喫茶店・ホースリンクへようこそ! 作:アヴァターラ
今日は出かけることにしよう。というのも実は今日は水曜日ではないのだが有給取らないとトレセンが怒られるらしいのだ。週休二日だと思ってたら週休一日だしな今の俺。そんで労働法に引っかかることがままあるのでどっかで帳尻を合わせてやらないと理事長が涙目になって店に突撃してくる羽目になる。あの人泣かせると長いからなー・・・
正直いつまでも店にこもっててもカビが生えるかもしれないからたまには日の光を浴びて光合成をしないといかん。でもやることなんてないようなもんだ。車はあるにはあるが遠出したいとも思わんし歩きでどっか行くかー。
そうして繰り出すのは商店街。ハルウララとナイスネイチャのホームみたいなもんだ。町のいたるところにいろんなウマ娘のポスターやらグッズやらが散見される。とりわけ多いのがさっき言った二人、ハルウララが宣伝するスポドリとナイスネイチャが宣伝してるシューズのポスターが最近のトレンドか?ほかにも人気があるウマ娘のポスターがちらほら。申し訳程度によく見るアイドルのポスターも張られているあたりこの商店街がどれだけウマ娘を押しているかわかるな。
「お、喫茶店の兄ちゃんじゃねえか!この前はお疲れさんだな!よかったら寄ってくかい?安くしとくぜ」
「どうも、お疲れ様です。じゃあお言葉に甘えて少し・・・」
「おうおう!見てけ見てけ!!今日のおすすめはタイだ!謎の金色ウマ娘が捕ってきた鮮度抜群のタイだぜ!」
「何やってんだゴルシ・・・」
あいつ現役のはずだよな?「私が捕りました」のポップアップにスピカトレーナーと強引に肩組んで笑顔で映るゴルシを見てそう漏らす。・・・でもめっちゃええタイじゃん。どうしよ、買っていこうかな・・・鍋、そうだな今日は寄せ鍋にしよう。そうと決まれば善は急げ~。タイ、タラ、あとサケ・・・・白みそベースでいいかな?すりごま振ればおいしそうだ。でも一人じゃあれだし誰か呼ぶか。どうせ欠食児童の集まりみたいなウマ娘ばっかだし呼べば誰か来るだろ。おっ伊勢海老~、立派だな、これも買いっと。
「おっちゃん、これとこれと、これ、あとこの伊勢海老5匹もらえる?」
「さっすが御大臣だな!いつも通り届けとくからよ、代金は・・・こんくらいだな。ついでにおまけでもう一匹伊勢海老つけてやる」
「おおう太っ腹。じゃあこれお金ね、ありがとー」
「おう、ありがとさんだ。ウララちゃんのこと、頼んだぜ」
「蹄鉄に伝えておきますよ」
一応店の仕入れもこのあたりの店で行ってるのでいつもの材料と一緒に夕方に届けてくれるそうだ。個人店はこれがあるから買い物が楽になるんだよなあ・・・。さてさていい買い物もできたし次はどこに行こうかなー・・・ん?前方に見覚えのあるウマ娘が・・・というか常連だ。日曜日に必ず来るウマ娘。長い青鹿毛にぴょこんと飛び出た白いアホ毛が特徴的な
「マンハッタンカフェじゃないか。奇遇だな」
「マスターさん、こんにちは。マスターさんこそ珍しいです、こんな平日に商店街をうろついているなんて・・・今日はお休みですか?」
「ん、ああ。休みなんだよなあ・・・そんで暇を持て余して出かけてるんだ」
「そうなんですね・・・」
どこかぽやんとしているマンハッタンカフェの黄色の瞳が俺を物珍しそうに捉える。彼女は少し考えて視線を外し・・・どこ見てんの?俺の後ろになんかいる?やめてくれよ虚空をじっと見つめるの。視線を俺に戻した彼女はそっと俺の服の裾をつまんで引っ張り始めた。
「どうした?」
「折角なのでお茶でもと思いまして。喫茶店の店主に紹介するのは失礼かもしれませんがマスターさんのお店に行けないときによく利用してるお店があるのでどうかな、と」
「へえ、俺の店とどっちがいい?」
「・・・卑怯です」
「じょーだんだよ。好きな店に行きゃいい」
「では、私と一緒に喫茶店に行ってくれますか?」
「もちろん、奢ってやるよ」
「・・・やった」
俺の服の裾を引っ張っていない手で小さくガッツポーズをしたマンハッタンカフェにつれられて少し歩いたところにある喫茶店に入った。いわゆるチェーン店の喫茶店でよく見るものだが、物静かなところが好きなマンハッタンカフェがよく利用するところなだけあって席と席のスペースがゆったりととってあり、仕切りが多い間取りとなっていた。
「私はブレンドとモーニングで・・・マスターさんはどうしますか?」
「エスプレッソ、あとミックスサンドかな」
こういうチェーン系の店ではいわゆる「ウマ娘盛り」と呼ばれるものがあるのだが、大体料金2倍くらいで人間サイズの3倍ほどが相場のつまりメガ盛りメニューだ。ウマ娘自体はそこそこ珍しくはあるが結構頻繁に店に来店したりする。そこで発生するのが人間サイズに合わせた料理の量だ。もちろんウマ娘には燃費の関係上全く足りないのでいくつも料理を頼む羽目になって出費がかさんでしまう。そこで考案されたのが「じゃあ多くすればいいんだろ!ウマ娘にはサービスだもってけぇ!」とやけくそで考案されたウマ娘サイズというわけ。だからカフェが頼んだモーニングも結構すごい。
