喫茶店・ホースリンクへようこそ!   作:アヴァターラ

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トレセン学園、インTV!トレーニング編

 ゼンノロブロイのインタビューが終わり、彼女と別れてトレセン学園の中を取材陣を先導しつつ歩く俺。今から行くのは高等部・・・ではなく、トレーニングルームだ。高等部のウマ娘たちは場合によっちゃ受験を控えている子もいるので今回の取材ルートからは外れているのである。もちろんレースの道に残る子はいるし、トレーナーになりたいとトレーナー見習いになるウマ娘はトレセン学園に卒業後就職という形になる。が、そんなウマ娘はまれなのでだいたいどっかの企業所属になって現役を続けるウマ娘のほうが多いんだけど。

 

 といってもそんな日の当たるウマ娘はほんの一握り、ほとんどは進学か就職だ。幸い中央のトレセン学園を退学することなく卒業するというのは一定の優秀さを表しているので欲しがる大学や企業のほうが多い。そもそも中央トレセン自体の敷居が高いからだ。大学で新たに別の競技に目覚める子や、遅咲きの大輪を咲かせる子もいる。トレセン学園卒というだけでその後の人生には大きなプラスになるのだ。

 

 すごいよねトレセン学園。そりゃ親たちが血眼で我が子を入れようとするのがわかるわ。所属していたこと自体がステータスになる学校だなんて漫画かゲームみたいですわ。ちなみに留年する子もいないわけではない、といっても特別措置だけど。例えば高等部3年でデビューしたら?1年しか走れないじゃないか!という風になってしまうのでその場合3年間、つまりトゥインクルシリーズが1周するまでは留年可能だ。全てにおいてレースが優先されるトレセン学園らしいルールだと思う。もしそこで優秀な成績を残せるなら卒業した後にウィンタードリームカップに移ることができる。トレーナーとの契約を維持したまま、進学した別の大学から来てトレセンでトレーニングすることもできる。まあ俺が所属してからそのルールを使用したやつは見たことないけどな。

 

 「この時間はお昼とのことですがトレセン学園は学食形式と聞いています。これだけのウマ娘が押し寄せる食堂、いったいどんな感じなんですか?」

 

 「正確にはカフェテリアなんです。料理もビュッフェスタイルで好きなものを好きなだけ食べることができますよ。といっても偏った食事をする子なんていないですけどね。日々これ精進、体重コントロールから自分の食事管理もトレーニングなんです」

 

 「なるほど・・・なるほど?」

 

 「あの葦毛の怪物(オグリキャップ)は例外です。引退してますからね」

 

 「・・・ん?マスター、どうかしたのか?」

 

 「いや、美味しそうに食べるなとな」

 

 「美味しいから。それに、ご飯をたくさん食べると元気になれるんだ」

 

 食堂を練り歩いて、大きな保温容器に所せましと並べられた種類豊富なおかずの数々、大きな炊飯ジャー、ドリンクサーバーなどを紹介しながら歩を進めていくとやっぱりいたのはさらに天を衝かんばかりに盛られた料理の塔をすごいスピードで崩しているオグリキャップだ。ウマ娘は大食いだけど彼女は輪をかけてどころかほっとけば無限に食べ続けるからな。限界はあるっぽいけど俺が満たしてやれたことはついぞなかった。今もほら、カメラが来たというのにそれを気にすることなく食べてるし、腹は膨れてるし、厨房はてんてこ舞いになっている。

 

 オグリキャップは引退したとはいえそのファン数はハルウララをしのぐ。今のシンデレラがハルウララだとすればその前にガラスの靴を履いていたのはオグリキャップ、彼女だ。地方の弱小だったウマ娘が、トレセン学園の優駿をなぎ倒していくその姿はルナを倒せるんじゃないかという期待もあり、大いにレース界隈を盛り上げた。シニア級での直接対決はレース場の外にまで観客が押し寄せるほどだった。怪物に食い殺されるほど皇帝は弱くなかったが、それでも葦毛の怪物は、レースに欠かせない存在として、伝説を刻んでいる。

 

 「そういえば、その後ろにいる人はなんだ?カメラ・・・?」

 

 「ん、いやいやテレビだよ。少し前連絡あっただろ?」

 

 「・・・そうだっただろうか?」

 

