喫茶店・ホースリンクへようこそ!   作:アヴァターラ

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 重い話が続いたので軽い話を書きたかった


トレセン学園春のファン大感謝祭

 

 

 

 俺の店に訪れた空前の危機は今までかかわってきたウマ娘たちの協力により、今は鎮静の一途をたどっている。何の力が働いたのかは知らないけど俺の知るSNSが軒並みこの話題をトピックス、特集としてプッシュし多くの人に今何が起こっているのかを知ってもらうことができたのだ。それに続くようにトレセン、URAも公式に声明を発表しもしもウマ娘や所属する職員に何かあった場合必ず法的処置を敢行するという強い言葉に再生数や話題目当てで俺やウマ娘を道具程度にしか思ってないやつらは関わろうとしなくなっていった。

 

 さらにやつらにとどめを刺したのはSNSに続いたほかのメディア媒体だ。俺が出演したテレビ番組を放送していたキー局も朝のニュース番組で取り上げてくれたり、よくアグネスデジタルと意気投合している乙名史記者が所属する月刊トゥインクルも一面記事で大々的に取り上げてくれて、逃げる隙間をなくしたのだ。さらに徹底的だったのは、トレセンが今までやってきた不審者たちの総数とそれに対する処置をすべて公表したのがダメ押しになった。つまりやらかしたらこうなるぞという見せしめを晒し上げたのだ。

 

 まあつまり、長々と語ったこれが何を意味するかと言えば、俺の店に平和が戻ってきて、もう閉店とかどうとかいう必要がなくなったのだ。もちろん安全面を考慮して警備員の巡回を増やしたり店の隣に厨房とつながるプレハブ小屋がたってそこに警備員が常駐したりとか変化はあった。まあもとはと言えば人気ウマ娘を預かるには安全面を考慮しすぎるということはないし、仕方がない。ただ少々物々しくなってしまったんだけど、この店を続けられるというだけで幸せだ。それに今日みたいな祭りの日に間に合ったということも、一因かもしれない。

 

 そう、今日はトレセン学園が外部に開放される珍しい日の一つ。春のファン大感謝祭だ。まあ人間でいう文化祭や体育祭のようなイベントだけど。当然俺も出張開店する必要がある。ストレッサーが消えうせたので料理だけに集中できる環境になったのはとりあえずよかった。当然と言えばなんだが、俺としてはウマ娘や協力してくれるファンの皆様方にお礼をしたいと考えてるので今日は豪華にしたいなと思っている。というわけで頑張ってみた。

 

 今日キッチンカーで発売するのはフルーツサンド、ただのフルーツサンドと侮るなかれ。パン、挟むクリームは自家製。カスタードと生クリームをメインについでチョコクリームにイチゴクリーム、他たくさんである。パンに至ってははちみつがほのかに香るコッペパンだ。頑張って焼いたのである。厨房の中にパンの匂いが充満していてお腹が減ってくるわ。さらにフルーツはいろんな伝手を頑張ってフル活用して仕入れたちょっとお高めのいいものばかり。お値段もかなりというか赤字である。お礼なので仕方ないね。ただで配るとすぐなくなるからね、しょうがないね。

 

 あらかたすべてを冷蔵車に詰め込んでキッチンカーとドッキング。ショーケース内にこれでもかとフルーツを敷き詰め、パンを山積みにしたらさあトレセン学園までれっつごー、である。5分かからないけど、様式美だよ、これ大事。

 

 もうすでに生徒たちが盛大に飾り付けたトレセン学園に我が物顔で入った俺は生徒たちやその他の業者が屋台をやっているエリアの一角にキッチンカーを停めて準備を始めた。隣の屋台はテイオーの大好物であるはちみーの屋台だ。俺は今回はちみーじゃなくてコーヒーと紅茶の予定だからバッティングすることはないだろう。冷蔵車の中にクリームを取りに行ってキッチンカーの中にある冷蔵庫の中にしこたま詰め込んだら準備オッケー。ついでフルーツのカットをぱぱっとやってしまいあとは開場を待つだけになった。もちろん俺が来たことでウマ娘たちが開店は今か今かと待っているんだけどな。ちなみに最前列は・・・

