喫茶店・ホースリンクへようこそ! 作:アヴァターラ
配信を初めてやった日から幾日かたち、俺の両手もすっかり良くなってサポーターも外れ、ついでに折れてた肋骨も完治した。いやーあばらをやると長いね!固定がうまく行ってたおかげで動きまくってもそんなに痛んだりはしなかったけどさ。
ああ~~~フライパンが持ちやすい!いつも通りに力を籠められることのなんと素晴らしいことか。試しに野菜炒めを作ってみたが違和感はないな。よしよし、これできちんと仕事に戻れる。
ああそうそう、あれから配信はやってないのだがちょくちょく動画は投稿してる。人気なのは「ホースリンクの賄い飯」と「トレーナーが質問に答える」というやつだ。前者は俺の店で出す賄いをレシピの解説から実際の調理までしてそれをウマ娘が食うというもの。そんで後者は蹄鉄とか仲のいいトレーナーに協力を仰いで事前に募集した質問に答えてもらうものだ。スピカトレーナーが一番再生数が多いな。おもにゴルシとの関係についてだけど。
今度から店の様子を定点放送でもしようかな~とウマチューバーが板についてきたような気がする俺が色々思案しているとそろそろ今日の担当のウマ娘たちが来る時間だ。一人はめっきり日曜日に来なくなったし、また仲良くしてくれるといいんだけど。
今日はリハビリがてら軽いものを作ろうと思う。題してクレープフェア!軽食は出さず、クレープとほかのスイーツが食べ放題というスイーツバイキングみたいなもんだ。昨日のうちに大量のフルーツ、アイス、ケーキを仕込んで今この店には似つかわしくないほど大きい(ウマ娘を相手するなら標準サイズ)の業務用冷蔵庫に所狭しと眠っている。自分で取り分けてよし、ウマ娘に取ってもらってもよし、なかなかいいアイデアではないだろうか。
小麦粉と卵、牛乳を混ぜてクレープ生地を作ってるとドアが盛大な音を立てて開いた。ははあ、こ奴が先頭だと思ってたけどドアがぶっ壊れそうなくらい勢いよく開くのはやめてくれ。
「おっはよおおおおおおお!!!!マスターさーーーん!」
「相変わらず声がでかいなチケゾー。元気そうで何よりだ」
「えっへへー。だってだって今日はハヤヒデとタイシンと一緒に働けるんだよ!?もう嬉しくって嬉しくって~!」
現れたのは黒鹿毛の跳ね気味なショートカットのウマ娘、チケゾーことウイニングチケットだ。元気の良さでいえばあのタイキシャトルをも上回るほど。見るだけでこちらが笑顔になるほど素直で感情をそのまま表に出すタイプ。特に感動すると必ず泣くほどにだ。すごくどうでもいいことで感動するからなコイツ。
「あ~~~~!!!マスターさん両手治ってる!?よがっだよ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!!!」
「うるっさ!チケゾーおちつけ!ほら大丈夫だから!ちゃんと動いてるから!」
「う゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛ん゛!!!」
さすが感覚器官が鋭いことに定評があるウマ娘、目ざとくここ何週間か俺の両手を占有していたサポーターがないことに気付いたチケゾーの瞳にみるみる涙が溜まって一瞬で決壊、おんおん女の子とは思えない声を出して泣き出したチケゾーを慌てて俺がなだめる。ひぐえぐと盛大に泣くチケゾーを持て余しているとややあってまたドアが開いた。
「全く、チケット。私たちを置いていくなとあれほど・・・ああ、おはようマスターくん。チケットのその様子を見るに両手は完治したというところか、おめでとうと言わせてもらうよ」
「ああ、ありがとうハヤヒデ。バラバラに来るとは珍しいな?」
