喫茶店・ホースリンクへようこそ!   作:アヴァターラ

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 店長が動画配信を始めたときに皆さんが感想でいろいろ心配していたことに対する一つの答えとして書かせてもらいました。つまり蛇足です。


店長、困る

 今日も今日とて営業日、なんだか最近調子がいいぞぅ?と思う今日この頃である。配信はなかなかやる時間ないんだけど動画の投稿は結構している。なんと最近登録者が50万人に到達したのだ。この登録者のうちのどれが実際に動いているアカウントなのかは知らないけど良きかな。ウマ娘の宣伝になっているとこの調子なら胸を張ることができるだろう。でもなぁ・・・

 

 「ああ、またか。予約とりゃいいのに出待ちたぁ不届きな野郎め」

 

 そう思わず愚痴をこぼす俺の目線の先、窓の向こうには俺の城であるホースリンクの店先にいる男二人組だ。その手にはカメラとマイク、そんで声は聞こえないけどなんかカメラに向かってしゃべってるのがわかる。まあつまり、ウマチューブに動画を投稿している動画投稿者なのだろう。最近よくあるのだ、というか動画投稿し始めてからかな?ドッキリだが何だか知らんが俺の店に出勤するウマ娘たちに向かってカメラを向けて無理やり動画に出させようとする不逞の輩が湧くようになってしまったのだ。

 

 最初はまあ?やんわりと注意をして動画データをその場で消してもらってお引き取りを願っていたんだけど過激なやつならそのままウマ娘を連れ出そうとしたりゴネ出したりとか、「俺のチャンネルでこれを流したらどうなるかなあ?」などと暗に脅迫してきたりするやつもいてほとほと参ってしまった。検問はあるんだけど怪しかったら全部NGとかじゃないので、通れてしまうやつは通れてしまう、荷物検査があるわけじゃないからな。大抵は通りすがりのいいひとが「あんちゃんちょっと」と凄みのある笑顔で連れて行ってくれて事なきを得たりいつの間にか背後にいたたづなさんが連れて行ったり、誰が通報したのか知らないけど警察のお世話になったりしてたんだよね。

 

 で、その一部(アポなしの時点で)過激な奴らによって疑うことを知らないでおなじみサクラバクシンオーがあーだこーだ言われてついて行きそうになったのをきっかけに俺はキレた。とりあえずその輩には警察のお世話になっていただいてどうにかせねばいかんと決意したのである。

 

 とりあえずはウマ娘たちの保護の観点から出勤ルートの変更、これは簡単、学園側から人工林を通って俺の店に来るだけ。人工林はトレセンの敷地内なので立ち入り禁止だからよっぽどのバカじゃない限り入らないだろう。元から危なくないようにトレーナーの送り迎えはついてたけどもっと万全を期さねばいかん。

 

 で、もう一つがパトロールの追加。これは理事長に頼んで警察のお方々にお願いした。もともとトレセンの周りは平和なのだけど厄介ファンというのはどこにでもいるということなのですぐに承認された、でそれに伴ってトレセン内限定だった無許可撮影禁止のルールが俺の店の周りにも適用されている。つまり俺の店をバリバリに撮影しているこの二人はアウトである。一応念のため今日来る人のリストの顔写真を見ても当てはまらないのでアウト。はい電話決定。

 

 『もしもし、事件ですか事故ですか?』

 

 「あーすいません。ホースリンクの和田です。店の前で不審な二人組がカメラ回してウマ娘を出待ちしてるようなので対処をお願いしたいんですけど」

 

 『あー・・・またなんですね。お疲れ様です。至急向かわせてもらいます』

 

 「お願いします・・・これでいいかあ。さて、仕込み仕込みっと」

 

 さっそくと言わんばかりに近くでパトロールしていた警察官に肩をポンと叩かれて顔面蒼白になっている二人組を後目に俺は今日の仕込みに移るのであった。早く平和にならんかね。

 

 

 そして仕込み途中、不意に俺の店の電話が鳴った。ホームページ記載してあるとはいえ電話での予約は受け付けてないからかからないのが普通なんだけど・・・仕入れ先の業者かね?でもなじみの人は携帯にかけてくるだろうしなあ?

 

 「はい、もしもし喫茶ホースリンクです」

 

 『初めまして、私株式会社UMABOOOM!の鴨志田と申します。店長の和田様でよろしかったでしょうか?』

 

 「ええ、そうですが」

 

 『恐れ入ります。本日はお仕事のお依頼をさせていただきたくお電話させていただきました。つきましては弊社に所属しているウマチューバーのクリエイターとコラボという形で和田様に出演していただきたく・・・』

 

 「ああ、そういうことですね。申し訳ないですがそういう依頼はすべてお断りさせてもらっていまして、どうしてもという話でしたら・・・」

 

 『はい』

 

 「URA本部のですね、秋川理事長、それとメジロ家、シンボリ家等のURA幹部連合それぞれに許可を取ってから、という話でしたら私も動けます」

 

 『それは・・・』

 

 「ええ、難しいと思います。ですがそれぞれウマ娘に関することですから彼らの許可なしではなんとも・・・。私もURAの一職員でして、上の判断がないことには無理なんです」

 

 『了解しました。本日はお忙しい中貴重な時間をいただいてしまい申し訳ありません。もしも、ということがございましたらその時はよろしくお願いします。失礼します』

 

 がちゃん、と電話を切って、深呼吸・・・すー、はー・・・せーのっ!

