喫茶店・ホースリンクへようこそ! 作:アヴァターラ
ああ、日曜日。営業日であるが正直一週間の中で一番忙しいんだ。なんせ朝からウマ娘が俺の店に入り浸り席が空くということがあまりない。満員御礼、ついでに俺の疲労も満杯になること請け合いである。そして今日は昼からスペシャルウィークという大食いちゃんがすべてを食い尽くしていったので食事ありませんという看板を出しておいた。そしてしょげ返るウマ娘多数、ごめんて。
まあそういう日も多々あるわけで、申し訳ないが納得していただくほかはないのだが、いかんせん納得できない子もいるのだ。そう、例えば・・・
「お腹空いたのだ~!!店長ちゃんとご飯残しておいてほしいのだ~!うううう!!がぶっ!!」
「ああいったあああ!?おいウインディ!飯がないのはスぺに言え!俺に嚙みつくんじゃない!」
例えば今、俺に噛みついているウマ娘、ミディアムショートな鹿毛に小さな流星、ギザギザ歯が特徴的なシンコウウインディだ。腹が減ったと喚く彼女が俺にダイレクトに噛みついてくるのをひっぺが・・・無理だわ。ウマ娘に力で勝てるわけないし、ウインディも本気噛みじゃなくて甘噛みだし。がじがじと俺に歯を立てないように噛みつく彼女が何となくかわいく思えてくるが、ま、ただ寂しいだけだろう。
ウインディは高等部1年生、15歳だ。親元から離れて寮で暮らすにはまだまだ幼い。同じ境遇のウマ娘たちが一緒にいるとはいえ四六時中そばに誰かいるわけではない。あるものはトレーニングを、あるものはトレーナーを探したりする。そうするとウインディのようなまだトレーナーがついてないウマ娘たちは時間を持て余すことになる。
そして寂しくなるんだ。仲のいい友達も、無償の愛を注いでくれる親も、見守ってくれる大人たちもいないことにどうしたって気づく。タイキやウインディのような寂しがりやなウマ娘は勿論、そうじゃないほかのウマ娘も調子を崩したりメンタルが不調になることがある。
だから、俺の店がある。ここに来れば必ず俺はいるし、店にいなくてもすぐ戻れる距離にしか出かけない。この店を始めたのはルナのため、正確には「全てのウマ娘に幸福を」というルナの夢のため。ウマ娘たちがいつでもレースに出られるメンタルを維持するためのセラピー施設みたいなものなんだ。困った時の駆け込み寺を兼ねてるのが俺の店だ。だから、ある程度信頼していて交友関係が広いウマ娘には店のカギを渡してあるし、各寮にも合鍵が置いてある。いつ誰でも来れるようにな。
実際俺のトレセン職員としての肩書は「調理師」ではなく「カウンセラー」だ。資格なんぞ一切持ってないがな。けどまあ、トレセンに2000人いるウマ娘を200人いるかどうかのトレーナーで何とかしようってのはさすがに無茶が過ぎるし実際面倒見切れていない。俺みたいな外部協力者が必要になってくる。俺のトレセン内の仕事は店に来る、頼ってくるウマ娘の相談事を聞いて俺が何とかできそうならそのまま何とかし、無理そうならほかのトレーナー連中に話を挙げて解決させること。喫茶店はまあ8割がた趣味ではあるが、美味しいお茶と食事があれば口が滑りやすくなるからってのもある。まあ理事長のせいで明後日の方向にかっとんでいるわけだが。
ちなみに商店街などのトレセン近くの施設にも俺と同じ役割を持った店と人がそれなりにある。彼女たちにはバレてないんだけどな・・・要は俺たちはウマ娘を見守る目であり、トレーナーという脳に情報を届ける耳であるというわけだ。
さて、長々と話したがこれは蛇足。本題は俺に噛みついて満足したのかどや顔をしているウインディだ。彼女はタイキと同じとまではいかないが結構寂しがりなので構いすぎるくらい構うのがちょうどいい。しょうがないからわしゃわしゃと両手で頭をかき混ぜてやる。
「わわわっ!店長くすぐったいのだ!やめるのだ~~!」
「なんだそういって抱き着いてきて。もっとやってほしいのか?ほれほれ」
「むむむっ!これはテイコーなのだ!じゃちぼーぎゃく?の店長にテイコーしてるのだ!」
「そりゃずいぶん可愛らしい抵抗だな」
嬉しそうに尻尾を振るウインディに構いながらほかのウマ娘の相手をしているとドアが開いた。背中によじ登りだしたウインディを背負いなおしてそちらに向くと・・・いつぞやの一件からすっかり俺の店の常連になったウマ娘のキタサンブラックとサトノダイヤモンドの仲良しコンビだ。
「お、キタにダイヤか。先週ぶりだな~元気にしてたか?悪いがマックイーンにテイオーは朝のうちにきて帰ったぞ。何飲む?」
「こんにちはマスターさん!じゃあ私は・・・はちみー!テイオーさんが飲んでるので!」
「もう、キタちゃん。今日はマスターさんにお願いしに来たんでしょう?私も同じのをお願いします。マックイーンさんが飲んでるやつがいいです」
「お願い?ふむふむ、飲み物用意するからちょっと待ってて。おーいデジタル!いるんだろ?ちょっと来てくれ~」
