これは、御舟高志朗という剣客の修練の一幕。
『寝るな! 眠れば、死ぬと思え』
高志朗の祖父・陣七の怒号が飛ぶ。
剣道場で正座をしているわけでも、雪山で吹雪の中遭難しているわけでもなかった。
──暖かい布団の中で、高志朗は瞑想していた。
『人間は、心地良いと睡魔に襲われる生き物だ。たとえ疲れていなくとも、眠気を催す──喝だ馬鹿者!! いま寝たな貴様!』
『痛いっ! ……勘弁してくれ、御祖父』
『ならぬ』
『せめて目を開けさせてくれよ。これじゃ俺もいつ寝るか分からん』
真冬の夜。暖かい布団の中で寝転がり、何もせずに目を閉じる。寝るなという方が難しい。
正直、そのまま爆睡してしまいたい気分だったが、横に居る鬼の館長がそうは問屋が卸さない。
先程から幾度も、竹刀で額を叩かれている。訳も分からないまま眠りに落ち、訳も分からないままぶっ叩かれる。
この条件下で、意識を完全に保ちつつ、朝を迎えることが今回の修練内容だった。
『人間の三大欲求の一つ、その一角を克服してみせろ。
精神力を高めるための特訓は幾つもあるが、これは身近にできる最たるものだった。
邪念を打ち払うための精神修行、その一つがこれだった。
『“個性”【剣気】はただ身体能力や剣の切れ味を引き上げるだけに非ず。精神力を高めるものでもある。
普通の人間が耐えられない事を、耐えることができる』
御祖父が言うには、“剣禅一致”。
生きるか死ぬかの狭間を行き交い、厳しい状況の中で修練をすることが“剣”であるならば。
極限の中、抗えない人の欲求から来る邪念を打ち払う精神修行が、“禅”であると説く。
『“個性”には様々な系統の能力が存在する。
戦闘に特化した“個性”に対抗するには、当然ながらそれを凌ぐ戦闘力があれば事足りる。
だが、“心”を鍛えるのは容易ならぬことじゃ。
百戦錬磨の強者、天下無双の豪傑でも、心だけは、常人の域を出ない。外敵には強力な“個性”でも、己自身に打ち克つことのできる者は意外と少ない』
欲求を制することこそが、更なる高みへと昇る鍵になる。
『そうじゃな……感覚としては、己の中にもう一人の己を作れ。双方全くの別個体として考えよ。
そして、お前が間違った道を行こうとしたとき、もう一人の己に止めさせよ』
『いや訳分からん』
『飽くまで感覚。……いまの“個性”社会、単純な戦闘力が重視されておるが真に恐るべきは、精神に干渉してくるような“個性”じゃ』
高志朗は、いままでそんな“個性”を持った者と相対したことは無かったため、想像はできなかった。
『対策しておけ』
第二種目本選の騎馬戦。
開戦の火蓋はすでに切って落とされているにも拘わらず、1000万
いや、静観と言うよりは話し合いというものに近かった。
そのチームは、高志朗を騎手とする、御舟チームであった。
「まぁ色々と思うところあるだろうが、事ここに至っては一蓮托生。
普通科の、異論は無いな?」
「……もう始まっちまってるのに、何聞いてんだ」
「お前……!」
いけしゃあしゃあと宣う心操に、それはこちらのセリフだと彼を睨みつけたのは拳藤。
「普通科の、あまり仲間を煽ってくれるなよ。お前さんの目論見が失敗した以上、俺の指揮下に入るのだからな。
──従ってもらわなければ困る」
「……分かってる。──あと俺は心操だ。その呼び方は、何か嫌だ」
「すまんな、名乗られなかったものでな。あの時も、今回も……」
「……っ」
少々の嫌味で対抗しなければ、この卑屈そうな男とは付き合えないと判断した高志朗は、馬上で腕を組んでそう言った。
他の騎馬は、当然ながらチーム決めの際に作戦決めをおこなっていた。
やはりと言うべきか、戦いの最中に作戦を立てる議論を交わすのはタイムロスという他無い。
全部の騎馬が最高得点である1000万を狙っているわけではないものの、その場に留まっているのは御舟チームだけだ。
配置についても、碌に熟考せずに決定した。
それでもチーム内で最高得点を保有していた高志朗が騎手なのは、拳藤と取蔭の望むところであったためだ。そのため、ただでさえ謀を看破された心操の意見が入る余地は、一切無かった。
「時間が無い。“できること”の把握だ」
静かに低い声で指を差された左後方の取蔭が口を開く。
「私の“個性”は、体の部位を切り離して自由に操る。【トカゲのしっぽ切り】。いまのところ手、足、頭部、胴体を切り離して動かせるよ。