「いや、そうではなくてだな・・・チケットは君に会うのが楽しみで待ちきれなかったんだが、タイシンがな・・・ドアの前まで来たのはいいものの「やっぱり帰る」と言い出して・・・少々説得していた。自分で入ると言っているから先に入ったんだが・・・」
彼女の名はビワハヤヒデ、カールした長いロングヘアの芦毛と赤いアンダーリムのメガネが魅力的なウマ娘、妹を持つ姉ということもあって面倒見がよく、よく泣くチケゾーとツンツンしてるタイシンをまとめる潤滑剤みたいな立場にいる。彼女は俺にしがみつくチケゾーを困った目で見ながら耳をドアのほうへそばだてている。入ってこないってことは踏ん切りがつかないのかね。
「そんな悩むことか~~~?人を蹴っ飛ばしたくらいで」
「君はそう言うが私たちウマ娘にとっては大ごとだぞ。特に今回の件は君に非がないわけであるし、私たちのようにレースに出てるウマ娘にとって人を怪我させたなんてことがあったら出場停止なんてこともある。君は全くタイシンを責めないから逆にいたたまれなくてな・・・トレーナーとじゃれ合うものとはまた別なんだ」
「ふ~~~~ん。チケゾーちょっと頼むわ」
とりあえず入ってもらわないと仕事も話も進まないのでついには俺に抱き着いて滂沱の涙を流し続けるチケゾーをハヤヒデに引きはがしてもらってドアの前まで行ってドアを勢いよく開ける。するとそこには死ぬほど焦った顔をしている小柄で鹿毛のショートヘアのウマ娘がいた。彼女こそが件のウマ娘であるナリタタイシン、負けん気が強く、トゲトゲしているが案外繊細で気にしいのウマ娘だ。彼女はドアを開けた俺を見た瞬間に顔が青ざめ、耳はへたり込み、尻尾が垂れてしまった。何この罪悪感、小さい子を苛めてるみたいじゃん。
「おう、おはようタイシン。元気してたか?」
「お、おはよ・・・まあ、それなりに・・・」
「そっか。心配してたんだ、あのあとめっきり店に来なくなっちまったからな、嫌われたのかと」
「そんなわけない!あっ・・・その・・・なんで、怒らないの?アタシ、あんたを蹴っ飛ばして怪我させたのに・・・」
俺が嫌われたのかと心配してたことを尋ねるとタイシンにしては珍しく強く否定してくれたので少し安心した。普通に嫌いとかうざいとか言うからなコイツ、チケットがよく言われてるのを耳にする。チケット自身は本心じゃないのを分かってるのかどうなのか全く気にせずタイシンに絡んでいくので一人を好みがちなタイシンの数少ないライバル兼友達だ。もちろんハヤヒデも。3人合わせてBNWと呼ばれているこの集まりは同じチームにもかかわらず同じレースによく出場するからよく見る。ファン人気もまとめて高いのだ。
「おいおいよく考えろ。スピカのトレーナーがどんだけ蹴り飛ばされてプロレス技食らってると思ってるんだ。よくあることだろ」
「それは・・・まあそうだけど。でもあんたはトレーナーじゃない。それに手加減だって間に合わなかったのに」
「慣れてるから大丈夫だ。正直言って俺にとっちゃ怒る理由がないからな。それよりもお前が店に来なかったほうが堪えたぞ。申し訳ないと思うなら売り上げに貢献してくれ」
俺がそう言い切るとタイシンはようやく俺から逸らしていた目を俺に向けてくれた。ちゃんとこっち向いてくれてよかった。これはルナの名誉のために言わないでおくが実はウマ娘に怪我をさせられるのに慣れてるのは事実。ルナがまだ幼くて力加減が不器用だったもんだからそりゃもう突撃食らってふっとんだり骨が折れたりなんてのは日常茶飯事だったのだ。ルナは泣きながら力加減を覚えたといっても過言ではない。当時の俺は包帯まみれだったものだ・・・自分で言うのもなんだがなんで怒らなかったんだろうな俺。そんだけルナが大事だったんだけどさ。