 

 「チョコクリーム・・・いえ、チーズクリームも・・・メロンクリームも捨てがたいですわね・・・」

 

 「マックイーン、スピカの方はいいのか?」

 

 「ええ、問題ありません。こうしてマスターさんのスイーツを食べるより大事なことはありませんわ」

 

 「いやあるだろ。レースとかさ?テイオーが泣くぞ、ついでに沖野も」

 

 「トレーナーさんの事なんて知りませんわ!」

 

 「何やったんだあいつ・・・」

 

 ぷんすかぷんとでも擬音がつきそうなふくれっ面、饅頭のようなもちもちした頬を膨らませたマックイーンがぷりぷりと怒っている。なにあったん?えー、なに?沖野の野郎が足を触った挙句に「筋肉がついて太く強靭になったな・・・いい脚だ」って言ったぁ?沖野お前・・・褒めるにしてももっと言い方があるだろ・・・女の子やぞ。かわいそうにマックイーン、すらっとしていい脚線美だと思うんだけど言うに事欠いて太いとは。

 

 「あー、まあ褒めたかったんだよあいつは多分。ま、しょうがないから一つおまけしてやんよ。どれがいい?」

 

 「よろしいんですの!?それでは・・・イチゴのチーズクリームとメロンのメロンクリームを・・・!」

 

 「ほんでこれもおまけな」

 

 「わぁ・・・これは飴ですの?ありがたくいただきますわ」

 

 「おう、待ってな」

 

 俺はあらかじめ切ってあるコッペパンにマックイーン御所望のチーズクリームとメロンクリームを挟み、角切りにしたイチゴとメロンをこれでもかとトッピングして包み紙で包む。きらきらと新鮮なフルーツが光を反射するさまはまるで宝石のようだ。マックイーンに渡すと彼女の瞳が同じように、いやこっちのが綺麗か。きらきらと輝く瞳でフルーツサンドを受け取った彼女は待ちきれませんわとばかりにベンチに座ってかぶりついてる。さっきまでのふくれっ面はどこへやら。柔らかそうな頬を空気ではなく食べ物で膨らませた彼女は非常に上機嫌になったように見える。

 

 頬にクリームを付けながらも満面の笑顔で美味しそうに食べてくれるマックイーンを見るとこっちも嬉しくなる。料理人冥利に尽きるな。

 

 「で、デジタル」

 

 「はい、なんでしょう」

 

 「さも当たり前のように車の中にいるところ悪いが今日はお前働いちゃだめだからな」

 

 「そんな殺生な!?」

 

 「そんなことよりお前目当てのファンと交流しろ。さもなくば・・・」

 

 「・・・さもなくば・・・?」

 

 「この前お前が参加したらしいウマ娘アンソロジーをウララとライス、ブチコに見せることにする」

 

 「鬼ですか!?というかなんで持ってるんですか!?」

 

 「ゴルシがくれた」

 

 「う・・・うううううぅぅぅ・・・怒れないっ!仕方ありません、トレーナーさんと一緒に回ることにしましょう」

 

 「トレーナーは仕事だから友達といけって」

 

 木陰に隠れて此方を伺うデジタルのトレーナーがフリップを使って必死にそう伝えてくるのでそう伝えるとデジタルはこれも駄目なのかとがぁんと言わんばかりの顔になった。心が痛む、でもこの子友達と距離置いてばっかりであんまり遊んだりとかしないから今日くらいはいいんじゃないかと思うんだ。ほらさっそく

 

 「あー、デジタルちゃんいたー!」

 

 「ひょえっ!?ふぁふぁふぁファル子さん!?わたくしにいかなる御用向きで!?」

 

 「何って今日ファル子、デジタルちゃんと一緒に回りたくって探してたんだ!デジタルちゃんのトレーナーさんが、ここにいるだろうって!デジタルちゃん今日逃げ切りシスターズのステージがあるんだけど、見に来てくれない?」

