喫茶店・ホースリンクへようこそ! 作:アヴァターラ
「懇願!マスター君!君と君の店に協力をしてほしい!」
「・・・とりあえず椅子から降りてもらえます?理事長」
始まりはそんな言葉だった。ちょっとした喫茶店の主に過ぎない俺は椅子の上に立って勢いよく扇子を広げる小さくとも立場的に偉い女性に向かってとりあえずそう返すのであった。
「テンチョー!もうすぐお客さんくるよー!」
「マスターって呼んでくれよテイオー。じゃ、来たら3番席に案内してくれ。元気よく挨拶してくれよ」
「マスターさーん!2番席のお客さんデザートオーダーです!今日のデザートは・・・」
「キャロットパンケーキ、だな。すぐ焼くから待っててくれ。マックイーン!ドリンクの補充頼む!」
「わかりましたわ。それと1番席の清掃は終わっています」
「さすが。あと一組だから頑張ってくれ」
「もちろんですわ」
「あのー・・・予約したものなんですけど・・・」
「「「いらっしゃいませー!喫茶店、ホースリンクへようこそ!!」」」
「うわあ、スペシャルウィーク、トウカイテイオー、メジロマックイーン・・・本物だ・・・」
ウマ娘ファンの聖地、と呼ばれる喫茶店がある。ウマ娘とは、ウマと呼ばれる別世界の生き物の特徴を宿した女性の象徴で、総じて美女美人美少女揃い、ぴょこぴょこと動く耳を頭上に携えフリフリ揺れるふさふさの尻尾をお尻につけた人間とはちょっと違う生き物である。娘、とつくように文字通り女性しかいない彼女らを俺たち普通の人間はこう表している
彼女たちは走るために生まれてきたのだ、と。
人間とは比較にならないバ力と、3000メートルを全速力で走りきるスタミナ、時速70㎞で走る俊足を備えた彼女らは競技者でありアイドルとしてこの世界で広く認知されている。トゥインクルシリーズというレースで走り、レースで一着になったものがセンターとして歌うウィニングライブのセットは昔からの国民的な興行だ。
そしてここ、俺の店、俺の城である喫茶店ホースリンクはウマ娘たちが日夜トレーニングと学業に励むトレセン学園・・・日本ウマ娘トレーニングセンター学園のすぐ横という超超好立地に建っている。ほんの2年前まではトレセン学園のウマ娘たちの憩いの場だった俺の喫茶店は今や完全予約制と相成り、予約が途切れない日はないというくらいに商売繁盛させてもらっている。
もちろん平々凡々、自慢できるのは料理とコーヒーの腕のみという俺一人で店をまわしていたらこんなことにはならない。その理由とは・・・
「なんで現役のウマ娘たちが俺の店でウェイトレスやってんだよ・・・しかも勝負服で」
「それ、この前も聞きましたわ。もう2年前のことなんですからいい加減あきらめてくださいまし」
「だってさぁ・・・」
「まあまあいいじゃないですか!私、楽しいです!」
「そうだよー!ボクたちはテンチョーの所で働けて楽しいよ?」
「はいはいありがとうございますーっと」
そう、今をときめく現役のアスリート、アイドルであるウマ娘たちがレースの時のみ着用する絢爛な勝負服を着て、接客をしてくれる。今のうちの店の一番の売りであり、俺の頭を痛めている原因でもある。2年前、唐突に表れたトレセン学園のちっこい理事長こと秋川やよいさんがいきなり
『提案!!君の店で、わが校の生徒たちを日替わりで働かせてもらえないだろうか!』
と閉店ギリギリにやってきて直談判してきたのだ。とりあえず椅子から降りてもらって話を聞くと
『問題!現在トゥインクルシリーズは国民的興行ではあるが、年々陰りが見え始めている!故に宣伝!ウマ娘たちをもっと身近に感じてもらいたい!そこで発案!君の店でウマ娘たちとファンが交流できるように取り計らってほしい!つまり・・・』
『コンセプトカフェをやれとでも?』
とまあこんな感じで俺の店を開く際に色々と便宜を図ってもらった恩もある俺はそれを断らず承諾、1か月ほど普通に来るウマ娘たちに仕事を教えながら営業を続けていたのだがウマ娘、しかもレースで活躍している本物のアイドルウマ娘が接客をしているということはこのネット社会、すぐさま広がるもんである。客が増えすぎてパンクしたので予約制に切り替えて現在に至るというわけである。しかもその予約も追いつかず抽選制になり果ててるとか。そこらへん理事長に丸投げしてるけどこれ以上は無理だと思うんだよなあ。
そんなことを考えながらニンジンを練りこんだ生地を焼き上げて3段重ねにし、バニラアイスを上に添えてその脇に蜂蜜を混ぜたハニーホイップクリームでデコレーション。さらに飾り切りをしてシロップで煮詰めたウマ娘の形をしたニンジンをトッピングして上から蜂蜜を垂らす。よしできた!
