雄英剣風帖   作:剣鋭

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間が空きすぎていままでの話が吹っ飛んでる読者が大半だと思います。すみません!

職場辞めてしまった人の引継ぎが大変で……

まぁ言い訳はいいですね。ちなみに、トーナメントは次話から行きたいと思っています。組み合わせだけ御覧ください。


第十二幕 臨戦、最終種目

「と、奪ったぁぁぁ────っ!!」

TIME UP!!

 

 自らの手に確かな手応えを感じた彼は、終了の合図と共にそのまま地面へと落下した。

 

 握り締めた掌に伝わる布地の感触。その身が五体投地しようとも、その手に全神経が集中していた。

 

「よし、これで──」

 

 ──しかし、奪ったハチマキに記されていたのは、610(ポイント)。轟から奪った物は、狙いの1000万ではなかったのだ。

 彼は緑谷出久。今回の騎馬戦において1000万(ポイント)を保有することとなったため、多くの敵に狙われるという不運に見舞われた台風の目だ。

 

「そんな……じゃあ僕らの(ポイント)は、610」

「轟チームの初期(ポイント)だな。まんまと謀られたか……」

「……常闇くん……皆、ごめん!」

 

 610(ポイント)では、ギリギリ4位以内には入れない。地面を強く叩く緑谷に、麗日が駆け寄った。

 

「デクくん、また来年頑張ればええよ。ベストは尽くたしさ!」

「うむ。それに、緑谷の追い込みは轟も参っていたようだぞ。いままで見せなかった炎の熱気が、【ダークシャドウ】を焼いたほどだ」

 

 上鳴の電撃に続き、轟の炎熱に晒されるも騎手を守るという大任を全うした常闇でさえも、緑谷を称賛した。

 騎馬に乗り移られ、敵騎手に喉元に肉薄された時の轟の驚愕の表情は、いまを以ても思い出す。

 

「緑谷のあの捨て身の戦法、俺は感服したぞ」

ドコヤビグン……!

 

 涙と鼻水を垂らす緑谷に、常闇は背を叩いて励ます。

 

「泣くな緑谷、さあ、共に総合成績を拝見しよう」

『さーさあ! 上位4チーム見てみようか!

 

 

 1位轟チーム! (ポイント)1000455!』

「御舟にも使ったことが無ぇ、()を。俺は何を……っ」

「緑谷くんの機転に圧倒されてしまった。御舟くんだけではない、俺も精進せねば……!」

「絶縁体も取り払われ、ああも容易く騎手の接近を許してしまうとは…緑谷さん、まさに妙手ですわ」

「うぇ~い」

 

 轟は右手を握り、己の行いを恥じ入る。

 飯田は、新たな敵手の出現に更に己を磨くことを誓い。

 八百万は自身の思考判断の鈍重さを省みた。

 

2位御舟チーム! (ポイント)1930!』

「1000万には手を付けられなんだ…」

「開幕凍らされたからねー。ぶっちゃけ諦めかけたわ」

「鉄哲たちにはちょっと悪いことしちゃったかな…」

「……」

 

 チームの勝利を喜ぶも、大台へ乗れなかったことに口惜しくする高志朗。

 一方1000万という法外な数字よりも堅実に数字を増やしていた、間違いなく今回MVPである彼の両肩を揉んで労わる取蔭。

 級友の4位通過を実質奪ってしまったことに少々の罪悪感を感じる拳藤。

 

3位爆豪チーム! (ポイント)1195!』

御舟殺す御舟殺す御舟殺す

「呪いの言葉かよ! 怖ぇよ爆豪!」

「まぁ結局御舟(あいつ)(ポイント)奪り切れなかったからなぁ。おまけに思わぬ邪魔が入って1000万にも行けなかったし」

「あーもう疲れたぁ! あのボンドみたいなのネバネバしつこすぎ! 溶かすの一苦労だったよー!」

 