遠くのハチマキも『手』を切り離して
「切り離した部分はその後どうなる」
「時間が経てば動かなくなる。で、同時に欠けた部分が再生していくって感じ」
「分かった、ありがとう。──で、心操」
拳藤の“個性”は実技入試の際に把握しているため、割愛した。
「……俺の“個性”は【洗脳】。俺の問いかけに返答した人間の意識を支配して、操る。操られる人間は、俺に返答してから解除されるまでの記憶はほぼ抜け落ちる」
「「……!」」
「そうか」
淡泊に頷いた高志朗とは反対に、拳藤と取蔭が色めき立った。
いつの間にかチーム決めタイムが終了していた訳はそれが理由か、と二人は唾を呑み込んだ。
「……質問いいか、御舟」
「いまは“できること”の把握である。
お前さんの【洗脳】にかかっても、その間の記憶を保持し、命令を訊かなかったことに関しては黙秘しよう──話せば長くなるからな。言ってしまえば、気合いだ」
そうかよ、と不貞腐れた心操は騎手の見えない角度で歯を軋ませた。
「最後に……もしかしたら轟チームが俺たちを狙い撃ちしてくるかもしれん」
「は? なんで」
取蔭が困惑を孕んだ笑いを零す。
「まぁ以前、少々の因縁がな。思いの他気にしていたらしいが──さて……と──!?」
「おい……御舟!」
「──足元、凍らされた!?」
目を見開いた高志朗は、前方に居る一組の騎馬と向かい合った。
「轟……」
「御舟……宣言通り、来たぞ」
前騎馬・心操、右後方・拳藤、左後方・取蔭、すべての騎馬の足が、轟の【氷結】により凍らされていた。
「話し込みすぎたな…」
高志朗は腕を組んだまま周囲を見渡すと、意を決する。
接近してくる轟チームを、腕を広げて迎え撃つ体勢を取った。
「御舟! クソ、何とかして融けないか氷!? このままじゃ奪られる──」
「いや、そのままだ。無理に動かんで良い」
「──!」
低下する騎馬たちの士気に対し、冷静に促すと、高志朗はゆらりと両手を目の前で円運動させるように構え────伸びてくる轟の右手を、左手で弾き飛ばした。
「! 周り込め飯田!」
「速い! そうか八百万」
轟チームの足元をふと見ると、騎馬全員の足にローラースケートが取り付けられていた。
基本的にはヒーロー科の武器の持ち込みは禁止されているため、このような物をピンポイントに出せる“個性”など、容易に予想ができた。
しかし、
「……こいつ! 後ろに目でも付いてんのかよ!」
上鳴が驚愕の声を上げた。
ローラースケートと飯田の【エンジン】で、御舟チームの騎手の死角に入りつつ走行するも、轟の伸ばした手は悉くが打ち払われた。
「……回転する視界の中でこうも的確に──野郎……!」
その、速くも力強い手捌きは、高志朗の頭周りに不可視の障壁でもあるかの如く、轟の行く手を阻んでいた。
攻勢が緩んだことを確認すると、高志朗は静かに口を開く。
「砕けそうにないなら──仕方がない。
お前さんら、踏ん張っていろ。騎馬は崩れたら直せば良い──まぁ、この状況で崩れるとは思えんがな。拳藤、足場を頼む!」
「ああもう! どうなっても知らないからな!」
「何かする気だ、逃がすな、飯田!」
「うむ──って何ぃぃぃぃぃっ!?」
将を射んとする者はまず馬を射よ。ここまでは良い、轟チームはそれを実践した形になる。
馬が射られれば将は降りて戦うべし。という、いま思い付いた無茶苦茶──それを高志朗は実践した。
降りてはいないが──巨大化した拳藤の掌を足場に、高志朗は大きく跳躍していたのだ。
そして自分の騎馬を置き去りにした彼の着地場所は──
「馬が動けなければ、将が動けば良いことだ」
「げぇぇぇっ! 空から御舟が飛んで来たぁぁぁぁっ!?」
「ケロっ御舟ちゃん、一体どこから……!」
峰田、蛙吹を騎手とし、障子を騎馬とした異質なチーム。そこに、高志朗は降り立っていた。
肩から生えた触手に体の器官を複製。耳や目で諜報も良し、手を増やして攻撃範囲を広げるも良しの異形型“個性”【複製腕】の障子目蔵。
峰田と蛙吹を比喩無く覆い隠し守っていた彼の触手を、高志朗は着地と同時に抉じ開け始める。目が──赤く灯る。
「御舟……まさかお前が俺たちを狙うとは! クソ、なんて力強さ……抑えられん! 峰田、蛙吹は気を付けろ!」
「ぎゃぁぁぁあっ! 騎馬はどうしたんだよ御舟ぇえ!」
「諸事情により置いてきた」
驚愕する蛙吹と、恐怖でガタガタと震える峰田に満面の笑みを向ける高志朗。