「スぺー、できたから運んでくれー。」
「わああ、おいしそうです!」
「食うなよ」
「わかってますよ!もう!・・・・お待たせしましたー!今日のデザートのキャロットパンケーキですよ!」
右耳に青いリボンをつけ、紫と白を基調にした勝負服に身を包むウマ娘、スぺことスペシャルウィークがちょっと涎を垂らしかけながらパンケーキを運んでいく。会計をしている葦毛のきれいなロングヘアで黒の勝負服を着ているメジロマックイーンに手持ち無沙汰なのかボックスステップを踏んでいるポニーテールに白の勝負服のトウカイテイオー。本日の担当3人娘に視線をやりながら、水出しコーヒーを取り出し、シェイカーに牛乳と氷を入れてシェイクし、カフェオレを作る。
それぞれが現役最強格と呼ばれているウマ娘たちだ。日本総大将なんていう二つ名がついたスペシャルウィーク、文字通りの帝王、トウカイテイオー、そして長距離の名優、メジロマックイーン。こうしている分にはただのかわいい美少女しか見えない彼女たちもターフに入ると一変する。
それぞれが尋常ではない走りを見せ、ほかのウマ娘を薙ぎ払ってレースを制している。ほんの五日前なんてスぺがレコードタイムを更新して1着でウィニングライブのセンターを陣取っていたしな。
「ねえねえテンチョー、ボクもパンケーキ、食べたいなあって」
「なっ・・・ずるいですわよ!」
「あ!私も食べたいです!」
「じゃ、全部終わった後な。ほれ、ファンサービスしてこい」
そうしてファンのもとに行った彼女たちはそれぞれ写真を一緒に撮ったり、握手したりサインしたりと大忙しだ。裏方でしかない俺と違って日々トレーニングをして、レースに出て、歌って踊る彼女たちは非常に多忙だ。いくら自分たちが出るレース、ひいてはトゥインクルシリーズのためとはいえその隙間を縫ってこの喫茶店に来てるのだから疲れもたまるだろうと思っていたのだが案外そうではないらしい。
なんでもここで働くと気分がリフレッシュして調子が上がり、体力も回復しておまけに不調が治るのだとか。ついでに俺の料理も食えて万々歳、多分最後以外はプラシーボ効果であるがまあ特に問題がないなら俺も文句ないし、なんだかんだウマ娘たちは目の保養になるので俺自身も働いていて楽しい。エンゲル係数は際限なく上がっていくがそれはそれでご愛嬌というものだ。
「うーーー!なんだかボク歌いたくなっちゃったよ!テンチョー!ライブしていい!?」
「いいぞー」
「やったー!じゃあボクセンター!」
「いいえ!ここは私がセンターをしますわ!」
「はい!私もセンターやりたいです!」
俺の店はそれなりに広かったが完全予約制になった際に席数を半分に減らして小さいがちょっとしたステージと音響機器を入れた。それなりに広い店ではあるがキャパシティ的に俺一人で回すには少々きついものがあったからな。ちょくちょくファンに歌をねだられていたウマ娘たちも渡りに船、ウマ娘たちの気まぐれでプチライブが開かれることも間々ある。もちろん今のようにセンター争いが勃発するのが日常茶飯事なのだが、ここはレースができない。なので
「はーい、じゃあ息をそろえて?」
「「「じゃん、けん、ぽん!」」」
「へへーん!やっぱりボクがセンターだね!じゃあテンチョー!ミュージックお願い!」
「むぅ、仕方ありませんわね」
「そんなあ・・・」
笑顔で全力Vサイン、独特なステップで喜ぶ笑顔のテイオーと耳をへんにゃりと折り曲げたスぺとマックイーン。といってもへこむほどのものではないらしくすぐさまステージに上がってテイオーの後ろにつく。予約したお客さんはまさかライブがこんな特等席で見れるとは思ってなかったらしくテンションぶち上がりでざわついてる。さっき帰っちゃった人は残念だったな。
「じゃ、かけるぞ・・・1,2,3!」
そうして俺が音響のスイッチをオンにすると同時にかかるファンファーレが鳴り響くような軽快なイントロが鳴り響き、ぴたっと動きを止めていた3人がそれぞれステップをしながら息を合わせてダンスを始める。
「君と夢をかけるよ!何回だって勝ち進め勝利のその先へーー!!」
