喫茶店・ホースリンクへようこそ!   作:アヴァターラ

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 ゲームでファン感謝祭があるならこういうのがあってもいいのではというお話。


うららかパウンドケーキ

 わが店ホースリンクにはたまに、ほんとにたまにではあるがイベントを行うことがある。そも現役ウマ娘と触れ合えること自体がイベントみたいなもんであるが、理事長が突発的に考えたイベントや働きに来るウマ娘自身が考えたものを行うこともある。直近だとメジロ家ティータイムだったかな?マックイーンを筆頭にしたメジロ家が普段使ってるお茶の葉やらなんやらを取り寄せてメジロ家の優雅なティータイムを体験するイベントだったはずだ。

 

 こんなの売れるわけねーじゃろと考えていたのだが理事長が言うには予約への申込数が普段の3倍だったそうで。3倍だよ3倍、ウマ娘ってスゲーな(小並感)うーん、ミーハー魂っていうのはよくわからん。まあそれはそれとしてこんな話をするからには今日ホースリンクではイベントがあるのだ。

 

 本日の主役はこちら、蹄鉄の形をした頭部がとってもチャーミングな・・・っておい。お前じゃないわ。

 

 「蹄鉄、なんでいるんだよ」

 

 「いちゃ悪いんか。一応俺はトレーナーだぞ?担当のウマ娘を届けるのだって立派な仕事だ」

 

 「マスター!こんにちはー!今日ね、すっごく楽しみにしてたの!いっしょにがんばろーね!」

 

 「おーウララ、おはようさん。蹄鉄、なんか食ってくか?」

 

 「いや、この後模擬レースに呼ばれてててな。しょうがないから見てくる。ピンとくる奴がいればいいんだけどなあ」

 

 「お前のお眼鏡にかなうやつはそんなにいないだろうなあ。でも隠れた才能とか大好きだろ?」

 

 「そーゆーのが一番燃えるんだよ。ウララ見ればよくわかんだろ」

 

 蹄鉄トレーナーの後ろからぴょこんと顔を出したのは砂上に咲く満開、桜花爛漫、ハルウララだ。俺はウララに挨拶をしてなぜかいる蹄鉄と雑談をする。

 

 蹄鉄はハルウララともう一人、合わせて二人を担当しているトレーナーで常に蹄鉄の被り物をかぶっている変わり者である。変わった見た目とは裏腹にトレーナーとしての能力は図抜けている。ダートに特化し、芝に足をとられてまともに走れなかった上スプリンターのハルウララを何をどうしたか長距離の有マ記念に出したうえ優勝をかっさらわさせるという奇跡としか言いようがない行為を成し遂げているのだから。

 

 ちなみに学園としてはそんな優秀なトレーナーをウマ娘2人にかまけさせてるのはちょっとという話で「チーム作れお前」とせっつかれてるとか。でもコイツの審美眼というかウマ娘の気に入り方がどうもとがってるんだよな。

 

 判明している基準としては「育てて面白いかどうか」らしい。「勝てるか」ではない。育てる以上必ず勝てるようにするからあとは面白いかどうかという自信過剰なんだかビッグマウスなんだかわからん理由があるようでいまだにチームを作れるほど担当を増やしていないが担当してほしいというラブコールは山とあるみたいだけどな。「ピンとこない」らしい。贅沢ものめ。

 

 「そーそー、この前面白いことがあったんだよ。な、ウララ?」

 

 「面白いこと・・・?・・・うーん・・・あ!そうそう!トレーナーのそっくりさんに会ったの!」

 

 「お前増殖してんの?」

 

 「いや、俺は蹄鉄かぶってるけどあっちはアルファベットの「P」被ってた。なんでもアイドルプロデューサーらしい。確かに他人の気がしなかったな」

 

 「被り物流行ってんの・・・?」

 

 「それはしらん、がウララに目を付けたのは慧眼だ、なんつっても俺の誇りだし。なんでも所属事務所で今ウマ娘のプロデュース企画が持ち上がってるらしくてな?それで商店街の人気者だったウララに目をつけスカウトしたらまさかの現役ときたもんだ。びっくりして引き下がったよ。ウララ自身はやりたがってたけどな」

 

 「アイドルってウイニングライブをたくさんできるってことだよね?うらら~って感じ!やりたかったな~」

 