 漁夫の利の漁夫の利を高志朗にやられた爆豪は、奴もはや許すまじと、可動範囲の超えた双眸で憤怒する。

 瀬呂はその怒りを呪言のように垂れ流す爆豪に慄き、

 彼の一番になるという渇望を知る切島は当然かと、肩を竦めた。

 

4位てつて……緑谷チーム!? (ポイント)610!!』

「ぇええええっ!? 通過したぁぁぁっ!?」

「痛い、夢やない。え、なんで?」

「直前まではB組のチームが705(ポイント)で4位をキープしていたはず……一体何が?」

「無理もありません、終了間際になって、2位の人のチームの(ポイント)が大幅に加点されましたからね」

 

 緑谷は、困惑と驚愕と歓喜で涙腺の栓がぶっ壊れ、

 麗日は自分の頬をつねって夢か現か判別を試みる。

 あの冷静な常闇踏陰ですらも、動揺を隠さずにいた。

 

 発目だけが冷静だった。冷静に、ジェットパックをメンテナンスしていた。

 結果的に見れば、鉄哲チームは犬死したことになる。あのまま得点を維持していれば、緑谷チームを押し出し4位通過が叶っていた。

 

「心操、お前さんの“個性”ほど恐ろしいものは無い。よくやってくれた」

 

 高志朗がサムズアップで心操を讃えた。

 

 結果論であるが、御舟チームの騎馬が凍っていなければ、鉄哲が彼を狙うことも無かっただろう。そして、(ポイント)の散り方を把握できていれば…

 

 表示される順位と(ポイント)数を計算し、緑谷は発目の言っていた結論に至る。

 

「御舟くんが…B組の人のチームの(ポイント)を終了直前に奪取したから……!?」

「…なるほど、要因はそれか。我々は4位へ滑り込んだ形になる」

 

 勝負とは時の運なのだろう。

 

「あっ! 飯田くん、あんな超必(ちょうひ)持ってたのズルイや!」

「ズルとは何だ! あれはただの誤った使用法だ!」

 

 緑谷1000万奪取の決め手となった飯田の超加速技に抗議する麗日。

 別の場所では、蛙吹が高志朗のもとへ跳ねていく。

 

「御舟ちゃん、手、大丈夫だったかしら?」

「む、蛙吹か? なんでだ」

「ケロ、私のベロを掴んだ時よ。ピリッとしない?」

 

 高志朗はそれを聞き、申し訳なさそうに頭を搔いた。

 

「すまんな蛙吹。あんな乱暴をするつもりはなかったのだが、思いの他鋭い舌捌きだったものでな」

 

 その技量たるや見事なり、と手を広げて蛙吹を称える高志朗。

 すると彼女は、うっすらと頬を朱に染めて照れながら言った。

 

「ケロ…舌捌き。…じゃなくてね御舟ちゃん。私の“個性”の関係なの。

 ベロを触ったところが痺れたり、おかしなところは無いかしら?」

 

 頬に指を当てて聞いて来る。

 蛙吹の【蛙】には、触れた者を痺れさせる毒性の粘液を分泌することもできる。彼女のベロまたは舌、はその粘液を含む最たる部位であった。

 

「色々なところを掴んだり触ったりしている内に無くなったのでな、大丈夫だ。わざわざ心配ありがとう、蛙吹」

「良かったわ、ケロケロ。それと、おめでとう御舟ちゃん。最終種目頑張ってね」

「ああ、お前さんの分まで勝つ」

 

 ニッコリ笑顔の蛙吹に、高志朗も釣られて笑った。

 

 


 

 

 昼休憩──雄英高校食堂。

 

 第二種目である騎馬戦も終わり、選手たちにとっての束の間の休み。

 雄英体育祭という一大イベントで、ランチラッシュの手がける料理もいつになく気合いが入っていた。

 

 そんな中、騎馬戦終了の流れで拳藤、取蔭と食事を摂っていた高志朗が居た。

 しかし途中、彼女ら二人の元に他のB組女子の面々が集まり、その場は半ば会食の場と化していた。

 

