのか、簡単に説明しよう。
「ぎゃはは!俺に勝てないものはない!」
意気揚々と雄英に侵入。
「見ろ!これが俺のチカラだ!」
教師と生徒相手にイキりまくる。
「ぐああああああ!?」
オールマイトにフルボッコされる。
「え、ちょま、え?それマ?」
仲間もやられ、ピンチパンチポンチ。
はははは、土下座すれば見逃してくれるかな?
視界の端から、黒い影が飛び出して来る。
「オールマイト……殺してやる……!」
手だらけ男……死柄木だっけ。絶対絶命の状況にも関わらず、相手に特攻するその後ろ姿が凄いカッコいいぜ!
「…………ッ!」
はいザコ乙。なんでバックステップしてるん?すげえ顔してるんですけど。いや手で顔見えないけどさ、なんとなく雰囲気で分かる。めっちゃ動揺してるわ。首の汗すげぇ、大洪水だ。避難警報鳴らせー。マジ逃げてーよー。
視界の端から、黒い影が飛び出して来る。どうでもいいけどポ○モンっぽいよなこの表現。
「……………」
いやなんか言えよ!?死柄木みたいにさぁ!何か恨みとかないの?俺だってサインくださいとか言われてみてぇよとか。いやそれは俺のか、すまない。……てかお前誰!?脳見えちゃってるよ!?頭皮は!?ハゲかよ!
そしてオールマイトと殴り合いを始めたハゲ(仮名)は、善戦するも空の彼方に吹き飛ばされた。星になったか。あばよ。
「くそ……脳無でも勝てねぇのかよ……チートが……!」
あ、脳無って名前だったのね。凄い名前だな。いやこの世界では普通か。
というかアレやっていい?やっていいよな?よし、やるぜ。チートだ!ビータでチータ!だからビーターだ!……ヒーローだからヒーターの方が合っているのか?
「ちっ……黒霧、どうすればいい……?」
「……………」
……どうやら、万策尽きたようだな。死柄木は喚いているしモヤの人……黒霧だっけ?ソイツも動かないし、これって結構ヤバい感じ?ほほう……どうすっぺ?このままじゃ俺捕まるじゃん。タルタロス行きは勘弁だな。
しょうがない、ここは俺が本気を出すとしますかねぇ(唐突なフラグ設立)
――――――――――――――
「えいっえいっ!」
少女の可愛らしい声が響く。
「あー……少女よ、ここは危ないから離れていなさい」
オールマイトが優しげに注意するも、少女は止まらない。
小さな腕でオールマイトの身体をポカポカと殴っている彼女は涙と鼻水で顔がぐしゃぐしゃになっていて、必死そうな形相をしていた。なんというか……駄々をこねるようにしか見えない。五分間ほどすっとこのままだ。
今すぐにでも安全なところに避難させてあげたかったが、身体は限界を超えていて動けそうにない。結果的に時間を稼げているのでオールマイトとしては幸運だが、ヒーローとしては情けない気持ちで一杯だった。
「おい、どうすんだよ爆豪」
「どうするも何もぶっ殺すだけだろうが!」
「殺したらダメだろ」
「あのモヤがいるせいでどこから攻撃してくるか分からない、ここは慎重にいかないと」
「指図すんなクソデク!」
「ご、ごめん!」
「……喧嘩してる場合じゃねぇだろ」
切島、爆豪、緑谷、轟の四人はオールマイトの邪魔にならないように隅に避難していた。オールマイトは今すぐにでも助けてくれと叫びたかったがプロヒーローとして生徒に助けを求めるようなことは出来なかった。心の中ではある意味修羅場ともいえるこの状況に対して叫び散らしているが。明日の新聞には『平和の象徴はロリコンだった!?』と載りかねない。
「ちっ……おい黒霧、帰るぞ」
「……はい」
少女を見て、気分が削がれたのか死柄木が舌打ちをする。黒霧も同意なようで、すぐさま黒いモヤを展開する。
「「「「……………ッ!」」」」
それを見た緑谷たちは無意識に即座に追おうとする。が、一歩踏み出したところで止まってしまった。
自分の意志は走れと言っているのに、本能的な何かによって身体が動かない。動かない理由は明白だ。
死柄木が霧に呑まれながら見せた、狂気の笑顔によって。
「次は殺すぞ……平和の象徴……!」
ポカポカと、かわいらしい音が途切れ、静寂が緑谷たちを覆う。
(……あれ?死柄木さん?俺のこと忘れてない?)
第一話というかプロローグというか……とりあえず少なめです。