大きなサラダボウル、分厚いバタートーストが4枚、スクランブルエッグは卵5個分はありそうだ。俺の頼んだサンドイッチのサイズと比べても圧倒的である。死ぬほどどうでもいい話だが俺の店はデフォルトがウマ娘サイズだ。もちろん人が来るときは調整するが昔々のウマ娘を相手にして商売をしていた時はウマ娘サイズからさらに大盛り、超大盛りがあった。今はビックバンサイズ(スぺとオグリのデフォルトサイズ)なんていうのもある。
「ふー、ふー・・・」
「・・・やっぱチェーン店だな。あ、そうだ。なあカフェ」
「はい、なんでしょうか?」
「夜に鍋作るつもりなんだがよかったら食べに来るか?」
「よろしいんですか?」
「いいよ、おいで」
「じゃあ、お願いします」
コーヒーが好きなのにいっぺんに飲むとお腹を壊すマンハッタンカフェがゆっくりとコーヒーを冷ましながら飲むのを見ながら俺もエスプレッソを飲む、がやはり万人受けする味で自分で淹れる自分好みの味には程遠いものだった。カフェも俺の店でよく頼むカプチーノを頼んでないあたりこの店で一番好みの味なのがブレンドなのだろう。ついでに夜の鍋に誘うと来てくれるということなので時間を教えておくことにする。
そうして特に話すこともなく1時間ほど喫茶店に滞在した俺とマンハッタンカフェが店をでる。無表情であるが満足そうにぽわぽわしたオーラを出すマンハッタンカフェをなんとなく撫でまわして別れ、またぶらぶらと目的もなく徘徊することにした。
ぶらぶらっと商店街を抜けて繁華街に入る。ここら辺は大きなゲーセンやらショッピングモールやらスポーツセンターやら大きな施設がわんさかある。目的地もないがとりあえず調理道具とか見に行こかな~
「・・・店長を視認。おはようございます」
「あれ?ブルボン?この時間なら何時もトレーニングしてると思ってたんだけど違うんだな?」
「一部を肯定します。本来ならこの時間帯は確かにトレーニングを遂行していますが本日はマスターより完全なオフをいただきました。故にマスターのオーダー「単独による気分転換」を遂行しようと近くのショッピングモールへ行こうとしたのですが・・・携帯の調子が悪く、迷っています」
俺の後ろから声をかけてきたのは私服に身を包んだミホノブルボンだった。フード付きのトレーナーの上からゆったりとした上着を着た彼女がまるでファミコンがぶっ壊れた時に映るような画面になったスマホを見せてくれる。如何にも機械っぽい印象があるミホノブルボンであるが実はとんでもない機械音痴で触るだけで機械が壊れること多々、自販機が爆発してしまったこともあるのだとか。つまり携帯電話もその例にもれなかったということで・・・
「とりあえず携帯貸してくれ・・・再起動は・・よし。直ったな。ショッピングモールか、一緒に行くか?俺も暇を持て余してるんだ」
「本当ですか!?・・・あ、いえ失礼しました。ミッションを「店長と一緒に気分転換」に変更。逸れる可能性を消去するため手をつなぐことを希望します」
「・・・それ必要か?」
「逸れるかもしれませんので」
「いや、そんな混んでないし」
「・・・嫌、ですか?」
珍しくうれしそうなブルボンが手を差し出してくるが必要ないだろと返すと悲しそうな雰囲気になってしまったのでええいままよと手をつないでやる。そしてその手を見たブルボンが確かめるように手をにぎにぎ動かして満足げにむふんと息を吐いた。なんか出会ったころに比べて色々多彩になったね君・・・俺の負けですわ。
というわけでなんとなく楽し気な雰囲気を醸し出すブルボンを連れて着いたのは色々な店が複合されている大型商業施設、映画館も併設されている豪華なものだ。 ブルボンはどうやら俺と同じというかトレーナーに言われたからこの施設に向かっていただけで特に何か目的があるというわけではなさそうだ。
「なあブルボン、暇なら映画でも行ってみるか?」
「はい。マスターからのオーダーには気分転換の詳細な指示はありませんでした。私は遊びに疎いので店長にお任せします」
「んーじゃあ、この映画見てみるか?」
と俺が指したのはいわゆる動物系の感動ものだ。見えない、聞こえない、嗅覚がないという3重苦を抱えた子犬と少年の物語。こういう優しい物語に目がない俺としては結構気になっている。ブルボンに希望がないのなら俺の希望を通させてもらおう。どうやらブルボンは俺が指し示した映画でいいようなので財布を出させる前に俺がまとめて払って一緒に館内に入る。
「・・・いい物語でした」
「ああ、終盤の川に落ちてしまった子犬を助けるために自分の身を顧みず川に飛び込む男の子のシーンがすごくよかった」
結果としては名作であった。上映中にすすり泣きの声がそこかしこから響いてくるほどに感動的で優しい物語に俺も引き込まれて、ほろりと涙が出てしまったくらいに。あの映画を撮ったすべてのスタッフに乾杯。結構いい時間になったな・・・?