「一佳と切奈が騎馬戦A組と組むのは予想外だったノコ」

「B組から二人も離反者が出たーって感じでさ、物間がかなり恨めしいことになってたよ?」

「アハハ…悪いな二人とも。せっかく誘ってくれたのに」

「……まぁ、一佳が良いなら私は全然気にしてないよ」

 

 申し訳なさそうに頬を掻く拳藤。

 騎馬戦の組み合わせは、何も拳藤と取蔭はB組であぶれたわけではない。

 

 両目を隠す茶髪でロングボブの小森希乃子(こもりきのこ)

 

 一方こちらは、左目が隠れ、灰色の髪。目の下の隈が特徴的な柳レイ子(やなぎれいこ)

 

 彼女たちは、騎馬戦で最初に拳藤と取蔭をチームに誘ったのだ。

 横で黙々と刺身定食を食す高志朗を、取蔭が笑いながら指を差す。

 

「いやー、御舟(こいつ)がどうしてもって言うんで、仕方なく? 可哀そうだったから組んだというかー? ね?」

「…おい、捏造はいかんだろう」

「いやいや、実際アンタ私らが拾わなかったらぼっち確定だったからね?」

「言い返せない…おい拳藤、取蔭がイジメてくるぞ。委員長だろ何とかしろ」

「私に振るのか……あーもう、切奈もそうやって嘘言わない」

 

 取蔭が観念したように肩を竦めた。

 

「まぁ、半分冗談。騎馬戦の(ポイント)、殆ど御舟が奪ったやつだったから──勝ち馬に乗ったのは、むしろ私らの方」

「ソウイエバ、イツカさんたち轟クンに凍らされてマシタ。なのに2位通過は、とってもグレイトだとオモイマス!」

 

 ブロンドのロングヘア―にひょこりと生える立派な角が特徴の、同じくB組の角取ポニーが高志朗を称賛した。

 返答として会釈する。

 

「あ、どうも。しかしB組は留学生も来てるのか、A組(うち)のと負けず劣らずの個性的なクラスだな」

「しかもポニーは本場からだよ」

「おいおい、つまり英語はペラペラというわけだ」

 

「──御舟、ちょっと良いか?」

 

 ふと、後ろから声が掛けられた。

 振り返ると、そこには上鳴と峰田が立っていた。

 

 


 

 

「B組女子にチアガールの恰好をさせろだと?」

「頼む! B組に伝手があるのはお前だけなんだ!」

 

 懇願するように乾いた音が食堂の隅で鳴る。

 この雄英体育祭という行事で、高志朗も本場アメリカから呼び寄せたチアガールたちのことは聞き及んでいたし、先ほども目撃した。

 

 ただその真似事をヒーロー科の女子全員にやらせたいという、煩悩コンビの愚行。いや、煩悩が彼らの普段使っていない脳みそをフルに回転させ、ここまでの段取りを組めたのだろう。

 

 話によると、すでに八百万以下、A組の女子には伝達済みだという。

 

「B組もとは欲張ったな」

「お前にだけは言われたくねえ」

「雰囲気イケメンのお前の協力なんて、この大事が無ければオイラは上鳴(こいつ)と強行してたぜ」

 

 ──食堂にて。

 

『八百万、耳郎』

『あんたら……なに?』

 

 二人を呼び止めると、本場アメリカから来たチアガールたちを指差し、峰田が言った。

 

『ご、午後は女子全員ああやって応援合戦しなきゃいけねえんだって!』

『そんなこと、私たちは聞いていませんけれど……』

『信じねえのも勝手だけどよ……

 

 相澤先生からの言伝だからな』

 

 二人の説明に八百万は信じかけたが、隣に居た耳郎が、怪訝に思ったのか少し考えた後、あることを提言した。

 

『学級委員長のヤオモモに伝わってないっておかしくない? 副委員長ならなんか知ってるかもね。ちょっと後で聞いてみよっか』

『良いお考えですわ、耳郎さん。御舟さんならば、相澤先生ともよくお話をされていますし、何かご存知かもしれません!』

 