 

 「もももちろんですとも!最前列で見る所存です!」

 

 「ほんと!?じゃあステージが始まるまでファル子たちと一緒に回ろうよ!ね?いこいこ!」

 

 「・・・は、はい!不肖デジたん、御付の任に・・・いまたちっていいました?」

 

 「逃げ切りシスターズのみんなも一緒だよ!」

 

 そんなこんなでトレーナーが仕込んだと思わしきスマートファルコンによってデジタルは連行されていく羽目となるのであった。ちなみにおそらく噓をついてまでデジタルとウマ娘を一緒に遊ばせたかったらしいトレーナーはよかったねえとでも言わんばかりの顔で滂沱の涙を流しながら二人を見送っている。手を繋がれても昇天しないとは・・・成長したな、デジタル。

 

 『おはようございます!只今より、トレセン学園春のファン大感謝祭、一般入場を開始します!お客様につきましては、お怪我をしないようにごゆっくりとトレセン学園を楽しんでいってください』

 

 「お、きたな。ホースリンク、出張開店始めますか」

 

 たづなさんのアナウンスがそこかしこに設置されているスピーカーから響き始め、それに伴って自分たちの模擬店で気合を入れ合うウマ娘たちやファンの喜びの声も聞こえ始めた。俺もこれから訪れるであろう大きな客の濁流に対抗できるように、備えておかねば。

 

 

 

 

 「ニンジン揚げいかがですかー!?」

 

 「かき氷やってまーす!」

 

 「トレセン学園で大人気、はちみつを使ったドリンクはちみー!お好みの味付けで提供中でーす!」

 

 「あ、ホースリンクだって!」

 

 「あー、マスターさんだ!うわ、おいしそ~」

 

 「すいませーん!イチゴのカスタード二つで!」

 

 「はいよ。じゃあ二つで800円ね。お待たせしました、どうぞ」

 

 「やった!さっそくウマッターにあげちゃお~」

 

 開始して15分も経たないくらいでもうすでに俺の店のキャパシティを超えだした。おっかしいなー、前の年はこんなことなかったんだけど・・・うん、知名度上がったせいだね。しょうがないね。なんか知らんけどウマ娘と人が混じった行列が長く長く続いているよ。既に行列整理の人たちもやってきた。エアグルーヴもそこでため息ついている。ごめんよ。え?場所を考えろ?だからごめんて、来年からは出店場所をもっとはずれのほうに変えるからさ。

 

 「あーやっと順番来たよ!ね、タイシン、何がいいと思う!?」

 

 「アタシ、コーヒークリーム、フルーツはいいや。ハヤヒデは?」

 

 「じゃあ私は・・・チョコクリームのバナナで。チケット、いつまでも悩んでると後ろの邪魔だぞ」

 

 「わかってるよー!じゃあ私は・・・イチゴのニンジンクリーム!」

 

 「お、BNWの御一行様か。相変わらず仲がいいようで何よりだな。ちょっと待ってな」

 

 見覚えのあるボリューミーな葦毛だなと思ってたらやっぱりハヤヒデたちか。待ってる間もファンと握手したり写真を撮ったりとなかなか忙しそうだけどこの祭りの趣旨はそういうものだし、楽しそうだし何も言うことはないな。しかしまあ、チケゾーは子供に人気だな。抱っこしたりおんぶしたり・・・ハヤヒデもタイシンも似たようなもんか。みんなかわいくてよろしいね。

 

 さて、オーダー品を丁寧に作ってやりますか。

 

 

 

 「ああああああああああ・・・・疲れた・・・」

 

 昼の12時を待たず、後ろの冷蔵車の中身は空っぽになってしまった。やはり店と違ってキッチンカーなので在庫は限られてしまうのがネックだな・・・正直体力的にもつらいしここでいったん営業終了できたのはいいのかもしれない。残りの時間はファン感謝祭を見て回ろうかな?。閉店の片づけを済ませていると、イベント会場のほうが盛り上がっている。ちらりと見るとどうやら早食い大会のようだ。参加してるのは・・・オグリ、タマ、クリークたちか・・・オグリいる時点で勝者決まりじゃない?あれ?意外といい勝負してるじゃん?