「なあブルボン」
「はい」
「実は今日の夜は鍋を食べようと思っているんだが材料を買いすぎてな、よかったら「行きます」・・・おう、そうか」
食い気味にこちらに近づきながら肯定するブルボンを連れて店までの道のりをえっちらおっちらと進む。途中に八百屋と肉屋によって適当に仕入れを済ませて店につく。ほどなくしてカフェと・・・アグネスタキオンが来た。あれ?タキオン?なんで?
「すみませんマスターさん。どこに出かけるのかと聞かれて素直に答えた私がうかつでした。それに夜ご飯を作るといわれてミキサーを取り出されてはさすがに・・・」
「ああ、うん。それは別にいいんだけど・・・タキオンお前昼だけじゃなかったのかミキサー飯・・・」
「もちろんだともマスターくぅん。時は金なりというだろう?食堂にご飯を食べに行くくらいならさっさと休みたいんだよ私としては」
「ああもういいや。鍋作るから上で待ってろ」
「ふふん、言われなくともそうするとも」
2階には俺の私室のほかに談話スペースのようなものがあってこたつという魔の機械が設置されている。ノートパソコンを持ったアグネスタキオンが我先にと上に登りそれにカフェとブルボンが続く。俺は厨房で土鍋を引っ張り出してブルボンに渡し、カフェにカセットコンロをセットしてもらうように頼んだ。冷蔵庫の中から常備してるだし汁と豆乳、白みそを取り出して火にかけて鍋のベースをパパっと作る。
あとは魚屋のおっちゃんがさばいておいてくれたゴルシ印のタイとサケ、タラを鍋用サイズに切り分けてさらに盛り付けキノコや白菜といった野菜類もそこへ、あとは6匹もあるどでかい伊勢海老だ。まずは4匹は鍋用でいいだろ、ついでにエビみそもスープベースに混ぜちゃえ、よしこれでオッケー。ぶつ切りの伊勢海老の完成っと皿にぽいーっとな。
そんで残り2匹、縦半分に切って兜焼きでいいだろう。オーブンでこんがり焼いている途中に上に登って鍋の準備をしておこう。というわけでオーブンセット!スタコラッサッサー!
「店長、鍋のセット完了しています。報告、アグネスタキオンさんが謎の発光物を入れようとしていたので阻止しておきました」
「ナイスブルボン、カフェ、悪いけどタキオンのボディチェックして怪しいもんは全部捨てるかトイレに流しておいてくれ」
「わかりました。これと、これと、これですね・・・あとこれも」
「ああーーーー!!それは明日モルモット君に飲ませようと思ってた・・・やめてくれたまえ!ああああ!!鬼!悪魔!たづな!」
「たづなさんに怒られろお前」
タキオンとカフェがくんずほぐれついろいろやってるのを尻目に俺は土鍋の中にベースを注いで、野菜類を敷き詰めた後上に海鮮類を入れて中火にかけて蓋をする。そろそろ兜焼きが焼きあがってる頃のはず、常備してるトマトソースとチーズをたっぷり乗せた兜焼きに綺麗な焦げ目がついてるのを確認して4つの皿に一人分ずつ盛り付けて上にもっていく。
「お待たせー、伊勢海老の兜焼きだ。鍋が煮えるまでつまんでてくれ」
「・・・おいしそうです」
「うう、カフェぇ・・・あんなところまで触らないでもいいじゃないか・・・」
「ステータス「高揚」を確認。いただきます」
俺が兜焼きを取りに行った後何があったかは知らないが乱れた様子のタキオンにジト目のカフェ、我関せずのブルボン、そして部屋の片隅に小山を築いている試験管。とりあえず気にしないことにしよう。さー鍋だ鍋、蓋を開けるともわっと蒸気が立ち上って白みその香りと魚介のいい香りがあたりに漂う。俺はウマ娘サイズの取り皿に3人分均等に鍋の中身を注いで配る。ついでに具材を足してもう一回蓋をする。
「さ、食べてくれ」
「はい、いただきます」
「いただきますね」
「うう~、いただくよ」
この後めちゃくちゃ鍋食べた。あと鍋が空になってシメのおじやをやってるときにどこから聞きつけたのか理事長がやってきてもう一回鍋を作った。理事長って小柄な割によく食べるんだな・・・・「美味!」じゃないよもう
マスターさんのどうでもいい休日の話でした。キャラを多く出すと誰かがおろそかになるのが私の作品の悪いところですね・・・