 両手を合わせるように叩き、それは名案と嬉々とする八百万。

 

 耳郎の考えは八百万とは別にあるのだが、委員長の賛同を得られたのならば互いの意図の違いも些細なことだ。それに彼女自身、この二人が相澤からそのようなことを託ることに疑念を感じていた。

 

 当然ながらそのときの上鳴、峰田の顎は外れんばかりに大口が開いていた。

 ──回想終了。

 

「──ってことでさ。俺たち、お前の救けが無ければこのまま吊るされる運命が待ち受けてるんだよね」

「知らんわ。吊るされるなり、磔にされて石を投げられるなりすれば良い。大体、どうしてB組も巻き込むのだ」

 

 くだらん、と踵を返して食堂に戻ろうとする高志朗を、峰田がこそりと、しかし語気を強めて言った。

 

「チアガールだぞ。B組も合わされば場が更に盛り上がること間違い無しなんだぞ!」

 

 その言葉に数秒考え、高志朗は舌を打った。

 くだらんと言った手前であるが、彼もこういった事に興味が無いわけではない。

 

 剣の修練に明け暮れた幼少期と少年期。女っ気も無い、血と汗と涙の日々。

 

 青春がしたい。

 担任が聞いたら顔をしかめ、言うだろう。

 

 ──そんな暇は与えない、再び壁を用意するゆえ乗り越えて行けと。

 

 しかし見よ、上鳴と峰田の希望の星を見るような瞳を。その目に映るのは、煩悩に塗れた光景。

 すなわちA組とB組に名を連ねる女たちの晴れ姿(チアガール)。その誰もが、平均を遥かに超える見目麗しい女子生徒たち。

 

「偽りとはいえ相澤先生の名を使う辺り流石と言ったところか…」

「じゃあ……」

「しかし俺は乗らんぞ。その泥船はお前さんたちが乗り潰すがいい。そもそも、すでに耳郎に痛いところを突かれているじゃないか」

「そこを御舟がなんとかするんだろ! 頼むよ、この通り!」

 

 そこは諦めろよ、と自ら危ない橋を渡ろうとする二人に溜息を吐いた。

 

 ──そして、高志朗は戦慄した。

 

 峰田と上鳴、その後ろに居る彼女たち(・・・・)に、だ。

 気付かぬ彼らを思い、高志朗は頭を搔くと、口を開く。

 

「……お前さんら、悪いことは言わん。いまからでも遅くはない、事実を彼女たちに話して謝罪しよう。な? いや割と本気で」

「んだよ、剣豪御舟ともあろう男が随分と弱気じゃねえか。お前だって見たいんだろう? いや、健全な男子なら見たくないはずがない! オイラは見たい、いや見る!」

「耳郎たちがお前に確認に来る前に、わざわざ昼抜いてまで来たんだ。クラス副委員長のお前が言えば女子も従うだろ? ついでにB組も」

「あぁ……」

 

 言い切ってしまった。

 高志朗は、頭を抱えていたその手で二人に合掌した。

 

「…南無三」

「──確かに、御舟に言われたら信用しちゃってたかもね」

「耳郎ぉっ!?」

「耳郎さんの言う通り、峰田さんの策略でしたのね。なんと卑劣なっ。危うくまた良い様にされてしまうところでしたわ!」

「や、八百万まで!?」

 

 八百万と耳郎が、腕を組んで下手人二名の背後に立っていた。しかもそれだけではない、

 

「B組の女子にも例の件、聞こうと思ったらさ、御舟が昼食の途中でアンタらに連れてかれたのを見たって言うじゃん」

 

 拳藤を筆頭に、B組女子の面々が峰田と上鳴、ついでに高志朗も取り囲んでいた。

 

「言い逃れはできませんわよ、お二人とも!」

「御舟をダシにして私らも巻き込もうとしてたんだねぇ。欲望に忠実というか、狡猾というか。男ってそういうとこあるよね」

 

