喫茶店・ホースリンクへようこそ!   作:アヴァターラ

28 / 40
 未完(投稿しないとは言ってない)

 お恥ずかしながら戻って参りましたがまだ状況が芳しくないので次が何時になるかは未定です。お許しください。


 メイショウドトウは引けませんでした。やばたにえん。


バスケット入りマカロン

 チャリンチャリン、とドアにつけたベルが御客の来店を知らせた。当然、俺は料理中なので挨拶をしないといけないわけだが厨房から目を離すのは若干厳しい。火使ってるし、危ないし。店が燃えたら困るし。目を離したすきにたまに侵入してるゴルシに小細工されたら余計困るし。デジタルとかもそうなんだけどどっから侵入してるんだろ。俺の知らない抜け道でもあんの?ここ俺の店なのに怖すぎるんですけど。まあいいや、なので今日の担当のウマ娘が向かうわけなんですけど・・・ 

 

 「いらっしゃいま・・・はわ~~~~っ!?」

 

 「ア゛ーーーーーッ!私の水晶玉がーーーーっ!?」

 

 「すみませんすみませんすみません~~~!!!」

 

 とてもこう・・・任せておけるという感じではなさそうなんですが、それは。ことは開店前までさかのぼる。

 

 

 俺は今日も今日とて仕込みに精を出していた。今日のメニューはトマトクリームのグラタンパスタ!たっぷりかかったチーズとトマトの酸味、クリームのまろやかさのバランスに気を使った一品だ。作るのもそんなに手間かからないし美味しいし言うことなしじゃないかな!さてさて今日の担当は・・・あっ、この子とこの子か。もう一人はともかく一人まともにこの店にたどり着けるかどうかも怪しいんだけど大丈夫かなあ。

 

 「おはようございます~~~っ!今日の私は絶好調ですよっ!なんとなんと別々のおみくじで3つも大吉が出たのですから!ふっふーん!!私にお任せくださいっ!」

 

 「お、フク。今日はご機嫌だな。この前は凶が出たんですーってどんよりしてたのに」

 

 「あの時はあの時、今日は今日なのです!大吉の私にスキはなし!さあ今日も頑張りましょう!」

 

 「はいはい。じゃ、掃除したら着替えてきてくれ」

 

 最初にやってきたのは片耳だけカバーを付けた鹿毛のウマ娘、全身開運グッズを身にまとうスピリチュアルなものが大好きなマチカネフクキタルだ。俺の店で働くたび開運グッズを置いてくので少々置き場所に困っているのだがまあ悪い子ではない。ちなみにこの子は心配しているほうじゃない。テーブルの一つを勝手に使って占い用スペースを作っているフクを見ながら仕込みを進めていく・・・んだけどもう一人のほうが心配になってきた。というかそろそろ遅刻だし、大丈夫かなあ・・・?仕込み終わったし探しに行こうかなあ、とドアの前に立とうしたところで勢いよくドアが開いて危うくぶつかるところだった。危なっ!

 

 「はわ、はわわ・・・遅刻しちゃいますぅ~~っ!あっ!?」

 

 「おっと、ドトウ。探しに行くところだったんだ。ちゃんと着けたようでよかった」

 

 「マ、マスターさんっ?あわわわ・・・すみませんすみませんっ!また受け止めてもらって~~~!」

 

 「はっはっは。もう毎回の事だから慣れたよ。ドトウが無事でよかった」

 

 もう一人、俺が心配してたのはこっちの方。鹿毛に白い流星、?マークのようなアホ毛、カチューシャでまとめたふんわりとした髪、垂れ気味な耳のウマ娘、メイショウドトウである。この子はもう、そそっかしいというかドジというか運に恵まれないというか・・・いろいろと大変なウマ娘なのだ。毎回毎回店の入り口の段差でこけて俺が受け止めるのが一連の流れみたいになってる。いやほんと、ドジなんだよねこの子、そのせいで性格もだいぶネガティブ方面にいっちゃってるし。この前ライスと話しているのを見たんだけどお互い無限に謝ってて話が進んでなかったし。

 

 あのエキシビジョンマッチにでたテイエムオペラオーが「終生の自分のライバル」と公言して憚らないぐらい実力はあるんだけどなあ。堂々としてられない性格、引っ込み思案が合わさってなんとも小動物にしか見えない。ちなみにドトウとフクのつながりは同じトレーナーが担当しているということ。二人とも仲良しでよく占いの出店を一緒にやってる。ちょっと強引なフクが連れまわすくらいがネガティブスパイラルに陥りがちなドトウを救っているんだと思う。俺は両手でドトウの脇を持ち上げてきちんと立たす。一人で立たせると後ろにすっころぶからなこいつ。きちんと立たせるまでがアフターケアです。まだ謝り続けてぐるぐるお目目だし。いつものことか。

 

 「フクー、相棒が来たからお世話してやれー」

 