 

 「やってられるかあああああああああああ!!!!」

 

 

 「ぴゃあああああああああああああああああああああ!?」

 

 「ああっすまん!」

 

 俺の魂の咆哮はちょうど今日の担当ということで裏口から入ってきたマチカネタンホイザの耳を盛大に直撃し悲鳴を上げさせてしまうのだった。目を回してしまった彼女に必死に謝りつつも俺はこのなかなかに仕事にならん状況をどうにかせんといかんと心に誓うのであった。

 

 

 

 

 「んん~むむむ~~~なるほど~。それは、マスターさんもお困りですねぇ」

 

 「ああ、いや朝は悪かったな。ちょっとカッカしちまってた」

 

 「いえいえ~むしろマスターさんもそういうので困るんだな~って」

 

 「俺も人間だぞこの~」

 

 「えへへ」

 

 営業を終え、なんとか問題なく終わらせることができた夕暮れ。あの後は特に何もなかったので良かったが、正直何かあったらと思って心配と緊張で余計に疲れた気がする。いつもと違うけど同じ位置に穴が開いた帽子を斜めに被ったおしゃれなタンホイザにチーズケーキとカフェオレを出して朝の事を詫びる。ウマ娘自身が人気になるのはわかる。とてもわかるんだけど・・・繋ぎで俺を使おうとするなよ。ちゃんとURAに持っていけば考えてはくれるぞ?よっぽどの事じゃなけりゃ通らないけど。朝の電話も多分俺が遮らなきゃ「出来ればウマ娘も・・・」と続いてただろうしな。困ったもんだ

 

 うむむ・・・と考えてるとフォークを咥えたタンホイザもむむむ、と一緒に考えてくれる。かわいい、ささくれている心が癒される。無性にルナに会って雑談したい気分だけどとりあえずいくつか意見を聞いてみよう。

 

 「んでなんだけど対処法として考えてるのは・・・」

 

 「考えてるんだ!流石はマスターさん」

 

 「煽ててもお代わりしか出ないぞ?まず一つ、動画の配信をやめて動画も全削除。ほとぼり冷めるまで静かに営業する」

 

 「えーっ!?やめちゃうの!?」

 

 「場合によってはな?んでもう一つ、勝負服接客サービスの中止だ。正直お前たちの安全を今俺が保証できるかと言ったらできんからなあ」

 

 「それはいやだよ!?」

 

 「安全には変えられないからな。んで最終手段、この店閉めて俺が学園の厨房に入る」

 

 「それはもっといや~~~~!?」

 

 反応がなかなかオーバーなタンホイザがテーブル越しに縋り付いてくるので頭を撫でて落ち着かせたあとお替りのチョコケーキをあげて改めて口を開く

 

 「で、どれがいいと思う?」

 

 「どれもだめだよ~~~」

 

 「なんの話をしてるんですか?」

 

 「おお、南坂」

 

 タンホイザが俺の質問に頭を抱えて否定しているとドアが開いてカノープスのトレーナーである南坂が姿を現した。これこれこうと事情を話して南坂がうんうん頷いてくれたので改めて

 

 「で、どれがいいと思う?」

 

 「全部却下です」

 

 笑顔が黒い南坂に断言されてしまった。さてどうしようかな

 

 

 「理事長、そんな感じなんですが」

 

 『却下!!!対策についてはこちらも考えるので早まった真似はしないように!たづな!HPの注意事項を拡大して貼り付けて固定!』

 

 『マスターさん、私たちの方でも尽力しますのでそんなことは言わないでください。皆さん悲しんでしまいますよ?』

 

 『同意!これはそんなことを考えさせた私たちに問題がある!それに途中でやめてしまっては余計に心証が悪くなるだろう。気にせず続けてほしい』

 

 とのことで。俺の対策はすべて却下されてしまったので背に腹は代えられぬ、最終手段だ。

 

 

 「と、いうわけでお前たちに相談させてほしいんだけど・・・とりあえずさっきの提案はどう?」

 

 「んー、カレンだったら絶対やらないなー?というかお店なくなったらカレンの隔週スイーツ投稿どうしたらいいの?」

 

 「却下よ。そんなことすればファンがアンチに回って余計面倒くさいことになるわ。燃えるわね、盛大に」

 