 心底楽しそうにしながらも、取蔭が高志朗の肩に腕を回した。

 げんなりした表情で高志朗は口を開く。

 

「念のため言っておくが、俺は無関係だからな?」

「えぇ~? 私分かんなぁい。アンタらが密談していたのは現行犯だし、ここではいさようならってことにはいかないと思うわよ?」

「なんだとっ──」

 

 思わず横を向くと、満面の笑みの彼女の顔があったため、すぐに反転した。

 

「じょ、女子は団結すると怖いと聞くが、本当だったようだな」

 

 すると、捕縛される峰田と上鳴を横目に、輪の中で声が上がった。

 女性陣に再び動きがあったようだ。

 

「ブラド先生に確認取れたよ」

「あ、レイ子ご苦労様」

「うん、一佳。早い話、そんな行事は一切無いって」

 

 その言葉に、ほっと安堵の息を吐く拳藤と耳郎。

 

 ブラドキング。拳藤たちB組の担任でありプロヒーローだ。今大会の一年ステージ解説役のA組担任と違い、基本的に教員専用席に居るため、これ程迅速に真偽を確かめることができたのだろう。

 

 膝から崩れ落ちた峰田が悔しそうに地面を叩いた。

 

「くそ! わざわざ担任に聞く奴が出てくるなんて!」

「峰田! お前がB組も入れようなんて言うからバレたんだぞ! A組(こっち)だけならなんとかなったものを!」

「いや、なんともならんかったと思うぞ、耳郎も居たしな」

「ぎぎぎ…くそ、お前がもっと話の早い奴だったなら……!」

 

 密談に加え、お上の証言も取られてしまった。もはやこの二人に挽回の余地は無くなったのである。有罪である、磔吊るし上げである。

 

「あ、でもさぁ、聞く限りだと結構面白そうじゃない? 有志とかでならやっても良いような気がしてきたよ私は」

「切奈!?」

 

 ここで取蔭が指を立ててそう提案した。

 驚く拳藤と対照的に、次に同調したのは、彼女だった。

 

「うん、峰田くんや上鳴くんの考えってさ、もしかして目立つチャンスじゃないかな! 楽しそうだし!」

「葉隠も!?」

 

 もちろん耳郎は反対派だった故に、葉隠の賛成は予想外であった。

 

(そういえば、葉隠は“個性”ゆえかどうか知らないが、目立ちたがり屋ではあったな)

 

 峰田と上鳴のボツ案再燃は予期できなかったが、葉隠の気性は多少なりとも把握していた高志朗は妙に納得ができた。

 その煩悩二人組がお互いに抱き合う。

 

「上鳴、もしかするとオイラたち助かるかも!」

「この案がヒーロー科女子ーズに採用されればワンチャン……?」

「あ、アンタらは後で相澤先生行きね」

「「なんで!?」」

「それとこれとは話は別に決まっていますわ! もうっ」

 

 


 

 

 昼休憩終了。

 

どーしたヒーロー科!? どんなサービスだそりゃ!

「意外と集まったな、女子! 全員じゃないところが残念だけどよ!」

「ヒーロー科サイコー! エロカワイイヤッター!」

 

 八百万製のロープで雁字搦めに縛られ、蓑虫にされるとともに十字架に磔にされる峰田と上鳴はしかし、喜びの余り嬉し泣きをしていた。

 もぞもぞ動きながら歓喜の涙を流す二人は、これが全国中継であることも忘れている。上鳴に至っては最終種目出場者であるにも拘わらずだ。

 

「まさか拳藤も参加するとはな…」

「一応、クラス委員長だからな…有志だとしても、それなりに責任があるんだよ」

「律儀な奴だ。そのような責務、誰も追及はしないだろうに」

「いや……ぷっ、お、お前も人のこと言えないだろっ…くくくっ!!」

 

 A、B組女子、双方で半数以上の応援合戦参加者が出る中、チアガールの仮装をする女子たちの中央に同様の物を着た男が居た。

 その表情はひどく引きつっている。

 