 ちょっと天然なオグリは会話のテンポも独特だ。俺と話しながらも食事の手は止めないしどんどん皿の上の料理が減っていく。まるで吸い込まれていくかのように消えていく料理を見る萩野さんはちょっと目を離したら皿一枚からになってるのを見て見事な2度見をかましている。流石に食事中にインタビューはちょっとという感じで俺は勝手知ったる厨房に入っていき火の車状態の厨房を案内するが邪魔になりそうな部分には立ち入らない…ようにしてたんだけどコック長のおばちゃんに捕まって1時間ほど料理する羽目になった。カメラはなぜか延々と俺を撮るし、俺が調理始めた瞬間客が増えた。なんでや!仕方ないので数だけは作れるお手軽料理を作りまくりました。たづなさん怒ってない?大丈夫?よかった笑顔だ。きちんと目も笑っている。

 

 いろんな意味でクタクタになりながら食堂を脱出した俺と取材陣、なぜかウマ娘と一緒になって俺の飯食って満足そうなたづなさん一行はそろそろ昼休憩も終わり、午後に差し掛かったトレセンの中を歩いていく。午前中は座学だが午後は実技だ。ここでチームやトレーナーがいる、所属しているウマ娘はそれぞれ別行動、いない子は選抜レースに向けて全体練習に励むことになる。というわけでまずは室内の方から行ってみよう。

 

 「ここはトレーニングスタジオですね。いわゆるウイニングライブの曲を練習したりダンスの特訓をしたりする部屋になります。おっやってるやってる。和歌浦、邪魔するぞー・・・ってノロは一緒じゃないのか?せっかくの担当だろうに」

 

 「あ、どうもマスターさん。ゼンノロブロイちゃんは今日はお休みですよ。なのでお願いしてきた子たちにトレーニングをしてます」

 

 「あぁ、それで・・・というかウイニングライブ目的じゃないな?」

 

 「あ~っ!マスターさんひどい!ファル子は逃げ切りシスターズのメジャーデビューに向けて頑張ってるだけなのに!」

 

 「・・・せめて否定してくんない?休みなら文句言わないけど」

 

 「あの、私は走りに行きたいんだけど・・・」

 

 「ダンス精度、78%、歌唱精度89%・・・まだまだトレーニングが足りません。目標精度を95%以上に設定しトレーニングを開始します」

 

 「うーん、今日もチョベリグ!やっぱりみんなでトレーニングするのは楽しいわね~」

 

 「あの、今日はスーパーの特売日だからちょっと早めに終わりたいの。明日ならもっとやれるの!」

 

 「うわ、マルゼンスキーだ・・・!彼女たちって同一のチームではなかったですよね?」

 

 「もっちろん!私たちは逃げウマ娘だけで構成されたアイドルユニットならぬウマドルユニット!その名も・・・せーのっ!」

 

 「「「「「逃げ切りシスターズ!です!」」」」」

 

 「只今絶賛ファンを募集中だよ~!」

 

 「とまあこんな風に趣味に走るウマ娘もいるわけです。まあ同好会みたいな感じですね。いい息抜きになってると思いますよ」

 

 トレセン学園内でひそかに「歌の先生」と呼ばれているトレーナー。ゼンノロブロイ担当の和歌浦にダンス指導と歌唱指導を受けていたのはスマートファルコンを中心にして日夜ゲリラライブ等でじわじわとファンを増やしている非公認アイドルユニット、逃げ切りシスターズの面々だ。面子だけ見れば全員とんでもない選手なのだがアイドル活動をしているのは本邦初公開になるはずだ。放送して大丈夫か?

 

 「あっ、そうです。せっかくなので一曲聞いて行かれたらどうですか?観客がいたほうがトレーニングになりますし、ファル子ちゃん、どう?」

 

 「やるよ!見てもらえるんならいくらでも!私たちの大いなる一歩だよ!」

 

 「ん、じゃあやってみようか。位置について」

 

 和歌浦がパンパン、と合図を出して全員が位置につく。萩野さんも俺も一歩下がって、逆にカメラさんがサブカメラまで準備して撮影を始めた。センターはファル子、彼女の合図で曲が始まり、ステップ、歌唱に続いていく。完成度でいうならばウィニングライブとそう変わらなく見えるがブルボンの評価が正当だとするのならばまだ上があるということ。これからが楽しみなライブだった。

 

 「逃げ切りっ!Failin`Loveでしたっ!逃げ切りシスターズを・・・」

 

 「「「「「よろしくお願いしまーす!!!」」」」」

 

 笑顔でそう言った彼女たちに見送られて俺たちは撤収、たづなさん止めなかったしこれオンエアされるんだろうなあ。カメラさんが5つのカメラを同時に回して隅々まで取ってたし音響さんも撮り方がガチだったし。まあファル子からすればウマドルの夢に一歩近づいたという感じだろうけど。突っ込みのスズカがまた大変になりそうだ。と考えながら案内したのは筋トレ用のトレーニングルーム、近代的な筋トレ設備が居並ぶ中見覚えのある姿が・・・あのちっこいのは・・・どう見てもライスだ。ウララと蹄鉄はどこだろうか?取材陣もライスに気づいたらしく俺たちはライスに声をかけるために近づいていくと彼女は俺を見つけるとパァッと顔を輝かせてこっちにとてとてと走り寄ってきた。