 「大 却 下です!ウマ娘ちゃんの笑顔溢れるこの聖地がなくなるのは死活問題!このデジたん、あらゆる方法で阻止して見せます!」

 

 「総すかんじゃん」

 

 「この店ないと困るもんね。記者に追いかけられずゆっくりできるカフェだし」

 

 「お兄ちゃんとゆっくりできるカフェはなかなかないしー、カレンは閉店はんたーい」

 

 「このお店がなければウマ娘ちゃんたちのあんな顔やこんな顔を見ることができません!閉店だけは断固阻止です!」

 

 2日後の定休日、俺はこの手の問題に詳しいであろうウマ娘たちを呼んで作戦会議を開くことにした。そのウマ娘たちとはまずSNSで絶大なフォロワー数を誇る今季期待の短距離ウマ娘、カレンチャン。ドリームリーグで活躍中の大人気読者モデルなゴールドシチー。そしてネットの海にどっぷり頭まで浸かっているでおなじみアグネスデジタルである。特に前者2人はいろんな意味でファンと近いため、アンチへの対処や炎上した場合などの対処が非常に上手だ。デジタルはなぞの人脈の広さで対応力が広い。

 

 「じゃあどうしたらいいのかねえ。結構な頻度で不審者来るんだよ。この前も恨みの手紙が来たし」

 

 「恨みの手紙・・・って?」

 

 「あー・・・要約すると「ウマ娘に囲われているだけでいい気になるなよ。身の程を知れ」みたいな内容かな。詳しくは思い出したくないけど」

 

 「なにそれ感じ悪。あるけどね、行き過ぎたファンレターみたいなの。そうだね・・・パトロールを密にするっていうのは、もうやってるんだっけ」

 

 「ただ炎上しただけならほっとけばいいんだけど~行動力のある人だと厄介だよね~。ところでデジタルちゃん何やってるの?」

 

 「特定作業です」

 

 「・・・???まあいっか。あ、そうだ。マスターさんってウマッターやってたよね?それで注意喚起とかはしたの?」

 

 「ヘッダーに固定してるんだけど・・・検問くぐってここまで来るやつらだと意味あるかどうかなあ。注意して聞くなら最初からやらないか電話なりでアポとってくるだろうし」

 

 「まあ、そうだね。あ、そうだ」

 

 「何か思いついたのか?」

 

 「私たちから言えばいいじゃん」

 

 「カレン達から?」

 

 「そ。私たちのSNSアカウント、学園の子たち全員分から一斉に注意喚起すればいいんじゃない?そうすれば来る人はファン全員から白い目で見られるわけだし、やりにくくなるよ」

 

 「あ~~!それいいね!カワイイ以外を投稿するのってちょっとイヤだけど、マスターさんのためだもん!カレン一肌脱いじゃう!」

 

 「そんなことしたらお前らまで巻き込まれるだろ。却下だ却下」

 

 「ふっふっふ・・・もう遅いですよ店長さん。先ほどグループに一斉に事の次第を投稿しました!明日の午前8時に一斉にそれぞれのアカウントから注意喚起がなされます!」

 

 「パソコンから目を離さないと思ったらそんなことしてたんかい」

 

 「真面目な話、皆さんこのお店がなくなるのは困るそうで・・・了解のお返事がたくさん来てます。流石に家の力を使おうとした方々は止めましたが」

 

 「それに関してはよくやった」

 

 絶対メジロ家の面々だ。ていうかマックイーンだ。というかトレセン学園のグループなんてあるの?怖いんだけど。俺が裏でなんて言われてるかなんて知りたくないからこれ以上掘り返さないようにしないと。・・・まあ、俺のためを思ってそれぞれ手間を割いてくれるというのは本当のところ滅茶苦茶にうれしい。これは皆来たときにとびっきりのおもてなしをしてやらないとな。

 

 「ま、何時もやってもらってばっかりだし、こういうときくらいは協力させてよ、ね?」

 

 シチーのその言葉に同調して頷くデジタルとカレンを見た俺は、ありがたくその言葉に甘えることにした。その代わりと言ってはなんだけど、好きなものをそれぞれ作ることを確約するのだった。 

 

 

 翌日のこと、開店準備中に携帯でウマッターを覗き見ると確かに学園のウマ娘たちのアカウントから俺の店に関する注意喚起の投稿が為され、トレンドを賑わせていた。現役引退問わずに皆一斉に似たような投稿をしていることから何事かと騒ぎになっている。その流れに乗じるようにトレセン学園のアカウントからも注意喚起が為され、とりあえずこれで一安心かと俺は胸をなでおろした。

 

 今日の担当であるシチーのほうに目をやると彼女はぱちん、と様になってるウインクを返してくれるのだった。




 というわけで店長がウマ娘たちに助けられるという話でした。

 次回は本筋に戻します。

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