喫茶店・ホースリンクへようこそ! 作:アヴァターラ
喫茶店の朝は早い・・・なんてことはなく。いや、仕込みとかの関係上早いは早いが一般的な喫茶店と違ってそもそも仕事自体が少ない。完全予約制な以上、何人来るかがわかっていて、メニューは完全にこちらの日替わり、しかも開店は9時ときた。ウマ娘たちが働きに来る前は午前6時から開店していたが彼女たちは休みを利用した希望者たちが来るわけなのでさすがにそんなに早いと休みが休みにならないのである。
そんなことを考えながらささっと仕込みを終えて自分用のコーヒーを一杯、サイフォンの中からカップに注いでそのまま口をつける。淹れたては最高に香りがいい。
時刻は現在朝7時、もうちょっとしたら登校時間といったころだろうか?彼女たちもベッドから起き上がったり、朝練を切り上げて眠い眼をこすりながらこちらに来るのだ。そういっても彼女たちも慣れたもの、朝練だってしてる彼女たちの朝は早いのである。当たり前のように朝練で3時間トレーニングをして学園に通う猛者たちばかりなのである。それにもうすぐ・・・
「ハウディ!マスターさーん!」
ほらきた。元気よくまだクローズの看板がかかってるはずのドアを開けて入ってきたのは綺麗な栗毛のショートなポニーテールをしたアメリカ生まれの元気印、タイキシャトルだ。トレセン学園指定の制服に身を包んだ彼女はウマ娘特有の身体能力でドアを一瞬でくぐりカウンターに腰かけた俺に猛ダッシュ、そして・・・
「おはようのハグデース!」
「おう、おはようタイキッ!?」
ぎゅむうっ!と俺に対して熱烈なハグを交わしてきた。彼女の身長は172㎝、俺よりは低いが女性としては高い部類に入る。そして俺は優雅にコーヒーブレイクをしていたのだ。つまり座っている。これが意味することは・・・
「むぐぐ・・・むぐぐ、むぐむ」
「オゥ!ソーリーマスターさん!」
見事に彼女のたわわに実った果実に顔面を突っ込むことになるのである。文句を言ってもしょうがないのではあるが一応抗議の籠り声をあげて彼女の背中をタップして離してもらう。相変わらず元気なことで。目の前でニコニコ笑うタイキシャトルに毒気を抜かれて文句を言う気が起こらなくなる。ほんとこういうとこ得してるよなコイツ。
「改めてタイキ、今日はよろしくな。一人だけど大丈夫か?」
「イエス!ワタシロンリーはだめデスけど今日はマスターさんが一緒なのでノープロブレムデース!」
そう、今日の担当はタイキシャトルただ一人なのだ。いま彼女が所属しているチーム・リギルはどっちかというと練習重視であまり士気やモチベーションというものを気にしない風土があるガッチガチのスパルタチームだ。担当のおハナさんも厳しいことで有名。走ればファンは勝手についてくるを地で行くエリートチームなのだが・・・・
「しっかしリギルがこの手のことに大事なメンバーをよこすなんてなあ」
「ノー!ワタシたちだってマスターのお店で働きたいデース!ファンと交流、ファンタスティック!トレーナーさんにお願いしてきまシタ!」
「おハナさん折れたのか・・・意外だ」
言うまでもないが俺の店で働くのは挙手制だ。つまり希望者以外はこない。しかもトレーナーの許可だっている。確かに彼女は賑やかなのを好む。好みすぎて寮長に何度かお叱りを受けたり理事長秘書のたづなさんにおいかけられたりしてるのを見たこともある。でもトレーナーの指示にはよく従っていると聞く。その彼女がトレーナーにお願いしてここにきているというのだから世の中よくわからんものだ。
「トニモカクニモ!今日一日よろしくデース!・・・あっ」
「・・・お前さん、朝ご飯は?」
「楽しみすぎて食べるの忘れてたデース・・・・」
「小学生かお前・・・まあ来るのも早かったし時間あるだろ。ちょい待ってろ」
ぶんぶんと激しく尻尾をふりピコピコと耳を動かしていたタイキシャトルからかわいらしいお腹の音が響いた。思わず突っ込んでしまったのだが帰ってきた答えが忘れたとは拍子抜けもいいところである。まあ高校生だし?まだまだお子様なところを見られて少し得した気分だ。朝ごはんくらい大盛りで出してやろう。