こんないないいないばあは怖すぎる。
『御舟チームの騎手、何と他チームの騎馬に乗り移り、ハチマキをいま強奪!』
『まるで追剥だな……』
「轟くん! 追うのか、追わないのか!?」
「あの野郎……騎馬を置いて自分だけ好き勝手動いてやがる。主審良いのかアレ!」
『──地面に落ちていなければ、なんでもアリよ!』
「う、うぇぇ……」
上鳴の叫び虚しく、主審判ミッドナイトが下した判決は、白だった。
そんなことをしてる間にも、分捕ったハチマキを首に巻きながら、高志朗は再び次の
「そう簡単には行かせないわ──ケロっ!」
「ぉっと──、蛙吹の舌は巧みだが、これだけ近くに居れば読めるぞ」
「ケロっ……離して!」
鞭のようにしなって来た彼女の長舌を掴んで止める高志朗。
相当量の粘液を纏う、しかも動く舌を掴み止めるという行為は、生半可な握力でなければできない芸当だ。
ただこうなると、次の行き先を選別している暇は無かった。
飛び乗った峰田チーム騎馬の障子も、かなりの剛腕の持ち主だ。先ほどは不意打ちで勝ちはしたが、いつまでも敵方を乗せている程この馬は大人しくないはず。
「戻るか」
「あ、待てコラ! ハチマキ返せちくしょぉぉぉぉっ!」
峰田の悲痛な叫び声は、しかし騎馬戦の喧騒に消えていった。
峰田チーム 415
御舟チーム 430
緑谷・麗日・発目・常闇のチーム緑谷は、1000万
『緑谷チーム、多勢に無勢! だが、寄せ付けない!』
「常闇くん!」
「うむ、【ダークシャドウ】!」
『アイヨッ!』
常闇踏陰、“個性”【ダークシャドウ】。自我を持った影のモンスターをその身に宿す。
その影は質量を持ち、攻撃、防御両方の役割を可能とするもの。
「ちっ、この鳥頭が!」
爆豪の至近距離での【爆破】を受け止める【ダークシャドウ】。
「凄い“個性”だ【ダークシャドウ】。あのかっちゃんをまるで寄せ付けない!」
「光栄だが緑谷、先に話した通り、俺の【ダークシャドウ】の弱点を考慮して動いた方が良い」
彼、常闇踏陰の“個性”には明確なる弱点が存在した。
『俺の“個性”は闇が深い程攻撃力が増すが、獰猛になり制御が難しい。
逆に日光下では、制御こそ可能だが攻撃力は中の下──条件によってムラが生じる』
「切島! もっと近づけや、至近距離でデクの野郎ぶっ殺す! ぶっ殺して、1000万を獲る!」
チーム決めの際、常闇が説明したことを反芻した緑谷は気づいた。幼馴染の“個性”に付属する物、それは──
「【爆破】の光……」
「その通りだ」
爆豪勝己の繰り出す爆裂の拳。その発動時の副次的なものとして、常闇の…【ダークシャドウ】の苦手とする光を発してくる。
「お前は俺に防壁を指示したが、爆豪や電光を内包する上鳴に対して苦手という他無い」
「……常闇くん、
「USJで共に戦った口田のみ──そして、奴は無口だ。誰にも零れてはいないはず」
常闇はあのUSJで、暴風ゾーンに飛ばされた者の一人。彼は同じクラスメイトの口田と共に
「常闇くんは終盤まで温存したい……なら、──麗日さん!」
「うん、デクくん!」
「何かよく分かりませんが、ベイビーの出番と言うことですね!」
サポート科・
障害物競走を生き抜いた唯一のサポート科。
彼女は1000万
あわよくば広告塔として緑谷を利用しようとしている、強かな少女である。
曰く、ベイビーとは発明品のこと、緑谷の背中に取り付けられたメカもその一つであった。
ボタン一つで作動するジェットパックで空高く飛び上がる緑谷チーム。
「逃がすか、デクぅっ!」
「ひぃっ」
「攻めではなく守るように、フルカウル──!」
空中にまで【爆破】で追い立ててくる爆豪の執念深い一撃を、緑谷は腕を交差して受け切った。
「常闇くん!」
「【ダークシャドウ】! 弾け!」
「ハハハ! ヒカリニクラベリャ、タダノベタツイタカミキレダゼ、ウラァ!」
死角から飛んで来たテープを常闇が“個性”で弾き飛ばす。
爆豪が空中で緑谷に攻撃を仕掛けるタイミングを見計らったのだろう。
「ちっ、よく見てやがる緑谷に常闇!」
肘からテープを射出。自身の移動や罠作製。テープの粘着力を利用して対象を巻き取り拘束することも可能。まさに搦め手を得意とする男だ。
『騎馬戦だってのに縦横無尽にぃっ騎馬が! 騎手が! 空中を飛び交い火花を散らす!! これぞ超人社会の体育祭だぁぁっ!
