喫茶店・ホースリンクへようこそ!   作:アヴァターラ

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はちみードリンク

 日曜日だ。Sunday!定休日と見せかけた開店日。もう営業しなくていいっすか~?などと考えている今日この頃、残念ながら開店しないと方々のウマ娘のお嬢様方からなぜか文句が出るので営業しなくてはいけない。ぶっちゃけ今日の仕込みはないに等しいっていうしかない!昨日のうちに済ませてあるからだ!

 

 昔は料理のメニュー表があった時期もあるんだけど俺の手が追い付かなくなってやめた。なんせ忙しすぎるのでな、俺一人でウマ娘何十人分の料理を仕込み別でいろいろこなせっていうのは無茶が過ぎる。というわけでホースリンクのスタイルは日替わりメニュー一択、ドリンクメニューはあるけど。そんで今日の日替わり、牛タン煮込みカレー、温玉チーズのせはすでに作成済み。とろーりほぐれる牛タンにごろごろ野菜、温玉のまろやかさとチーズのパンチが後引く一品である。カレーあっためてチーズ削って乗っければ終わり!

 

 そんで今日はオグリもスぺも来ない!どっか遠征に行ってるとかなんとか。つまり夕方まで営業可能!素晴らしい!これで「え、ご飯ないんですか・・・?」とか「うぅ~ここのご飯楽しみにしてたのに・・・」と耳をぺったりしおしおにして引き返すウマ娘という俺のせいじゃないのに心を痛める光景から解放される!というわけでそろそろ・・・

 

 「準備したいからどいてくれない?」

 

 「やだ!ターボ暫くここにいる~~!!」

 

 「いいんだけどさぁ・・・」

 

 「えへへ、マスター一人占めだ!」

 

 そう、店には安楽椅子が5つほどおいてあるのだがそれの一つにどっかりと腰かけてコーヒーブレイクしてる俺、そしてその俺の上に乗っかって今日のデザートのミルクジェラートを美味しそうに頬張っているのがご存じカノープスの大逃げウマ娘、ツインエンジ「ツインターボ!」・・・ツインターボである。

 

 俺がとりあえずの準備を終えて自分用のコーヒーと味見用のジェラートを皿にもってアフォガードでも楽しもうと思ってたのだが鍵を開けていたせいでツインターボが半泣きで来襲してきた。俺を見つけ、座ってるのを見た彼女はピン!と耳を立てて俺のほうへダッシュ、ぴょんと跳ねて俺の膝の上にぽすんと軽く収まり、ミルクジェラートを見つけ目を輝かせ、今に至る。ターボちゃん君もうすぐ高校生でしょ?だめだよ男に向かってそんなことしてちゃ。俺二十代だけど娘を持つ親の気持ちを理解しそうになってるよ今。

 

 「で、なんでこんな朝早くからここに来たんだ?」

 

 「だって、みんなターボを置いて自主練に行っちゃったから・・・」

 

 「お前も一緒に行けばよかったじゃないか」

 

 「トレーナーが、オーバーワークになるからターボは絶対ダメって言うんだもん!ターボだってみんなと走りたいのに~~~!」

 

 という事情を聞いてみるにここ一週間ターボはトレーニングをやりすぎなくらい頑張ってしまったらしい。そこでそれを見たトレーナーが何が何でも今日は休むよう厳命したそうだ。それを聞いたチームのナイスネイチャ、マチカネタンホイザ、イクノディクタスは仕方なく、仕方なくターボを置いて自主練へ。

 

 そして寂しくなったターボは友達を当たるのだがみんな寝てるか練習中、もうどうしようもなくなったので仕込みで起きているであろう俺にかまってもらいに来たということだ。まあ構ってあげるのはいいんだけど、ターボは素直で話してて楽しいし。ちょっとわがままだけどそこがまた可愛らしいよな。まー暫くかまってやるか、火を使ってるわけじゃないし開店時間まで3時間くらい時間あるし、とちょうどいい位置にあるターボの頭に手を伸ばして撫でる。

 

 頭に触れた瞬間ピクン、と耳が動く。それにかまわず耳ごとかき混ぜるように優しく撫でてやる。ターボはこうやって頭を撫でられるのが結構好きだ。ジェラートを食べ終わった彼女は俺に体を預けるように倒れこんでぐりぐりと後頭部を俺の胸あたりにこすりつけて催促してくる。そのまま撫でているとターボが俺の上で寝息を立て始めてしまった。子供かお前は。しかもご丁寧の俺に片腕を枕にして寝やがって、動けねえじゃん。どうすっべかなー。

 

 そうして姿勢を保つこと1時間30分後、そろそろ腕のしびれが限界を突破してるので俺の服に盛大に涎を垂らすツインターボを起こすことを検討し始めた矢先、またも喫茶店のドアが開いた。

