喫茶店・ホースリンクへようこそ! 作:アヴァターラ
あー今日も今日とて営業日、予約でいっぱいのわが店ホースリンク、うれしい悲鳴が鳴り響いております。具体的には俺の両腕あたりから。この前の食べ放題のせいで見事に両腕をやっちまった俺は現在治療中、その後遺症に無駄に苦しんでおります。
いやちゃうねん、決してフライパンの振りすぎとかそういうので腱鞘炎になってそれが長引いてるとかそういうわけでは・・・そうですその通りです。今現在も両腕にシップとサポーターをつけています。見苦しいので長袖の制服で隠してるけど。というわけで最近は鍋振り回したりとかしない料理に傾倒しています。パスタとかフライパン使いまくりだもんな、しばらく作れんわ。
まあ今日は来てくれる子3人のうち2人が料理上手なのでカノープスの時のように手伝ってもらおうってか調理してもらおうかなって思ってる。ちなみにもう一人は食べ専だ。いや、料理ができるかどうかは知らないが見たことないし食うところばっかしか知らん。あの芦毛、うちに来るたび何もかも食い荒らしていくもんだから、何も残らんからな。この間の食べ放題の時はみんなの分を食べてはいけないと自分からセーブしてくれたからよかったがそうじゃなかったら俺の手は取れてたかもしれん。
ネギを小口切り、紅ショウガ刻んで天かすあげて、タコ、ベーコン、ウィンナーをぶつ切りにする。今日はタコ焼きと焼きそばの関西粉もんセットである。デザートは昨日仕入れたいいイチゴを使ったイチゴ大福。あんこもよくできたんじゃないかね?作るとき死ぬほどしんどかったけど。あと戦争が起きないように粒あんとこしあん両方作りました。さて、そろそろ来る時間かね。
「マスター、おはよう。今日はよろしく頼む」
「マスターさん、おはようございます~、ほら、タマちゃんも」
「・・・おはようしゃん・・・」
「おー、オグリ、クリーク、タマ、おはようさ・・・ん・・・?」
やってきたのは今日の当番、全員引退したウマ娘ではあるがとんでもない人気があり本人たちのやる気もあるため特別にシフトに組み込んでる一部例外のウマ娘たち、オグリキャップ、スーパークリーク、タマモクロスの3人だ。3人が挨拶しながら店に入ってきたので厨房から顔を出して挨拶をしようとするととんでもない光景が目に入ったので思わずフリーズした。とりあえず復帰した俺が訳を尋ねる。とりあえずわかってなさそうだけどオグリから。
「オグリ、二人に何かあったのか?これはどういうことなんだ?」
「ん?別に普通だと思う。仲がいいのはいいことだ」
「そうか、悪いけど先に掃除始めてくれ。えー・・・あー・・・クリーク?そのタマについてなんだけど?」
「はい?タマちゃんですか?別に普通だと思いますけど」
「そうか、俺の知るタマモクロスは決して同い年に抱っこされ、幼稚園児が被るような黄色の帽子を被ってスモックを着用した上に死んだ目でおしゃぶりを咥えているようなウマ娘じゃなかったと思うんだが」
「ふふ、可愛いですよね~」
ダメだ、俺の疑問がことごとく封殺されている。スーパークリーク、非常に魅力的な風貌と穏やかかつ世話好きで母性の強い性格をしている彼女は小さいもの、というか子供が大好きだ。誰かを甘やかさないと調子を崩してしまうくらいのお世話好きで現役時代はおしゃぶりとよだれかけを着けた色々ぶん投げたトレーナーが被害というかお世話をされていたのだが現役を退いてトレーナーを甘やかせないようになってからその矛先は身長の小さなウマ娘に向きつつあるとかいう話を小耳にはさんだっていうか寮の同室であるナリタタイシンから聞いた。ちなみにその時の彼女はよだれかけをつけていたのでお世話される寸前で逃げてきたのだろう。指摘したら蹴っ飛ばされて肋骨が折れたりしたがウマ娘に蹴られたにしては軽傷だったので照れ隠しに思ったより力がこもったことに直前に気付いて全力で止めようとしたけど間に合わなかったんだろな。めっちゃへこんでたってチケゾーとハヤヒデが言ってた。気にせず店に来ればいいのに。多分スピカトレーナーの人外の耐久力が周知されてしまったせいだな。
