喫茶店・ホースリンクへようこそ! 作:アヴァターラ
おはようございます。今日も今日とて営業日である。今日は蹄鉄のウマ娘が一人とスピカから一人、ついでに蹄鉄のウマ娘の友達がもう一人の計3人来る予定である。今日は目覚ましに頼らずぱっちり起きることができたな。今日はいいことありそうだと思いながら身支度を済ませていつもどーりのモーニングルーティンである仕込みをしようと階段を下りる・・・ってあら?
「おはようございます。マスターのオーダーにより本日一日接客業務を行うためこの場で待機をしていました。本日はよろしくお願いいたします」
「ブルボンか。さすがに早くないか?ほかの奴らは?」
「顔色と声色からステータス「寝起き」であると判断。現在始業時刻より4時間と35分前であると申告、私的理由により調理及び清掃の補助を行ったほうが効率的と判断、すなわち「お手伝い」を希望します」
「そりゃこっちとしてはうれしいけどよ。お前自身はもっと休んでなくていいんか?」
「「心配」の気持ちを検知。問題ありません。本来トレーニングの日はこの時間よりも早朝に起動しています。休息期間は十分とれています。それに、あなたに会えるのを「楽しみ」にしていました」
「・・・そうかい。ま、ほどほどに頼むよ。じゃあまず朝飯作るか。ブルボンは?」
「・・・バッドステータス「空腹」を検知。食事を希望します」
「うまい飯食いたかっただけだろう?」
「隠しコマンドにより回答を拒否します」
「もうそれでバレバレだっつの」
店の中でまるで彫像のように目をつむっていたウマ娘が俺がドアを開けた瞬間図ったように目を開けて俺に挨拶してきた。金属っぽい髪飾りと右耳につけた光るリング、ぴょこんと飛び出たアホ毛が特徴的なウマ娘の名はミホノブルボン。話し方を見ればわかるように個性的なウマ娘がたくさんいるトレセン学園の中でも個性派の一人だ。感情が希薄で受け答えはまるでサイボーグ、だが目標に向けて愚直にただひたすらに努力を続けることができる心の強さをもつウマ娘である。
なんとなくわかると思うが俺は彼女に懐かれている。一応店に来るウマ娘たちとそれなりに良好な関係を築けているのではないかと勝手に思っている俺ではあるがブルボンのように自分から朝の仕込みやら清掃を手伝いたいというウマ娘は珍しい。たいていはこの前のカノープスのように俺が頼むのが先だからだ。一度それとなく聞いてみたのだが。
「肯定。私は店長にステータス「好意」を持っています・・・それが何かありますか?」
と強烈なカウンターパンチを食らったのだがよくよく話を聞いてみると
「詳細に報告するとお父・・・もとい、父とどこか似ています。失礼を承知で表現すると「兄」がいたらこんな感じなのでしょうか」
ということらしい。つまり家族に似てるから親しみを感じているということだろう。兄、というのはルナの兄貴分であるからまあ納得できんこともない。じゃあとりあえずと思ったところで店のドアが開いた。
「おはようございます・・・わ、おじ様にブルボンさん。お邪魔します」
「おはようございます。まあ、ブルボンさん。寮にいらっしゃらないと思いましたら先に来てらしたのね」
「なんだライスにマックイーン、今日はいやに早く来るな?それともなんだ、腹でも減ったのか?」
「ななななにを言いますの!?たまたま早起きしたからお手伝いに来てあげただけですわ!」
「えっとね、ライスはお腹すいたよ?おじ様のご飯おいしいもん。できたら食べたいなって」
「なるほど、じゃあライスとブルボンは飯食うか。マックイーンは掃除な」
「・・・ああ、もう!私の分も用意してくださいまし!朝食食べておりませんの!」
「最初から素直にそー言えばいいんだよ。ここは飲食店なんだから腹減ったら食わせるのが仕事なの。少し待ってろ」