つか全員イレイザーのクラスなんだけど、何かコメントねぇのかYO!?』
『あいつら全員、できることをやってるだけだ。俺は何もしちゃいねえよ』
『クレバー! やはり経験値が別格かA組!
さーあ7分経過した現在のランクを見てみよう!』
各チームが一定間隔で映し出されていたスクリーンに、
「あれ……?」
「なんだ……これ?」
『どうなってんだこれ……A組緑谷と御舟以外、4位圏外だぜ!? どうしたよ! ──つか爆豪!?』
「クソデク……また逃げやがって、追え──…!?」
「爆豪後ろ!」
瀬呂の【テープ】により引き戻された爆豪が緑谷チームへの再突撃を指示するも、背後よりの奇襲に見舞われる。
「──単純なんだよ、A組」
爆豪の1位への拘りは常軌を逸している。ということは、1位しか見えていないものだ。
当然、その隙を突いて来る輩は存在する。
物間チームであった。
「んだコラ返せやぁっ!」
「おかしいと思わなかったのかい?」
「あ゛ぁっ!?」
ドスの利いた声量で物間を威嚇するも、彼は爽やかに、そして暗い笑みを浮かべて言った。
「ミッドナイトが障害物競走を“第一種目”と言った時点で、極端に数を減らすとは考えにくい。
そんなことも分からずに仮初の1位を狙う──まるで目の前に人参ぶら下げられた馬だよ君は」
「……クラスぐるみかよ、小細工しやがって」
「障害物競走で君らを後ろから観察し、次の種目に備えたんだ。──“個性”不明のアドバンテージは揺るがず、君らはこれ見よがしに“個性”を明かしてくれた」
すると、物間は笑みから苦虫を噛み潰したように表情を変える。まるで思い出したように目元を引く付かせる。
「けどまさか、
爽やかな笑みに戻る。
「貰っとくよ、ハチマキ。
「────それは良い案だな、是非とも来て欲しいものだが、生憎と騎手は出払っていてな」
その瞬間、爆豪、物間、両チームの時が止まったように感じた。
布擦れも、着地の音も無かったはずのそこには、御舟チーム騎手・御舟高志朗が、物間チームの騎馬に取り付いていた。
「お取込み中、失礼します……!!」
「──円場っ
「すぅぅぅっ──んぐっ!?」
吐き出した空気を固め透明の壁を作る。足場や箱型も作れる。当然、ガードにもなる。
──今回に限っては不発であったが。
「手が浮いてるぅぅっ!?」
「物間、この“個性”取蔭だ!」
物間チーム騎馬の一人、回原が看破する。
息を吸い込んだは良いものの、円場の口はある者の
取蔭の“個性は”遠方にも手が届く。高志朗の影に潜み、ここぞという場面で伏兵のように円場の意表を突いたのだ。
──取蔭切奈の、まさに魔の手である。
「良い援護だ取蔭──貰うぞ物間よ」
これでは空気を吐き出せない。
おそらく同じように奇襲で奪ったのだろう、物間の首に巻かれた数本のハチマキを、高志朗は一切の遠慮なく鷲掴みにして一気に引いた。
『うわぁぁぁっ! これぞ本当の漁夫の利かぁっ!!? 騎馬を乗り移り行く御舟!