『何やってんだあいつら……』

『つかあのチア服は……御舟ぇ!? 血迷ったか!?』

 

「言いたい放題言われてんね、アンタ」

「取蔭ぇ……お前さん覚えていろよ」

 

 早い話、高志朗は巻き込まれた。

 

 峰田と上鳴、二人の立てた策略に一枚噛んだ。

 ──という罪状のもと、ヒーロー科女子からペナルティを課せられた。主に取蔭切奈の提案である。

 

 高志朗は当初、黒い長ランを身に着けて応援団長をするはずだった。

 

 それでは面白くないと誰が言ったか、この始末。

 いつもの侍風の髪型もそうだが、何より顔立ちが中性的でも何でもないごりごりの男が急に現れたので、周りは大ウケしている。

 

「なんてことだ、俺は笑われるためにヒーローになりたいんじゃないぞ、おのれ……!」

 

 上鳴や峰田のペナルティよりも重いまであるこの状況。

 両手のポンポンを振ってノリノリの取蔭を睨みつける高志朗。

 

「とてもお似合いですわ、御舟さん! 私も衣装を創った甲斐がありました!」

 

 キラキラと目を輝かせる八百万に毒気を抜かれると、自らの困り顔を片手で覆った。

 

「あーそうかい。お前さんらは俺と違って可愛く着れてるよ畜生め。……まったく、俺は着せ替え人形じゃないぜ」

「いやいや、笑えるけど別にダサいわけじゃないから良くね? 本当に悲惨だったら誰も笑わないだろうしさぁ ──ぷふっアッハハハハ!」

「まぁ……お前スタイル良いしさ、着痩せするみたいだし……普通に良いと思う、ぞ?」

「俺の目を見て言うがいい、拳藤」

「……ごめん、笑うから無理っだからこっち見ないでぶっふふ!」

 

 笑われているこの状況を補填してくれたのは、拳藤と取蔭であるが、高志朗の心に救いはあまりなかった。

 

「この後のレクリエーションも出ようと思っていたというのに……」

「え、アンタそれで出るの? ~~っ!」

「……お前さんいま、俺を笑ったな? 笑っていいのは俺と同じ格好をしてる女だけだ、耳郎ぉ!」

「うはっ怒った!」

 

 


 

 

「……」

 

私たちは、クラスの女子を騙して、全国中継でコスプレさせようとしました。

 

 そう描かれた看板と、磔にされ用意された石(軟球)を投げつけられる峰田は、その光景を眺めながら言った。

 

「女子にちやほやされる男を見せつけられるなんて! なぜオイラがあそこじゃない!?」

「いや、俺は女装はしたくねえかなぁ?」

 

 チラリと高志朗の方を見る上鳴。

 

「ちょっと御舟、後でみんなで写真撮ろうよ!」

「やめろぉ!」

「断れば良かったんやない? やっぱ真面目やなぁ御舟くん」

「……オイラも女装すれば女子と触れ合えるかな」

「やめとけ、お前がやると一気に犯罪臭が強くなる」

 

 この磔の刑は、レクリエーションが終わるまでそのままだったという──というのは冗談で、峰田はレクリエーション、上鳴は最終種目出場者だったこともありそれまでには解放された。

 

『さぁさぁ皆楽しく競えよレクリエーション! それが終われば最終種目!

 

 進出4チーム、総勢16名からなるトーナメント形式! 一対一の、ガチバトルだ!』

 

 


 

 

「最終種目の組み合わせはくじ引きで抽選するわよ。呼ばれた選手は私が指定した抽選箱から引きなさい!」

「なんで箱が一つじゃないんですか?」

「秘密よ! はい引く!」

 

 主審の主導のもと、最終種目の組み合わせが決定する。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「俺はお前とか、爆豪」

「ぶっ殺す」

「はっはっ、やってみな!」

 

「常闇かぁ…ダークシャドウって私の“個性”で溶けちゃうのかな?」

「問題ない。俺の分身は鉄壁だ」

 