 「さすがに現役ウマ娘を引き抜いてアイドルにするのは無理だろ。理事長が黙ってないし何よりファンが許さない。引退後の選択肢としてはありだろうな。固定ファンがついてるから最初から売れるわけだし」

 

 「いっそ俺もP被ってプロデュースしてみるか~?」

 

 「トレーナーがトレーナーじゃなくなっちゃうの~?それは、なんかやだなぁ~」

 

 「俺一生蹄鉄被るわ」

 

 「そういう意味じゃねえぞ多分」

 

 そんな言葉を残した蹄鉄はハルウララを思いっきり抱きしめて撫でまわした後にトレセン学園に帰っていった。残ったのは勝負服が入ったカバンを持ち、耳はパタパタ尻尾はブンブン、瞳をキラキラ輝かせふんすと鼻息荒いハルウララである。やる気マックスだったのにさらにやる気を引き出して帰りやがったあのトレーナー。

 

 

 

 さて、閑話休題。というか話が大幅に本筋からそれた。早速着替えに更衣室に向かったハルウララが着替えている間に何がどうしてそうなったかを説明しようと思う。何の話かっていうとイベントの話だ。もちろんこんな小規模な店舗で何十万のファンを抱えるウマ娘のイベントなんかできるはずはない。

 

 ただウマ娘が望んだり、理事長が思いついた場合は話が別だ。例えば大多数のファンではなく特定の誰か、特定のファンに向けた何かをしたいとかがそうだな。

 

 例えば行ったことといえばスペシャルウィーク、彼女に日本総大将という二つ名が付き始めたころ、故郷の育ての母に勝負服を着て成長した自分を見てもらいたいという理由で店を貸しきりにしてスペシャルウィークオンリーイベントをやったりとか、オグリキャップが笠松トレセンの人たちにお礼をしたいといって彼女の友達を呼んでパーティーを開いたりとかそんな感じのイベントとというよりはお祭りだ。

 

 さてさてつまり今日行うのはハルウララのイベント。彼女がよく入り浸る商店街で彼女が勝てなかったころから応援してくれている最初の最初のファンの人々に向けて何かしたいというお願いを蹄鉄が受けたことに起因するものだ。名付けてハルウララ(が)感謝祭、ハルウララが一枚一枚手書きで書いた招待状を商店街のおじちゃんおばちゃんに手渡しして前準備はすでに万端、あとは楽しむだけ、というわけだ。

 

 そしてハルウララの勝負服であるが、なんとジャージ、体操服、ブルマである。もちろんトレセン学園のものとは違うオーダーメイドのものではあるがほかのウマ娘たちが身にまとうようなアイドル然としたものではない。が、逆にそれが彼女の飾らない魅力を引き立てている。ついでに言うとハルウララのファンの総数はトレセン学園全体でトップ3のファン数を誇る化け物なのだ。

 

 勝てなかった彼女がトレーナーと運命的な出会いをして有マを制するというまさにシンデレラストーリーはトゥインクルシリーズを大いに盛り上げた。トレセン学園周辺ではハルウララが出没してもみんな慣れているため流されるが出張先で出歩くとあら大変、ファンの塊に呑まれることになると蹄鉄が言っていた。この感謝祭、ちょっとだけ一般枠があるのだが外国からの応募含めて倍率100万以上を記録している。理事長が目をまわしていたのでそれ以上に多かったんだろうな・・・とれた人は幸運だこと。

 

 「マスターマスター!お待たせ!着替えてきたよ~!!」

 

 肉と野菜を鉄串に順番にさして特製スパイスを塗りたくっているとカツカツと足にはいた蹄鉄シューズの音を鳴らしながら勝負服のハルウララが降りてきた。階段をホップ、ステップで軽やかに降りてきた彼女は俺が刺し終わった鉄串を置いた瞬間に横からバフッと抱き着いてくる。人懐っこいウララらしい。俺は手がべとべとなのでウララの勝負服に付かないように両手を上にあげて好きにさせてやる。

 

 「マスター、今日はお願い聞いてくれてありがとうね!わたし、すっごく楽しみにしてたの!だからだから、マスターには一番にお礼言いたかったんだぁ!」

 

 「いいよこんくらい。でもここでよかったのか?お前のファン数なら理事長が喜んで会場を用意しただろうに」

 

 「ううん、ここがいい。ここじゃなきゃイヤなの。私が走り始めた時から応援してくれてる人たちと私が負けても負けても変わらずおいしいごはんをくれたマスターのお店にお礼をするのが一番最初。昔からそう決めてたの」