 「待ってました!ドトウさん!今日のあなたは大吉です!ですから張り切って参りましょう!なんせこのトリプル大吉の私と一緒なのですから!というわけでまずこの大きなダルマを背負って・・・」

 

 「普通にやれ普通に」

 

 「い、いえ!折角フクキタルさんが用意してくれたんですから・・・こうやって・・・はわっ!?」

 

 どんがらがっしゃーん

 

 「ア゛ーーーーーッ!私のシラオキさまフィギュア(ゴルシ製)がーーーーっ!?」

 

 「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい~~~っ!」

 

 「大丈夫かなあ・・・」

 

 

 

 とまあこんな感じでやることなすことほとんどドジに変わるドジっ娘ウマ娘、メイショウドトウと占い大好きシラオキ教、マチカネフクキタルを迎えて一日の営業を始めたわけであるが・・・ドトウはドジさえしなければ超優秀で気配りもできて、子供にも優しいいいウマ娘なんだけど・・・ドジがすべて帳消しにしてる不憫な子だ。例えば今日のお客様第一号を迎える時・・・

 

 「ごめんくださ~い。おっ!マチカネフクキタルにメイショウドトウだ!流石本物は違うな~っ!店長さん初めまして!いつも動画見てます!」

 

 「いらっしゃいませ!占いか注文か選んでください!占うのでしたらこちらの席へどうぞ!」

 

 「じゃあ先に注文しようかな。占いはご飯の後でお願いします」

 

 「じゃあ、こちらの席にどうぞ~。こちら、お水で・・・ひゃわっ!?」

 

 ばしゃあ

 

 「あわわわっ・・・すいませんすみませんすみませんすみません~~~!!!」

 

 「いえいえ、大丈夫ですよ。大変ですね」

 

 というやり取りがあった。水をぶっかけてしまったお客さんはドトウのファンだからかこういうことがよくあるというのを知識として知っていたらしい。そしてそれを笑顔で許してくれるおおらかな人であった。申し訳立たなかったのでドリンクを無料にしたけど。でもこう、ドトウのドジの被害を受けて喜んでるお客さんが多いのは何なんだろうか。もしかしてそっちの趣味がおありですか?それともドトウが一生懸命なのを分かっているから?というかドトウはいったん落ち着きなさい。頑張れば頑張るほど絡まるぞ。

 

 「おーい、ドトウ。ちょいこっち」

 

 「は、はいっ!今行きます~~~~っ!」

 

 とりあえず落ち着かせないと始まらないので厨房の方にドトウを呼ぶ。ドトウは怒られるとでも思っているのかびくびくとしながら俺の方に来た。目を伏せてうつむき気味に。耳も頭につくくらいぺったりと寝かせてまるで俺がこれから悪いことをするように感じてしまう。うーん、全く怒ってないんだけどドトウだしなあ・・・自責の念が強すぎるんだよね。確かに原因は彼女の不注意もある、がそこらへんはもう運の問題だ。彼女はできるだけ被害が広がらないように自分で対策してるしこれ以上を期待するのはちょっと違う気がする。

 

 目の前にきたドトウの頭にそっと手を伸ばす。叩かれるとでも思ったのかぎゅっと目をつぶった彼女の頭を2,3度ぐしゃぐしゃと撫でる。痛みが来ないことを不思議に思ったのかドトウが大きな瞳を開けてこちらを見た。

 

 「ドトウ、大丈夫か?別に怒ってないからな。なんて言えばいいんだろうなー・・・うん、これだわ。一回、頑張るのをやめてみ?」

 

 「えっ?でもでも、マスターさんのお料理投げちゃったり、お客さんにお水かけちゃったり、フクキタルさんのお人形壊しちゃったり・・・頑張らないと申し訳が~~・・」

 

 「いいからいいから。この店ってお前らウマ娘とファンの交流の場なんだから。ファンが楽しんでるのが一番なんだけど、お前も楽しんでないとだめなの。気を張ってたら楽しくないでしょ?疲れるしさ」

 

 「でででも・・・お仕事ですし・・・」

 

 「何だったらサボってもいいぜ?セイのやつみたいにさ。例えばフクのやつ、今あれ。完全に遊んでるじゃんか」

 

 「よくないですよぉ~~っ!・・・ふぇ?フクキタルさん・・・?」

 

 「ん、あれさ」

 

 俺が指し示す先、そこにはフクのやつが今いるお客さん全員を巻き込んでタロットカードによる占いに興じているところだった。フクが一枚カードをめくるたびにそれぞれ一喜一憂して大盛り上がりしている。俺の店って仕事自体は俺一人でも回るんだよね。客数少ないしメニューの幅もないからさ。でも、あの光景・・・ファンとウマ娘が同じ目線で笑い合っているあの光景。理事長が作りたがっていて、俺の店ならできると任せてもらっている、ルナの夢の一つの形。あれは俺じゃ作れない。場所を提供できてもウマ娘もファンも、楽しんでなきゃあの光景は作れない。だから、ドトウも楽しくないといけないんだ。

 