「八百万かぁ、こりゃ負けらんねえな!」

「望むところですわ、上鳴さん」

 

「御舟ってあなたですか!」

「お前さんが発目か……唯一のサポート科。まぁ、よろしく頼む」

「フフフフ、実は折り入ってお話があるのですが……」

「なに?」

 

 両手を揉みながら近寄って来た彼女に、高志朗は怪訝ながらも会釈した。

 

 正直に言えば、高志朗にとって彼女は得体が知れない。

 初対面ということもあるが、種目を第一第二と進めて来ても、サポートアイテムを使いこなすこと以外は不明なのだ。

 

 騎馬戦では緑谷チームに加わっていたようだが…

 

「私のサポートアイテムを使って欲しいのです。そして対等に、私と戦ってください!」

 

 敵に塩を送るようなことを、彼女は願い出てきたのだ。

 

 


 

 

 レクリエーション開始。

 最終種目を目前にした種目。

 その競技は、第一、第二種目と比べればお遊戯に等しいため、息抜きに近く、どこか楽し気な雰囲気が感じられる。

 

 最終種目にまで上り詰めた16名からなる選抜メンバーに限っては、自由参加である。

 

 戦いに備えて英気を養う者。神経を研ぎ澄ませる者。緊張を解きほぐそうとする者。

 この最終戦にすべてを賭ける者は多い。

 

 そのため、16名からこれに参加する者は少ない。

 

 しかしその中に、お家再興の悲願を背負った一人の剣客が居た。

 

 借り物競走。

 

「バッグ持ってる人いませんかー!?」

 

「時計って腕時計でもいいんだよな、な!? 御舟!」

 

「俺に聞くな上鳴。…まぁ、いいんじゃないか。っと、俺の借り物は……『チアガール』?」

 

「背脂なんて借りれるわけねー!」

 

 高志朗はお題の紙切れを開くと、一瞬項垂れたが、意を決して反転した。

 しかしこの男、チア服である。

 

「チアガール! 誰か俺と来てくれ!」

「きゃぁぁぁっ! チア服の変態剣士だー!」

「笑うな芦戸、俺は本気だ!」

「チアならアンタ自分で着てるじゃん……ブふっ!」

「チア『ガール』だ! ……どうやらお前さんを拉致する必要がありそうだな、耳郎よ」

 

 チア服を纏って踊るA組とB組の女子の渦中に高志朗は飛び込んだ。

 

 体育着に着替え直す暇が無かったのだという言い訳すら彼方に置き去り、レースに臨んでいた。

 

 彼女たちも、事情は分かっていたとは言え、男のチア服という常軌を逸した絵面にてんやわんやに混乱していた。……半分は笑い声だが。

 

「これ絶対運営グルでしょっくふふふっ駄目お腹痛い!」

「その格好で『俺と来てくれ』って! アッハハハハ! 良い! 良いよ御舟アンタ最高!」

「駄目やこれ笑うねんっ御舟くん真面目に言っとんのに笑ったらアカンっくふふぅぅ~!」

 

 約三名、笑いのツボに入ったのか腹を押さえて笑い転げたり茶化してきたり蹲ったりしている女子が居たが高志朗は一切を無視する。

 するとそこに、一人の手が聳え立った。

 

「……」

「おお、八百万! 恩に着る!」

 

 女神が降臨したかのようだった。

 誰もが嘲り笑う(高志朗視点)この状況で、ただ一人名乗りを上げた者。

 

「すぐ来れるか!」

「……はい」

「では、御免!」

「きゃっ!?」

 

 その後は早かった。

 誰よりも遅くにラインに戻ったにも拘わらず、高志朗は借り物競走の首位を勝ち取ったのである。

 

 観客の大半の男たちは、その光景を見て口々に言った。

 

『超絶可愛い巨乳のチアが、超絶似合わない女装野郎にお姫様抱っこされたままゴールした』と。

 

 


 

 