 

 「そっか、じゃあ頑張らないとな!よっしウララ!会場の準備に行くぞ!」

 

 「お~~~!!!」

 

 「の前に今日出すデザートの味見頼むわ」

 

 「ずこ~~~!!!」

 

 声に出してずっこけるハルウララをよそに俺は手を洗い冷蔵庫からあらかじめ作って冷やしておいたデザートを取り出す。今日のデザートはパウンドケーキ。ハルウララをイメージしたものだ。生地にイチゴとラズベリーを練りこんで焼き上げ、桜の塩漬けを混ぜ込んだアイシングで桜の花が混じったピンク色の砂糖の層がかかっている。このピンクを出すのには苦労した。なんせ彼女の髪の色と全く同じにしたうえで味も妥協せずに頑張ったのだ。ついでに言うとこれは何があろうと普段の営業で出す気はない。今日だけの特別、あるいはまたウララが何かするときの限定メニューにしようと思う。

 

 今日はハルウララの特別な日、それならば特別なものを用意してやらないとな。2つ切り分けると中に仕込んだイチゴが丸々形を保っているのが見て取れる。ヘタをくりぬいて切ると桜の花びらっぽいよな、コトと少しだけ皿を鳴らしてわくわくで待っている彼女の前にアイスミルクティーと一緒に置いてやる。すると瞳を輝かせた彼女は指ぬきグローブで包まれた手でケーキを掴んで大きく頬張った。

 

 「いちごだ~~!!!桜の花びら!?ん~~~おいし~~~!!!マスターこれすっごくおいしいよ!」

 

 「よし、じゃあ食べ終わったら準備行くか!今日はBBQだぞ~~~!!」

 

 

 

 

 というわけで外である。さすがに商店街に配った招待状の客プラスアルファを全員一気に収容するスペースはうちにはない、が!こんなこともあろうかと!(理事長が)土地を大きくとってくれているので店の裏側にはバルコニーのような大型のスペースがある。昔はここテラス席だったんだけどな。必要ないから普段は使ってない宝の持ち腐れである。

 

 というわけで倉庫から引っ張ってきた大型グリルの網を外してハルウララが軽々と運んできた段ボール一杯の木炭をトングで入れて着火剤で着火して焼くスペースと熾火で保温するスペースを作る。ドリンク系はピッチャーに入れて自分で取ってもらう立食形式で今日は行こうと思う。さて、第一弾はもうすでにオーブンで焼いてあっためるだけだ。さらにオーブンの中には巨大な肉塊をじっくりと今焼いている最中、さあ営業開始だ!

 

 

 

 

 そうして準備を完了して招待した時間になると次々とウララが招待した客たちがやってきた。みんな店とかもあるだろうに来てくれるなんていい人たちばっかりだな。ちなみに今回はお酒も用意してあるから存分に楽しんでくれると嬉しいと思う。

 

 「お!ウララちゃん招待ありがとな!」

 

 「魚屋のテツじゃねえか、おめぇも招待されたんか!」

 

 「ばーか、商店街の奴ぁほとんど招待されてんだよ。ほら、肉屋の平さんも来てる」

 

 「わ!八百屋のおじちゃんにお肉屋さん、魚屋さんも来てくれたの!?ありがとー!」

 

 「「「あったりめえよ!」」」

 

 「「「あんたたちはしゃぎすぎんじゃないわよ?」」」

 

 「お、店長の兄ちゃん!土産にいいニンジン持ってきたんだ。使ってくれや」

 

 「なんのうちは和牛のいいところだぜ!」

 

 「それならこっちはマグロのトロだ!カマトロってところ、焼くとうめえぞー」

 

 「あんたそれどこの金で持ってきたの?」

 

 「そうよ、今月のお小遣いから引くからね」

 

 「ま、うちは大目に見てあげるわ。なんてったってハルウララちゃんのご招待だもの、特別よ」

 

 商店街の店を率いる人たちは持参したお土産をハルウララに目一杯渡し、それを知らなかったらしいそれぞれの奥さんに怒られながら登場して早速ビールを飲み始めたり

 

 

 「「「「ウララおねえちゃん!こーんにちはー!」」」

 

 「ハルウララさん、ご招待ありがとう」

 

 「この子ったらずっと楽しみでまだかまだかって毎日言ってたんですよ?」

 

