喫茶店・ホースリンクへようこそ! 作:アヴァターラ
つまり、日常の中でサラッとレース結果を言う感じになるかと。レース描写は私には難しいことをこの前の話で痛感したのでお許しください。
あっという間に皐月賞、桜花賞が終わってしまい、メイクデビューもひと段落ついてしまった。今回のクラシック注目ウマ娘はテイエムオペラオー、メイショウドトウ、ウオッカ、ダイワスカーレットが特に注目されている。が、例年と違ってデビュー戦にもなかなかの注目が集まった。
ファンの大多数、90%以上はウマ娘のみのファンになるのだが実績のあるトレーナー、例えば蹄鉄、長老さん、沖野、おハナさんなどの一部のトレーナーに限って言えばその人個人にファンがつくことも実は珍しくない。で、その中でも蹄鉄は別の意味で、長老さんはその圧倒的な経験年数のおかげでファン数が多い傾向にある。
その二人、しかも長老さんに至っては引退宣言を翻して新しいウマ娘を担当したのだから当然そのウマ娘が気になるのはファン心理として当たり前なのかもしれない。キングヘイロー、ブチコ、ゼンノロブロイ・・・3人ともデビューの日取りはおそらく意図してかち合わせなかったようだが、それぞれ1着を取って順調な滑り出しをしながらトレーニングに励んでいるようだ。
ほんで今日、というか今月はデビュー済みのウマ娘・・・つまりジュニア級の子しか出勤していない。新しくついた最初のファンたちと交流してみよう月間である。1週間前のゼンノロブロイ、3日前のキングヘイローに続いて今日はブチコがやってくる日なのだ。当然というか何というかファン数が少ないので競争率は低かった・・・なんてこともなく。なんと平常時とほとんど変わらなかったらしい。これには正直びっくりしたんだけどな
ほんで今日、本来だったらブチコと一緒にライスやウララも一緒に来ていろいろ手取り足取り仕事を教えてもらう恒例行事があるのだけど。例えばゼンノロブロイならライスが来て、キングヘイローならルナが来て仕事を教える・・・はずだったんだけど!昨日になって蹄鉄から「わりい、急に仕事入って2人連れて行かんといけないんだけど大丈夫か?」と連絡があったのだ。なぜ急に言った!1週間前ならともかく昨日今日ではキャンセル効かんぞ!と怒った俺である。でも蹄鉄に怒るのは全くのお門違いで、実態はURA上層部から幾人かのトレーナーとウマ娘を指名した興行レースが急に決まったという話だった。当然人気ウマ娘には真っ先に指名が入る、つまりそういうこと。
振り下ろしたい拳の行き所を見失った俺はしょうがないと蹄鉄を許しつつ、秘密のルートで手に入れたドラゴンブレスチリを使ったカレーをガスマスクをつけながら作成し今日迎えに来た蹄鉄のあの被り物の中に流し込んでやると心に誓っているのだ。俺のストレスを受け入れてくれ蹄鉄、ありがとう。
で、今日はあのちっこいブチコのみで店を回すことになるんだけど・・・大丈夫か?というか昨日電話で蹄鉄が「気を付けろよ・・・ダメにされるぞ。俺はもうダメにされた」と可愛らしい手作り弁当を食べながら教えてくれた。ちなみにライスとウララはすでに堕ちているとのこと。つまりどういうこっちゃ?というか蹄鉄のやついつもコンビニ弁当だったはずなのに手作り弁当とは・・・いい人でもできたのかね?