というわけで取り出しますはアメリカ産のベーコン、これを薄切りにしてこれでもか!というほどフライパンに放り込み、カリカリになるまで焼く。日本のベーコンは水気がおおくてカリカリにしようとすると高確率で焦げるのでこういうのはアメリカ産に限る。
厚切りの食パンをトースターに突っ込みこんがり焼いてマスタードとマヨネーズを塗り、トマト、レタス、たっぷりのベーコンを上に乗せ、ベーコンの油で焼いたスクランブルエッグを重ねてケチャップをかけてパンでサンドする。いわゆるBLTサンドだ。卵は脂がもったいないからついでだけど。
アメリカっぽい分厚いサンドイッチを斜めカットして互い違いに立てて横にスティックニンジンを置いてオリジナルマヨソースをミニ器にこんもり入れてやってタイキシャトルにもっていってやる。目にした瞬間タイキの目がまぶしいくらいに輝き始めた。いい反応するなあ、作り甲斐がある。
「BLTサンド!?センキューマスター!日本のベーコン、あんまり好きじゃないデスけどおいしそうデス!」
「アメリカのべーコン食べちまうと日本のベーコンは甘く感じちまうよなあ。煮込みならもってこいなんだがな。ま、こいつはお前さんの故郷のベーコンだよ。さ、食べて着替えてきな」
「イエース!いただきマス!」
そう言って行儀よくパチン!と手を合わせたタイキがはむぅ!!とサンドイッチにかじりつく。とりあえずミネラルウォーターを出してすっかり冷めてしまった自分のコーヒーをグイっと一気飲みする。キレのある苦みが最高、調理して覚醒した頭をさらにぱっちりと目覚めさせてくれる。
「ベリーベリーヤミー!おいしいデース!故郷の味デス!」
「そらよかったな。食べたら着替えてきてくれ。ゆっくりでいいぞ、まだ一時間くらいあるからな」
頬をリスのようにしてサンドイッチを頬張るタイキシャトル。さすがに大盛りといえどウマ娘は体の許容量が大きいから食べたいだけ食わすと腹がぽっこりと出てしまうので量は調整してる。特にコイツの勝負服は腹が思いっきり露出してるカウガール衣装なので腹が出てたらかっこがつかない。いつも思うが体冷えそうだよな。しかもタイキは雨の日のレースが得意だからずぶ濡れになって走ることもある。風邪ひきそうだ。
想像してなんか寒くなってしまったしコイツの腹を冷やすのも可愛そうなのでホットミルクを作ってやろう、蜂蜜たっぷり入れてな
「もぐもぐ・・・むぐむぐ・・・あ、マスターさん!この前のレース見てくれましたか!?」
「ん?ああ、1800のマイルだったっけ?1位、おめでとさん」
「むー、軽いデース!もっと褒めてくだサーイ!」
「今からファンにたくさん褒められるだろ。俺はこんくらいでいいんだよ」
「それとこれとは別デース!プリーズプレイズミー!」
「いいからほれ、これ飲んで着替えてこい」
ハニーホットミルクを置いて俺は厨房に引っ込む。タイキの反応からして今日の日替わりのBLTサンドの出来は上々なようなのでカリカリベーコンの量産体制に入る。卵はタイキだけに特別ってやつだ。タイキは俺が厨房に引っ込んだ瞬間嘘のようにシュンとして静かになった。
タイキは一人が大嫌いらしい。この前のことだが学園のあるウマ娘に弁当を持って行った帰りにポツンと練習場で一人たたずむタイキを見たのだが、俺を見つけた瞬間それこそシャトルのようにとんでもない速度で泣きながら突っ込んできたのだ。なんでも一緒に練習するはずだった友達が急にレースが決まってしまいポツンと残されたのだそうで。そして一人寂しくトレーニングに明け暮れていたのだが俺を見つけたとたん我慢していた寂しさが決壊、ハグという名のタックルに変わったと説明された。
つまり極度の寂しがりなのだ、コイツは。一人にしただけで4段階くらい調子が下がるとおハナさんが言っていた。なのであの時俺と会えたのは非常に助かったとのちに合流した彼女にお礼を言われたくらいに。今もほら、もそもそと食べ終えてしょぼしょぼと着替えに2階の更衣室に向かっている。ちょっと素っ気なかったかな?