「いや、お前さんのおかげで一位を獲れた。ありがとうな」

「いえ……しかし、なぜこのような」

「あーそれはだな」

 

 騎馬戦が終わり、最終種目の組み合わせが決定してから、八百万は心ここに在らずといった状態だった。

 

 高志朗は最初、彼女自身クラス委員長であるという使命感から、本来有志であったはずのチアガールの恰好をしたことに辟易していたことの理由だと思っていた。

 

 しかし、それは違った。

 

「浮かない顔をしていると思ってな」

「はい……?」

「俺のチア服を嬉々として創造(つく)ってくれた時はあんなにも楽し気だったのに、レクが始まると顔が曇ったぞ」

「それは……」

 

 他の女子が元気良く応援する中、チアガールのポンポンを力無く振る彼女の様子は逆に目立った。

 

「余計なお世話だったなら謝るが、溜め込むと良くない。最終種目、お前さんも選手なのだろ?」

 

 そう訊くと、八百万がチアガールのポンポンを外しながら口を開く。

 

「……一人で戦うことに、まだ不安がありますわ。実戦(・・)であなたに任せきりだった私が、こんな大舞台で戦えるのかどうか」

「なるほどな」

 

(おいおい、まだあの時のこと引き摺っていたのか。悩むと長いな、八百万は)

 

「それは違うぞ」

 

 高志朗と八百万は職員室で一度、USJで一度。クラスの者たちはUSJでしか実戦を経験していない。

 

「あの時の経験は、何らかの糧に絶対になっている。そう思えば、『自分は周り(クラス)よりも一回多く、実戦を経験している』のだと、確かな自信が持てるはず」

 

 誤差の範囲と思うだろう。しかし、自信を持つだけならばそれで十分。後は実力が伴うか試すのみ。

 そう説くが、彼女は首を横に振った。

 

「実績が伴っていなければ、何かを経験したとしても同じことですわ」

「お前さん……」

 

 まさか、八百万の自己の評価がこれほどまでに低いとは、高志朗も思いもよらなかったことだ。戦闘訓練での講評や、個性把握テストでトップを独走したあのときの彼女とは到底思えなかった。

 しかし、彼女の発言から、もしかしなくても職員室での(ヴィラン)との戦いのことを思い悩んでいることは分かった。

 

「……『二人して(ヴィラン)と交戦していた時は、二人とも除籍にしていたよ』」

「……!」

 

 始め、あの緊急事態に八百万は思考が定まっておらず、目の前の侵入者(ヴィラン)と相対する高志朗とともに迎撃する姿勢を取ってしまっていた。

 そのときは高志朗の指示に従い、自分は先生方へ応援を呼びに行った。

 

「お前さん、相澤先生の言葉を気にしているのか」

「私はっ──」

「よく聞いてくれ」

 

 低く、威圧感のある高志朗の声音とともに、八百万は両肩を掴まれた。彼はそのまま俯いてしまう。

 

 ああ、ついに彼を怒らせてしまった。こんなネガティブな言葉ばかり吐き出す女など嫌いになるに決まっている。

 そう、八百万は思っていた。

 

「……俺たちは鉄だ」

「鉄……?」

「それもただの鉄ではない。常に高熱に晒された鉄……鍛え方次第でどんな形にも成れる『粘り』を持っている。そういう鉄だ」

 

 雄英(ヒーローの名門)が生徒を『卵』と呼ぶならば、銀の刃を愛する高志朗は同じそれらを『鉄』と称する。

 

「鍛えるのは自分で、使うのも自分だ。自分で自分を潰すような真似は止せ。お前さんは、初めから上手く行き過ぎただけだ」

「……では、どうすれば良いのでしょう」

「それは自分で考えろ」

 

 思わぬ即答に、八百万は泣きそうになっていた。

 

「話し相手ならいくらでもなる。気を強く持てよ、八百万」




先に言っておくと、木刀のみで本戦突き進みます。真剣を期待していた方は申し訳ないです。
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