と、くぁとあくびしつつ寝起きの頭をぼさぼさかいてとりあえず顔洗って歯磨きして身支度をして階段を下りて店に向かうとなんともいい香りがする。俺の作った床下冷蔵庫にしまってある罰ゲーム用カレーの刺激臭とは似ても似つかない出汁と味噌のいい香りだ。先に誰かいるのかと思って厨房に顔を出すと。
「ふっふーん~♪あ、店長さんおはようッス!厨房借りてるッス!」
「ああ、ブチコか・・・えっ!?」
「なんかおかしかったッスか?」
「いやその・・・ずいぶん立派に料理してるなと思ってさ」
そう、厨房に立っていた、というか木製の箱を台にして味噌汁の小鍋をかき混ぜていたのはなんとブチコだったのだ。というか今開店の4時間前だぞ?早くないか?1時間前に来ればいいって言ってるのに・・・と調理台を見るとそこにはネギが混ぜられた出汁巻き卵、ホッケ塩焼き、キュウリの浅漬け、出汁ガラを利用したおかかふりかけがかかったほかほかのごはんがすでにスタンバイしていた。結構料理をしてきたから目が肥えていると自負しているのだけど、一目で美味しそうだとわかる。これが13歳が作った料理か・・・?家庭的が過ぎるんだけども。
「ああ、家で料理するのは私だったッスからね。お父さんもお母さんも私をトレセンに入れるために頑張ってお仕事してるから、私も何かしたかったんス」
「なるほどな・・・しかしまあ、うまそうだな」
「およ?プロの料理人からそういわれるなんて私も捨てたもんじゃないッスね!よし、できたんで食べるッス!」
お椀にあおさと豆腐の味噌汁をよそったブチコがぴょんと俺の近くまできてにっこりと笑って促してくるので俺もありがたくご相伴に預かることにする。というか食材見て思い出したけどこれ全部消費期限が近づいてたやつじゃないか?なるほど?ダメにされるってそういうことか?蹄鉄の弁当もブチコだな?
ひっさしぶりに人が作った朝食を食うなあ。俺の店の厨房と食材は私用の冷蔵庫の中にあれば自由にしていいというルールにしているのでいくらでも料理してもらっても構わないがそもそも学生の彼女らは料理をしないことが多いわけである。というかそんなことする暇あるならトレーニングしたい!走りたい!という感じだろう。もちろん料理上手な子もいるがわざわざ俺の店まで来て料理する子は多くないし。
「いただきます」
「いただきますっスー」
ぱちんと小さな手を合わせたブチコにならって俺も手を合わせて漬物をぽりっとかじる。うまい、塩気も、漬け汁もカツオ出汁がほんのり聞いてご飯と合う。味噌汁も同様、ホッケの塩焼きは骨を丁寧に抜いてあって非常に食べやすかった。俺の味付けとはまた別の料理だが、普通にうまい。ぶっちゃけトレセンの生徒じゃなかったらスカウトして固定従業員にしたいレベルだ。
「美味しいッス?」
「すごいうまいな。ビックリしたよ。さてブチコ、蹄鉄になんか言われたことあるか?」
「んーと、「折角なのであいつより早く行って朝飯の一つでも作ってやれ。店長、俺がいるところまで堕ちて来い」だったッスかね?何のことかわかんないッスけど」
「なるほどな。それは全くどうでもいい言葉だから早く忘れるんだぞ。俺は蹄鉄に話があるから少し失礼するな。美味しかったよ、ありがとう」
「あ、洗い物は私がするのでそのままでお願いするッス!トレーナーによろしくッス!」
「わかった。ごめんな朝から」
「楽しみだったのでむしろ良かったッス!」
うまい朝食をありがたくいただいた俺は洗い物もするというのでありがたく任し・・・これ完全にダメ亭主ムーヴだこれ。蹄鉄に電話をかけることにする。普通に電話に出たなこいつ
「蹄鉄・・・『おう、おはよう店長。ブチのやつすげーだろ?』ああ、ビックリした。今日迎えに来るとき楽しみにしてろ?お礼にカレーを振舞ってやる『またかよ!?この前ので・・あっおい!』よし、満足した」