 

 ちらちらと片づけをしながらイベントをチラ見しているとどうやらタマとオグリが同着になったようで写真判定・・・判定あるの?にもつれ込み、オグリが優勝ということに相成った。まあ予想通りか、食べたかっただけらしく商品は2着のタマに譲ってるみたいだけど

 

 

 片づけを終えて一心地ついていると今度はイベントステージでスマートファルコン達逃げ切りシスターズのライブが行われるようだ。こういうときでもないとウイニングライブのようなものをじかに見ることはできないので俺もさっそく人混みの中にダイブしていくことにする。立ち見でいっか、と思ってると関係者席についていた沖野とおハナさんと目が合った。沖野がこっちに来いと手招きしていたのでありがたく座らせてもらうことにする。

 

 「よう店長、聞いたぜ?倍速で完売したって?」

 

 「あの規模でよく一人で回せるものね、お疲れ様」

 

 「悪いね。あれは正直予想外だよ。あと沖野ー。聞いたぞ?マックイーンに何言ってんだお前」

 

 「言わんでくれ・・・ありゃ俺が完全に悪いんだから・・・つい口からな」

 

 「素直なのは美徳なのだけれどあなたの場合は言い方を考えるべきかしら。そんなこと繰り返してるとゴールドシップに愛想つかされるわよ」

 

 「キッツいなあおハナさん。気を付けるよ、ホントに」

 

 「これがリギルと肩を並べるチームのトレーナーかよ」

 

 「あーそうだ」

 

 チーム、と聞いて手をポンと叩いたのは沖野、そういえば最近理事長から発表があったんだっけか。トレセン学園伝統のチーム対抗戦を復活させるって。

 

 「アオハル杯、物は相談なんだけどおハナさん、組まないか?」

 

 「魅力的、と言いたいところだけど遠慮しておくわ。私たちだけで足りるもの」

 

 「くぁー、やっぱそうだよなあ。スピカには短距離とダートがいねえからよ。参加できるのかどうか怪しいぜ」

 

 「別にスピカ限定じゃないんでしょう?他のチームと合流も認められてるんだし、新しい子でも探したら?」

 

 「なかなかオッケー出ないんだよ・・・」

 

 「まずお前は初手で足を触りに行くのをやめろ」

 

 アオハル杯、俺は見たことないが昔にあったトレセン学園伝統のチームでの対抗戦、短距離、マイル、中距離、長距離、ダートの5種目に最大3人ずつ代表を出して行うものだ。トゥインクルシリーズの人気に押されるように自然消滅してしまったそれを理事長が復活させることをこの間宣言していた。チームは今の学園内にあるものだけでなく、トレーナーの許可が出ればアオハル杯のみのチームを作ることもできるので、沖野が提案したのはそれだろう。リギルだけでいいというおハナさんの絶対の自信を崩すレベルではなかったようだが。

 

 少し思考にふけっていると歓声が響いて音楽が鳴りだした。ステージ上を見るとすでに逃げ切りシスターズの面々がフォーメーションに入ってダンスを踊っている。難しい話は後にして今はライブを楽しむことにしよう。俺は卓上にあったサイリウムをもって振り回して声を上げる。沖野も、意外にもおハナさんも乗ってくれた。もちろん観客の面々もだ。特にすごいのは最前列にいるデジタルと同じく最前列にいるおそらくファル子のファン集団のトップにいる初老の男性だ。鍛え上げられた肉体を惜しみなく振り乱しサイリウムを後続と一切のブレなく振るう姿はもはやプロの域だろう。

 

 スマートファルコンの歌いだしから始まるライブを、俺は久しぶりに飛び上がって鑑賞し始めるのだった

 

 




 はい、というわけでアオハル杯の話も盛り込んでみることになります。いつになったら喫茶店の話になるんだろうね。作者にもわかんないや。次の話もよろしくお願いします。

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