歌いだしたのはもちろんセンターのテイオー。伸びやかな歌声が響く。基本的にウマ娘たちが歌う曲はセンターの一人が歌うだけでなく2着3着のウマ娘も歌うものなのでスぺとマックイーンもそれに続く。照明や効果などは全くない、人数だって少ないし音と歌声とダンスだけの簡素なライブであるが彼女らの圧倒的な存在感が物足りなさを感じることを許さない。続くスぺとマックイーンの歌が加わり盛り上がりが最高潮へ続く。
やはりウマ娘のライブはいいものだ。もちろんバシバシに照明やレーザー、効果を使った競バ場でやるライブも最高だがこうして身近にウマ娘を感じることができるミニライブも素晴らしいものだと思わず洗い物をしていた手を止めてライブに見入ってしまう。ダンスも息ぴったりに合わさり、サビの盛り上がりも経てあっという間一曲の終わりが近づいてきた。
「・・・君と夢をかけるよ いつまでも、希望とともに 」
示し合わせたように曲の終わりで決めポーズをとった3人に俺も含めて今いるお客さん全員から拍手喝采が鳴り響く。運動をして少しだけ頬を紅潮させたた彼女らが笑顔でそれにこたえているとインテリアとしてなかなか気に入っている柱時計が大きな音を鳴らした。そろそろ閉店時間か。客も予約した際にルールを伝えられてるのでドリンクを飲み干して会計を済ませて、最後に各々応援してるウマ娘と握手をして帰っていった。
「ふふーん!今日もボクのおかげで大繁盛だったね!ね!マックイーン?」
「あなただけの手柄ではありませんわ。マスターさんの料理もあってこそです」
「最後に思いっきり歌えて楽しかったです!」
「そりゃよござんしたね。じゃ、パンケーキ焼くからこれ飲んで待っててくれ」
ライブの時に作っておいたそれぞれの好きな飲み物をカウンターに置いて厨房に戻る。テイオーには濃いめに作ったハニードリンク、マックイーンは薄めの、スぺにはタピオカミルクティーである。テイオーの「はちみーはちみーはちみ~はちみ~をなめ~ると~♪」という彼女のオリジナルソングをBGMにコンロを6つ同時に操ってパンケーキを焼いていく。
彼女らは俺なんかよりもよっぽど細っこいが俺よりもよく食べる。ウマ娘の平均はどんぶり飯をお代わり3杯、これに大量のおかずが入ってくる。どこにそんな量が入るのかと疑問に思うが食べると腹が出るのできちんと腹に収まってるのだろう。
特に今日はスぺがいる。スぺは輪をかけて大食漢だ。もうひとり無限に食うような奴もいるがスぺもなかなかよく食べる。とりあえずテイオーとマックイーン用の6段重ねキャロットパンケーキを積み上げてスぺ用のパンケーキの作成に入る。フライパンを大きいものに変え、皿を大皿に、そしてなんと驚異の9段重ねである。腕にずしりと来て非常に重いがこれくらいならスぺはぺろりと食べてしまう。たくさん食べる子は元気な証拠なので俺は気にしないが体重とか大丈夫なのだろうか。レースに勝ててるってことはコントロールできてるんだろうけど。
ささっとデコレーションと3人だけに特別ってことでチョコレートアイスの追加もしつつそれぞれ運んでやる。やはり女の子、スイーツを前にすると瞳がキラキラと輝きだす。特にマックイーン。彼女は甘いものに目がないのだ。普段は頑張って隠してるんだけどここじゃもうバレバレだ。
「わ~~~!おいしそうです!いただきます!」
「うわ~やっぱりスぺちゃん」
「よく食べますわね・・・」
パンケーキを吸い込むような勢いで食べているスぺをよそに談笑しながら食べるマックイーンとテイオー、おいしそうに食べてくれるのでこちらとしては満足ですわ。とりあえず閉店したので喫茶店の入り口のドアを開き、外にかかっている看板をOPENからCLOSEに変える。今日も一日お疲れさんでした、またのお越しをお待ちしておりますってな。
「マスターさん!お代わりお願いします!」
「いいけど怒られても知らんぞ」
追加の生地まだ残ってるかなあ・・・・喫茶店・ホースリンク、今日の営業は終了しました、よければまたご予約お願いします。素敵なウマ娘たちがあなたを出迎えるでしょう。それでは、また。
思い付きで見切り発進!ファンの交流とかでこんなのあってほしいなあっていうのを頑張って形にしましたができませんでした(一行矛盾)
ウマ娘、楽しいですね