すまん蹄鉄。俺とお前のいたずら合戦は今回も俺の勝ちということで終わらせてもらうことにする。しかしまあ、ブチコがこんなに料理上手なのは想定外だった。台が必要なのは身長の関係上しょうがないにしても手際自体は素晴らしい。そして今見えるが何してても楽しそうに見えるのは簡単なようで難しい。ウララがそのタイプなんだけどそういうウマ娘はファンが多くなりやすいんだ。今日もブチコ目当ての客ばっかのはずだしデビューから追うなんてファンの中でも両肩まで沼にどっぷりつかった人種のはず。ちょっと冒険させても大丈夫かな?俺は鼻歌を歌いながら洗い物をふきんで拭いているブチコに声をかける。
「おーい、ブチコ」
「はいッス~」
「唐突なんだけど、今日出す料理一品作ってみないか?クッキーとかそういうので」
「いいんスか!?やったッス!ああ、何作ろうかな~?献立ってどうなってるッス?」
「今日は自家製ベーコンとスモークサーモンのカルボナーラだな」
「ふむふむ、イタリアン・・・じゃあ、プリン作るッス!いや、パンナコッタがいいッスかね?店長さんどう思うッス?」
「ああ、いいんじゃないか?じゃあ生クリームと牛乳、バニラビーンズかな?ゼラチンはこっちにあるから・・・で、容器はこれにしようかね。これなら1時間くらいで固まるから。今日は30人来るけど大丈夫?」
「むっふ~!私はウマ娘ッス!体力なら人間よりもたくさんあるッス!心配無用!あ、冷蔵庫のイチゴも使っても大丈夫ッス?」
「いいよ。でも私用のじゃなくてこっちの仕事用冷蔵庫の中のから使ってな?じゃ、俺も仕込みに入るから。そっちの調理台とコンロ使っていいぞー」
「はいッス~」
ここまで接していて分かったが、ブチコはかなり人懐こい性格をしているらしい。まだ数回しかあってない俺にここまで楽しそうに話したり無警戒に近づいてくるくらいには。俺も別になんかするつもりはないからいいんだけどさ。というわけでさっそく俺も仕込みに入る。今日のために作ったベーコンとスモークサーモンを取り出し、ベーコンは永細い角切りに、スモークサーモンは加熱用とトッピングでまた別の切り方で切って冷蔵庫の中へ。あとは昨日仕込んでおいたカルボナーラソースを確認して終わり。うん、作業が少ない!
というわけでブチコのほうを見るとすでにパンナコッタの液を火にかけ、イチゴを角切りにしているところだった。終わった俺も合流して協力してイチゴを切り終えブチコがそれを鍋に入れてブルーベリー、ラズベリー、砂糖を入れて煮立たせている。ベリーソースか、鉄板だな。その間に加熱が終わったパンナコッタ液を氷水で冷やして粗熱を取りそれぞれの容器の中に均等に注いでいった。うーん、すごいな。身長は全然違うがクリークとかネイチャと同じかそれ以上に手際がいい。慣れてる証拠だ。ラップをかけてスイーツ用の冷蔵庫の中へいれて終了。ベリーソースもいい具合だ。
「ん、オッケーッス!どうッスか店長さん、お店に出せるッス?」
「ああ、液を味見した感じだと大丈夫だよ。ソースも言うことなしだ。凄いな、ブチコ」
「えへへ~」
こっちに確認を求めて台に立ってなお俺より目線が低いブチコが見上げてくるので褒めて頭を撫でておく。そうしてると開店までもう少しの時間となった。ブチコが着替えている間に俺はさささっと掃除を済ませてパスタボイラーの電源をつけてソースを鍋に移してコンロの上に置いておく。
「お待たせッス~。んー、この衣装も好きッスけどやっぱり自分のがほしいッスね~」
「そりゃG1に出るまで我慢だな。あと一勝して朝日杯フューチュリティステークスに出るんだろ?次のレースはどうするんだ?」
「むー?、トレーナーさんが言うにはサウジアラビアロイヤルカップかプラナタス賞に出るって言ってたッス」
「デビュー戦はダートだったからなあ。その勝負服もよく似合ってるよ」
「私も好きッスけど・・・青が多くて私の髪色と合わないッス」
「でも今は衣装統一のために白の勝負服はないからなあ。ま、それで我慢しな」
今ブチコが着てるのは学園が新たに作った青と金と白を基調にしたウイニングライブ用の勝負服、そのミニスカート版だ。確かに鹿毛と白のコントラストがあるブチコの髪色にはあってないかもしれないが、それでも大変可愛らしい。というか学園内でもなかなかの高評価のハズの勝負服である。もとからあった白の勝負服は蹄鉄が参加してる興行レースのウイニングライブに全部持ってかれてるのでしょうがない。