やってきたのはいつもおなじみ朝にスイーツを食いに来るマックイーンと長い黒髪で顔の半分を隠し、大きな耳が特徴的なライスシャワーだ。今日の接客担当3人娘、つながりがよくわからんかもしれないが、ブルボンは3冠、マックイーンは天皇賞の連覇をライスに阻止されている。勝者と敗者、そういうつながりだ。もちろんわだかまりなんてかけらもなく3人とも仲良し。たまに3人で遊びに行くこともあるとか。戦いが終わればノーサイド、素晴らしいな。
そして今日のキーパーソンはライスシャワー。蹄鉄の担当なんだが今日のことについて連絡を受けた。なんでも最近ふさぎ込むことが多いらしい。ブルボンの3冠達成とマックイーンの連覇を阻止したライスシャワーは当然ではあるものの腹立たしいことに両者のファンから恨まれた。レース場に出ればブーイングが飛ぶこともある。気持ちはわかるがスポーツなんだから勝ち負けがあるのは当然、こういった番狂わせがあるから盛り上がるのになあ。
で、蹄鉄が考えるにはファンによってできた傷はファンによって治そうということで、今日予約する人にはマックイーンやブルボンが来ていることは伝わってない。そして万が一ライスのアンチが当選したとしてもマックイーンとブルボンがいる前で大げさに悪口を言ってこないだろうという算段だ。ついでに言うとマックイーンとブルボンは両者ともライスのことを大事にしているのでなんか言って来たら飛んで行って怒ることだろう。ライス奮起大作戦である。
そんなことをつゆ知らずのライスシャワー、とてとてと小柄な体で俺のそばに近寄って来てくれる。ちなみに彼女は高等部、なんとマックイーンの先輩だ。逆じゃないかと思えるがこんな小さな体躯であんなパワフルな走りを見せられるのは素晴らしい。根性も人一倍ある。こちらを見上げるライスの頭に手を置いてさわり心地のいい耳ごと撫でる。
「えへへ、お兄様が撫でてくれるのも好きだけどおじ様が撫でてくれるとなんか安心するな・・・」
「だから俺は蹄鉄と同い年だっつの。なんでおじ様なんだよ」
「だって、絵本とかで出てくる喫茶店の店長さんって素敵なおじ様が多いから、つい・・・」
「・・・まあ別にいいんだけどさ」
ライスの毒気のない言葉に力が抜けた俺が事実上の白旗を振ったところで厨房に逃げ込んで可愛い可愛いお手伝いさんたちのために今日出すメニューを味見してもらうことにしよう。今日予約されてる人は全員女性、男が来ないのでがっつりとしたメニューを作らなくていい。どちらかというとスイーツ系に偏る感じでいいんじゃないかね。
というわけで取り出しますは米粉で作った食パンだ。1斤を半分に切って中身を四角くくりぬく。中身をキューブ状にカットして昨日作っておいたフレンチトースト用の卵液につけておき、外側は中にバターと蜂蜜、薄くスライスしたバナナを入れてオーブンで軽く焦げ目がつくくらいまで焼く。ほんとだったらたっぷり卵液を吸わすのがいいんだけど量が量だからくどくなっちまうのでほどほどにしておこう。キューブ状のフレンチトーストを焼いてこんがりとしたら冷凍庫から作っておいてあるキャラメルバニラアイスを掬ってくりぬいた中に詰める。ここからは時間勝負。あらかじめカットしてあるいちご、バナナ、オレンジをフレンチトーストと一緒に詰め込んで上からチョコレートソースをたっぷりかけて完成。暖かさと冷たさが混合してるのでアイスが溶けないうちに出しちまおう。
「ほい、今日の日替わり、米粉パンのハニトーだ。ゆっくり食べな」
「オーダーを受諾。オペレーション「ゆっくり食べる」で食事を開始します。いただきます」
「多分マスターさんはそういう意味で言っておりませんわ・・・うぅ、またカロリーが重なるのにおいしそうなものを・・・」
「ハニトー・・・?もしかしてちょっと前にテレビでやってたやつかな・・・?おいしそう」