物間チームが爆豪を奇襲して奪ったハチマキを、根こそぎ横取りっ! こぉの欲しがり屋さんがぁっ!』
「御舟!? ウソなんでこんなとこに居るんだお前!?」
言いながらも【テープ】を射出してくる瀬呂も、高志朗に対して一瞬の隙も与えぬ構えだ。
それを首を少々捻ることで避けた後、跳躍──再び空の旅へと彼は出る。
しかし、それを追撃する者が居た。
「いい加減にしやがれこの──チャンバラ野郎……!」
「来たか、爆豪」
鳴り響く爆発、それに伴い生じる爆風。
追い縋って来たのは爆豪だ。彼は額に青筋を浮かび上がらせ、空中で対面した目の前の下手人を睨みつける。
「俺の
「やはり付いて来るか──なにっ!?」
爆豪は、片手を後ろに、もう片方の手を高志朗に向け、一際強力な爆破を敢行した。
爆破の威力を最大限に活かすための、爆豪の綿密な攻撃方法。それに高志朗は思わず腕で顔を覆う。
──背後の視界に、金髪が映る。
「俺と空中戦やろうなんざ、良い度胸じゃねえか。地に足付いてこそのてめえの荒唐無稽」
「……!」
──これ以上……てめえにでけえツラさせるかっ!
「てめえは
「……やはりやる」
高志朗の首に巻かれたハチマキを、爆豪が背後から掴む。
「────だが、全部はやれんなぁっ!」
大喝。
直後、空中で体を捻る高志朗。
爆豪が触れた瞬間、体を横に回転させた。
「ちっこの……!」
『御舟、渾身の空中人間独楽! 爆豪、堪らず手を引くっ! さぁさぁ
爆豪チーム 660
御舟チーム 845
物間チーム 675
「くそがぁぁぁっ! 追え切島ぁっ!」
「爆豪落ち着け! さっきのB組の奴と違って、御舟はあちこち飛び回ってんだぞ!? そんな神出鬼没な奴を追いかけてたら時間無くなるぞ!」
「おぉぉぉぉ……! クソが! なら1000万行け!」
「そこは引くんだ……やっぱりこいつ、性格アレだけど冷静ではあるんだよなぁ」
「ただいま」
「ただいまじゃねえよお前! どれだけ心配したと思ってる!? いつ落ちるかヒヤヒヤしたぞ……」
「すまんな」
騎馬を取っかえ引っかえしてようやく自分のチームの騎馬に戻って来た高志朗は、早速拳藤に怒られる。
確かに団体競技でこのような単独行動をされれば怒る、いや困惑するのは当たり前だった。
しかし、高志朗の首に巻かれたハチマキを見ると彼女は押し黙る。
「430と415、それに380。
計1225
「大漁じゃん御舟、やりぃ」
「物間のハチマキを獲れたのはお前さんのおかげだ、取蔭」
「まぁ?
得意そうに胸を張る取蔭。
「結局、俺の力は必要ないってか」
心操がそう呟いた瞬間だった。
高志朗は、後ろから俊敏に伸びて来た緑色の蔓を掴み取った。
「やはり、休ませてはもらえないか」
未だに融けない氷で地面に縫い付けられた自分の騎馬を見て、高志朗は溜息を吐く。
「俺が騎馬から離脱したことで、轟チームは
後ろから奇襲をしかけてきたのは、B組のみの編成で高得点を維持している鉄哲率いる騎馬だった。
掴んだ蔓を引っ張ると、途中で切れて地面に落ちる。
「御舟大丈夫か! お前、血が……!」
「──まるで茨の鞭だな」
掴んだ方の掌の数か所から血が滴った。
「拳藤、取蔭。お前らには
「私の【ツル】を掴むなど、なんて恐れ知らずな方なのでしょう。お噂通り、型破りなのですね」
虚空を仰いで祈るように目を瞑る少女。
高志朗が掴んだ蔓は、どうやら彼女の髪を形成するうちの一本だったようだ。
取蔭が冷や汗をかきつつ言った。
「気を付けてよ御舟。このチーム、たぶん正面戦闘なら
「保有
「ああ、おかげで乱戦に次ぐ乱戦。まだまともに奪れてねえ」
少しずつ間合いを詰めてくる鉄哲。
塩崎も、先ほどのように単一ではなく、束ねられた茨の髪を無数に広げていく。
高志朗は不敵に口元を歪ませた。
「心操、お前さんの出番だ」
「…ああ」
轟チーム 1065
緑谷チーム 10000320
緑谷チームが爆豪の攻勢を退け、ある程度の戦線を離脱した後のことだった。
標的を御舟チームから1000万を持つ緑谷チームに切り替えた轟チームは、苦戦を強いられていた。
また緑谷チームも、途中サポートアイテムのバックパックが不具合に見舞われ、行動範囲が狭まることを余儀なくされた。
轟はその機を逃さず、【氷結】でこれを囲う。
後ろは場外、それ以外は氷の山に阻まれ、緑谷チームの戦線は背水の陣と化していた。
「キープ!」
しかしそれでも接近しないのは、騎手のフィジカル面を警戒してのこと。
更に轟の【氷結】は、基本的には地面を伝わせていく能力だ。
八百万の創った長物を介し、凍らせていくもの。
そして轟の持ち手は右手──それに対し緑谷チームが対角線状に位置をずらすという行為は、完全に【氷結】を警戒、対策してのことだった。
(あの位置じゃ最短で凍らせようにも飯田が引っ掛かる)
『轟、緑谷を氷で完全包囲! このまま1000万即奪取! ────とか思ってたよ!