「はーい!わわわ!小さいウマ娘ちゃん!なんと可愛らしい・・・!はい!アグネスデジタルただいま参上です!」
ぬるりとカウンター裏から現れたアグネスデジタルがキタとダイヤを見てよだれを垂らしかけたが純粋な二人の不思議そうな目を見て思いとどまったらしくきりっとした顔になってこちらに歩いてきた。突然出てきたデジタルに目を白黒させている二人をよそに俺は背中にへばりつくウインディを指してデジタルに頼み込む
「ウインディのやつを引っぺがして持ち帰ってやってくれ。寂しいみたいだから構ってやるといい」
「はい!正直まともでいられる自信はないですがやってみます!ではウインディさん!失礼します・・・ふふふひひひ・・・・」
「ぴゃっ!?なななななんかこわいのだ!?で、デジタル・・・?」
「はい、デジたんです・・・それではいきましょ~~~・・・」
「は~な~す~の~だ~~~~!!!店長がいいのだ~~~~!!!」
「ウインディ、明日構ってやるから今日はデジタルと遊んでてくれ。ちょっと俺はやることができたからな」
「う~~~~~にゃ~~~~~!!!!」
俺の背中から引っぺがされたウインディがいい笑顔のデジタルに抱き上げられてドアの向こうにフェードアウトした。ウインディも構ってもらえることができて満足そうだし明日またかまってやれば大丈夫だろう。ひらひらと手を振って見送った。そして何があったのかを理解してないキタサトコンビに向き直って作ってたはちみーを出してやる。
「ごめん、お待たせ。それで何か話があるのかい?まあ俺にできることなら協力するよ」
「ほんとですか!?」
「キタちゃん、まだ喜ぶのは早いよ~。えっとですねその・・・お願いといいますのは・・・」
「うんうん」
「マスターさん!私たちをここで働かせてほしいんです!」
「お小遣いでも足りないの?」
「キタちゃんキタちゃん、端折りすぎだよ~~。えっとですね、学校で1週間の職場体験っていうのがあるんです。それで、行きたいって職場があるならお話して許可をもらってきなさいって先生が・・・」
「ああそうだった!学校でお話をつけてある職場じゃない場所に行きたいっていうことならって言う話で、マスターさんが許してくれるならお願いしたいんです!」
「ふむふむ、なるほど・・・先生とお話できる?」
「は、はい!先生に今日お願いするって言ったら連絡先を預けてもらったので持ってます!」
「ん、ありがと。俺は受け入れる方向でいくけど、理事長がどういうかだね。多分大丈夫だろうから二人も来るつもりでいてね」
「「やったーーー!!」」
「気が早ーい」
職場体験、職場体験ねえ・・・俺の店が働いてみたい、と思われているのはうれしい限りだけどむしろ俺の店でいいのかという話だ。業態的に俺の店は普通の飲食店じゃないし、熱心なURAアンチの方々からはキャバクラ呼ばわりされるような店だ。子供の教育に悪いもんは一切おいてないが世間がどう見るかは別の話。二人に被害がいかないようにしなければ。
というわけでまずは理事長に電話をする。電話番号を見つけてプッシュ、はいワンコールもせずにつながりました、と
『珍妙!君から私に電話をかけてくるとはな!して、何用だ?大きな問題があるなら私としても放っておくわけにはいかない』
「お疲れ様です理事長。ああいえ、そう大きな問題ではないのですが、今うちの店に来ている小学生のウマ娘二人がいまして・・・その二人が今度ある職場体験で1週間ほどうちで働きたいと言いまして。俺は受け入れるつもりなんですけど一応許可を取っておこうかなと」
『うむ、許可!トレセン学園はウマ娘をサポートする学校なれば、それはたとえ入学前だとしても同じこと!して、その二人のウマ娘の名前は?』
「キタサンブラックとサトノダイヤモンドです。私服でうちの店をやらせるのはあれなんで勝負服のほうは俺のほうで発注します。趣味なんで俺が出しますけどいいですね?」
『否定!その名前は再来年のスカウト予定名簿に載っている名だ!領収書を提出することを義務付ける!きちんと面倒を見たまえ!それと体験期間中はその二人のトレセン学園への自由な出入りを認めることとする!よって案内!どこかで二人をトレセン学園内に連れてくるように!以上!』
「わかりました。それと今日シンコウウインディがこっちに来まして、相当寂しがってたみたいです。ちょっと見てやってください」
『了承!それでは失礼する!』
電話をするついでに業務報告も済ませた俺が電話を切る。勝負服を着るというのはうちの喫茶店の唯一絶対のルールみたいなもんだ。それは例え職場体験の子だろうと同じこと。働く以上はそれに従ってもらう・・・んだけどクソ高い勝負服を体験のためだけに購入させるのは気が引けるので記念ってことで俺が用意しようとしたんだが理事長に機先を制された。まあいいや、次はガッコの先生と
俺はキタから受け取った電話番号を自分のスマートフォンに打ち込んで電話をかける。日曜日であるが出るのだろうか?