 

 「ライス、邪魔して悪いな。蹄鉄はどうした?」

 

 「おじ様!学園の方に来るなんて珍しいね?お兄様はウララちゃんと高知でお仕事してるの。ライスはお兄様が作ってくれた自主トレをしようかなって。もしかしてこの人たちがテレビの?えっと、ライスシャワーです」

 

 「こんにちは。萩野といいます。ライスシャワーさん、トレーニングということですが走るのではないのですね?」

 

 「うん。ずっと走ってるわけじゃないんだよ?加速するための足の筋肉や腕の振りのためにパワーをつけるのが必要なの。ライスはステイヤーだけど、スタミナだけで勝てるほどレースは甘くないんだから」

 

 「なるほど、確かにその通りです。ライスさんは今から何を?」

 

 「えっと、バーベルスクワット、です。重さは・・・このくらい?」

 

 「・・・本当にですか?」

 

 「うん、これじゃちょっと軽いかも」

 

 そういってライスが指差したバーベルには50kgのおもりが3つ両方についている総計300kgのバーベルだ。ウマ娘のパワーからしたらほんとに軽いんだけどな。なんせ、車を何の器具もなしに持ち上げられる種族だから、トレーニングの負荷もこの程度ないとだめなんだろう。

 

 「軽いってこれで・・・ですか。やはりウマ娘は別格ですね。世界記録レベルなんですけど」

 

 「人間の、ですけどね。多分後で見れますけどもっとすごいのもありますよ。さ、グラウンドに行きましょう。そこが本命ですからね。ライス、またウララと一緒においで」

 

 「うん、ありがとうおじ様。ライス、頑張るよ!」

 

 ふんす、と気合を入れて軽々とバーベルを持ち上げてゆっくりとスクワットを開始したライスを驚愕の目で見る萩野さん。さっき窓からちらっと見たけどグラウンドじゃもっとすごいことやってるぞ?さて、お待ちかねのチームスピカのほうまで行こう。

 

 

 

 「いや・・・あれ、なんですか?」

 

 「沖野トレーナー曰く、「根性を磨くため」のきっついトレーニングだそうです」

 

 「スぺー!もっと気合いれろー!まだまだいけるぞー!」

 

 「はいいいいっ!ふぬぬぬぬ・・・!」

 

 「スぺ先輩ー!あと1周!おもり追加ですよー!」

 

 「ふええええっ!?」

 

 グラウンドに出た俺たちが目撃したのは部屋一つ分はありそうな巨大なタイヤを体に結んだ縄で引っ張るスぺとタイヤの上に乗って檄を飛ばす沖野とスピカの面々、確かあのタイヤは重機のタイヤで一つ5トンはあるんだっけ。普通の一般ウマ娘じゃまず無理だけど鍛え上げればできるという証左だな。根性も鍛えられるがそれ以上に体のいろんな場所にまんべんなく負荷をかけられるトレーニングだ。あっと驚いて言葉を失っている萩野さん一行、ウマ娘のパワーって日常生活で見ることなんてないし当然か。基本的に加減を徹底してる彼女たちが本気を出すのはそれこそレースかトレーニングだから、その一端がこれというわけかな。

 

 「ライスは自主トレですから軽いメニューでしたけど、トレーナーが見てるならもっと負荷の強いこういったトレーニングをこなすこともあります。そうやって、俺たちを熱くしてくれるレースにみんな挑むわけです」

 

 「すごい、ですね。こういったらなんですけど・・・彼女たちって中学生、高校生でしょう?なんで、ここまでできるんでしょうか」

 

 「それは・・・」

 

 「それは、本能だな」

 

 俺が答えようとしたのを遮って口を挟んだのはいつの間にか一周を終えてばてているスぺが引いていたタイヤから降りた沖野だ。荒い息を必死に整えてインターバルの間に少しでもコンディションを整えようとするスぺをサポートするスピカの面々、沖野はそれを目を細めて眺めながら話を続ける。

 

 「ウマ娘ってのは競争心がとにかく強い。誰にも負けたくない、私が一番速いんだって誰もが思ってる。あいつらは一番になりたいのさ。自分の前に誰も走っていてほしくないって常々思ってる。だから、きついトレーニングでもああやって必死にこなそうとする。子供とかそういうんじゃない。生まれながらの競技者、それがウマ娘だ」

 