というそれぞれ違う反応を見せてくれた3人。ブルボンは大真面目にゆっくり食べようとしてるようだが一口食べた瞬間食べるペースが速まったので気に入ったのだと解釈しよう。そしてマックイーン、しばらく葛藤するようにプルプル震えていたのだが意を決したように目をぎゅっとつぶってハニトーを口に運ぶ。するとぱぁっと顔が輝いて吹っ切れたように食べだした。そうだ食え食え、太っても保健室行きゃ何とかなるだろ。何で保健室行ったら痩せるんだろな。トレセンの闇かもしれない。そしてライス、アイスを掬って口に運び、一緒にフレンチトーストも頬張る。ほっぺをおさえて笑顔になったな。よし、今日も上々っと。しかしまあ、ライスのペースが速いな。オグリやスぺほどじゃないにしろライスもよく食うからな。本人は恥ずかしがって指摘するとしゃがみこんで丸くなっちゃうけど。
そんなこんなで食事を終えて清掃と仕込みをすること少し。といってもやることなんてフルーツのカットくらいなものでもし甘いものが苦手な人が来た用の鉄板ナポリタンの用意は俺がパパっとやってしまった。というか切り方で個性が出るな。ブルボンはまるで機械で切ったかのように全く同じ大きさだし、マックイーンはあまり料理をやってないらしく少しばらつきがある。ライスはライスで丁寧丁寧にやってくれて誰が切ったのか一発でわかる。
そして余った時間でティータイムを過ごすこと少し、話を聞くと今度は蹄鉄がゴールドシップとかいう別世界から来たんじゃないかと思えるウマ娘と組んで悪だくみしようとしたのを生徒会副会長エアグルーヴがやる気を犠牲にして止めたということらしい。ちなみにブルボンは我関せず、マックイーンは頭痛が痛いみたいな顔をしてた。お前ゴルシと仲いいもんな。
さてさて開店時間まであと少し、着替えに行った3人が仲良く戻ってきた。何と今日はマックイーンはこの前URA本部からもらった新しい勝負服を着ることにしたらしい。薄い水色を基調にしたフリルがたくさんついたいつも着ている黒を基調としたものとは全く別のデザインでこれがまたよく映える。そしてミホノブルボン、真っ白な中に蛍光ピンクと青が入った未来的でサイバーっぽいデザインをしている。足の金属っぽいパーツが非常に男心をくすぐるかっこよさをかもしだしている。あと露出がないのに扇情的に見える不思議。マックイーンの新衣装は健康的な感じなのに。
そしてライスシャワー、黒鹿毛の彼女によく似合う紺色のドレスと帽子、青いバラのワンポイントと腰の短剣が非常にマッチしていて可愛らしい。まるで引っ込み思案な箱入りお姫様といった風情で大変よく似合っている。さてさて全員揃ったところでホースリンク、開店します。
「すいませーん、予約した伊藤ですけどー」
「い、いらっしゃいませ・・・お席にどうぞ」
「わ、ライスシャワーちゃん!うわー、さすがに本物は可愛い!握手してもらってもいいかな?」
「え、と・・・ライスでいいなら・・・ブルボンさんやマックイーンさんじゃなくていいの?」
「あなたがいいのよ。なんていっても今日あなたに会えるっていうから頑張って予約したんだもの。私あなたのファンなの。会えてうれしいわ」
「ファン・・・ライスにもファンがいたんだ・・・えへへ、ありがとう」
「きゃー!かわいい!」
とまあそんな感じでやはりホームページで大々的にライスシャワーの日であることを宣伝した効果が出ている。そうして接客すること少し、俺というかライス以外が気付いたことがある。
「な、マックイーン、ブルボン」
「はい、何か既視感があると思ってたんですの。これは・・・」
「照合、ほぼ100%。現在店内で接客しているお客様の全てがどこかに青いバラをモチーフにしたアクセサリーを着用しています」
「だよなあ・・・なんか意味があるんだろうか?」
そんな感じの会話をしながら俺が料理を作り、お手伝いしてくれている3人が運ぶ。ライスのファンがほとんどだがやはりマックイーンもブルボンも人気が高い。特に3人でライスをセンターにしたライブは大変よく盛り上がった。ライスは最後までセンターを他二人に譲ろうとしてたがファンのお願いにこたえる形で歌って踊ってくれた。そして俺たちが気付いたことにライスも気づいたようで