 「いや、お恥ずかしい話ですが息子と同じくらい僕も楽しみだったんです。招待ありがとう」

 

 「あ!幼稚園の皆にお父さんにお母さんたち!いらっしゃい!今日は楽しんでねぇ!マスターの料理、ほっぺが落ちるほどおいしいんだよ!」

 

 よく幼稚園に遊びに行くらしいハルウララは子供人気もある。というかハルウララ自体がとんでもなく人懐っこいので人脈が広い。蹄鉄トレーナーですら全貌を知らないというのだから相当だろう。わらわらとこっちに来て挨拶してくれる子供たちに焼き立てのお肉と野菜の串をあげながら同時並行でいろんな作業を進める。招待客がいっぱいになったところでハルウララがスイッチを入れたマイクを持って話し出す。

 

 

 「みーんなー!今日は来てくれてありがとう!ハルウララだよ!今日こうしてみんなに招待状を出して集まってもらったのはみんなにお礼が言いたかったから!1年前、私がまだ一回も勝てなくてただただ走るのが楽しかっただけの時、それでも応援してくれた商店街の皆にありがとうを伝えたかったの!私が有マで勝てたのもみんなが応援してくれたから!・・・だから、今日はたくさんたのしんでいってね!」

 

 「おうよー!」

 

 「一番のファンは俺だー!」

 

 「ばっかおめえそれはちげえよ!」

 

 「そうだそうだ!一番はウララちゃんのトレーナーに決まっとる!」

 

 「商店街のアイドルがトゥインクルシリーズを代表するウマ娘の一人になるなんて最高だ!よし今日は呑むぞー!」

 

 最後のほう、少し涙が出てしまい言葉に詰まったハルウララであったが何とか言い切って頭を下げた。その瞬間歓声が飛んでみんなが逆に思い思いの言葉でハルウララを褒め、お礼を言いだした。それにこたえるようにハルウララが笑顔になる。顔が少し涙にぬれているが、まるで満開の桜のように麗らかな笑顔だった。

 

 

 

 

 「ねえマスター。みんな楽しんでくれたかな?」

 

 「なんだ藪から棒に」

 

 ハルウララがファンと触れ合い、一人ではあるがライブをして大盛況で終わった今日のイベント。酔いつぶれた商店街の人はそれぞれ奥さんにおぶられて帰り、子供たちがそれぞれハルウララに折り紙で作った優勝トロフィーや靴をプレゼントして親と手をつないで会場を後にしてがらんとなった。俺が使ったグリルを丸洗いしてると近くで机を片付けていたハルウララがぽつりとそう漏らした。

 

 「わたしは今日すっごく楽しかった。ず~っとわくわくが一杯で歌ってても話しててもうれしかったし楽しかったんだ。だから今日は・・・夢みたいだった」

 

 「お前だけ楽しくて客がみんな作り笑顔だったとでも思ってんのか?ないない、ぜったいない。というかそんなんだったらまず招待に応じるわけないだろ。安心しろ、ちゃんとお前はみんなを楽しませたんだよ」

 

 「そーかなー・・・うん!そうだよね!トレーナーが言ってた!「まずは信じるところから」って!じゃあわたしも信じてみる!きっとみんなは楽しんでくれたって!」

 

 「おーいウララー、迎えに来たぞー」

 

 「ウララちゃん、お疲れ様。あ、おじ様もこんにちは」

 

 「おじ様って・・・蹄鉄と同い年だぞ俺」

 

 「あーーー!トレーナー!今日すっごく楽しかったんだー!」

 

 蹄鉄の野郎がもう一人の担当を引き連れウララを迎えにやってきた。俺は二人とウララの分をとっておいたパウンドケーキを分けて包むのであった。

 

 

 

 「ぐえええええええええええ!?!?!?」

 

 「トレーナー!?トレーナーーー!!?うえええん!ごめんなさーーーーい!!!」

 

 「お兄様!?だいじょうぶ!?」

 

 その前にハルウララのタックルを食らって無事腰が変な方向に曲がった蹄鉄を助けるところから始めるか。とりあえず本日は閉店、と

 

 「蹄鉄無事かー?」

 

 「このくらい余裕だぜ!」

 

 「腰が180度回転してなかったらかっこいいんだけどなそのセリフ」

 




アンケートの通りに掻くとは限らないので悪しからず・・・

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