 沖野はスぺのところまで戻ってしゃがみ込み、スぺの足を触診する。丁寧に、怪我がないか、負荷がかかってないかを真剣なまなざしで。どこまで限界すれすれを突き詰めるかを考えているのだろう。実際に触るのは、まあ悪癖だけど。

 

 「こいつらの足はそのままでも十分に速い・・・が、一番になるにはそれだけじゃだめだ。才能だけで何とかなるほどレースは甘くない。トレーナーは、こいつらの才能を磨きに磨いて、光らせる。どれだけ光っているかは・・・レースの結果だけどな。スぺ、痛いところは?」

 

 「ない・・・ですけど」

 

 「ですけど?」

 

 「いつまで触ってるんですか?」

 

 話している間ずっとさわさわ、なでなで、すべすべとスぺの足を撫でまわすようにねっとり触っていた沖野、さすがに限界が来たのか目が冷たくなるスぺそして、周りにいるのは目を吊り上がらせるスピカの面々。そして・・・

 

 「オラァッ!!何いいこと言った風になってエロい触り方してんだ!アタシとは遊びか!?」

 

 「ゴファッ!?ゴ、ゴルシ!?何言ってんだテレビの前で!つーかそんな触り方してねえ!」

 

 どこからか現れ見事なドロップキックを沖野に叩き込んだゴルシ。あーやっぱこう、年ごろからしたらいかにトレーニングのためとはいえ足をいつまでも不審な手つきで撫でまわされたら言いたいことの一つや二つ出るもんだよな。こいつこれさえなければトレーナーとしてどこに出しても恥ずかしくないのに・・・スぺをスカウトしたときから全く変わってないやんけ。

 

 「トレーナー・・・」

 

 「最っ低ですわ・・・」

 

 「あー、擁護出来ねえな」

 

 「くっついて多少は変わるかと思ったけど結局触ってくるのは変わらなかったわね」

 

 「ああん?」

 

 ぼそっとスカーレットが漏らした言葉にゴルシの瞳が吊り上がった。もともとの悪癖に加えて、恋人のハズの自分以外の足を撫でまわしたことによりワンアウト、俺の店によくおハナさんと来ることでツーアウトがかかっていたわけだがスカーレットの言葉により被害者が他にもいるということで3アウトと相成りめでたく遂にゴルシの堪忍袋の緒が切れたようだ。いろいろぶっ飛んでいるゴルシであるが、仲間を非常に大切にするタイプなので、いかに自分の恋人とも言えどセクハラスレスレの行為を友達にすればそりゃ怒るよ。いくらトレーナーつっても相手10代の女の子だし、場合によっちゃ痴漢だよ。

 

 「うわーーーっ助けてくれーーー!」

 

 「うっせえ!一回アタシと山籠もりして性根を叩きなおしに行くぞ!待てーっ!」

 

 「ねえ、あれって・・・」

 

 「ええ、そういう理由付けして二人きりになりたいだけですわ・・・」

 

 「ごめんなさい、遅れました・・・あら?スぺちゃん、これって・・・?」

 

 「えっと・・・よくわかんない、です」

 

 結局グダグダになってしまったのであるが問題なのはそこで何やら難しそうな顔をしている取材陣御一行である。前半は非常にトレーナーとして含蓄のある言葉を履いていたやつが今は担当に、いや恋人に追い回されているわけであるからな。そして忘れていたわけであるが、今日ついてきてるのは俺だけじゃない。俺は横目でいや、顔ごとしっかりと今日の監督役であるたづなさんの方を見る。

 

 彼女はにっこりとした笑みを崩さず、俺と目が合うと、顔の前にピースをしてちょきちょき、と開いて閉じてを繰り返した・・・全カットですか、そうですか・・・ごめんなスピカ、折角取材されるチャンスだったのに。しょうがない、リギルのほうに行くか。多分・・・大丈夫だよね?

 

 

 結局、トレーニングの映像は一部スピカを使うことになったが大部分がリギルのトレーニングに差し替えられ、そこにカノープスなどのトレーニングと比較するという形に落ち着いた。まあ、初のテレビ取材にしては悪くないんじゃないか?あとは作成される番組次第ってことで。




 皆さん鋭いですね。ゼンノロブロイ担当は和歌浦トレーナーことトレトレーナーなわけです。番外編のサブキャラを本編に出したような不思議な感覚です。

 最後だけ見ると沖野さん踏んだり蹴ったりですけどあの悪癖は相当のことしないと治らなさそうな気がします。ゴルシちゃんから目を離すからやぞ。1秒後には何が起こるかわからんって言ってるし。

 次回は掲示板で行きたいなあ。どっち先に書こうかな

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