『もしもし、こちら中央東小学校の相沢です』
「突然のお電話失礼いたします。私はURA所属、ウマ娘交流喫茶店ホースリンクで店長をしている和田と言います。先ほどキタサンブラックさんとサトノダイヤモンドさんからうちの店で職場体験をしたいという話をいただきましてお電話させてもらいました」
『はい、突然のお願いで申し訳ありません。本来であればウマ娘の子はこちらが選んだ信頼できる場所に職場体験させるのですが、例外としてウマ娘本人の知り合いであればそちらに行くことも可能であるという規定がありまして・・・大変ご迷惑かと思いますがご一考していただけないでしょうか』
「いえいえ、とんでもない。トレセン学園の理事長からも許可が出ました。つきましては詳しい日程のほどを後程詰めさせてもらえると助かるのですが・・・。制服等の準備物はこちらで用意しますので二人には何も持たせずこちらに来させてください。必要なら送り迎えもしますが」
『ありがとうございます!日程の件も了解しました。本日は夜8時までは学校におりますのでいつでもおかけください。明日以降でも大丈夫です』
「ええ、ありがとうございます。それでは、明日にまた連絡を入れさせてもらいます」
電話を切って二人のところまで戻る。そわそわと顔を見合わせたりきょろきょろしてる二人を微笑ましく思いながら二人の前に立ってピースサインをしてやる。それで許可が出たことを悟った二人は息ぴったりに立ち上がってお互いに抱き着きあい喜びを表現している。まあ俺の店に働きに来る程度でこんな喜べるなんて平和でいいなー。
「さて、二人には悪いんだけど今からちょっと時間もらうよー。そろそろ来るはずだから」
「来る・・・ですか?」
「いったい誰が・・・?」
「ちょっとちょっとちょっと!小学生のウマ娘の勝負服ですって!?マスターちゃんそういう仕事をくれるって聞いて飛んできたわ!」
「おっすシゲさん。悪いね急に呼び出して。キタにダイヤ、この人は重松さん、シゲさんって呼んであげてくれ。ウマ娘の勝負服を作る仕事をしてる人だ。うちの店で働くにあたり、二人には勝負服を着てお仕事をしてもらうよ。あ、勝負服はこっちが勝手に用意するからお金はいらないからね。プレゼントさ」
「ハァイ、シゲさんよ。二人ともよろしくねー・・・突然のことで申し訳ないんだけど、あなたたち二人の勝負服を作らせてもらうことになったの。今日は採寸だけさせてもらうけど、大丈夫かしら?」
「私たち二人の・・・」
「勝負服、ですか!?」
突然現れたのは鍛えられた肉体をスーツで覆い隠したナイスガイ、でも口から出るのは女言葉が特徴のシゲさんこと重松さんだ。彼はライスとウララにプレゼントしたエプロンの作成者でありURAが勝負服を作成するときに依頼する職人の一人でもある。ルナの勝負服を作ったのも彼だ。俺とはまあ、ルナ繋がりだな
「そうよー?聞いてないかしら?このお店って勝負服を着たウマ娘が接客をするっていうコンセプトだから、たとえそれが職場体験でも勝負服は用意するって話よ?だから私が呼ばれたってワケ。じゃあ採寸を始めるわね、服の上からで大丈夫よ。それともしも勝負服のデザインが決まってるなら教えてほしいわ。素敵なのを作ってあげる」
「ホントですか!?じゃあじゃあ!私、ずっと勝負服を作るならこれ!って決めてたものがあるんです!」
「はい!私も、キタちゃんと一緒に絵にかいて考えてたんです!」
「んまっ!デザインが決まってるなら早いわよ!私に教えてくれるかしら!?」
手早く採寸を始めたシゲさんにキタとダイヤが言いつのっているのを横目に俺はシゲさんの分のコーヒーを淹れに厨房に入るのだった。職場体験かあ・・・少し楽しみになってきたな。それにキタとダイヤは明るくていい子だ。問題なんて起こるはずないだろうし、さっそく予定表を書き換える準備をしなくちゃな。さ、忙しくなるぞー!
20話を超えてやっと主人公の名字が判明する小説があるらしい。
今話はどうしてもロリキタサトコンビに勝負服を着せたかった作者の暴走が招いた結果です。反省も後悔もしていません。でもさあ・・・キタサトコンビに限らず勝負服を着たウマ娘の幼い姿ってみてみたくない?作者は見たい(鋼の意思