めっちゃ話が逸れた。とりあえず今の目の前にあるまさに絶不調という顔をしているタマモクロスを助けるところから始めないと。クリークも悪気があるわけじゃないんだけどなあ・・・包容力が高いというかなんというか・・・気づけば流されかけてるんだろうなあ・・・。
「なあクリーク」
「はい、なんでしょう~」
「とりあえず掃除頼むわ、タマモクロスは別で仕事があるから貸してくれ、ほれ」
「わかりました~。タマちゃん、いい子にするんですよ~」
「・・・うん」
俺にタマを渡したクリークがオグリに合流して掃除を始めるのを尻目に何も抵抗しないタマを抱きかかえたまま厨房に引っ込んだ俺はとりあえず帽子を取って制服の上から着させられてたらしいスモックを脱がせて、おしゃぶりを口から引き抜いてやる。そしてバチン!と目の前で手を鳴らした。
「はっ!?う、ウチはいったい・・・!?」
「おはよう、タマ。思い出さないほうが精神衛生上いいと思うけど、ん」
俺がタマから分離したスーパークリークばぶばぶ3点セットを指し示してやるとサーッと青ざめたタマが震える口を開いた。
「な、なあ・・・まさかウチこれをつけてここまで来たんやないやろな・・・・?」
「・・・すまん」
「う、うそや!うそっていって!」
「で、仕事のことなんだが」
「もうちょっと乗れや!ここからカタルシスやろ!?タマちゃん演技し損やんけ!」
「いやもうあんなタマ思い出したくねえよ。まさかとは思うけど自主的にああなったのか・・・?」
「そんなわけないやん!朝クリークと合流したらそっから記憶が・・・・」
とりあえずいつもの調子に戻った関西の白い稲妻ことタマモクロス。彼女は背が小さい上にスーパークリークにオグリと仲がいいからよく標的にされるらしい。長いリボンにつながったイヤーカバーをフリフリと振って気を取り直したタマは
「で、今日って何作るん?ネイチャたちカノープスに聞いてんけどなんかウチらも料理してもらうかもっちゅー話やん」
「おー、まあな。ほら俺今両腕がこうじゃん?あんまり重労働できんくてなー・・・というわけで今日はこれよ」
「へえ!たこ焼きと焼きそばやん!任せとき!きっちり焼いてやるでー!」
おー、ってことで俺は厨房とつながってるカウンターの一部を動かす。天板を外すと鉄板が2枚姿を現した。普段は使わないけどカウンターでも調理ができるようにつけたもんだ。そのうち一枚の鉄板を外して倉庫から引っ張ってきたタコ焼き用のものに変える。こうすればタマが料理をしててもお客さんと交流できるってわけだ。今回俺はドリンクとデザートに集中するってわけ。
それぞれの材料を容器にもってボトルに入れただし汁と小麦粉をカウンターに置く、ついでに掃除も終わりつつあるみたいなのでクリークとオグリを手招きで呼び寄せる。
「クリーク、お前焼きそば作れるよな?レシピ渡すから今作ってみてくれ、タマも一回焼いてみて。俺はイチゴ大福包むから。オグリは味見な」
「わかりました~」
「粉もんセットやな・・・よし、やったるでー」
「わかった。じゅるり」
「気がはやいわ」
ずびし、とすでに涎が垂れているオグリに軽くチョップを入れる。頭を抱えたオグリがちょっとだけ楽しそうに俺の手に頭をぐりぐりと擦り付けてくるので要求通りに撫でてやって、口にイチゴを一つ突っ込む。ついでに二人にもイチゴをあげて作業開始!