「はあ・・・もう、気にしてるのがバカみたい。わかった、あんたがそれでいいなら私も何も言わない。でも、これだけ言わせて・・・蹴っちゃって、ごめんなさい」
「ああ、いいよ。さ、もうすぐ仕事だぞ~腹ごしらえしたら頑張ろうな」
「はいはい・・・美味しいのを期待しといてあげる」
「任せろ!両腕が自由になった俺に隙はない!」
と、ドアを開けて店の中に入ると俺とタイシンが仲直りしたことを察したチケゾーが涙で池が作れそうな勢いで号泣してこっちにすっ飛んできた。二人仲良くタックルを食らって俺たちは思わず笑うのであったとさ。
動画のために3人に承諾を得てカメラを回しながら今日のことを伝えていく。今日の日替わりはクレープ中心のスイーツビュッフェ。オーダービュッフェになるから忙しくなるかもということももろもろ伝え終わってお待ちかねの賄いタイム。
「で、今日のスイーツフェアなんだが」
「ふむ、今日は男性女性ともバランスよく予約が入ってたと思うのだがそれでいいのか?」
「いい、というか予約の段階で今日は甘いものを出すって言う大まかな予告はしてるんだからそれを承知した人たちでしょ多分。まあダメだったらこんな感じで・・・」
俺はササっとカウンターの鉄板でクレープを焼いてその上に、ツナマヨ、レタス、トマト、サニーレタス、ニンジン、玉ねぎを入れてニンジンドレッシングを少量かけてサラダクレープを作り上げた。これなら大丈夫でしょ。
「甘いだけがクレープじゃないさね。まあタコミートも用意してあるからタコス風にしてもいいかな。タイシン食べる?こういうのなら好きでしょ」
「・・・食べる」
「ほいほい。二人も一つ作ってあげるから好きなものを言ってくれー」
「いいの!?それじゃえっと・・・イチゴとバニラアイス!あとカスタードと生クリームマシマシで!」
「うわ・・・甘ったるそう・・・あんたそんなの食べるの?」
「え~~~いいじゃ~~ん!タイシンも一口食べる?」
「いらない。甘いものそんなに好きじゃないし」
「じゃあ私は・・・バナナとチョコレート、生クリーム。バナナ多めがいいな」
「おっけー。すぐ作るからちょっと待っててな」
二人のオーダーを受けた俺はクレープをまた焼いてまずチケゾー所望のイチゴダブルクリーム&アイスを作る。カスタード敷いて、上にイチゴ敷き詰めて、その上に生クリームホイップして、くるくる巻いてよく見るクレープに、それをスタンドにおいて頂点にアイスをズドンと置いたあと追い生クリームにイチゴとイチゴソースをかけて完成、見た目も宝石のようなイチゴクレープだな!結構ボリューミーになっちゃった。ウマ娘だしまあいっか。
そしてハヤヒデ所望のバナナチョコクリーム。バナナを縦半分にして豪華に一本おき、生クリームをホイップしてその上にチョコソース、そのあとドライバナナを砕いたものとクルミをトッピングして同じようにくるくる巻いて完成、うん、なんか楽しくなってきたぞ!やっぱり自由に料理するのは楽しいなあ!
「ほれ二人ともお待たせ。食べたら着替えてきてくれ~。タイシン、うまいか?」
「言う必要ある?・・・おいしいけどさ」
「わあ~~~!やっぱりマスターさんの料理はボリュームあって美味しいね!ね!」
「ああ、日曜日にしか来られないのが残念だ。特にこの前はオグリキャップが・・・」
「悪いな、残弾は残さない主義でね」
「じゃあウマ娘の予約も受け付けてくんない?」
「俺が過労死しちゃうだろ」
ルナ用に残してるのは秘密だ。チケゾーが口の周りをクリームまみれにしてるのを甲斐甲斐しくハヤヒデがハンカチで拭いてあげるのを微笑ましく思っているとそろそろ準備に取り掛からないとまずい時間だ。いそげーいそげー!開店の時間だー!