 

 「あーー・・・やっぱいるよね、ターボ」

 

 「わ、マスターさん大丈夫ですか?」

 

 「ターボがご迷惑をおかけしています。申し訳ありません」

 

 「おー、まあそれはいいんだけどターボ引き取ってもらっていい?そろそろ辛いんだわ・・・」

 

 「わわわわ!ごめんなさいターボちゃんがご迷惑かけて・・・!」

 

 正直ターボは軽いんだけど1時間半も同じ姿勢でいるのはだいぶつらい。タンホイザが軽々とターボの両脇に手を差し込んで持ち上げてくれたことでようやく俺は立ち上がることができた。いろんな個所からバキボキと音を立てて立ち上がり、姿勢が変わったことで起きたツインターボが素っ頓狂な声をあげる

 

 「あれ!?みんなだ!どうしたの?」

 

 「どーしたのーじゃないのターボ!マスターさんに迷惑かけてんじゃないわよ!」

 

 「いだだだだ!!ネイチャ頬引っ張りすぎ!」

 

 「お、し、お、き、よ!全くもう・・・すいませんマスターさん、私たちはこれで・・・」

 

 「失礼します」

 

 「お邪魔しましたー」

 

 「おー、ターボを可愛がってやれよ~」

 

 「ネイチャ!痛い、痛いよ~!!」

 

 「足りないって~?タンホイザ、イクノ。やっておしま~い!」

 

 「失礼します、ターボ」

 

 「むぎゅ!」

 

 「ターボちゃん、反省してね」

 

 「うぎゅうううう!?ごめん、ごめんなさい~~~」

 

 「ほどほどにしてやってくれよ~怒ってないからな」

 

 頬を引っ張られて涙声になりつつもどこか嬉しそうなターボと、ちゃんと加減しながらかまってあげる3人にほっこりしながら俺はストレッチを開始するのであった。右手がガガガガガガ・・・・

 

 

 

 

 「マスターさん、ごちそうさまー」

 

 「おー、気をつけて帰れよー」

 

 そんなこんなで今日の営業はもう終了、いい時間になったしそろそろ閉めるかね。と看板を引っ込めて暫く。空が茜色に染まった時のことだ。ちょうど俺が洗い物を全て片付けて今日最後のコーヒーをキメようとしたとき、ドアの前に小さな影が二つ、まるでトーテムポールかのように並んでいるのを発見した。

 

 「み、見つかってないよね・・・?」

 

 「キタちゃん、もっと詰めて、見えないよ~・・・」

 

 「わ、ダイヤちゃんおしすぎ・・・」

 

 「だって見えないんだもん~」

 

 ・・・頭隠して尻隠さずどころか全身丸見えの影二人分はどうやらウマ娘であるようだ。それもニシノフラワーより年下くらいの、つまり小学生。ウマ娘でここまで仲がいいのは珍しいかもしれない。1学校に10人いたら多いといわれるくらいだからなウマ娘は。シルエットを見る限り見たことはない。俄然気になってきたぞ。

 

 どうやら俺のほうを見ずに言い争いというかプチ喧嘩をしてるらしい二人に気付かれないようにドアにそっと近づいて開ける。ドアの先には活発そうなショートの黒鹿毛のウマ娘と大人しそうな鹿毛のウマ娘がちょうど開いたドアを見ているところだった。うん、身長的にどう見ても小学生だね。私服だしトレセン生ではなさそうだ。

 

 「えと・・・その・・・」

 

 「あの・・・」

 

 「うーんと、びっくりさせてごめんな。俺はここの店でマスターやってるもんだ。申し訳ないけど今日はトレセンのウマ娘以外には定休日でね。もしここに来たいって思って来てくれたんならお父さんやお母さんにお願いして予約してほしいんだけど・・・」

 

 「「ご、ごめんなさい!!!」」

 

 二人のウマ娘は怒られると思ったのか勢い良く頭を下げた。そして同時に俺にとんでもないレベルで罪悪感が募っていく。心が痛いので訳を聞くことにしよう。

 

 「ああいやいや、怒ってるわけじゃないから。それでなんだけど、二人はどうしてこの店に来たのかな?」

 

 「はい、えっと私はキタサンブラックっていいます。その、この喫茶店がレースに出てるウマ娘と会えるって聞いて、その・・・」

 

 「サトノダイヤモンドです。どうしても行ってみたくて・・・」

 

 「なるほど、来てしまったと」

 

 そういうことなら、というかちょっとうれしいな。ウマ娘ありきとはいえこんな小さな子たちまで俺の店のことが広まってるなんて・・・今の時間的にもギリギリだな・・・?まあ行けるか。