まずクリーク、彼女は手際よくキャベツをざく切りにしてニンジンを薄切り、さらに玉ねぎを串切りにする。そんで豚バラとイカを炒めて火が通ったところに野菜を投入して塩コショウとニンニクチップを少量入れて炒め合わせていく。肉に火が通り野菜がしんなりしてきたところで麺を入れて酒で蒸していく。それが終わるとうちでは焼きそばソースではなくお好み焼きソースを使うのでそれをどばーっと投下してソースの焼ける香りが漂ってきたところで完成、オグリ用にてんこ盛りの皿と普通盛りの皿が3つ手際よく盛り付けたところでクリークの作業は終了。
そして次はタマ、生地を流しいれて少し待ち、ネギをどっさり、天かす、紅ショウガを入れて5列あるうちの3列にタコを入れる。そんで残り1列にウィンナー、もう1列にベーコンとチーズを入れてその上からさらに生地をかけて焼けるのを待つ。千枚通しを両手に持ったタマが目にもとまらぬ速さでたこ焼きを丸めていく。丸め終わるとタマはタコの3列のうち2列に油を投下、そっちはカリカリにするつもりらしい。焼きあがったものを同じように皿に盛りつけて、オグリ用のたこ焼きマウンテンと俺たちの分にソース、マヨネーズ、青のり、鰹節をかけて完了。いいな二人とも手際がいい。
「オグリちゃん、よく噛んで食べてね~」
「オグリ、お待たせや~」
「二人とも、ありがとう。いただきます」
俺も一応味見するが問題はない感じだな。よし、じゃあ食べ終わったら開店するか。オグリは時間かかりそうだから俺はイチゴを包む作業に戻らないと・・・なるほど、ドーナツに穴をあけるバイトが虚無だって言ってたゴルシの気持ちがよくわかる作業だ・・・同じ作業の繰り返しだしな!
「いらっしゃいませ!今日はタコ焼きデーやで~!カリカリかフワフワ選んでや!」
「焼きそばはイカ抜きかどうかを教えてくださいね~」
「ドリンクメニューだ・・・おすすめ?そうだな・・・うん!マスターの料理は全部美味しいぞ!」
というわけで勝負服に着替えた3人。タマはイヤーカバーと同じ赤と青を中心にしたジャケットに中に稲妻の模様が入ったシャツ、白いジーパンのようなパンツを履いて、赤いブーツを付けている。そしてクリークは青と白を基調にしたまるでドレスのようなワンピースに肩掛けカバンを付けている。そして二人に共通することはそれの上にエプロンを付けていることだ。ミスマッチなことこの上ないが勝負服が汚れては事なので着けないといかん。特にもう引退してる3人の勝負服は個人のものなのでURAに預けて修理、クリーニングをしてもらえないからな。この前オグリが走ったレースのような場合は話が別だが。まあ?もし汚れても俺が全額自費でクリーニングもしくは修繕に出すので汚れても問題ないっちゃない。でもウマ娘の勝負服はクッソ高いので出来れば汚したくない。
そして今お客に対してうれしいことを言ってくれたオグリキャップ。彼女は丈の長い白いセーラー服、胸元の星、スカートからすらりと伸びたタイツに包まれた脚とへそ出しという感じの勝負服だ。タイキやヒシアマゾンもそうだがウマ娘の勝負服って腹だし流行ってんの?寒そうなんだけど。
俺はドリンクのほかにイチゴ大福に合うあったかい玉露を淹れながら3人が和気あいあいとファンサービスや料理、配膳をするのを見守るのだった。時々オグリの腹が鳴ってお客さんから食べ物を貰っているのをちょっとだけ頭を抱えた。オグリさん、それお客さんの注文のたこ焼き・・・
「オグリィ!あんたつまみ食いしすぎや!」
「はっ!?つい・・・!」
「いいよいいよ!マスター、オグリキャップさんに俺からなんか奢ってあげたいんだけど!」
「悪いっすねお客さん。クリーク、オグリに焼きそばあげて」