「いらっしゃ~~い!ホースリンクへようこそ!今日はスイーツバイキングだよ!」
「席に着いたらそこの黒板に書いてあるフルーツやアイスを決めて私たちに伝えてくれ。マスターくんがそれでクレープを作ってくれる」
「甘いのがダメならサラダクレープもあるよ。タコスっぽいのがおすすめだって」
「あ!ナリタタイシンさん!よかったらサインを・・・」
「アタシ?・・・まあいいけど。どこ?」
「このサイン帳に・・・・!」
「ん」
「ありがとうございます!大切にします!」
「・・・大げさ」
いやー予約のキャンセルもないしクレープは結構好評だしいいですな。ドリンクも結構でてる。特に今日のコーヒーは甘いものに合わせても美味しく、それでいてすっきり飲めるようにブレンドを変えてみたのだ。いつもより苦みと香りが強く、酸味が少ない。甘いものを食べた口の中をさっぱりとリセットしてくれるだろう
もちろんみんな勝負服、黄色のシャツを結んで腹だし、片足分バッサリないダメージジーンズ、ファーがついたジャケットというパンクな姿のタイシン、ピンクと赤っぽい茶色のアイドルっぽい勝負服、なぜかスカートの横に穴が開いてるハヤヒデ、タンクトップっぽい上着の中に青っぽいスポブラをもろに見せてるスパッツがスポーティーなチケゾー。みんなよく似合ってるんだけど・・・寒くないのそれ?なんで腹だしばっかしてるんだよ。チケゾーに至っては袖がないんだよな。見てるだけで体冷える。アイス扱ってると寒くなってくるわ。
そしてタコスクレープが案外人気だ。使ってるクレープ生地自体は甘くはないからどんなトッピングしてもおおむね大丈夫だけどそれでもやっぱりクレープだもん、甘くしたくなると思ったんだけどしょっぱいのも人気っぽい。あとはプリンクレープとかも人気。在庫の減りがすごいや。
そんなこんなで時間がたって問題なく今日の営業も終了。途中で来店した夫婦から子供を授かったという話を聞いたチケゾーが感動で泣くといういつも通りというかなんというかということはあったがそれ以外特に特筆すべきことはなかった。しいて言うならタイシンが一番人気だったくらい?
「なんか食ってく?タコライスなら作れるけど」
「食べる食べる!大盛りで!」
「少な目、サルサ多めで」
「じゃあ私は、チーズを増やしてもらおう」
「おっけー」
ささっと本日余ったタコミートを使用してタコライスを作る。サルサソースももちろんオリジナル。ハラペーニョがピリリときいた大人の味です。このソース実はたづなさんがよく持ち帰ってるんだよね。ポテチにつけてビールでグイッといくのがいいとかなんとか。あとトレーナー達酒飲みのつまみにもなるってさ。俺もカクテルを作る程度には酒が好きなのでわからんでもない。うまいアテを自分で作れるってなんか得した気分だよね。
「ハイお待たせ」
「「「いただきま~す!」」」
3人がワイワイ姦しく食事をするのをちゃっかりカメラで撮影しながら俺はひたすらに鉄板を磨き上げて汚れを落とすのであった。
ホースリンク本日の賄い。「クレープ&タコライス」
コメント
相変わらずマスターさん手際よすぎて草。盛り付けもきれいだな。
さすがプロだわ。あと何がとは言わんがでかいな
ああ、でかいな。ハヤヒデ
いいモノをお持ちで
お前ら最低だな。毛量が多いだけで普通だろ。
↑お前純粋だな・・・詐欺には気を付けろよ
しかしまあ・・・ウイニングチケットは元気だな。ナリタタイシン引いてるぞ
BNWはこれがデフォ!いやー店長が動画上げてくれるからウマ娘の普段の様子を見れていいですわ
生配信またやってくれねーかなー
動画が上がった夜・・・とある寮から「私の頭は大きくないぞ!?」というウマ娘の悲痛な叫びが響き渡ったそうな
今回のイベントを完走できないかもしれない作者です
評価、感想ともに大変励みになっております。今まで特にお礼なんぞ言ってこなかったのでこの場を借りて皆さんにお礼申し上げます。
評価と感想くれると筆が早くなります(本音)
これからもお付き合いのほどよろしくお願いいたします。