 

 「ま、そういうことならちょっとだけ入っていくか?飲み物くらいはおごってあげるよ。帰るなら気を付けて帰ってくれ」

 

 俺がそういうと二人は同時に顔を見合わせて目をぱちくり、耳をパタパタ。言われたことを信じられないみたいな感じだ。けど戸惑いもあるのだろう、二人で頬をくっつくほど近づけてこそこそと話し出した。仲がいいようで大変よろしい。内緒話のようなのでちょっと離れて待っててあげる。

 

 「キタちゃん、どう思う?」

 

 「あやしいんだけど・・・でもこれを逃したら・・・」

 

 「うん、もう入れないかもしれない・・・」

 

 「「うう~~~~ん」」

 

 悩んでる悩んでる。というかちょっと声が聞こえてるのが微笑ましい。やがて意を決したようにシンクロして顔をこっちに向けた二人は

 

 「「お願いします!」」

 

 「よし、ホースリンクへようこそ。中へ入ってくれ」

 

 そうしてドアを開けて二人を案内する俺。キタサンブラックは瞳を輝かせて、サトノダイヤモンドはおっかなびっくりドアをくぐってすぐに歓声を上げた。

 

 「すごい!蹄鉄がいっぱいかかってる!」

 

 「もしかしてこれがネットに書いてあった、レースの時につけてた蹄鉄ですか!?」

 

 「おお、よく知ってるね。そうそう、なんだか知らないけどレースの時に履いてた蹄鉄をうちに寄付するのが流行ってるらしくてね。さすがに数が多くなってるから仕舞ってるのもあるけど一人5個くらいは飾ってあるはずだよ」

 

 「「わああああ!!!」」

 

 子供は現金だなあ。というか蹄鉄見て喜ぶなんてさすがはウマ娘。と思っていると二人とも何かを探しているような感じだ・・・なんだ?いや、誰が履いてた蹄鉄か確認したいのか?ということはいわゆる推しというやつがこの二人にもあるんだろうか。

 

 「誰の蹄鉄か気になる?それとも誰かのファンなのかい?」

 

 「はい!私、トウカイテイオーさんの大大大ファンなんです!だからどこかにかかってるのかなって!」

 

 「私はメジロマックイーンさんが好きなんです!あの、どこかにかかってますか?」

 

 「へえ、テイオーとマックイーンの・・・もちろんかかってるよ。テイオーは右端、マックイーンはその隣だ。ほら、あそこ」

 

 俺が指をさして二人の蹄鉄を示した瞬間まるで瞬間移動のように二人はテイオーとマックイーンの蹄鉄のもとへ行って釘付けになった。あそこまで熱心だとちょっとサプライズしてやりたくなるな・・・よし、今日確か二人はスぺの遠征についていってるゴルシとトレーナー以外はフリーだったはずだし、ちょっといたずらしてやれ。

 

 というわけで蹄鉄に夢中な二人を置いて厨房に引っ込んだ俺は素早くスマホでメールを入れてテイオーとマックイーンを呼び出すことにする。まあ今日のデザートの処理に付き合えって言えば来るだろ・・・って返信はっや。二人とも食いつきすぎだろ・・・まあいいや。とりあえず今いるキタサトコンビ(省略)にテイオーとマックイーンがいつも飲むドリンクを出してやろう。あとついでに倉庫を・・・あったあった。

 

 というわけでドリンクははちみーとトレセン内で呼ばれている蜂蜜をメインにしたドリンクだ。正直屋台やスタンドで売ってるものは蜂蜜がたっぷり入ってるせいでくどく感じるのでホースリンクではレモネードをベースにして蜂蜜の甘さを引き立てるような作り方をしている。もちろん蜂蜜の多さは調節可能だ。

 

 というわけでキタサンブラックはテイオーの好みの固め多めダブルのマシマシ、サトノダイヤモンドはマックイーンが好きな柔め薄め少な目という正反対のはちみーを作ってさっき発掘した少し古びた蹄鉄をもって二人のもとへ行く。

 

 「満足したかい?」

 

 「あっ!夢中になっちゃった・・・」

 

 「あの、マスターさんごめんなさい。貴重なものだったからつい・・・」

 

 「いいっていいって。そんでこれ飲み物ね。俺のおごり、はちみーっていうんだけど知ってるかな?キタサンブラックちゃんのはテイオーが、サトノダイヤモンドちゃんのはマックイーンがよく飲んでる味だ」

 

 「テイオーさんの・・・?」

 

 「マックイーンさんが好きな味、ですか?」

 

 「そ、二人とも常連だからね。どういうものが好きなのかは知ってるよ」

 