さてさて、そろそろ開店時間間近だ。俺も制服のエプロンをかけて気を引き締める。今日のお客は20人、夕方まで頑張っていこうか!と一人で気合を入れているとトタトタと足音が響いてタイキが更衣室が降りてきた。緑色で露出度が高いカウガールの姿だ。腰には拳銃、首の後ろにはテンガロンハットといかにもな姿ではあるがこれがよく似合っている。
「準備完了デース!さあ、バシバシさばいていくデスヨー!」
「どこでそんな言葉覚えてきたんだ?」
何はともあれ喫茶店・ホースリンク、ただいま開店いたします。俺はドアの看板を開けるついでにもうすでに待ちきれなくて開店前に並んでいたお客さんを案内するのであった。お客さんはタイキのハグの洗礼を受けて幸せそうであったとここに記しておく。
「マスターさーん!日替わりメニュー3つデース!それとブレンドとカプチーノ、アイスラテデース!」
「あいあい、じゃあドリンクからな。日替わりはちょっと待ってくれ」
「イエッサー!」
「俺は教官じゃねえ」
「アイマム!」
「女でもねえ。わざとだろ」
「えへー」
という軽口をたたきながらコーヒーを入れてミルクを泡立て、シェイカーでラテを作る。ほとんど同時にできたドリンクをタイキが持つお盆にのっけてタイキが運んでいく。俺も厨房から人数分のBLTサンドとフライドポテトのセットを作り上げて専用のバスケットに一つずつ丁寧に敷き詰めていく。今日はタイキの日なのでタイキの形に切ったニンジンを串にさして旗に見立てて添えておく。こういうことをしてないとただ料理がうまいだけになっちまうからウマ娘コンセプトカフェっぽくしないとな。
「ハウディ!サンキューフォアウェイティング!ドリンクデース!」
「タイキシャトルさん!この前のレースとライブ見ました!1位おめでとうございます!恐縮ですけどサインしてもらっていいですか!?」
「オゥ!サンキュー!サイン!いいデスヨ!どこデスか!?」
「シャツに大きくお願いします!家宝にするんで!」
「イエース!お名前教えてくだサイ!」
と、こんな感じでファンサや接客に忙しいタイキシャトルがそれでも楽しそうなことに一安心しつつ客をさばいていくのだった。
「んん~~~~!終わったデース!」
「おう、お疲れさん。いい時間だし飯食ってけ。着替えてる間に仕上げておくからよ」
「ホントデスか!?わーい!楽しみデース!」
そんなこんなで今日も盛況で営業を終わることができた。帰り際会計で美味しかったと礼を言ってくれる人もいたし俺としても満足だ。さてさて、ちょこちょこ営業中に仕込みをしてきたことだし頼まれごとを終わらせちまおう。俺はチャカチャカと鉄鍋を火にかけて油に肉を放り込むのであった。
「う~~~!いい匂いするデース!わぁ・・・」
「おう、いいタイミングだな。ほれ、たくさん食ってけ」
並べられた料理を見た瞬間思わずといった感じで言葉を失ったタイキ。それもそのはず、目の前にあるのは・・・
「Southern Foods・・・南部の・・・故郷の料理デース・・・マスターさん、どうして・・・」
「ま、レースで頑張ったからな。それに、ほれ。おハナさんから頼まれたんだよ」
俺が見せたのはスマホのメール画面。そこにはおハナさんから「タイキのことを目一杯褒めてあげてほしい。私がやっても不気味なだけでしょう?だから、あなたからタイキのことをうんと褒めてあげてほしいの。よろしくお願いします」というメッセージがあった。営業始めてすぐにそのメールが来たので俺も営業中時間を見つけては今店にあるもので作れるタイキの故郷の料理、フライドチキン、ジャンバラヤ、コーンブレッド、ミルクビスケット・・・(さすがに材料に制限があったからこの程度にしかできなかったが)を作っておいたのだ。
おハナさんは確かに厳しいが情がないわけじゃない。合理主義だけど冷血なわけじゃないのだ。本心では誰よりも、何よりもチームのウマ娘を想っている。少し不器用なだけなのだ。それもタイキたちはわかってるから彼女に従って厳しいメニューに取り組んでいる。
「さ、たくさん食べてお腹いっぱいになったらおハナさんに思いっきりハグしてお礼を言ってこい。レース一位おめでとう、タイキシャトル」
「ハイ!ハイ!・・・いただきマース!」
そうしてお腹が膨れるまで目一杯おいしそうに故郷の料理を食べたタイキシャトルは、気になって迎えに来たらしいおハナさんに向かって飛びつくようなハグをするのだった。
「トレーナーさーん!サンキュー!サンキューベリーマッチデース!」
「ちょっと!マスター君!ばらしたでしょ!?」
「さーてなんのことやら。おハナさんなんか飲んでく?」
「・・・コーヒー。エスプレッソで」
「あいよ」
喫茶店・ホースリンク、本日はこれより貸し切りとなります。誠に申し訳ありませんが後日またご予約のほうをよろしくお願いいたします。あなたにウマ娘と素敵な出会いがあるよう、お祈り申し上げております。それでは、また。
なんでタイキが出てる小説ってすくないん・・・?