「そ、それって・・・青い、バラ・・・?」
「あ、気づいたんですね!そうです、青バラ!今ライスシャワーちゃんのファンの間で青いバラのアクセをつけるのが大流行してるんです」
「え、そうなの・・?でもライスは・・・」
「いやいや、ライスシャワーちゃんがつけてるからですよ!ほらその勝負服も!この前のインタビューで『一番好きな絵本に出てくる、青いバラのお話のように・・・私もみんなを笑顔にしたくて青いバラをつけてます』って!そこからもうみんなの中で流行してるんです」
「でもまだライスは、誰も幸せにできてない・・・レースに出たらみんなから嫌がられるし・・・「何言ってんですか!」・・・え?」
「ライスちゃんはみんなを幸せにしてますとも!悪役だなんて私たちは思ってません!少なくとも私はライスちゃんに元気をもらえました。あの鬼気迫る強烈な走りを見てもっと応援したくなった!私にとってライスちゃんはヒーローなんです!」
「ライスが・・・ヒーロー・・・?」
「ええ、ええ!あの番狂わせをみて誰が悪役なんて言えますか!」
そうだそうだ!と店内中にいるすべてのお客さんから同意の声が上がる。おたおたしてるライスシャワーにブルボンとマックイーンが近づいていく。
「全く、その通りですわね。ライスさん、私はまだあなたにリベンジしてなくてよ?私がもう一度競い合いたいのはあの時の私を食い殺さんとしてたあなた。いつまでも自分を下にして卑下していては困りますの。胸を張って前をお向きなさい。あなたは私に勝ったのですから、堂々としてるべきなのですわ。もっとも、次は負けませんが」
「同意です。ライス、あなたは現時点での私の目標です。私の3冠を阻んだあなたに勝つことは必須条件です。もう一度言います、四の五の言わずに走りなさい。あなたには逆境をはねのける力がきちんとあると判断しています」
「マックイーンさん、ブルボンさん・・・うん、いつまでもうじうじしてちゃダメだよね・・・!ライス、頑張るって・・・お兄様と一緒に頑張るって決めたんだから・・・ライス頑張れ・・・ライス・・・おー!」
「「「「「「おー!」」」」」」
「ふぇ!?」
マックイーンやブルボン、お客の説得を聞いたライスは初心を思い出すことができたらしい。自分を鼓舞するために放った言葉にその場にいた全員がのっかったことで耳と尻尾をピーンと伸ばして驚きながら素っ頓狂な声を上げたライスが笑い出して、その場は和やかな雰囲気になるのだった。
良かったなライス。お前がつけてるその青いバラは昔は確かに不吉の象徴だった。けどな、今は真反対の意味を持ってるんだぜ?青いバラの花言葉は「夢はかなう」・・・お前の自分の走りで人を幸せにしたいっていう夢はほとんど叶いかけてるんだ。あとはお前が自信をもって胸を張れるかどうか。頑張れよ、ライスシャワー。
「というわけでうまくいったんだが蹄鉄、お前から見てどうだ?」
「ん、ライス・・・いいことでもあったか?」
「お兄様、うん。とっても、とっても嬉しいことがあったの!ライス、頑張るからね!」
「ばっちりだな。あんがとよマスター、またどっかでライスのこと頼むわ」
「それはいいんだけど。お前こんな時間まで何してたんだ?」
「タキオンにつかまって全身光ってたな」
「シュールだな・・・」
「Mrモルモットはレーザービーム撃てるようになってたぞ」
「なんかタキオンがあいつに何をしたいかがわからんのだが」
「そりゃあ、何なんだろうな・・・?」
マックイーンとブルボンがそれぞれのトレーナーと一緒に帰った後、ライスを迎えに来た蹄鉄と俺はそろってそんな会話をして同じように首をかしげる。そんな俺たちの様子を見たライスはクスクスと幸せそうに笑うのだった。
やっつけ仕事なんでクオリティ低いですがお許しください!