 「・・・いいな・・・」

 

 「じゃ、混ざってくればいい」

 

 「え、でもでも・・・私じゃ・・・」

 

 「でもほら、呼んでるぞ?」

 

 「あ・・・フクキタルさん・・・」

 

 フクキタルがドトウがこっちを見てるのに気づいて笑顔で手招きしてる。ドトウが嬉しそうに顔を綻ばせて、ふにゃりと笑った。そうそう、楽しんでこいよ。というわけでちょっとした手慰みに作っていたマカロンをバスケットに入れてドトウに手渡し、背をトン、と押して促してやる。ドトウは頷いて、レースの時のようなしっかりとした足取りでその輪に向かって歩いていくのだった。

 

 「あのあの、サービスです~~!」

 

 「来ましたねドトウさん!これでラッキーウマ娘が二人になりました!皆さんにもラッキーをお裾分けしますよ~!というわけでドトウさん、まずはこのカードを1枚、どうぞ!」

 

 「は、はい~。こうですか~?」

 

 「むむっ・・・これは・・・!」

 

 「す、救いはないのですか~?」

 

 「ホイール・オブ・フォーチュン!正位置です!ドトウさんにはこれからいいことがありますよ~っ!」

 

 「救いはあるんですね~っ!?」

 

 その中に混じったドトウの姿は、さっきまで半泣きだったとは思えないほど満面の笑顔で、輝いていた。ホイール・オブ・フォーチュン、競争における一番の暗喩。ウマ娘にとってこれほどラッキーなタロットというのもなかなかないだろうな。きっと、いいことがあるのだろう。

 

 

 と、いうことがあった。あのあといい具合に力が抜けたのかフクキタルの水晶を割ってしまった+(シラオキ様フィギュア)以外は特にドジをすることなくドトウは営業を終えることができた。フクキタルは特にドトウを怒ることなく、ラッキーアイテムが砕けたということは不運を全部肩代わりしてくれたのです!つまりこれからはいいことしかありません!ととてもとてもポジティブシンキングをしていた。途中、SNSに乗せる宣伝用の写真、勝負服のドトウとフクキタルがお互いマカロンを咥えて頬を寄せ合ってる写真を撮ってのっけたのだけどこれが結構反応がいい。というか今日のデザートは最近流行りのマリトッツォだったはずなのに気づけばマカロンみたいじゃん。くそぅ、マカロン作りやすいから数だけはあるもん、サービスで全員につけちゃう!

 

 

 まあ、そんなわけでまいど恒例賄いの時間である。すでに制服に着替えた二人が美味しそうにグラタンパスタを冷ましながらふぅふぅと食べているのを皿洗い機と化した俺が見守る何時もの感じ。隣でいつの間にか手伝ってくれているデジタルの口に余ったマリトッツォを突っ込みながら作業を進める。ドトウのいつも横に垂れている耳が今は上向きになっているのでまあ口に合ったのだろう。お、そういえば・・・

 

 「そういやドトウ、お前今度のレースオペラオーと勝負するって?」

 

 「ふぇっ?マスターさんどうしてそれを・・・?」

 

 「いや、この前オペラオーが来たとき声高々に宣伝してたし。ライバルなんだろ?」

 

 「ララライバルなんてそんな恐れ多いですぅ・・・でもオペラオーさんが・・・」

 

 「そんだけ認めてるってことなんだろ。よかったな、ドトウ。デジタル、うまいか?」

 

 「はいっ!いろんな意味でとっても美味しいです!」

 

 「オペラオーさんが・・・頑張らないと・・・!」

 

 「おーい、ドトウ、フクキタルー迎えに来たぞー」

 

 「トレーナーさーん!」

 

 「あ、トレーナーさん・・・あわわっ!?」

 

 「おわっ」

 

 びりびり、ばり、と迎えに来た2人のトレーナーに駆け寄ろうとしたドトウが予定調和のようにトレーナーを巻き込んですっころび、トレーナーの服のファスナーは爆発、ボタンは飛び散り袖は引きちぎれた。なるほど、いやそうはならんやろ。なっとるんだけどさ。トレーナーのほうは予想してるのか準備がいいのか替えの服を取り出して手早く着替えている。

 

 「ごめんなさいっごめんなさいっ!私またトレーナーさんに迷惑を~~~・・・」

 

 「ん?ウマ娘に迷惑をかけられるのがトレーナーの仕事だろ?なんてことないさ」

 

 「いらっしゃい。飯余ってるし食ってくか?」

 

 「お、いいの?やったね~。ありがたくいただきます」

 

 「ほいほい、デジタルお前も食ってけ。フク、捕獲たのんだ」

 

 「福が来るキャーッチ!!」

 

 「ひょえ~~~っ!でも幸せ・・・・」

 

 トレーナーを挟んで談笑しつつご飯を食べるフクとドトウ、そしてその隣で必死に命をつなぐデジタル。仲良きことは美しきかなってやつ?ま、これはこれで、いいのかね。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。