「は~い」
クリークが楽しそうにオグリに焼きそばをあーんしてあげるのを見て俺は今のお客さんのドリンクを無料にすることを決めるのであった。えらいすいません。
そして閉店後、オグリの腹がお客さんからのサービスで膨れ上がったのを呆れた顔で見る俺とタマ、微笑ましそうに見るクリーク、そしてなんとなく満足げなオグリ。お前来るといつもお客さんに餌付けされてるよな、たまに食事を餌に誘拐でもされるんじゃないかとおじさん心配になってくるよ。ウマ娘の身体能力なら鉄製のドアでもドア枠ごと蹴破って出てくることはできるだろうけどさ。特に鍛えてる競争ウマ娘ならなおさら。
「ほい、お疲れさんだ。夜飯は・・・いるか?特にオグリ」
「ほしい」
「即答かい。タマとクリークも食べるよな?焼きそばとたこ焼きはやめとくか。散々作って飽きてるだろうし」
「ほんまやで。ずっと焼かせるやつがあるかいな。でもええんか?今から作るのは面倒ちゃうん?」
「そうですよ?よかったら私が何か作りますけど・・・マスターさんの腕のこともありますし」
「いや、気にしなくていいよ。今日一日だいぶ楽させてもらったからな。ありがとうなクリーク」
そう言って俺は丁度いい位置に来たクリークの頭を撫でる。普段撫でる側にいる彼女はどうやら頭を撫でられることにはあまり慣れていないらしく少しだけ顔を赤くして目線を逸らした。それでもされるがままにしているあたり嫌がってはいないのだろうな。こういうところは年相応だな。
「お、なんやクリーク?撫でるんは得意でも撫でられるんは苦手か~?いやあええもん見れたわ!」
なんてタマがクリークをからかおうとしてるので空いてる片手でタマも撫でまわすことにする。いやあ、身長が小さいと撫でやすくていいですな。
「ちょ、ウチはええねん!そんな撫でまわされると身長縮むやんかぁ・・・もー・・・」
「タマ、お疲れ様。今日はありがとうな。オグリも、お疲れ様」
「うん、マスターもお疲れ様だ・・・じー・・・」
「オグリ、おいで」
「!・・・ああ!」
両手に花という感じで二人を撫でまわす俺をちょっと寂しそうに見つめるオグリ、仲間はずれにしては可愛そうなので俺はオグリを呼んで近寄ってきたオグリの頭もぐりぐりと撫でてやるのであった。
その後、俺は3人に焼きそばの材料をそのまま転用した味噌焼きうどんを作り、デザートに片手間で作ったイチゴシャーベットを出してやった。そして3人が帰る段階になって俺は今日一日で材料を使い切って余ったイチゴ大福やあんこだけ余ったのでノーマル大福、さらにおはぎを3人が所属してる寮全員分いきわたるように渡した。大荷物になったが3人は軽々と担いでいる。帰ろうとしてるクリークを呼び止めた俺はもう一つ包みを渡した。
「これ、タイシンに渡しといてくれ。怒ってないから気にせず来てくれって」
「あら~わかりました。きちんとお渡ししておきますね」
中身はイチゴのドライフルーツ。少し前に仕込んでおいたものだ。タイシンは小食なうえにあまり甘いものも好きじゃないみたいだからな。それにウマ娘が力加減を間違えることなんてよくあるんだ。ウマ娘とかかわる職場な以上そんなこといちいち気にしていたってしょうがないんだからな。タイシンは自分を責めがちだから気にしてないって伝えるのが一番いい。俺はウマ娘の寮に入れないし無理やり呼び出すわけにもいかないから同室のクリークが今日来てくれて助かった。
タイシンの出勤日は近いしこれで気にしないようになってくれればいいんだけど。
えー、ナリタタイシンを曇らせてしまった件ですが、そこまで湿度が高い話にする気はないしきちんとハッピーで終わらせますのでどうか石を投げないでください(五体投地