 マックイーンに至っては開店前に高頻度で来るしな。テイオーも結構来るけどマックイーンが一番売り上げに貢献してるといっても過言じゃない。さすがメジロのお嬢様はお金持ちですねぐへへへへへ。二人が興味津々ではちみーについてるストローに口をつけて中身を吸う。こくん、と飲み込んだ二人が顔を合わせて声をそろえ

 

 「「おいしい!」」

 

 「そりゃよかった。ついでに倉庫からこれ持ってきたんだ。何だと思う?」

 

 「それって・・・」

 

 「蹄鉄、ですか?」

 

 キタサンブラックとサトノダイヤモンドに古びた蹄鉄を渡す。不思議そうに蹄鉄を眺める二人に向かってネタ晴らし。

 

 「それね、テイオーとマックイーンがメイクデビューで着けてた蹄鉄。そういえばもらってたからさっき掘り出してきたんだ」

 

 「「えええっ!?」」

 

 「ま、俺も色々知ってるし話してあげたいんだけど。そういうのは本人から聞くべきだからね、ねえ?」

 

 「本人・・・?」

 

 「ですか・・・?」

 

 「もー!何なのさテンチョー!裏口から入ってこいだなんておかしいよー・・・?テンチョー、その二人だれ?」

 

 「あら?見覚えが・・・たしかサトノ家の娘さんでしたわね?マスターさん、どういうことか説明してくださいまし」

 

 「テイオーさんだ・・・!」

 

 「マックイーンさん・・・!」

 

 俺の後ろからタイミングを見計らったように登場したトウカイテイオーにメジロマックイーン、私服姿の二人は本来俺の店にいない小学生二人組に首を傾げていたのでここで説明を挟んでおく。二人のファンらしいのだけどうちを見に来たついでということで会わせてあげたくなったという話をすると得心顔の二人は

 

 「へー!僕のファンなんだね!僕は無敵のトウカイテイオー!君の名前は?」

 

 「キ、キタサンブラックです!あのあの、デビューからずっと応援してます!」

 

 「ありがとー!キタちゃんかあ・・・よろしくね!」

 

 「メジロマックイーンですわ。サトノ家のご令嬢と会えるなんて光栄ですわね。いつも最前列で応援していらっしゃるでしょう?覚えておりますわ」

 

 「は、はい!サトノダイヤモンドです!天皇賞、すごい走りでした!憧れてます!」

 

 「ダイヤさんと仰るのですね。ふふ、ありがとうございます」

 

 「ああ、そうだ二人とも、日曜日ならいつでもおいで。トレセン学園の生徒専用の日だけど二人は特別に入れてあげるよ。ただ、ご両親の了承は得てから来てね?」

 

 と言いながら今日余ったジェラートを4人分まとめて出す。どうせ明日は別のもん作るんだし余らせてもしょうがない。廃棄するのももったいないから食べてもらえるのならそれが一番いい。本来ミルクジェラートだったんだがさっきキャラメルと混ぜてキャラメルジェラートに変わっているそれを歓声を上げてパクつきだす4人、と思ったところでキタサンブラックのスマホが鳴った。真っ青になったキタサンブラックが電話に出る。

 

 「お、お母さん!?ごめんなさいちょっと遠くまで遊びに来てて・・・うん、うん・・・どこってえっと・・・」

 

 あーこれは怒られるやーつ。というか100%俺のせいなのでキタサンブラックに電話を替わってもらって事のあらましを話す。最初は誘拐犯かと疑われたがサトノダイヤモンドがとっさの機転でビデオ通話に切り替えたことにより映ったテイオーとマックイーンのおかげで事なきを得た。さらにダメ押しはマックイーンの

 

 「良ければ私の車で送迎いたしますわ」

 

 という鶴の一声だった。いやー何とかなった!というわけでジェラートを食べきった4人が楽しそうにマックイーンの執事さんが運転する長いリムジンに乗って帰っていった。ついでにメイクデビューで二人が履いてた蹄鉄を見つけたテイオーとマックイーンが

 

 「テンチョーこれキタちゃんにあげていい?」

 

 「マスターさんこの蹄鉄ダイヤさんに差し上げてもよろしいかしら?」

 

 といってきたのでしまっておくより断然そっちのほうがいいと思うので二人にプレゼントすることにした。最初は拒否してたけど強引に渡されて受け取った二人の嬉しそうな顔で俺まで笑顔になっちまったよ。今日は新しい出会いがあって楽しかったな。さてさて、明日の仕込みをしないとっと。

 

 俺は明日のメニューとくる奴を考えながら冷蔵庫の中身を確認するのだった・・・やっべニンジンあと少しじゃん。




 というわけでこの小説ではキタサトコンビはロリのほうで行きます(鋼の意思
 次はだれを書こうかなあ

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