何と緑谷、この狭い空間の中を5分間守り切っている!』
(野郎……!)
「皆、残り1分弱……この後、俺は使えなくなる。頼んだぞ」
「……飯田?」
脹脛のマフラーが唸り始める。
怒る様に、挑むように……
「本当は…御舟くんとの戦いに備えて取っておきたかったのだが……」
軽業師のごとく飛び回る高志朗が、轟チーム全員の頭を過る。
「成功すれば1000万──もはや惜しまん! 奪れよ轟くん!
トルクオーバー!」
レシプロ・バースト
氷山の戦場。この狭い空間は、一瞬にしてその間合いを詰め寄せた。
地面が縮んだような感覚に囚われた緑谷は、1000万なれど、ハチマキの一張羅。
それを──奪られた。
『な────!!? 何が起きた!!?
速っ速────!!
飯田、そんな加速があるんなら予選で見せろよー!』
「トルクと回転数を無理矢理上げ爆発力を生んだのだ。反動でしばらくするとエンストするがな。
クラスメイトにはまだ教えていない裏技さ」
『ライン際の攻防! その戦いを制したのは────轟チーム!
そして緑谷チーム、急転直下の
「フルカウル──8%……行って、常闇くん」
「緑谷!? しかし上鳴の“個性”が──」
再び紫電を纏う緑谷に、尋常ならざる雰囲気を感じた常闇は口を噤む。
何にせよ、これでもう後は無くなった。ならば騎手である緑谷に、最後は託すしかない。
フルカウル8%でも防げなかった飯田の超加速。ならこちらも意表を突く行動をしなければ奪還は叶わない。
「僕を守って、常闇くん」
「……まさか」
「麗日さん」
「デクくん……?」
『残り10秒!』
「僕を浮かして! 轟くんに──僕と【ダークシャドウ】だけで突っ込む!」
(御舟くん、借りるよ──君の戦法!)
騎手が自分の騎馬を離れ、敵の騎馬に飛び移る。
口にすれば簡単で、実践すると困難極まる。
如何に騎馬を崩さないように着地するかが、このトンデモ戦法の肝だ。
足のバネを使い、更に着地の際にぐら付く騎馬の上でバランスを保たなければならない。
「いっけぇぇっ!」
「【ダークシャドウ】、緑谷を全力で援護しろ! おそらくこれが──最後の突撃だ!」
「──緑谷が来たぞ!?」
「飛んで来ましたわ! お気をつけて、轟さん!」
──空中から。
「上鳴!」
「おうよ!」
『サセネエヨ!』
【ダークシャドウ】が上鳴の放電を一身に受ける。
ほぼ同じタイミングで、緑谷は来た。
「上鳴、途切らすな!」
「うぇ……うぇ~い」
「轟くん……返して、貰うぞ!」
「飛び乗る気か! ここで奪えても、落ちたらアウトだぞ緑谷くん!」
飯田の指摘ももっともだ。しかし、緑谷は轟の被る絶縁体を取り払い、ハチマキに手を伸ばした。
「────時間内に落ちなければ、良いぃぃぃぃんだぁぁぁぁっ!」
騎馬戦は実際にやっても楽しい。
やっぱり物間くんみたいな漁夫の利狙いがスタンダードだった。戦場の中心には絶対行かないようにしていました。
タイマンやってたら第三者に気を付けなきゃならないし。
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トーナメント表、挿絵投稿にするしかないのか……