「さて、開店だ。今日はよろしくなブチコ。落ち着いてゆっくりやるんだぞ?」
「頑張るッス!」
そうして開店して15分くらいかな?さっそくお客さんが来た。優しそうな女性だ。すぐさまブチコがちょこちょこと走り寄って接客を開始する。
「いらっしゃいませッス!おひとり様ッスね?予約したお名前をお願いするッス~」
「うわっ・・ちっちゃ、かわいい・・・あっごめんなさい!えっと浦川です。ブチコちゃん、デビュー戦すごかったわ!後でサインもらってもいいかしら?」
「サインッス!?なんか恥ずかしいッスね・・・え、とわかったッス!私のでよければ!こちらへどうぞッス!」
うんうん、きちんと問題なく案内をしているな。こりゃあんまり心配いらないかもしれない。俺はブチコが女性の手帳にでかでかと自分の名前を書いてドリンクの注文を受け取ってくるのを見てそう思うのだった。
「店長さん、キャラメルマキアートのアイスと日替わりランチッス~!」
「はいよ。じゃあドリンクな」
俺はそう言ってサクッと作ったドリンクをブチコに渡してブチコはそれをお手拭きと一緒にサーブ。その間に俺はメインのパスタを作ってしまおう。楽しそうに女性と話している(なんか女性のほうは手がうずうずしているが。もしかしてブチコを撫でたいのだろうか?)ブチコが二組目の案内を問題なくするのを確認して厨房に引っ込むのだった。
「君がブチコか~!デビュー戦見てたよ!いや、そんなに小さいのにあんだけ速いなんて大したもんだ!次は何に出るか決まってるのかい?」
「決まってるッス!けどトレーナーに外の人には内緒って言われてるので言えないッス~!」
「あっはっは!そりゃそうか!じゃあ君が出るレースを探しておかないとな!頑張ってね!」
「ありがとうッス~!」
「あっ、デザートとコーヒーお替りお願いしまーす!」
「わかりましたッス!デザートは私が作ったッス!じゃあ、どうぞッス!」
「うわ、おいしそ~。凄いのねブチコちゃん」
「えへへ~」
人懐っこさと誰にも物怖じしないブチコの性格がいい具合に働いてるらしく。初めてにしては全く問題ない働きっぷりだ。ちょこちょこ様子を見るだけでいいだろ。そんな感じで和気あいあいと時間は過ぎていき、店は閉店、ブチコも少し疲れたようだがそれでも楽しかったようでうれしそうな顔をしている。
「おいっす~。ブチ、迎えに来たぞ~」
「あっトレーナーさん!今日すっごい楽しかったッス!またやりたいッス~」
「そりゃよかった。さて蹄鉄、座って少し待て」
「えっ何そのガスマスク・・・」
「ブチコは着替えてきてくれ。汚れたら困るだろ」
「まって!?ブチ、おいていかないでくれ!?」
「確かに勝負服汚したらまずいッス・・・でもトレーナーさんが・・・」
「まあいいからいいから」
と、俺はブチコの肩を押して更衣室に押し込む。そしてガスマスクの下で悪い顔をしてるであろう俺となぜか蹄鉄の被り物が青ざめているように見える蹄鉄がその場に残った。
「ぬああああああああああああ!?」
「大丈夫だ食える食える。実証としてドトウが美味しそうに食べてたぞ。エルは泣いてたけど」
「もう犠牲が!?目が、この前の比じゃないほど目が痛い!」
「俺も食ったんだからさ。食える食える。」
「やめろ、スプーンを近づけるな!?もがっ!?・・・あれ?うまい・・・?・・・ああああああああああああああからああああああああ?!」
「後から来るんだよなあ」
「何事ッスか!?トレーナーさん!?」
とりあえずの復讐を果たした俺は自分も作ったカレーを頬張り蹄鉄の道連れになるのだった。あああああからい!ちなみに実際辛いは辛いが食えない辛さじゃない。よくある激辛なだけだ。まあ蹄鉄が辛い物がことさら苦手だから今七転八倒してるだけだし。俺は必至こいて牛乳やらをもって走り回るブチコと悶える蹄鉄をみて悪い顔で笑うのだった。ちなみにこれはこの前蹄鉄がゴルシと協力して歩いていた俺を落とし穴に放り込んだ復讐である。あの後二人は理事長とたづなさんからたいそう叱られていたが俺も一つ仕返しをしたかったので満足した。これでよし。